誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら

Rohdea

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31. どうでもいいから帰らせて

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(さて、帰るわよ~)

 殿下を言い負かして無事にジョルジュの無罪を勝ち取った私は、本日の成果に満足しながら王宮の廊下を歩いていた。

「ホホホホホ!  ラモーナと殿下の間抜けな顔。あー、とってもスッキリしたわ~!」
「ガーネット?  かなりご機嫌だな」

 ジョルジュが足を止めて私の顔を覗き込んだ。

「!」

(ち……近いっ!!)

 胸がドキッと大きく跳ねる。
 私たちっていつもこんな距離感だったかしら?
 恋する乙女の胸はすぐにポンポン跳ね上がるのでよく分からなくなって来た。

「顔が赤い。酒を飲みすぎたんじゃないか?」
「ホホホ、あれくらいの量、私にかかれば大したことなかったわ」
「……」
「もっといけるわよ~」

 ジョルジュがじっと私の顔を見つめる。 

「な、何よ?」
「いや?  そんなにいけるのかと思ったら、ガーネットと酒を飲むのも楽しそうだと思っただけだ」
「ジョルジュ……」

 私はハッとした。
 こ、これはもしや、誘われている!?
 恋愛初心者の私にはよく分からないけれど……きっと、そ、そういうことよね!?

 よっし!
 ───チャンスは逃さないわよっ!

「ジョルジュ!  それなら、今度一緒に……」

 そう言いかけてふと思った。
 ジョルジュってお酒は強いのかしら?

「ガーネット?」
「……」

 でも、一緒に飲んだら楽しそうだと言うくらいだもの。
 案外、このすっとぼけた顔のままグビグビ飲めちゃうのかもしれないわね。

「ジョルジュ、あなたはお酒を飲んだらどうな……」
「寝る」

(…………ん?)

 ピシッと私は笑顔のまま固まる。
 聞き間違いかしら?
 そう思った私は、もう一度訊ねてみる。

「いや、だからね?  あなたはお酒を飲んだらどんな感じに……」
「寝る」
「ね……」 

 二度目も同じだった。

「ね、寝る……?」
「寝る」
「えっと、お眠り……になられる?」
「寝る」

 全部、寝るーー!?
 聞き間違いじゃないんだけど!?

「え?  えっと、ね……寝ちゃう、の?」
「ああ。眠くなるからな」
「……すぐに?」
「すぐにだ」
「……」

 私は再び笑顔のまま固まった。

(この男っっっ!)

 私は怒りを通り越して笑い出す。

「ふふ、ふふふ、あは、あはははは!  ほほほほほほ!」
「どうした、ガーネット。更に楽しそうだな?  もしかして今頃、酒が回ってきたのか?」
「……」

 笑うのをビタリとやめて、私はキッとジョルジュを睨みつける。

「ガーネット?」
「お酒───飲んですぐ寝ちゃうなら、一緒に飲んで楽しそうも何もないじゃないの!!」
「え?」

 きょとんとしていた顔のジョルジュがハッとした。
  
「確かに……これではガーネットの一人酒だ!」
「ふんっ!  いいわよ!  あなたがさっさと寝ちゃっても私は私で一人で楽しんでやるわよ!  起きた時にどうなっているか楽しみにしてなさ……」
「ガーネット!」

 そこまで言いかけた時、ジョルジュにガシッと腕を取られた。

「!」
「ガーネット、もしかして不貞腐れているのか?」
「っっっ!!」

 図星だった。

「まさかそんなに残念そうな顔になるとは…………もしかして、ガーネットは……」
「っっ!」

 なんてこと。
 鈍感そうなジョルジュに私の気持ちが伝わった───!?

 そう思った時だった。
 突然、背後から声をかけられた。

「───こちらにおられましたか!  ガーネット・ウェルズリー侯爵令嬢!」
「……!?」

 後ろを振り返るとそこに居たのは王宮の使用人。
 それも、かなり位の高そうな……

(嫌~な予感)

 私はジョルジュから離れると軽く息を吐く。

「……なんの御用かしら?」
「貴女様をお呼びでございます」
「……」

(このタイミングでの呼び出し───)

