誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら

Rohdea

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19. 情けない王子

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「ち、違ーーう! なんてことを言わせるんだ!」

 殿下が私の肩から手を離すと、顔を真っ赤にして怒鳴ってくる。
 私は殿下のその顔をチラッと見た。

(ホホホ、面白い顔だこと)

 これが一国の王子で元婚約者…… 
 こんな男と結婚する予定だったのかと何だか一気に複雑な気持ちになる。

「くっ───ガ、ガーネット嬢!!」
「なんでしょう?」
「いいか?  よく聞くんだ!  ガーネット嬢。今日、僕が君の元を訪ねて来たのは……」
「!」

 グイッと近づいて来たので、私はさり気なく身体を動かして迫ってくる殿下を躱した。
 殿下は、あれ?  という表情で私を見た。

「……」

(ふふふ……殿下が何を言いたいかは分かっているわ)

 今も溢れんばかりの金が欲しいオーラが全てを物語っている。
 一生懸命、私にもう一度、ありもしない愛を囁こうとしているのがバッレバレ。
 ラモーナとのことは気の迷いだったなどと甘い言葉をほざいて、復縁を迫る気満々の顔。
 ───そして、甘い言葉にあっさり落ちたチョロい私に金を貸してもらおう……

(……と、いうところでしょう?)

 当然、この私はどこもチョロくなんてないし、そんな気もさらさら無いので───

(余計なことを口にされる前にさっさとお帰りいただきましょう!)
  
 私は手をパンッと叩いた。  
 そして我が家の使用人たちを呼びつける。

「はいはーい、注目!  エルヴィス殿下がこれからお帰りだそうよ~」
「ぁえ!?」

 殿下が目をまん丸にして間抜けな声を上げた。

「っっっ待て!  お、お帰……り、だと!?」
「ええ───」

 私は、そこのジョルジュに悪魔のようだと呼ばれた冷たい微笑みを殿下に向けた。

「まだ、何か私に御用でも?」
「ひっ!?」

 殿下が軽く青ざめて悲鳴をあげる。
 私はその情けない顔を見てクスッと笑う。

「本日の殿下は、私に改めてであるラモーナと仲良くやっていくんだ……という決意表明をわざわざしに来てくださったのでしょう?」
「え、いや……?  だ、だから……」

 たじろぐ殿下。
 完全に自分のペースを見失っている。
 ここで私は“か弱いガーネット”を登場させた。

 涙を流すか流さないかのギリギリを攻めながら殿下の顔を見つめる。

「……うっ」

 やはりこの王子は涙に弱いらしい。

「…………わざわざ、そんな駄目押しなんてされなくても……私は貰えるものさえ貰えれば決して二人の邪魔なんてしませんのに……」
「えっ……あ、ええ?」

 完全に私のペースに乗せられた殿下はアワアワしている。

(ホホホ、情けない姿だこと!)

 私は顔を上げてもう一度大きく手を叩く。

「さあさあ、みんな!  お帰りになられる殿下を馬車までお見送りしてちょうだい!」
「なっ!?  え、な、涙は!?」

 私はぐるりと使用人たちを見渡して声をかける。
 そして、もう一度パンパンとリズミカルに手を叩く。

「いい?  この方は大事な大事な我が国の王子殿下よ。しっかり馬車に乗り込んで無事に門を抜けるまで目を離してはダメよ、いいわね!?」
「「「はい!  お嬢様!!  仰せのままに」」」

 使用人たちは声を揃えてそう言った。
 私はニヤリと微笑む。

「いいお返事ね!  さあ、あなたたち、殿下と行きなさい!」

 私のその合図と共に使用人たちは動き出した。
 ハッと我に返った殿下が暴れる。

「え!  ちょっ……ガーネット!?  ま、待って、くれ!」

(また、呼び捨てになったわね?) 

 それだけ、殿下に余裕が無くなっているということ……
 そう思った私はクスッと笑う。

「あ、そうそう!  お伝えしなくてはならない大事なことがありましたわ!」
「え?」
「凝りもせず、次にまた我が家を訪問しようなどと身の程知らずな気持ちを抱いた時は事前に連絡をお願いしますわね?」
「身の程…………お、おい?  ガーネット、君は何を言っ……」
「それから!」
「!?」

 殿下がビクっと脅えた。

「お・か・ね……だけは何時でもどこでもお待ちしていますわ?」
「!!」
「それでは、ごきげんよう。エルヴィス殿下~」
「あ……」

 殿下はまだ何か言いたそうな目で私を見たけれど、我が家の使用人たちが壁となって殿下をどんどん外へと誘導していく。

「あ、あぁぁぁ!?」
「───さあさあ殿下、お帰りはこちらです!」
「───どうぞどうぞ、我らが馬車までエスコートいたしますとも!」
「お、おいーーーーっ!?」

 あれよあれよと流されていく殿下を私はにっこり笑顔で見送った。




(よし!  退治完了!)
  
「ガーネット!!」

 私が満足感いっぱいに微笑んでいると、階段を降りながらジョルジュが私の名前を呼ぶ。

「あなた、姿を見せないと思ったら上で話を聞いていたの?」
「ああ。俺があの場に加わると面倒なことになるだろう?  だから姿は見せない方がいいと思った」
「……」

 私はじっとジョルジュの目を見つめる。
 私と目が合ったジョルジュは目を瞬かせた。

「……なんだ?」
「……」

 私は眉をひそめた。

(おかしい……)

 ジョルジュが、とってもとってもとってもまともなことを言っている。
 確かにジョルジュの姿を見られていたら、殿下は騒ぎ立てていたと思われる。
 だから、姿を見せなかったジョルジュの判断は間違っていない。
 間違っていないけど───

 こんなの有り得ない。

「ジョルジュ……面倒なことになるって例えば?」

 私が聞くとジョルジュは大きく頷いて至極真面目な顔で言った。

「ああ。だって俺と殿下は会話をしたことがない!  つまり自己紹介が必要だろう?」
「……じ」
「自己紹介だ。面倒くさい」  
「……エルヴィス殿下に自己紹介したくなくて…………降りてこなかっ……たの?」
「そうだ!  面倒くさい!」

 ジョルジュは堂々と胸を張ってそう言った。

「なんでよーーーーー!?」
「ん?  何がだ?」

 面倒の意味が違う!  全然違うーーーー!

「それより!  さすがガーネットだ!」
「あぁん?」

 私はついついドスの効いた声で聞き返す。
 ジョルジュはそんなことは一切気にせずに私を褒めだした。

「向こうの主張を言わせる前にこちらから押し切って相手の口を封じ、ペースが崩れた所で有無を言わさずにさっさと外に放り出す……」
「……それが何?」

 ジョルジュはウンウンと頷きながら言った。

「────実に鬼畜だ!」
「ジョルジューー!?」

 まさかの鬼畜呼ばわり……
 この男、どうしてやろうかと思っていたら、ジョルジュが私の顔を覗き込む。

「な……に!?」
「ガーネット、君は強くてかっこいいが俺は少し心配だ」
「え?  し、んぱい?」
「ああ」

 トクンッと胸が跳ねた。
 だって私、自慢じゃないけど……これまで“心配”なんてほとんどされたことがないんだもの……
 何だか嬉しい!

「ジョル……」
「なぁ────ガーネット。君はこの先、嫁の貰い手はあるのだろうか?」
「……」

 と思ったのに、とんでもなく失礼な言葉が飛んで来た。
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