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レラニアの誤算 (毒薔薇視点)
しおりを挟むガシャーンッ
「ふざけんじゃないわよーー!!」
あまりにも腹が立ったので、部屋に飾られていた花瓶を床に叩きつけた。
「どうしてまた、私が追い出されるわけ!?」
許せない。
こんな事はあってはいけないのよ。
単なる引き立て役に主役の私が負けるなんてありえないのだから。
なのに……!
「何でジーク様は私に靡かないのよ……!」
───ジーク様が、私に声をかけて来たあの日。私は大物が釣れたと心の底から喜んだのに。
───────……
やったわ!
さすが私! 本当に最高の男が近付いてきたわ!!
ジークフリート・フェルスター侯爵令息。
(まさか、侯爵令息が釣れるなんて……ふふふ)
「突然申し訳ない。レラニア嬢、君に聞きたい事があるんだ」
「まぁ! 何ですの?」
私は1番美人に見える笑顔を彼に向けた。
大抵の男はこれでイチコロよ! 彼にも効くといいんだけど。
だけど、聞きたい事? 何かしら?
ジークフリート様は私と話すのは初めてのはず。だって、彼はあまり社交場に出てこないんだもの。
あ! でも実は、そんな数少ない機会の中で私に一目惚れしていて、それで今私にー……
なんて浮かれていたら、
「君は、ウォールナット伯爵家のミカリオを知っているかい?」
「……? ミカ……リオ?」
は?
何だか思いっ切り肩透かしを喰らったんだけど。
何なのよ。
そして、ウォールナット伯爵家のミカリオ?
……誰だったかしら?
「……その顔は覚えていない? あなたと一時交際していたらしいと耳にしたのだけど?」
ジークフリート様がそう尋ねてくる。
「えっと……」
ミカリオ……ミカリオ…………あぁ、あの人ね!!
私はようやく思い出した。
いつも、私に寄ってくるバカそうな男達と違って、ちょっと純粋だったあの人ね?
珍しいタイプだと思って付き合ってあげたけど、刺激が無さすぎてつまらなかったの。
だからすぐ捨てたのよね、確か。
彼に関してはその後もリラジエに紹介すらしなかったからすっかり忘れてたわ。
……で、その彼が何なのかしら?
「あ、思い出しました。そうですね。一時でしたけど交際していましたわ」
私がそう答えると、ジークフリート様の目が一瞬だけ鋭くなった気がした。
「……そうですか。…………やっぱり君か……」
「?」
ジークフリート様は柔らかい笑みで微笑んでいたので、さっきのは気の所為?
そう思う事にした。
よく分からないけど、こんな最高の男とお近付きになるチャンスよ!
逃すわけにはいかないわ!!
「あの……」
「それと、あともう一つ。レラニア・アボット嬢。君には妹さんがいる?」
「え?」
──は? 何で妹?
そう思いながらも笑顔を作って答えた。
「え、えぇ、おります、が……」
地味で平凡でつまらない妹よ? あなたみたいな人が気にするほどの女じゃないわよ!?
「……そう。妹さんって瞳は君の色と同じで亜麻色の髪をしてる?」
「そうですけど?」
何なのかしら? あんな地味な髪色の妹がなんだと言うの?
ジークフリート様は何やら思案した後、「ありがとう」とだけ言って去って行った。
「…………」
はぁ? 何だったの?
イチコロどころか、何故か昔の男とリラジエの事だけ聞いていなくなっちゃったんだけど!?
私の微笑み返してよ!
(せっかく最高の男が釣れたと思ったのに!!)
「いえ。でも、待って……名前も名乗りあったし、顔見知りにはなれたわよね? ならここからだって……」
絶対にジークフリート様を私のモノにする!
私はそう決意した。
「なんっで、靡いてくれないのよーー!!」
ジークフリート様に声をかけられてから、それなりの日にちが経った。
パーティーや夜会で彼を見かける度に、私は彼に近付いた。
彼に現在、婚約者がいない事は確認済み!
まぁ、たとえいたとしても奪えばいいだけだけど、面倒ごとが多そうなので出来ればそんな事に労力は使いたくないのよね。
こんなお得な人が婚約者も置かずにウロウロしているなんて!!
これって私の為じゃない?
それに、気のせいか彼も最近は前より社交場に顔を出すようになったしね。
(ふふふ、ついに婚約者探しかもって噂なのよね)
「ジーク様!」
「……あぁ、レラニア嬢。こんにちは」
挨拶すれば、ちゃんと挨拶も返してくれるし、反応は悪くないと思うのよ。
ジーク様と呼んでも何も言わないし。
あと、彼はよく私を見ているわ! 視線を感じるもの!
なのに、誘われないなんて……いったい、何が足りないのかしら?
美貌? 十分よね!
色気? これだって、有り余ってると思うわ。
自分の身体を見る。
──ふふ、抜群の身体をしてるわ!
なのに、何でなの!?
その辺の雑魚は放っておいても近付いてくるのに!!
ジークフリート様を私のモノにする!
そう決めたのに、彼は全然私に堕ちてくれなかった。
ある時は、
「……ジーク様、私……酔ってしまったみたい」
と、酔ってもいないのに酔ったフリをして介抱してもらう作戦に出たわ!
アプローチする為には2人っきりにならなくちゃ!
「それは大変だ。大丈夫? それなら向こうで休むといいよ」
ジーク様は心配してくれた。
…………ふふ、イケるわ!
「でも私、一人ではちょっと辛いのでー……」
「そう。なら、他に人を呼んでくるからそこで待ってて」
「え?」
そして私はその場に一人取り残された。
……はぁ!? 具合が悪くて一人では辛いって言ってる私みたいな、か弱い令嬢を置いて行くなんて何を考えてるのよ!!
と、私は憤慨した。
そして、あろう事か呼んで来たのは医者だったので私はあやうく仮病がバレそうになったわ。やめてよ……!
そんな感じで、彼はいつだって私のアプローチをかわしてしまう。
だから、私はもうじれったい駆け引きは止めて直球で攻める事にした。
ある日のパーティーで……私は彼に近付き誘惑してみた。
「ねぇ、ジーク様って今、婚約者がいらっしゃらないのですよね?」
「……そうだね」
「私もなんです!! ですから、ジーク様……ジーク様さえ良ければ私と……」
私が自分を売り込もうとしたその時、ジーク様はニッコリ笑って言った。
「遠慮させてもらう。君だけは絶対に無い」
──と。
プライドがズタズタにされた私は考えたわ。
ジーク様は、私の価値を分かっていないのだと。
「……私の価値を分からせるには……やっぱり」
あの地味妹を使うに限るわね!!
ジーク様だって、リラジエを見れば私の価値に気付くはずよ。今までだってリラジエを見た男共はやっぱり私の方が良いって言ってたもの。
(ふふ、さぁ、リラジエ。私の役に立ってちょうだい!)
まぁ、問題はジーク様がリラジエに、会ってくれるかどうかだけど……
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──分かった、会わせて欲しいと。
やったわ!
これで、あとは妹に会わせてがっかりさせれば彼は私の良さに気付くはず……!!
そう思っていたのに。
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