誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら

Rohdea

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【おまけ】アイラの望み

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────


「あうあ!」

 ニパッ!

「……」
「あうあ、あうあ!!」

 ニパッ!

「……ぁぅ」

 ゲシッ!
 ニパッ!

「あうあ、あうあ、あうあ~~!」
「…………ぅぁっぅ」

 ゲシッ!


(オーホッホッホ!  アイラは今日もい蹴りだこと!)

 ジョシュアがニパッと笑顔でアイラに話しかけている。
 そんなジョシュアの話にか細い声で答えながらも、手足をパタパタさせてはゲシゲシ蹴飛ばしながら応えているアイラ。
 中身はともかく、見た目は天使な我が家のベビーたちが仲良く会話をしている姿は見ているこちらが和む。

(しかし、会話の内容は気になる……)  

 あのジョシュアの笑顔とアイラのか細い声に騙されてはいけない!

「……ジョルジュ」

 私が指をパチンと鳴らすと、すかさずジョルジュが通訳に入ってくれた。
 本当に便利!

「ジョシュアはアイラにコックス公爵家でのことを話しているようだ」
「へぇ、今度はアイラも一緒に行きましょうね、とかかしら?」

 思っていたより微笑ましい内容のようね?
 そもそも、年齢的にもアイラの方がナターシャとも近いし、なにより女同士。
 “親友”になるならこの二人の方がなりやすいだろうと個人的には思っている。

「それはいいけど、ベビーが三人揃うとそれはそれで大変───」
「いや、そうではない。しもべの話だな」
「は!?」

 思わず聞き返す。

「───残念ながらベビーちゃんとしもべが出来なかったからアイラとするです!  …………どうやら、ジョシュアはアイラのしもべになるつもりらしい」
「はぁ!?」

 私の脳裏には、アイラのしもべとなって手とり足とりせっせとお世話をするジョシュアの姿が浮かんだ。
 今もうすでにその傾向にあるジョシュアなのよ……?
 そんなの────

(ハマりすぎる……!)

「あうあ!」
「……」

 ジョシュアがニパッとアイラに笑いかけた。

「────さあ、アイラ!  ゆーのーなボクになんでもめーれーするです!  …………ガーネット!  しもべジョシュアがアイラの要望を確認し始めた!!」
「えええ……待ってよ。アイラ、お願いだから変なことは言わないで!?」

 ハラハラしながら見守るも、アイラは無言、無表情のまま、じーっとジョシュアの顔を見つめている。
 こんな大人しそうな可憐な見た目でいったい頭の中は何を考えているやら……

「…………ぅ」
「あうあ!」

 やがて繰り出されたアイラの今にも消え入りそうな一言にジョシュアがニパッと笑って頷いた。

(え、なに?  アイラはジョシュアに何を要求したの!?)

「───ガーネット。アイラはまず、最高級のミルクとやらを要求したようだ」
「え?  それはナターシャが必死にジョシュアの勧誘時に推しまくっていたミルク……?」
「ああ、それだろう」

 とりあえず、ホッと胸を撫で下ろす。
 なんとも可愛いベビーらしい要求。

(至って普通の要求で良かったわ。アイラも過激なところがあるから……)

 私はパンパンパンと手を叩く。
 その音を聞いて素早く使用人が駆け付けてきた。

「───旦那様、奥様、お呼びでしょうか」
「今すぐ、コックス公爵家御用達の最高級のミルクを我が家にも仕入れなさい」
「はっ!!   承知いたしました!」

 使用人に命じるとただちに手配に向けて走っていった。

「ふぅ、これで次のアイラのミルクの時間までには間に合うでしょう」
「よく分からんがそんなすぐ手にいるものなのか?」

 不思議そうなジョルジュに向かって私は高らかに笑う。

「オーホッホッホ!  ジョルジュ?  あなたはこの私を誰だと思って?」
「ガーネット」
「そうよ!  この私、ガーネットに不可能という文字はないのよ!」
  
 私はニヤリと笑う。

「ありとあらゆる物の流通経路はとっくに確保済み!  この世に私が望んで手に入らない物なんてないわ!」

 私が胸を張ってそう言うとジョルジュの目がキラッと輝いた。

「さすが、ガーネットだ!  その悪徳商人のような顔、惚れ惚れする!!」
「───あぁ!?」
「ん?  ガーネット!  アイラが更なる要求をジョシュアにしているみたいだぞ!?」

