【完結】今更、好きだと言われても困ります……不仲な幼馴染が夫になりまして!

Rohdea

文字の大きさ
2 / 27

2. 嘘みたいな縁談

しおりを挟む


「お父様ったら何を仰っているの?」

  自分でも思っていた以上の冷たい声が出た。
  だけど、仕方が無いと思うの。だって、朝からそんな冗談は気分が悪いもの。それともこれはお父様流の新しい嫌味なのかしら?

  (ヨーゼフ様から婚約破棄された時、散々、私を責めた事は忘れていないんだから!)

「オリヴィア、そんな目で見るな!  そして、これは冗談でも嘘でも嫌味でも無い!  本当にオリヴィア宛に来た婚約の申し込みなんだ」
「……ならば、それを申し出た方は私をからかっているのでしょうね」
「そんな冷めきった事を言わないでくれ……」
「……」

  何を言っても冷たい反応しか返さない私にお父様は、はぁ、とため息を吐く。

「いいか?  そんな事は有り得ない。なぜなら相手はオリヴィアもよく知っている人だからだ」
「え?」
「そして、すまないがもう二度こんな話は来ないのではと思い、承諾の返事を先程送った所だ」
「何ですって?  お父様!?  なんて勝手な事をしているの!」

  私は反論するけれどお父様はいっさい聞く耳を持たない。

「勝手だろうと何だろうと、すっかり諦めていたお前への縁談話だ。しかも相手は我が家にとって悪くない相手。乗らない訳にはいかない」
「酷いです!!」

  よく知っている人だろうとそうでなかろうと、勝手に先に返事をするなんて酷い!
  思い返してみれば、ヨーゼフ殿下との婚約もこんな始まりだった……

  (自由恋愛での結婚よりも政略結婚の多い世の中なのだから、一家の当主としては間違っていない行動だと頭では理解していても、父親としては酷すぎるわ!)

「先方の希望でな。婚約期間は短く済ませて、すぐに結婚となるそうだ」
「嘘……でしょう?」

  お父様のその言葉に私は目の前が真っ暗になった気がした。


───

  相手の情報はここに置いて置く。
  お父様は手紙とおそらく相手の釣書のような物を置いて部屋を出て行った。

「いいか?  先方に失礼に当たるからな!  顔合わせまでには確認しておけ!」
  とだけ言い残して。

  (絶対に見るものですか!)

  私はそう決めた。
  いっそ、それで顔合わせの日に何も知らないまま相手と顔を合わせて“なんて非常識な女性なんだ”そう思ってもらってこの話は無かった事にしてもらうのもいいかもしれない。

  だから、相手の事なんて知らないままでいい……

  そう思った私は頑なに縁談の申し込みをして来たという人の事の一切を知ろうとはしなかった。

  ……その事を後悔するとも知らずに───……




◇◇◇◇◇



  (う、嘘でしょう!?)

  その日、私は驚きと共にブルブル震えていた。
  
  ──今日、先方との顔合わせだ!
  朝食後にお父様からそう言われて“とうとう来たのね!”と、破談にする気満々で挑んだ顔合わせで私はとんでもない衝撃を受けた。
  それはヨーゼフ殿下に婚約破棄された事なんて、ちっぽけで可愛く思えてしまうくらいの衝撃だった。

  (なぜ、ヒューズが目の前にいるの!?)

  5年経っていても分かる。
  少年だった彼は明らかに青年へと成長を遂げていたけれど、面影も残っているし基本は変わっていない。
  私が好きだった頃のま──

  (って、違う!  私はこんな人の事は嫌いになったのよ)

  必死にそう自分の心に言い聞かせる。

「そういう訳で、今更紹介も何も無いだろうが、カルランブル侯爵家のヒューズ殿だ。何年ぶりだろうか?」
「……5年に、なりますね」

  ヒューズが澱みなくそう答える。
  声も少し低くなった……かもしれない。
  そんな事より私の頭の中は、どうして私に縁談を申し込んで来たという相手がヒューズなのか。そればかりだった。

  (私の事を大嫌いだと言ったくせに!)

  何故、そんな嫌いな女に縁談を申し込んだの?
  それにこの5年間、彼は何処に行っていたの?
  分からない事だらけで頭がおかしくなりそうだった。

「……オリヴィア……コホンッ、オリヴィア嬢も久しぶり、だな」
「え、えぇ、あなた、もね」

  (白々しい顔をして何を言うの!  この、無神経男!)

  私は内心では毒づきながらも、社交界で培ったスマイルを駆使して、何とか作り笑顔を彼に向けながら対応する。

「5年……か。お互いに変わったな」
「そ、そうですわ、ね」
「……」
「!」

  ヒューズはじっと私を見つめる。
  見つめられてドキドキするのは気の所為!  気の所為でないと困る。

  (でも、これで分かったわ。何故、お父様が婚約の申し込みに即決で返事をしたのか。その理由が……)

  相手がヒューズだったからなのね。
  昔からよく知っている相手だもの……

  (こんな事なら先に手紙と釣書を見ておけば良かった……)

  そうすればこの顔合わせだって、何かしらの理由を付けて拒否し続けて破談を狙う方向も考える事が出来たのに。
  “あなたの事をよく存じ上げませんので、お断りします”が使えないなんて思わなかった。

  (どうして今なの?  好きだった頃には叶わなかったのに、嫌いだと突然言われて初恋が砕け散ってからその人が結婚相手として現れるなんて……あまりにも酷すぎる)

  こんなの上手くいく気がしないわ。
  どうにかして断るべき! ……
  そうよ!  お父様は私とヒューズの間にあった事を知らないから、説明すればもしかしたら分かってくれるかもしれない──
  そう思って私は口を開く。

「お父様……あの、実は昔、私とヒ」
「侯爵殿、俺……コホッ、私としては早くオリヴィア嬢を我が家に迎え入れたいと思っているのだが……」
「おぉ、そうか!  もちろん構わない」

  なんて事なの。遮られてしまったわ……
  さらに言うならば、話が……話が進んでしまっている!
  これ、まさかとは思うけれど、結婚前に同居する話になっているのでは?

