誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら

Rohdea

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【番外編】 7. 女王様のお説教

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「ガーネット!  見たか!  あの二人……何だかよく分からないが楽しそうだな!」
「ホホ、ホホホホ……そう、ね」

 とりあえず笑ってはみたけれど、すぐに冷静になった。

(いやいやいや、楽しそう……なんてレベルじゃないでしょう!)

 それに、あんなにも悪目立ちしておいて、あの子たちは後でしれっとした顔で絶対にこう言うのよ!

 ───え?  僕たち大人しくしていましたよ、おばあ様。 
 ───そうですわ。お兄様と美味しい飲み物で乾杯くらいはしましたけど?

 乾杯くらいですって?
 その行動こそが目立ってたのよ!  と言ってもあの子たちには多分伝わらない。

(恐ろしい……!)

「くっ───ジョルジュ!  ジョエルとセアラさんは!?  二人は何をしているの!?」

 あのジョシュアとアイラを野放しにしておくなんて危険行為よ!
 二人のこれ以上の暴走を止められるのは親である二人しかいないわ!

 そう思って辺りをキョロキョロと見回す。
 すると、ジョルジュが何やら人だかりが出来ている方向を指さした。

「ガーネット、二人はあそこの人だかりの中心にいるみたいだぞ?」
「は?」

 人だかりの中心?
 ジョルジュの発した不穏なワードを怪訝に思いながらも言われた方向に視線を移す。
 確かにそこには人だかりが出来ていた。

「何あれ」
「何だろうな。二人だけじゃなく、エドゥアルトの姿も見えるぞ」
「つまり?  エドゥアルトがいるからあんなに人だかりが出来ているのかしら?」

 今日のパーティーの主催者でもあるし、そうでなくてもエドゥアルト───あの子は存在そのものが目立つ。

「んん?  ガーネット!  すごいぞ。ジョエルたちも楽しそうだ!」
「楽しそう?」

 背伸びして様子をうかがっていたジョルジュの声が興奮している。

(きっとあれね。エドゥアルトが何か余興でも披露して、人を集めているに違いな……)

「───ジョエルが妙ちくりんなカツラを被ってメガネと付け鼻と髭も付けて遊んでるぞ!?」
「んぁ!?」

 私は耳を疑った。

(ジョエル“が”ですってーー!?)

「ジョルジュ何を言っているの!  そういう愉快で可笑しなことをするのは昔からエドゥアルトと決まってるでしょ?  あなたが見たのは本当にジョエル?」
「ジョエルだ!」

 キッパリと言い切るジョルジュを跳ね除けながら私も背伸びをして人だかりの中心を確認する。

「……んぁあっ!?」

 しかし、自分の目に飛び込んで来た光景に思わず叫んだ。

「嘘でしょう!?  エドゥアルトではなく……あれは本当の本当にジョエル、だわ」

 ちなみにセアラさんは、ジョエルの隣で自分もカツラを被ったりしながら楽しそうに笑っている。

「だろう?  あれはどこからどう見ても俺たちの息子さんだ」
「あれが私たちの息子さん……そんな……」

 私の脳裏には、生まれてから今日までのジョエルの姿が走馬灯のように流れていく。

(ジョエル……)

 とにかく泣かないベビーだった……
 無口無表情で、表情筋はほぼ死滅。
 常に「う」しか言わなくて……でも、とっても素直な子に成長した。
 それなのに変な二つ名も付けられてたっけ。
 不運が重なりベビーの頃から馬車に怯えるも、運命の天使セアラさんのおかげで今はかなり克服……
 しかし、未だに天敵ピーマンとは仲良くなれず、天使セアラさんに上手く乗せられて気付くと口に運んでる……

(そんな可愛い息子、ジョエルが……!)

 私はガクッと全身の力が抜けるてよろけてしまう。

「ガーネット!?」
「ホホホ……ホホホホホホ……」

 とっさにジョルジュが支えてくれたので倒れることはなかった。
 しかし、こんなの笑いが止まらない。

(あっちもこっちもそっちも何してるのよーーーー!)

「ガーネット!  我が家のメンバーはそれぞれ皆、楽しそうにしているな!」
「そ…………そうねぇ」

 私がヒクヒク顔をひきつらせていると、ジョルジュは私を掴んだまま声を弾ませて、最後にこう言った。

「すごいな。皆───ガーネットにそっくりだ!」
「!?」

(ぁああ!?)

 私は思いっきりジョルジュを睨んだ。



─────



「ふふふ───さて。あなたたち?  準備はいいかしら?」

 パーティーは終わり、皆それぞれ帰宅。
 そんなギルモア邸のリビング。
 私は今、ソファに腰掛け足を組んで一人ふんぞり返りながら目の前に、
 ジョルジュ、ジョエル、セアラさん、ジョシュア、アイラの順に両脚を揃えて膝を折り、足首からかかとの上に尻を乗せた体勢で床に座らせている。

「は……母上、この座り方は足が痺れ───」
「お黙りなさい! ジョエル!」

 ヒュン!  ピシッ!