 誰が?  とは聞かなくても分かる気がした。
 私はフッと笑う。

「もしかして、秘蔵のワインの件がもう耳に入っちゃったのかしら?」
「……」

 使用人は答えない。
 静かに目を瞑っている。

「私、もう帰りたいのだけど?」
「命令なので。そう仰られても困ります」
「私も困るわ」

 だって、心の底から面倒くさい。
 どうせ何を言われるか分かっているもの。

「ガーネット様!」
「……」

 私はふぅ、と息を吐いた。
 こうなったら仕方がない。

「───分かったわ。そのかわり……ここにいるジョルジュ……ギルモア侯爵令息も同席でいいかしら?」
「……ガーネット?  何の話だ?」

 私はジョルジュも道連れにすることに決めた。


─────


「お待たせしました、ガーネット・ウェルズリーでございます」 

 私は案内された部屋に入ると臣下の礼をとり丁寧に挨拶をする。
 ───私を呼び出したのはエルヴィス殿下の父親───つまり、国王陛下。

「久しいな、ガーネット嬢。して、そちらが……」

 陛下はチラッと私の隣にいるジョルジュに視線を送った。

「こちらはジョルジュ・ギルモア。ギルモア侯爵家の令息ですわ、陛下」
「そうか。本日、君が連れ歩いている男はギルモア侯爵家の令息だったのか」
「連れ歩く?   ホホホ、なんて人聞きの悪いことを。行動を共にしているだけですわ」
「ハハハ。そなたは相変わらずの物言いだ」

 私と陛下がホホホ、ハハハと笑っている間、ジョルジュは置物化して静かに固まっていた。



「───して、ガーネット嬢。まずは隣国の大臣たちの引き止めご苦労だった」
「……」
「息子がそなたにした仕打ちを思えば、見捨てられても───……」

 私は陛下の話を右から左へ受け流しながら思う。

(どうでもいいから帰らせて!)

 チラッと横にいる置物ジョルジュに目を向ける。
 自国の国王陛下を前にしているというのに、ジョルジュは顔色一つ変わらない。
 まさに完璧な置物になっていた。

(すごいわ……半ば無理やり付き合わせたのに)

 この謁見室に向かう間に、私を呼び出したのは国王陛下よ?  
 そう説明したのに、ジョルジュから返ってきた言葉は……
「分かった」
 のみだった。

(動じなさがすごいわ……私の惚れた男)

 ジョルジュに惚れ惚れしていたら陛下は言った。

「────して、ガーネット嬢。いくら隣国の要人たちを引き止めるためとはいえ、許可なくワインを持ち出した件、簡単に許す訳にはいかぬ」
「……」

 ああ、この流れ……
 絶対面倒くさいやつだわ。

「だが、この件を水に流すために一つ提案があるのだが」
「……」
「ガーネット・ウェルズリー嬢!  この通りだ。ぜひ、もう一度我が息子エルヴィスと再度の婚……」
「お断りいたしますわ!」

 私は陛下の言葉が言い終わらないうちにキッパリと言い切る。

「……いや、最後まで聞きなさい。エルヴィスとイザード侯爵令嬢の婚約は解消させる!  だから、」
「お断りいたしますわ!!」 

 私はまたしても途中で遮りながら満面の笑みで答えた。
 不敬?
 なんと言われようと殿下とまた婚約なんて絶対にお断りよ!

「殿下と再度婚約?  オホホホ、陛下。冗談はおやめくださいませ!」
「ガーネット嬢!  冗談などではない!」

(こんなことだろうと思ったわ……だから嫌だったのよ)

 私はこれからジョルジュ・ギルモアという難関男の妻になるための研究が待っているんだから!
 邪魔だけはしないで欲しいのよね。

「やはり今回の件で、我が国の王太子妃に相応しいのはガーネット嬢、君だと我々も再確認した」
「いいえ、陛下!  互いを想い合うエルヴィス殿下とイザード侯爵令嬢を引き離すなんて私には出来ません!」

(だいぶギクシャクしていたけれど、ね)

「二人の愛は、公の場で認められたもの……最後まで貫いてもらわなくてはなりませんわ」
「だ、だが、しかし王太子妃の任はイザード侯爵令嬢には……」
「あら、陛下!  それに関しては、とても簡単な解決策がございますわ!」
「なに?  良い案があるのか?」

 陛下の顔が少し嬉しそうになった。

「───実は今度、折をみて進言させて頂くつもりだったのですが……」
「何だ?」
「……」

 私はにっこり笑う。
 とってもとっても黒い笑みを。

「エルヴィス殿下は───廃嫡してしまいましょう!」
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