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20. ジョルジュ、自覚……?
しおりを挟む「……嫁の貰い手……ですって?」
「ああ」
ジョルジュは真面目な表情を崩さずにコクリと頷く。
「オーホッホッホ! パーティーの場でも多少やり返したとはいえ、この国の王子に捨てられた私に新しい縁談の話がコロコロとそう簡単に舞い込むとでも?」
「思わない」
「……くっ!」
なんの迷いもなく即答するジョルジュ。
全くもってその通りなのだけど、これはこれで腹が立つわねぇ……
私はジロリとジョルジュを睨みつけてバサッと髪をかきあげる。
「ねえ───ジョルジュ? あなた、この私を誰だとお思い?」
「ガーネット」
「…………そう、だけど! そうじゃなくて!!」
「君は他にも名があるのか?」
ジョルジュは不思議そうに首を傾げた。
「そうじゃない! いいこと? 私はガーネット・ウェルズリーよ!」
「知ってる」
即答するジョルジュ。
その表情は、だから何だ? と言わんばかり。
どこか訝しげだった。
「え? だ……だから! 私はウェルズリー侯爵家の……」
「だが───ガーネットはガーネットだろう?」
「え?」
その言葉に私はピタッと止まる。
「ウェルズリー侯爵家だろうと、その辺のよく分からないなんちゃら家の令嬢だろうと、ガーネットはガーネットだ」
「……なんちゃら家の令嬢ってなによ……」
「人の名は家名も含めてを覚えるのが苦手だ!」
「……」
ジョルジュは貴族令息としては致命的なことを堂々と自信満々に言い放つ。
「私のことはすぐに覚えたじゃない」
「当然だ!」
「…………当然?」
まあ、出会いが出会いだものね、と思い直す。
(そんなことより……)
私は私……
それって、金持ちで権力もあるウェルズリー侯爵家だからとか関係なく、
ジョルジュは、ただのガーネットとという“私”を見て……?
───トクンッ
何だか胸が疼いた。
「ガーネット? どうした? 目が……」
「え? 目?」
そう言ったジョルジュの手がそっと私の目元に触れる。
そして何かを拭う。
その手つきが、また優しかったので今度は胸がドキッとした。
「ガーネットの目元が濡れていた」
「目元が濡れ…………え!?」
その指摘に愕然とする。
(わ、私、無意識に目元を潤ませていた!?)
こ、この私が!?
必要ならば計算の嘘の涙をいつでもどこでも流せるようにと、血の滲むような努力と特訓をして来た……
───この私が!?(二回目)
「……ガーネット?」
「っっ!」
無意識だということが、何だか無性に恥ずかしくなってしまう。
なので慌てて話を変えることにした。
「…………ジョルジュ? よーーく覚えておきなさい!」
「何をだ?」
「さっきの嫁の貰い手が──などという発言よ。相手がこの私でなかったらあなた、今頃はっ倒されていた所ね!」
「……なに!?」
ジョルジュの顔が険しくなった。
「待ってくれ、ガーネット! 俺はどうせならはっ倒されるよりも踏み……」
「踏まないわよ!? ───そうじゃなくて!」
どんだけ踏まれたいのよ!?
「踏みつけ…………では駄目なのか?」
シュンッと落ち込むジョルジュ。
なんでそこで落ち込むの!
「だーかーら! 私の話を聞きなさい!」
私はジョルジュの顎を掴んでグイッと上を向かせる。
私たちの目が合った。
「とにかくデリカシーの欠けらも無い発言よ。今後は注意なさい!」
「注意……」
「そうよ! 私は平気でも他の女性だったら逃げちゃうわ」
私はジョルジュの今後の為を思ってアドバイスのつもりでそう口にした。
そうよ!
だって、ジョルジュだってこの先、誰かと結婚する時が───……
(───っ!)
「どうした、ガーネット?」
「……!」
きょとんとした顔のジョルジュをじっと見つめる。
……そうよね、ジョルジュはギルモア家の跡継ぎ。
政略結婚にしろ恋愛結婚にしろ当然、結婚することは必須……
(なんで……?)
そこまで考えたら胸がキュッとなった。
どうしましょう……
だって、だって、だって!!
「ガーネット?」
「出……」
「で?」
(ジョルジュ、結婚出来るのーーーー!?)
