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81. 息子の結婚式 ②
しおりを挟むジョエルの体調も何とか無事に回復し、可愛らしいウェディングドレス姿の花嫁のセアラさんを(私の言う通りに)抱っこして入場したジョエル。
その斬新な入場方法に参列者は大きくザワついた。
けれど、そこからは式が始まってしまえば後はよくある結婚式───となるはずだった。
ザワザワ……
え、どうした?
何で固まってるの?
参列者たちのそんな戸惑いの様子が私にも伝わって来る。
(ジョエルーーーー!)
私は両手をギュッと握りしめてハラハラしながら息子を見つめる。
ザワザワザワ……
そう。
再び式場が大きくザワザワしている。
それもそのはず。
新婦への愛を誓うというかなり大事な場面にさしかかった時、何故かジョエルが黙り込んでしまったから。
(ジョエルーー! あなたの愛しのセアラさんも目を丸くしているわよーー!?)
当然、ジョエルに問いかけた神父も笑顔のまま固まってしまっている。
「……コホンッ、き、聞こえていなかったようなので? も、もう一度、問い……トイマスネ……?」
神父は強引にジョエルが聞こえていなかったことにして仕切り直すことにしたらしい。
「し、新郎、ジョエル・ギルモア殿。あなたは病める時も健やかなる時も新婦、セアラ殿への生涯変わらぬ愛を誓いますか?」
「……」
そして、即答せずに熟考するジョエル。
「……ガーネット」
「ジョルジュ?」
隣に座っているジョルジュが軽く私を突っつく。
「ジョエルは電池でも切れたのか?」
「落ち着いてジョルジュ……あの子は人間よ?」
「……!」
なんでそこで私の愛する夫は息を呑んで黙るのかしらねぇ……
それより今はジョエルよ!
ジョエルのことだからセアラさんへの愛が溢れすぎて一言じゃ足りん!
なんて思って固まっていそうだけど、ここは進んでくれないと困るのよ……!
(あら?)
そんな誰もが戸惑う空気の中、動いたのは新婦のセアラさんだった。
被っているヴェールで表情はここからはっきり見えない。
セアラさんは、そっと手を伸ばしてジョエルの手をギュッと握る。
「ジョエル様、大丈夫です」
「……」
手を握られたジョエルがセアラさんに視線を向ける。
セアラさんは照れ臭そうに言った。
「ジョエル様、私への愛が溢れてしまっているんでしょう?」
「……」
「病める時も健やかなる時も……私への愛はこれだけじゃ足りないなと思ってくれたのでしょう?」
コクリと頷くジョエル。
その姿に式場内は別の意味でもざわついた。
(やっぱり……)
「大丈夫ですよ、ジョエル様。私は分かっていますから」
「……セアラ?」
「この、病める時も健やかなる時もって言葉は、いつでもどんな時でもという意味なんですよ?」
「……!」
「いつでもどんな時でも、ジョエル様は私のことを好きでしょう?」
「好きだ!」
そこは即答するジョエルにセアラさんがクスクスと笑う。
その様子でジョエルはハッとして、セアラさんに謝った。
「す、すまない。セアラ……その、考え過ぎてしまった……」
「ふふ、大丈夫です。分かっていますから」
「……」
「───ジョエル様、こういう時に助け合うのが“夫婦”なんですよ?」
「セアラ……」
(……セアラさん)
手を繋ぎながら見つめ合う二人の様子に胸が熱くなる。
こんなにもジョエルのことを理解してくれて……母親としてこんなに嬉しいことはない。
「さあ、ジョエル様、今度こそ答えてくださいね!」
「分かった!」
顔を上げたジョエルが大きく頷いて神父に顔を向ける。
これで、ようやく先に進めると安堵した神父が口を開く。
「では───新郎、ジョ……」
「誓う!!!!」
「今度は早いぃぃっっ!」
今度のジョエルは食い気味も食い気味。
神父が最後まで言い終わらない内に愛を誓ったジョエルに思わず神父も突っ込んだ。
その瞬間、どっと笑いが起きる。
(全くもう! ハラハラさせて……)
こんな結婚式は前代未……
そう思いかけて私は苦笑する。
“私たち”も色々やらかしていたわね……と。
そもそも、入場はぬいぐるみを身代わりにしたし?