「「「「「……っ!」」」」」

 皆の目線が私の手元に向かう。

「ホホホ……!」

 今、私の手には鞭が一つ握られている。
 帰り際、面白グッズならお任せのエドゥアルトに鞭を持っていないかと聞いたら、持っていると言ったので借りて来た。

(初めて扱うけどなかなか面白いわね……?)

 ヒュオン!  ヒュン!
 私は鞭を振り回しながら皆に向かってニッコリと笑う。
 そんな私を見つ返してくる皆の様子はそれぞれ、キラキラ、無、困惑・戸惑い、ニパッ!  無……

(キラキラとニパッ!  が解せないわ)

 ジョルジュは、私が床に座るよう命令した時は困惑していたくせに、鞭が登場してからはずっと目が鞭に釘付けでキラキラしている。
 ジョシュアに至っては呼びつけたときからニパッ!  座らせてもニパッ! 鞭を見せてもニパッ!
 笑顔が崩れない。

(この子、絶対やべぇ……)

 ジョエルとアイラは安定の無。
 セアラさんだけがこの状況に困惑し戸惑っている。

「────さてさてさて、私が皆に何を言いたくて集めたか。分かるかしら?」

 ヒュン!  ピシッ!
 私が振り回す鞭の音を聞きながら五人が顔を見合わせる。

「ホーホッホッホッ!  今日のパーティーでのあなたたちは、それぞれとても楽しそうだったわね?」

 私が高らかに笑ってそう口にすると、ジョルジュが手を挙げた。

「ジョルジュ?  何かしら?」
「俺はずっとガーネットのそばにいたじゃないか。だから関係な……」
「お黙り!」

 ヒュウン!  ピシッ!
 私は鞭をしならせてからソファから立ち上がる。
 そして、ジョルジュの前で屈んでクイッと彼の顎を持ち上げる。

「いいこと?  ジョルジュ。あなたにはね、ギルモア家の年長者として責任があるのよ!」
「そうか……なるほど」

 分かった、と素直に頷くジョルジュ。
 しかし、その目線はひたすら鞭を追っている。
 これはちょっとジョルジュを喜ばせるだけだったかもしれないと思いつつ、私はソファに座り直した。
 そして話を続ける。

「まずは────そこのジョシュアとアイラ!」

 名前を呼ばれた二人がピシッと背筋を伸ばす。

「ずっと見ていたわよ?  豪快な飲みっぷりだったわね?」
「はい!  美味しかったです!」
「……」

 ニパッと笑うジョシュアに無言で頷くアイラ。

「そう……それで?  何やら私に乾杯してくれていたわね?」
「はい!  敬愛する僕らのおばあ様に乾杯しました!」
「……」

 私はフッと笑って髪をかきあげる。

「ふふ、そうね。それはとても嬉しかったわ。でもね───」
「「?」」
「───この私の飲み方を真似したとはどういうことかしら!?  私の飲み方はもっと優雅のはずよ!」
「「……っっ!」」

 ハッと息を呑んだ二人が顔を合わせる。

「ガ、ガーネット!  ……会場でも言ったが、二人の飲み方はとても君によく似……」
「───ジョルジュ!」
「!」

 ピシッ!

 私は鋭い目線と鞭でジョルジュを黙らせる。

「ジョシュア、アイラ!  ───これから見本を見せるわよ!  いいこと?  その目でじっくり観察してしっかり頭に叩き込みなさい!」

 グビッ、グビッ、グビッ……
 そう言った私は使用人が運んで来たお酒のグラスを手に取りグビッと飲み干す。

「こうよ!  “違い”が分かったかしら?」
「…………はい!  おばあ様!  今日も美しくて素敵な飲みっぷりです!  …………だよね、アイラ?」
「……!」

 ジョシュアはニパッと笑い、コクコクコク……と、アイラも隣で勢いよく頷く。

「そう?  まあ、分かればいいのよ?  とにかく───どんな時も、この私のように“優雅に美しく”を心がけなさい?」
「はい!  おばあ様!」
「……」

 私は満足してゆったり微笑むと、お説教の矛先をジョエルとセアラさんへと向ける。

 ヒュンッ!

「さあ!  次はあなたたちよ!  ジョエル、セアラさん!  子供たちが遠慮のないグビグビを披露している時のあなたたちと来たら!  妙ちくりんな格好をして────」



 こうして、
 この世で最も説得力のないガーネットのお説教(ジョルジュ談)
 は夜中まで続いた─────……

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