え?
無理じゃない?
こんないつでもどこでも人生が迷子みたいな男……
相手に出来る令嬢なんていないでしょう!?
私はジョルジュの顎から手を離し、今度はガシッと肩を掴むと豪快に揺さぶった。
「!?」
「あなたね! そんな悠長に私の心配をしている場合かしら!?」
「ぅぐぉっ!?」
ジョルジュが変な声を上げた気がした。
けれど、私はそのまま気にせずガクガクと揺さぶる。
「この頭のてっぺんから爪先まで何から何まで完璧な私より、心配すべきなのはあなたよ、ジョルジュ!」
「ぐっ、ぐぉっっ!?」
これまで友人すらいなくて、私を初めての友人だと嬉しそうにしていたジョルジュ。
それでいて、友人になった私のことを時々恋人とか訳の分からないことを言い出すあたり……
(心配……!)
ジョルジュの恋愛思考回路はこんがらがっているに違いない。
「ねぇ? ジョルジュ。あなた好みのタイプは?」
「ケホッ…………こ、好み?」
「好ましく思う女性よ! 色々あるでしょう? 見た目は可愛いとか背が小さいとか、性格は優しいとか……そういう心がときめく女性のタイプよ!」
ジョルジュは、ああ! と頷いた。
「ガーネット!」
「……なによ? 私の名前を呼んでいないで質問に答えてちょうだい?」
「ガーネット!!」
「……」
「……」
そして沈黙。
……私は考えた。
ジョルジュのこのパターン。
私に“好かれたい”と言っていた時と同じ匂いを感じるわ!
「あなた……まさか好みのタイプが」
「───ガーネットだ!」
「……」
「……」
再び沈黙。
……もう一度考えた。
やっぱり、その理由は……
私はチラッと自分の足を見る。
足以外に理由が思いつかない。
(なんてこと……)
私が……この私が、あまりにも美脚だったせいで!!
つまり、ジョルジュの中では……
好みのタイプ=ガーネット=足!
こういうことでしょう?
「……ふっ」
でもね?
世の中にはきっともっと美脚を持つ人間はいると思うのよ。
「ジョルジュ……あなた、この先どこかの令嬢とお見合いする時はお相手の方に背中をグリグリ踏んでもらったらどうかしら?」
「なに?」
「私以上の好みの足に出会えるかもしれないわよ?」
「ガーネット以上に好みの……足?」
「そうよ!」
ジョルジュがしばし考え込む。
そして顔を上げた。
「前にも言った。ガーネットがいい」
「……え?」
「どんなに踏まれ心地が良くても…………ガーネット以外は要らない」
「え? え? なんで?」
グイッとジョルジュが近付いてくる。
エルヴィス殿下に同じことをされた時は咄嗟に躱した。
嫌だと思ったから。
でも……
(ジョルジュは嫌じゃない……)
「ガーネット。俺は思うのだが」
「?」
「君は今でも毎晩俺の夢の中に登場する」
「……そ、そう。皆勤賞は続いていたのね? さすが私……ホホホ」
きっと、思う存分夢の中で私に踏みつけられているのでしょうね?
もう驚きはない。
「そして──日中も君のことばかり考える」
「仕事しなさいよ!? 家の仕事、手伝っているんでしょう!?」
「そして居ても立ってもいられなくなり、特に用もないのに今日のようにこうして訪問してしまう」
「は? 用事なかったの!?」
「ああ」
そういえば、何しに来たのか聞いてなかったけど……まさかの用はない?
そんな……
ふざけるなっていう理由だけど、あの殿下の方がまだ私にちゃんと用事があったじゃない!!
「そうして、君の顔を見れれば嬉しい。天使のように美しく心地よい元気な声を聞くと安心する……」
天使の声……
未だに意味不明だわ。
あと、美しいと元気って共存していいの?
「それでいて今、俺は君の“結婚”についてが無性に気になった」
「え!」
ドキッと胸が跳ねる。
苦しくなった私はギュッと自分の胸を押さえた。
「…………なあ、ガーネット」
「?」
「もしかしたら……なんだが、俺の……俺が君に抱くこの気持ちは────……」
「……っ」
ジョルジュの目が真剣だったので、私は動けなかった。
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