愛を誓う時は私も前のめりだったし?
誓いのキスもジョルジュはぬいぐるみにさせようとしていたし?
(なるほどね、ようやくあの時の親の気持ちが分かったわ……)
懐かしい気持ちでジョルジュを見つめると私たちの目が合った。
「ガーネット」
「なぁに?」
「懐かしいな。結婚式というのは常にハラハラドキドキがつきものなんだな!」
「……」
…………そんなの私たちだけよ!
思わずそう突っ込んだ。
ちなみに……
ジョエルとセアラさんの誓いのキスは、しっかりジョエルが男を見せていた。
────
そうしてハラハラドキドキしたけれど無事になんとか結婚式も終わり、我が家で開いたパーティーも楽しい時間を過ごした。
主役の二人も楽しそうだったので、なにより……
「……エドゥアルトの余興、凄かったわね?」
寝支度を終え、今日一日を振り返りながらジョルジュに話を振る。
「あのジョエルに、一風変わったカツラと髭つきの鼻メガネを装着させられるのは彼だけだろう」
「ホホホ、そうよねぇ……」
パーティーの最中、余興だと言ってエドゥアルトに珍妙な格好をさせられていたジョエル。
おかげで私のお腹がよじれるところだった。
(ただ……)
「あの時のエドゥアルト、これで僕とジョエルはお揃いだな! とか言ってなかった?」
「そうだったか?」
「聞き間違い? それにしてもなんであの子はあんな珍妙な物ばかり揃えているのかしらねぇ?」
以前、公爵夫人にそれとなく聞いた時は、エドゥアルトが自分で買っているわけじゃないと笑って言っていたけれど……
「誰かからの贈り物だとしたら、その人は相当センスが壊滅…………ん?」
そこまで言いかけて部屋の片隅に鎮座する筋力トレーニングセットが目に入った。
そういえば、物凄く身近にセンスの欠けらも無い人がいたわね……
(まさか……ねぇ)
私の脳裏に無口無表情な息子の顔が浮かぶ。
「……」
「どうした、ガーネット?」
「ホホ……ホホホ。何でもなくってよ!」
私は引き攣った笑顔でジョルジュに答える。
「そうか?」
「…………ええ。世の中には知らない方が幸せってこともあるもの……ね」
「ガーネット?」
「いえ、今頃、新婚ジョエルはセアラさんと無事に初夜を迎…………」
無理やり話題を変えてみたけれど、ここで新たな不安が生まれた。
(え? 大丈夫、よね?)
私はジョエルに指南したことはないけど知っている……わよね?
「初夜、か。そういえば……」
「ジョルジュ?」
「昔、子どもジョエルに聞かれたな」
「何を?」
私が首を傾げるとジョエルは淡々と言った。
「初夜とは何をするのか、と」
「は?」
「まだ早いと思ってあの時は咄嗟に誤魔化したが……」
「……ご、誤魔化した?」
「ああ。もう十年以上は経つのか」
ジョルジュは遠い目をしながら懐かしんでいる。
「……」
(何かしら……この私の胸に渦巻く嫌な予感は)
ベビーの頃から何でも素直に言葉通りに受け止めるジョエル。
(まさか、まさかね……)
ジョエルも人間に成長した。
本やジョルジュの話からだけでなく、色々な知識を人から吸収……
(いえ、待って? ジョエルの交友関係って……?)
「~~~~っ」
「ガーネット? 急に頭を抱えてどうした?」
「……」
───翌朝、セアラさんの様子から全てを察した私は、うちの息子さんがとっても純粋で素直に成長していたことを改めて思い知り、膝から崩れ落ちた。
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