34 / 169
31. どうでもいいから帰らせて
しおりを挟む(さて、帰るわよ~)
殿下を言い負かして無事にジョルジュの無罪を勝ち取った私は、本日の成果に満足しながら王宮の廊下を歩いていた。
「ホホホホホ! ラモーナと殿下の間抜けな顔。あー、とってもスッキリしたわ~!」
「ガーネット? かなりご機嫌だな」
ジョルジュが足を止めて私の顔を覗き込んだ。
「!」
(ち……近いっ!!)
胸がドキッと大きく跳ねる。
私たちっていつもこんな距離感だったかしら?
恋する乙女の胸はすぐにポンポン跳ね上がるのでよく分からなくなって来た。
「顔が赤い。酒を飲みすぎたんじゃないか?」
「ホホホ、あれくらいの量、私にかかれば大したことなかったわ」
「……」
「もっといけるわよ~」
ジョルジュがじっと私の顔を見つめる。
「な、何よ?」
「いや? そんなにいけるのかと思ったら、ガーネットと酒を飲むのも楽しそうだと思っただけだ」
「ジョルジュ……」
私はハッとした。
こ、これはもしや、誘われている!?
恋愛初心者の私にはよく分からないけれど……きっと、そ、そういうことよね!?
よっし!
───チャンスは逃さないわよっ!
「ジョルジュ! それなら、今度一緒に……」
そう言いかけてふと思った。
ジョルジュってお酒は強いのかしら?
「ガーネット?」
「……」
でも、一緒に飲んだら楽しそうだと言うくらいだもの。
案外、このすっとぼけた顔のままグビグビ飲めちゃうのかもしれないわね。
「ジョルジュ、あなたはお酒を飲んだらどうな……」
「寝る」
(…………ん?)
ピシッと私は笑顔のまま固まる。
聞き間違いかしら?
そう思った私は、もう一度訊ねてみる。
「いや、だからね? あなたはお酒を飲んだらどんな感じに……」
「寝る」
「ね……」
二度目も同じだった。
「ね、寝る……?」
「寝る」
「えっと、お眠り……になられる?」
「寝る」
全部、寝るーー!?
聞き間違いじゃないんだけど!?
「え? えっと、ね……寝ちゃう、の?」
「ああ。眠くなるからな」
「……すぐに?」
「すぐにだ」
「……」
私は再び笑顔のまま固まった。
(この男っっっ!)
私は怒りを通り越して笑い出す。
「ふふ、ふふふ、あは、あはははは! ほほほほほほ!」
「どうした、ガーネット。更に楽しそうだな? もしかして今頃、酒が回ってきたのか?」
「……」
笑うのをビタリとやめて、私はキッとジョルジュを睨みつける。
「ガーネット?」
「お酒───飲んですぐ寝ちゃうなら、一緒に飲んで楽しそうも何もないじゃないの!!」
「え?」
きょとんとしていた顔のジョルジュがハッとした。
「確かに……これではガーネットの一人酒だ!」
「ふんっ! いいわよ! あなたがさっさと寝ちゃっても私は私で一人で楽しんでやるわよ! 起きた時にどうなっているか楽しみにしてなさ……」
「ガーネット!」
そこまで言いかけた時、ジョルジュにガシッと腕を取られた。
「!」
「ガーネット、もしかして不貞腐れているのか?」
「っっっ!!」
図星だった。
「まさかそんなに残念そうな顔になるとは…………もしかして、ガーネットは……」
「っっ!」
なんてこと。
鈍感そうなジョルジュに私の気持ちが伝わった───!?
そう思った時だった。
突然、背後から声をかけられた。
「───こちらにおられましたか! ガーネット・ウェルズリー侯爵令嬢!」
「……!?」
後ろを振り返るとそこに居たのは王宮の使用人。
それも、かなり位の高そうな……
(嫌~な予感)
私はジョルジュから離れると軽く息を吐く。
「……なんの御用かしら?」
「貴女様をお呼びでございます」
「……」
(このタイミングでの呼び出し───)
誰が? とは聞かなくても分かる気がした。
私はフッと笑う。
「もしかして、秘蔵のワインの件がもう耳に入っちゃったのかしら?」
「……」
使用人は答えない。
静かに目を瞑っている。
「私、もう帰りたいのだけど?」
「命令なので。そう仰られても困ります」
「私も困るわ」
だって、心の底から面倒くさい。
どうせ何を言われるか分かっているもの。
「ガーネット様!」
「……」
私はふぅ、と息を吐いた。
こうなったら仕方がない。
「───分かったわ。そのかわり……ここにいるジョルジュ……ギルモア侯爵令息も同席でいいかしら?」
「……ガーネット? 何の話だ?」
私はジョルジュも道連れにすることに決めた。
─────
「お待たせしました、ガーネット・ウェルズリーでございます」
私は案内された部屋に入ると臣下の礼をとり丁寧に挨拶をする。
───私を呼び出したのはエルヴィス殿下の父親───つまり、国王陛下。
「久しいな、ガーネット嬢。して、そちらが……」
陛下はチラッと私の隣にいるジョルジュに視線を送った。
「こちらはジョルジュ・ギルモア。ギルモア侯爵家の令息ですわ、陛下」
「そうか。本日、君が連れ歩いている男はギルモア侯爵家の令息だったのか」
「連れ歩く? ホホホ、なんて人聞きの悪いことを。行動を共にしているだけですわ」
「ハハハ。そなたは相変わらずの物言いだ」
私と陛下がホホホ、ハハハと笑っている間、ジョルジュは置物化して静かに固まっていた。
「───して、ガーネット嬢。まずは隣国の大臣たちの引き止めご苦労だった」
「……」
「息子がそなたにした仕打ちを思えば、見捨てられても───……」
私は陛下の話を右から左へ受け流しながら思う。
(どうでもいいから帰らせて!)
