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6. 会いたくない人達
しおりを挟む「……久しぶりだな、オリヴィア」
「…………ご無沙汰しております、ヨーゼフ殿下」
そうして久しぶりに王宮へとやって来た私は、顔も見たくなかったヨーゼフ殿下に作り笑いを浮かべながら挨拶をする。
「聞きましたわ~! オリヴィア様、ご結婚されたのですってねぇ、おめでとうございますぅ」
「……ありがとうございます」
ヨーゼフ殿下の隣は相変わらずシシリーさんが陣取っていた。
(そう言えば、私との婚約破棄の後に二人が婚約したという話は聞いていないけれど、どうするつもりなのかしら……)
けれど今もこうしてシシリーさんは殿下の側にいるのだから時間の問題かしら、と思う。
「それにしても、さすがオリヴィア様ですよねぇ……」
「?」
シシリーさんは私を見ながらにっこりと笑顔を浮かべながら言った。
(さすが……?)
「だって、あんな形でヨーゼフ様に捨てら……いえ、婚約が無くなったのに、すぐに次の結婚相手を見つけるだなんてぇ~……私ならそんな節操のない事は出来ないですもん。ねぇ? ヨーゼフ様」
「……」
相手にするのも馬鹿らしいと思うくらいシシリーさんは相変わらずだった。
これはどうせ殿下も──……
(あら?)
シシリーさんの言葉に何故かヨーゼフ殿下は無言のまま。
いつもなら「あぁ、可愛いシシリーの言う通りだよ」くらいの事は言うのにおかしい。
それに、殿下の様子が……上手く言えないけれど変な気がする。
私……睨まれている?
それに、呑気なシシリーさんは気付いていなさそうだけれど、どこか空気もピリッとしている。
(……?)
そんななんとも言えない空気の中、ようやくヨーゼフ殿下は口を開いた。
「……オリヴィア。君の結婚相手はカルランブル侯爵家のヒューズだと聞いたが間違いないか?」
「はい、間違いありません」
私がそう答えると、殿下は片手で自分の顔を覆うと、クックックと愉快そうに笑い出した。
(……何?)
何故、笑われるのか分からない。それに何だかとても不気味。
「うふふふ、もう、ヨーゼフ様ったら~! そんなに笑ったらオリヴィア様に失礼ですよぉ~」
「ははは、シシリー、すまない。だが、ははは! あまりにも愉快でな」
ヨーゼフ殿下はクックック、ハッハッハと、とにかく笑いが止まらない様子。
笑われる理由が全く分からなくて、ひたすら気持ち悪い。
すると、ひとしきり笑い終えたヨーゼフ殿下は最後にニヤッと笑いながら私に言った。
「なぁ、オリヴィア。カルランブル侯爵令息ヒューズとの結婚生活は、さぞかし楽しい毎日だろう?」
「!?」
咄嗟の事で上手く反応を返せなかった私を見てヨーゼフ殿下はますます意味深に笑う。
「フッ、やはりそうか。あの男の事だからな、オリヴィアにろくに愛も囁けていないに違いない」
「えー? そうなんですかぁ? オリヴィア様ったら可哀想~」
ヨーゼフ殿下のその言葉にシシリーさんは嬉しそうに笑いながら殿下にしがみつく。
「夫婦なんですよねぇ~? 私だったらそんなの耐えられません~」
「!」
ヒューズからの「愛してない」発言を思い出してしまったせいか、さすがにその言葉にはカチンと来た。
「お言葉ですが、シシリー様には関係の無い話でございます」
「……は?」
「私と夫がどのような結婚生活を送っていようとも、シシリー様には一切関係がありませんので」
「なっ! ひっどーーい! 何でそんな事を言うんですかぁ?? ヨーゼフ様ぁ、オリヴィア様がとっても意地悪ですぅー」
シシリーさんはえーんと明らかな泣き真似をしながらヨーゼフ殿下に泣きついた。
「大丈夫か? シシリー…………おい、オリヴィア! シシリーに何て言い方をするんだ!」
「私は本当の事を言ったまでです」
殿下がシシリーさんを慰めながら私に非難の目を向けてくる。
「言い方というものがあるだろう? シシリーはオリヴィアと違ってか弱いんだぞ。ああ、泣いてしまっているではないか!」
「ヨーゼフ様ぁー」
「さぁ、シシリーに謝るんだ、オリヴィア」
「……」
(何だか何もかもが面倒になって来たわ)
人を呼び出しておいてこの人達は結局、何がしたいの?
内心で大きなため息を吐く。
もうどうにでもなれ。
ものすごく不本意だけど、謝ればすむなら謝ってさっさとこの場から離れたい。
「ヨーゼフ殿下、シシリー様、私」
適当でもいいから、もう謝ってしまおうと思って口を開きかけたその時、
「謝る必要は無い。オリヴィア」
(──え?)
覚えのある声に止められた。
私は慌てて声のした方を振り返る。
「オリヴィア。君に非が全くないのに謝っては駄目だ。こいつらが調子に乗るだけだ」
そう言いながらコツコツと靴音を鳴らしてこちらに向かってくるのは……
「ヒューズ……?」
「は、ははは、言ってくれるな。カルランブル侯爵令息。ところで私は君を呼んだ覚えは無いのだが?」
突然現れたヒューズを見るヨーゼフ殿下の顔はどこか引き攣っている。
「ご無沙汰しております、殿下。あの日以来でしょうか?」
「……」
ヒューズのその言葉に殿下の眉がピクッと反応する。
(あの日以来?)
ヒューズのそんな意味深な言い方が妙に気になった。
「あの日? さて、いつ以来だったかな。記憶に無いが……とにかく、今は」
「ヨーゼフ殿下! オリヴィアは……」
ヒューズがヨーゼフ殿下の言葉を遮る。
そんな態度が不敬にならないのかしら? と見ている私はヒヤヒヤする。
それでもヒューズは、不敬だとかそんな事を気にする素振りもなく、私の腰に腕を回して自分の方に私を抱き寄せながらヨーゼフ殿下に向かって言った。
「私の妻なので!」
「……妻、か」
「そうです。私がここに来たのはこちらにお邪魔しているという自分のあ……妻を迎えに来ただけです」
(妻!!)
ドキッ!
その響きに私の胸が大きく跳ねた。
ギュッ……
私を抱き寄せるヒューズの腕に力が入ったのが分かる。
「……」
「……」
そして、ヒューズと殿下は無言で睨み合う。
さすがのシシリーさんもこの雰囲気には口を挟めずオロオロしていた。
(この二人って、仲が悪かったの?)
5年前の二人は、あまり交流があったようには思えなかったのに……
私の知らないヒューズの5年の間に何かあったのかしら?
「…………もういい。お前達は下がれ」
やがて根負けしたのか殿下がそう呟いた。
「そうですか。それでは遠慮なく失礼させていただきます……行こう、オリヴィア」
ヒューズはその言葉を待ってましたとばかりに私を抱き寄せたまま下がろうとする。
「え? あ、ヒューズ? ま、待って……」
私は転ばないように慌ててヒューズに着いて行った。
──そんな私達の様子を見ていたヨーゼフ殿下は、フッと不敵な笑みを浮かべると、
「ははは、相変わらず馬鹿なヤツだ……」と小さな声で呟いていた。
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