 ジョルジュを睨みつけようとしたら、ベビーたちに動きがあったようでそちらに意識を持っていかれてしまった。

「あうあ!」
「…………ぅぁぅ」
「あうあ!」
「……ぅ」
「あうあ!」
「…………ぁぅ」

(……本当に不思議。どうしてあれで会話が成り立つのかしら?)

「ジョルジュ、それで?  二人はどんな様子?」
「───ああ。アイラは自分もおリボンが欲しいと言っている」
「また、リボン?」

 思わず眉をひそめる。
 確かにナターシャもジョシュアのリボンをぶんどりたい、なんて過激なことを言っていたけど。

「ほう、あのジョシュア御用達のリボンは非常に乙女心を擽るらしい」
「へぇ……乙女心」
「あの激しい主張の大きさにベビーの身としてはキュンとするそうだ」
「へぇ……キュン」

 ベビーの感性はよく分からないわね、と思った。

「ジョシュアは、きっとアイラは頭につけても可愛いです、と笑っている」
「それは確かに可愛いとは思うけど…………ちょっと重そうね」

 まあ、いいわ。
 おリボンの一つや二つ、特注することは容易い。
 大した命令じゃなかったわね。

「…………ぅあっぁ」
「あうあ!」
「…………ぅ、ぅぁ~ぅ」
「あうあ~~!」

 しかし、アイラの要求はまだあるらしい。
 ジョシュアはこれもニパッ、ニパッと笑って任せろと言わんばかりに頷いている。

(さてさて、今度は何かしら?)

「ジョルジュ?  次の要求はなに?」
「……」

 そう訊ねるとジョルジュが顔をしかめていた。

「なぁに、その顔。どうしたのよ?」
「いや……」

 ジョルジュの歯切れが悪い。
 これはなかなか大きいものを要求したのかもしれない。

「なぁに?  アイラ専用のお家が欲しいとでも言ってるのかしら?」
「いや……もっと大きい」
「は?  大きい?  じゃあ、なにかしら?」

 私が強く聞きだそうとするとジョルジュは少し躊躇いながら口を開いた。

「……山」
「は?」

 いまいち理解が出来なかったので聞き返した。

「だから……山、だ」
「や……」
「アイラはあの、どーんとそびえ立つ“山”を所望したようだ」
「山……」
「……」
「……」

 私とジョルジュが顔を見合わせる。

「なんでそうなるのよぉぉぉ!?」

 ジョルジュの両肩を掴んで思いっきりガクガク揺さぶる。
 なんでアイラは山とか言いだしちゃったわけ!?

「うぐっ……ジョ、ジョシュアが、海を手に入れていたからアイラは、そ、それなら、わたくしは山がいいですわね、と言っているよう、だ」
「ホホホホホ!  何よそれ。もうその発想がその辺のベビーの発想じゃないんだけど!?」

 笑いと身体の震えが止まらない。

「……それで!?  アイラのしもべになったあの微笑みの天使、いえ悪魔はそれになんて答えていたのよ!」

 ジョルジュはケホケホッと咳払いをしながら答えた。

「ジョシュアは、ニパッといつものように笑って────」
「て?」
「────おばーさまにお山を持ってるおうちの人のことを聞いて」
「……ホホホ、私に聞くのね」

 私の頭の中にニパッと笑ったジョシュアの満面の笑顔が浮かび、あうあ~の声が響く。
 そう、コックス公爵夫人が恐れたジョシュアの微笑み……

(ああ、とっても嫌な予感……)

「それで、そのおうちに突撃してボクとアイラにちょーだいって言います!  と答えていた!」
「!」

(ジョシュアァァァーーーー!!?)

 微笑みの悪魔は最愛の妹のために、またしてもどこかの領地を分捕る気満々で笑っていた。
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