チラッと横にいる置物ジョルジュに目を向ける。
自国の国王陛下を前にしているというのに、ジョルジュは顔色一つ変わらない。
まさに完璧な置物になっていた。
(すごいわ……半ば無理やり付き合わせたのに)
この謁見室に向かう間に、私を呼び出したのは国王陛下よ?
そう説明したのに、ジョルジュから返ってきた言葉は……
「分かった」
のみだった。
(動じなさがすごいわ……私の惚れた男)
ジョルジュに惚れ惚れしていたら陛下は言った。
「────して、ガーネット嬢。いくら隣国の要人たちを引き止めるためとはいえ、許可なくワインを持ち出した件、簡単に許す訳にはいかぬ」
「……」
ああ、この流れ……
絶対面倒くさいやつだわ。
「だが、この件を水に流すために一つ提案があるのだが」
「……」
「ガーネット・ウェルズリー嬢! この通りだ。ぜひ、もう一度我が息子エルヴィスと再度の婚……」
「お断りいたしますわ!」
私は陛下の言葉が言い終わらないうちにキッパリと言い切る。
「……いや、最後まで聞きなさい。エルヴィスとイザード侯爵令嬢の婚約は解消させる! だから、」
「お断りいたしますわ!!」
私はまたしても途中で遮りながら満面の笑みで答えた。
不敬?
なんと言われようと殿下とまた婚約なんて絶対にお断りよ!
「殿下と再度婚約? オホホホ、陛下。冗談はおやめくださいませ!」
「ガーネット嬢! 冗談などではない!」
(こんなことだろうと思ったわ……だから嫌だったのよ)
私はこれからジョルジュ・ギルモアという難関男の妻になるための研究が待っているんだから!
邪魔だけはしないで欲しいのよね。
「やはり今回の件で、我が国の王太子妃に相応しいのはガーネット嬢、君だと我々も再確認した」
「いいえ、陛下! 互いを想い合うエルヴィス殿下とイザード侯爵令嬢を引き離すなんて私には出来ません!」
(だいぶギクシャクしていたけれど、ね)
「二人の愛は、公の場で認められたもの……最後まで貫いてもらわなくてはなりませんわ」
「だ、だが、しかし王太子妃の任はイザード侯爵令嬢には……」
「あら、陛下! それに関しては、とても簡単な解決策がございますわ!」
「なに? 良い案があるのか?」
陛下の顔が少し嬉しそうになった。
「───実は今度、折をみて進言させて頂くつもりだったのですが……」
「何だ?」
「……」
私はにっこり笑う。
とってもとっても黒い笑みを。
「エルヴィス殿下は───廃嫡してしまいましょう!」
1,607
あなたにおすすめの小説
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」
公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。
死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」
目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。
「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」
隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。
そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……?
「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」
資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
婚約者が聖女を選ぶことくらい分かっていたので、先に婚約破棄します。
黒蜜きな粉
恋愛
魔王討伐を終え、王都に凱旋した英雄たち。
その中心には、異世界から来た聖女と、彼女に寄り添う王太子の姿があった。
王太子の婚約者として壇上に立ちながらも、私は自分が選ばれない側だと理解していた。
だから、泣かない。縋らない。
私は自分から婚約破棄を願い出る。
選ばれなかった人生を終わらせるために。
そして、私自身の人生を始めるために。
短いお話です。
役立たずと捨てられた万能建築士、隣国で「聖域」を造って無双する。今さら復興のために戻れ? ご自分たちで瓦礫でも積んでいればよろしいのでは?
しょくぱん
恋愛
「お前の魔法は石を積むだけの土木作業だ」と婚約破棄されたので、城を支えていた『構造維持結界』をすべて解除して出て行きますね。今さら「城が崩れる!」と泣きつかれても、私は隣国で氷結の皇帝陛下と「世界最高の聖域」を造っていますので、一切知りません。
王国唯一の建築魔導師アニエスは、その地味な見た目と能力を理由に、王太子シグムンドから婚約破棄と国外追放を言い渡される。 彼の隣には、派手な光魔法を使う自称聖女の姿があった。
「お前の代わりなどいくらでもいる。さっさと出て行け!」 「……分かりました。では、城にかけていた『自動修復』『耐震』『空調』の全術式を解約しますね」
アニエスが去った直後、王城は音を立てて傾き、噴水は泥水に変わり、王都のインフラは崩壊した。 一方、アニエスは隣国の荒野で、呪われた皇帝レオンハルトと出会う。彼女が何気なく造った一夜の宿は、呪いを浄化するほどの「聖域」だった。
「君は女神か? どうか私の国を救ってほしい」 「喜んで。ついでに世界一快適な住居も造っていいですか?」
隣国がアニエスの力で黄金の国へと発展する一方、瓦礫の山となった母国からは「戻ってきてくれ」と悲痛な手紙が届く。 だが、アニエスは冷ややかに言い放つ。 「お断りします。契約外ですので、ご自分で支えていればよろしいのでは?」
これは、捨てられた万能建築士が隣国で溺愛され、幸せを掴む物語。 そして、彼女を捨てた者たちが、物理的にも社会的にも「崩壊」し、最後には彼女が架ける橋の『礎石』として永遠に踏まれ続けるまでの、壮絶な因果応報の記録。
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる