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5. 次から次へと
互いに無言だった。
「……」
「……」
(い、今……ヒューズは私に向かって)
────俺はお前を愛してなどいない!
そうハッキリ言ったし、そう聞こえた。
え? 何、どういう事? 改まって話があると言われて語られたのが……
私の事が嫌い……しかも、よりにもよって愛していない宣言なの!?
頭の中がクラッとすると共にイラッとした気持ちも湧き上がる。
「……オ、オリヴィア……」
「そ……」
何だかヒューズの顔が慌てているようにも見えるけれど、そんな事は知ったことでは無いわ!
私は我慢出来ずに声を張り上げた。
「そんな事は昔から知っているわーーー!!」
「待っ……」
(誰が待つものですか!)
どうやら待ってくれ、と言いかけているらしいヒューズに向かって私は腕を高く振り上げ──……
バッチーーーーン!!
私からヒューズへ。
ありったけの力を込めた平手打ちが綺麗に決まった音がした。
「……私、部屋に戻ります」
「……」
ヒューズは私に叩かれた頬を押さえながら、顔は俯いたままで何も言わない。
そんな彼の様子は5年前に私に「嫌いだ」と告げた時の様子を思い出させた。
(…………何も言わないのね)
5年前のあの時もそうだったけれど、どうしてヒューズは最低な暴言を吐いた後、変な顔をするのかしら。それだけは今も不可解。
「おやすみなさいませ、旦・那・様」
「……」
私は精一杯の嫌味を言いながら、自分の部屋に続く扉に向かう。
「こ……の……た、と思…………に」
(ん? ……今、何か言った?)
扉を開けて中に入り、閉める直前に俯いたままの姿勢で何かを呟くヒューズの声が聞こえた気がした。
───そして翌朝。
自分の部屋にいる私を見て、メイドの皆は初夜が失敗に終わった事を悟ったらしい。
「奥様……」
「ごめんなさい、せっかく色々してくれたのに」
と言っても、正直、私自身が心の準備が全く出来ていなかったから、実はホッとしている部分もあるのだけれど。
……だからと言ってあの言葉は……無い!
5年前といい昨夜といい、私はいつヒューズにあそこまで嫌われるような事をしてしまったのかしら?
それだけはいくら考えても分からなかった。
「いえ、お気になさらないで下さいませ。どうせ、若君が奥様を怒らせる様な事を言ったのでしょう?」
「え!」
まるで、その場にいて聞いていたかのような発言にちょっと驚いた。
「あ、誤解しないでくださいませ! 聞いていたわけではございません。ですが奥様のその反応を見るに……やはり…………全く! あの若君はどうしようもないですね」
「……」
意外だった。
カルランブル侯爵家の使用人なのだから、てっきりヒューズの味方をするものだとばかり思っていたのに。
「あの、私……」
「いいんですよ、奥様。若君が奥様に何を言ったのかまでは知りませんが、自分の言動や行動を振り返って痛い目見ればいいのです」
なかなか辛辣だわ。
(痛い目……)
ヒューズを平手打ちにした事を思い出す。
「でも……私、昨夜ヒューズの顔を叩いてしまって」
「え? お顔をですか? それは…………奥様」
さすがにやりすぎだって思われてしまうかしら? でも、
「……腹が立って仕方が無かったんだもの」
「そうでしたか。なんて愉快な! ……あ、し、失礼しました。えー……そういう事ならもっと叩いてやれば良かったんですよ!」
「え!」
「豪快な奥様、私は好きですよ」
そう答えたメイドに対して驚いたけれど嬉しくもあった。
───
「……」
「っ!」
朝の支度を終えて、朝食の席に向かうとちょうど入口でヒューズと鉢合わせしてしまう。
ヒューズの瞳が大きく揺れたのが分かった。
「オリヴィア……」
「……」
(今度は何を言うつもりなの!?)
次はどんな暴言が飛び出すのかと、身構えた私に向かって発せられた言葉は思っていた言葉とは違っていた。
「……すまなかった」
「え?」
「……」
(まさかの謝罪!?)
「あ、謝るくらいなら、あんな事は言わなければ良かったでしょう!? 何でわざわざあのタイミングで口にしたの……」
「……そうだな、オリヴィアの言う通りだ」
「……っ!」
そんなあっさり非を認められても。
しかも、その表情……
(調子が狂う……こんなの俺は悪くないって顔をしてくれていた方がマシだったわ)
「……私は怒っているわ」
「分かっている、当然だ。俺の考えが甘かった」
(甘かった?)
その言葉が気にはなったけれどやっぱり簡単に許す事は出来ない。
「それなら……しばらく、ヒューズとは口を利きたくないわ」
「……分かった」
──何かあれば遠慮なく屋敷の者に言ってくれ。
ヒューズはそれだけ告げると席に着いたので、私も慌てて自分の席に着く。
その後はひたすら無言の時間となったので、その日の朝食の味はよく分からなかった。
◇◇◇◇◇
「嫌い……に愛してない、かぁ……」
部屋に戻った私は、ベッドに突っ伏しながらそんな独り言を呟いていた。
(そんな女を妻に迎えようと思った理由は本当に何なのかしら?)
「手紙……」
そうなると、益々手紙に書かれていた内容が気になってくる。
「けれど、今更、実家を探させた所で見つかるかどうか……よね」
正直、捨ててしまった可能性が高い。
でも、気になるので一応探すだけ探してみた方がいいのかも──……
なんて考えていた私の元にメイドが血相を変えて飛び込んで来た。
「奥様! 奥様、大変です!」
「な、何?」
その様子は只事ではないと感じたので、私の胸がヒヤリとする。
(ま、まさか、ヒューズに何かあったの?)
だって、自業自得とは言え、かなり元気も無かったし、何なら少し思いつめた表情もしていたもの。
と、何故かしなくてもいいはずのヒューズの心配をしてしまった私に告げられた言葉はもっと意外なものだった。
「殿下が……ヨーゼフ殿下から連絡が来まして、至急、登城するようにとの事です!」
「……登城!?」
「先程、早馬が来まして奥様へ……と」
「そんな!?」
あの元婚約者が私を呼んでいるですって!? 今更、何の用なの?
(これは絶対にろくな事ではない。自信を持って言えるわ)
私は頭を抱える。
「ヒューズ……ヒューズは、この事になんと言っているの?」
「それが、若君は既に仕事に向かってしまっていて……」
「では、この事を知らないのね?」
(次から次へと……何なのよ!)
私はため息を吐きながら言う。
「……支度をするわ。準備を手伝って? それから、誰かヒューズにもこの事を連絡しておいてくれるかしら?」
「承知致しました!」
あんな人の呼び出しなんて無視してしまいたいけれど、仮にもアレはこの国の王子様。
逆らえない事が本当に悔しい。
私はあれこれ指示を出しながら、あの婚約破棄宣言以降は会っていなかった元婚約者のヨーゼフ殿下の元に向かう事になった。
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