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95. 世話焼きジョシュア
しおりを挟むその日。
相変わらず賑やかな日々を送っている我が家に荷物が届いた。
「あら、私の実家────お兄様からだわ」
「あうあ!」
「え? ちょっ……早っ」
ペタペタペタペタ……
ジョシュアがものすごい速さで向こうから這ってくる。
そして、私の足元に到着するなり絡みだした。
「あうあ!」
「なに? ジョシュア。どうしたの?」
「あうあ! あうあ!」
ニパッ! とジョシュアは本日も可愛い笑顔を振り撒いてくる。
「くっ……可愛い……」
「あうあ!」
「ガーネット────おばあさま! それはきっとボクに宛てたものです! と主張しているぞ?」
「あうあ!」
横からやって来たジョルジュがひょいっとジョシュアを抱き上げながら通訳してくれた。
「あうあ!」
私と目線が近くなったジョシュアはもう一度ニパッと笑う。
「お兄様からの荷物……これがジョシュア宛て? あ! もしかして……」
「あうあ!」
慌ててガサガサと箱の中身を開けてみた。
「……やっぱりだわ!」
「あうあ!」
箱の中身は我が家にとってお馴染みクマのぬいぐるみ。
同封されてい手紙に目を通すと、“遅くなってすまない”“孫の誕生祝いだ”とお兄様の字で書かれていた。
「あうあ! あうあ!」
ジョシュアが手をパタパタさせて訴えて来る。
「ボクの! ボクの! と主張しているぞ?」
「あうあ!」
「なに? ずっと待っていたのです? ──そうだったのか?」
「あうあ!」
その主張を聞いてふと思い出した。
ジョシュアと邸内散歩中、よく私たちの寝室に入りたがっていた。
そして棚に飾られている皆のぬいぐるみの前にちょこんと座って見上げては“あうあ!”と言っていた。
あれは……
「ジョシュア……あなた、ずっと“僕のクマさんまだかな~”と言っていたのね?」
「あうあ!」
ニパッと笑いながら答えるジョシュア。
「ジョシュア……」
「あうあ!」
「分かったわ。それでは早速、ジョシュアクマもジョエルとセアラさんの間に飾り……」
「あうあ!」
ガシッ
寝室に飾ろうと思って歩き出したら何故かジョシュアに腕を掴まれた。
「え? なに?」
「あうあ!」
「───お待ちください、おばあさま! だそうだ」
「あうあ!」
ニパッ!
「ジョシュア……?」
ジョシュアの笑顔の圧がすごい。
「あうあ!」
「───飾られる前に今日はそのクマさんと遊ぶです! ───だそうだ」
「あうあ!」
「え!」
ニパッ!
ジョシュアはとってもいい顔で笑った。
────
「あうあ!」
ペタ、ペタペタ……ペタ……
「ジョシュア……そんな無理に頑張って背中に乗せてハイハイしなくても……」
「あうあ!」
「───ダメです! こうする以外にボクが運ぶ方法が見つからなかったです! そう主張しているな」
ジョルジュの通訳を聞いて私は頷く。
「そ、そう……でも、移動中くらい私たちに預けるのではダメだったの?」
「あうあ!」
「───ダメです! だそうだ。かなり頑固だな」
「……」
(誰に似たのかしら?)
念願だったジョシュアクマのぬいぐるみを手に入れたジョシュアは、ぬいぐるみを連れ歩いた。
散歩に同行させたり、“あうあ”と懸命に話しかけている姿は微笑ましくて可愛らしくもあったけれど……
「ああああ! ジョシュア坊っちゃまーーーー」
「あうあ!」
「ぬいぐるみはお食事されませんーー」
「あうあ!」
甲斐甲斐しくお世話(?)をし始めてからが大変だった。
「それは坊っちゃまのお食事ですーー」
「あうあ!」
(あらあら……)
ジョシュアベアーは手ずからご飯が与えられ今、口元が大変恐ろしいことになっている。
「な……なるほど、それで今日のジョシュアはクマさんと一緒、なのですね?」
セアラさんがジョシュアとクマを見ながら苦笑した。
「遊ぶのです! と言い切って散々連れ歩いて今、あそこよ……」
「えっと、遊ぶと言うよりもお世話を焼いてるという感じでしょうか?」
「そうね……」
途中、ジョシュアはぬいぐるみの着替えまで要求していたので、本人はお世話のつもりなのかもしれない。
「あうあ!」
「ジョシュア坊っちゃま! ですから、ぬいぐるみはお水も飲みませんからーー!」
「あうあ!」
ベシャッ
食事がダメなら飲み物だ!
ジョシュアはそう言わんばかりにお水を与えようとした結果、ジョシュアベアーがさらなる大惨事に見舞われている。
「…………ジョエルはここまでじゃなかったわよ……? あの子誰に似たのよ」
私が肩を竦めてそう言うとセアラさんはクスクス笑う。
「エドゥアルト様も言っていましたけど、大胆で豪快なところはお義母様に似たかもしれません」
「え……」
「ですから、将来がとっても楽しみですね!」
ニコニコ顔でセアラさんはそう言い切った。
「ジョシュア。少し落ち着け」
「あうあ!」
「見ろ。クマさんはもうお腹いっぱいだと言っているぞ?」
見かねたジョエルがジョシュアの元に近付いてそう窘めた。
ジョシュアがじっとジョシュアベアーを見つめる。
「……な? 言っているだろう?」
「あうあ!」
ニパッと笑ったジョシュアは、満面の笑みでもう一度ジョシュアベアーに水を飲ませた。
「ジョシュア!」
「あうあ!」
「返事はいい子なんだが……そんな急に世話焼きになってどうした?」
「あうあ!」
「……なに?」
(…………ん?)
「あうあ! あうあ!」
キュッとジョエルの眉間に皺が寄って険しい顔になった。
ジョシュアは手足をパタパタさせてジョエルに何かを訴えている。
「ジョエル様の眉間に皺が寄りましたね?」
「あら、セアラさんも気付いた?」
「はい」
そして、ジョエルの眉間の皺は見る見るうちにどんどん深くなっていく。
「あうあ!」
「……ジョシュア」
「あうあ!」
「そ、そうか、そうだったのか……」
ジョエルは大きく頷いてから、ジョシュアの頭を優しく撫でた。
「お前のその心意気は買う。だがな、それならもっと優しく扱わなくちゃダメだぞ?」
「あうあ!」
ニパッと笑って答えるジョシュア。
「そんなジョシュアには俺の本を読め───と言いたいが、ダメだ。ジョシュアはまだ字が読めないからな……」
「あうあ!」
「よし! 読み聞かせだ! そのぬいぐるみを連れて今から俺の部屋へ行くぞ!」
「あうあ!」
(なっ! よ、読み聞かせぇぇ!?)
あの無口なジョエルが!?
いったいどんな話をしたらそんなことになるの!?
そして、私と同じことをセアラさんも思ったようだった。
「ジョエル様がよ、読み聞かせ!?」
セアラさんが目を丸くして絶句している。
そんな私たちの驚きも知らずにジョエルとジョシュアは、ジョシュアベアーを連れて意気揚々と出て行った。
「お……お義母様? ふ、二人はいったい何の話をしているのでしょう?」
「さあ? 私にもよく分からないのよ」
その場に残された私とセアラさんは顔を見合せながら首を傾げた。
────実は、この世話焼きジョシュアの行動がジョシュアなりの“お兄ちゃん”になる為の予行練習で、
ジョエルはその思いを知って“兄になるための心得”を自分の愛読書から読み聞かせることにした……
ということを私たちが知るのは、それからもう少し後のこと────……
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