「ヒューズ!  あの、ちょっと待って?  わ、私は……」
「?」
「……っ!」

  ヒューズが昔と変わらない仕草と多くの面影を残した表情で私を見る。
  そのせいで私はまっすぐヒューズの顔が見られなくなった。
 
   (そんな目で見ないで……)

「どうしたんだ、オリヴィア?  どうにも挙動不審だな。まぁ、いくら幼馴染相手とはいえ結婚相手として再会したのだから落ち着かなくもなるか、ははは」

  お父様は勝手にウンウンと一人で解釈してしまっていた。

  

  その後、ヒューズが帰った後にようやく「ヒューズは私の事を嫌いなの。だからこれは何かの間違いなのよ!」と、お父様に過去の出来事を話して訴えたけれど、「そんなに照れなくても」と全然違う解釈をされてしまい、ヒューズとの縁談の話はトントン拍子で進んでいく事になってしまった。




  そんな私は、ヒューズが帰り際に「……今度こそ」と、かなり思い詰めた表情で何かの決意を語っていた事を知らない──……

しおりを挟む
感想 201

あなたにおすすめの小説

白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。 「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」 そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。 ——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。 「最近、おまえが気になるんだ」 「もっと夫婦としての時間を持たないか?」 今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。 愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。 わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。 政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ “白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!

何も決めなかった王国は、静かに席を失う』

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 表には立たず、裏で国を支えてきた公爵令嬢ネフェリア。 だが―― 彼女が追い出されたのは、嫉妬でも陰謀でもなかった。 ただ一つ、「決める役割」を、国が彼女一人に押しつけていたからだ。 婚約破棄の後、ネフェリアを失った王国は変わろうとする。 制度を整え、会議を重ね、慎重に、正しく―― けれどその“正しさ”は、何一つ決断を生まなかった。 一方、帝国は違った。 完璧ではなくとも、期限内に返事をする。 責任を分け、判断を止めない。 その差は、やがて「呼ばれない会議」「残らない席」「知らされない決定」となって現れる。 王国は滅びない。 だが、何も決めない国は、静かに舞台の外へ追いやられていく。 ――そして迎える、最後の選択。 これは、 剣も魔法も振るわない“静かなざまぁ”。 何も決めなかった過去に、国そのものが向き合う物語。

拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様

オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。

お姉様。ずっと隠していたことをお伝えしますね ~私は不幸ではなく幸せですよ~

柚木ゆず
恋愛
 今日は私が、ラファオール伯爵家に嫁ぐ日。ついにハーオット子爵邸を出られる時が訪れましたので、これまで隠していたことをお伝えします。  お姉様たちは私を苦しめるために、私が苦手にしていたクロード様と政略結婚をさせましたよね?  ですがそれは大きな間違いで、私はずっとクロード様のことが――

記憶喪失の婚約者は私を侍女だと思ってる

きまま
恋愛
王家に仕える名門ラングフォード家の令嬢セレナは王太子サフィルと婚約を結んだばかりだった。 穏やかで優しい彼との未来を疑いもしなかった。 ——あの日までは。 突如として王都を揺るがした 「王太子サフィル、重傷」の報せ。 駆けつけた医務室でセレナを待っていたのは、彼女を“知らない”婚約者の姿だった。 ※本作品は別サイトにて掲載中です

殿下、私以外の誰かを愛してください。

八雲
恋愛
公爵令嬢ラブリーは、第一王子クロードを誰よりも愛していました。しかし、自分の愛が重すぎて殿下の負担になっている(と勘違いした)彼女は、愛する殿下を自由にするため、あえて「悪役令嬢」として振る舞い、円満に婚約破棄されるという前代未聞の計画を立てる。協力者として男爵令嬢ミリーを「ヒロイン役」に任命し、準備は整った。

お飾りの私と怖そうな隣国の王子様

mahiro
恋愛
お飾りの婚約者だった。 だって、私とあの人が出会う前からあの人には好きな人がいた。 その人は隣国の王女様で、昔から二人はお互いを思い合っているように見えた。 「エディス、今すぐ婚約を破棄してくれ」 そう言ってきた王子様は真剣そのもので、拒否は許さないと目がそう訴えていた。 いつかこの日が来るとは思っていた。 思い合っている二人が両思いになる日が来ればいつの日か、と。 思いが叶った彼に祝いの言葉と、破棄を受け入れるような発言をしたけれど、もう私には用はないと彼は一切私を見ることなどなく、部屋を出て行ってしまった。

愛しい人を手に入れるまでの、とある伯爵令息の話

ひとみん
恋愛
ペルソン伯爵令息レナードは、評判の悪い公爵令嬢メーガン・ティラーと婚約せざるおえなくなる。 だがその一年後、彼女の方から声高に婚約破棄を言い渡された。 理由は彼が「ドケチだから」と。 ようやく本当に愛する人を迎えに行けると、喜びを隠し切れないレナードと彼らを取り巻く人たちのお話。 流行りの婚約破棄ものを書きたくて挑戦。広いお心で読んでいただけたらと思います。 16話完結です。 ゆるゆるご都合主義ですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。 なろう様、カクヨム様にも投稿してます。

処理中です...