1 / 31
第一話 思い出しました
しおりを挟むその日、私は夢を見ていた。
────
──────……
「ディアナ様! いい加減にフレデリック様を解放して差し上げて下さい!」
「……」
「フレデリック様がお可哀想です!」
フワフワしたピンク色の髪を靡かせつつ、大きな目には薄ら涙を浮かべて自分よりも格上の身分の令嬢に立ち向かっているのは平民の少女、ライラック。
平民でありながらも、王立の学校の入学試験で優秀な成績を収めて特待生としての入学が認められた天才少女。
そんな彼女は当然の事ながら、入学した時から何かと注目の的だった。
「何の話かしら? ライラックさん」
「わ、私、フレデリック様から聞きました……ディアナ様には何度も何度も婚約解消の意志を伝えているのに一向に話を聞いてくれなくて毎日疲れ果てているのだ、と」
「……まぁ! 殿下が? 本当にそのような事を貴女に?」
ディアナは扇で口元を隠しながら、鋭い目線を彼女……ライラックに向ける。
彼女は一瞬、怯んだものの負け時と格上の令嬢を見返した。
(なんて、生意気な目をするのかしら! 平民女のくせに……私の愛するフレデリック様のお心を奪っておいて! 図々しいわ!)
侯爵令嬢ディアナと平民ライラックの睨み合いは続く。
そんな中、ライラックはディアナに向かって叫んだ。
「……お願いです、ディアナ様! 早くフレデリック様と婚約を解消して彼を自由にしてあげて下さい!」
さすがのディアナも平民ごときにそこまで言われてしまっては黙っていられない。
「ふざけないで! 平民ごときが! 私の婚約者の殿下に手を出しておいて何様のつもりなの!」
「きゃっ!」
ディアナはそう叫んでライラックを思いっ切り突き飛ばす。一方、突き飛ばされたライラックは小さな悲鳴を上げてその場に転んだ。
ディアナがいい気味だわと心の中で笑ったその時、後ろから声がした。
「───な、何をやっているんだ!」
その場に現れたのは陽の光に透けるとキラキラ輝く金髪が眩しい男性──……
「あ、フレデリック、様……」
「……殿下!」
ディアナの婚約者でもある王子、フレデリックだった。
フレデリックは騒ぎを聞いて慌てて駆けつけて来たのか、ハァハァと肩で息をしている。
「……ディアナ、これはどういう状況かい?」
「まぁ、殿下……まさか怒っているんですの? 私は無礼な泥棒猫がいたから静かにしてもらっただけですわ! それの何がいけないんですの?」
「……泥棒猫?」
フレデリックの眉が顰められる。
「そこの平民の女の事ですわ。事もあろうにこの私に向かって口答えを──」
「ライラック!」
「フレデリック様……!」
「なっ……!」
ディアナの言葉を無視したフレデリックはライラックの元に駆け寄って彼女を助け起こす。
そして見つめ合う二人……
その様子がまた、ディアナの嫉妬心と闘争心に火をつけた。
「……っ! 殿下! あ、あなたという人は!」
「ディアナこそ。何度言ったら分かってくれるんだ? それにこうして彼女にまで怪我を負わせるなんて……もう許されないよ」
「それはそこの無礼な女が──……!」
ディアナは空気が不味い方向に向かっている気がしたが後には引けなかった。
「残念だよ、ディアナ。素直に僕の話を聞いて頷いてくれていれば、こんな事にはならなかったのに」
「で、殿下……? こんな事……?」
殿下の様子がいつもと違う事にようやくディアナは気付いた。
「……ディアナ。ようやく父上の許可が降りたんだ。だから、今日を持って君と僕は────」
────────
────……
「婚約破棄は嫌ァァァァーー!」
(…………って、あれ??)
私は、自分で自分の叫び声で目を覚ました。
「お嬢様! 目を覚まされたんですか!?」
「え?」
そう言って私の顔を覗き込んでくる女性。一瞬誰だっけ? そう思ったもののすぐに自分付きのメイドだったと思い出す。
「ずっと魘されていて……心配しました」
「魘されていた?」
「はい……ずっと苦しそうで、その……殿下、と……何度も口にされていて」
「……え」
殿下って……婚約者でもある、私の大好きなフレデリック様の事、よね?
「それから、“ライラック”とも……あのお嬢様……“ライラック様”とは何処のご令嬢ですか?」
「え? ライラック?」
「……お嬢様の交友関係に“ライラック”……そういったお名前のお嬢様は居なかったと記憶しております」
「……それは……」
ライラックが誰かですって? そんなの私の方が知りたいわ。
でも、今見た夢……あれは。
今よりちょっと成長した姿と思われる私が、ライラックと呼ばれていた女性を突き飛ばしていたわ。そして、やっぱり今よりちょっと成長したと思われる姿の婚約者でもあるフレデリック様が現れて───……
───……ディアナ。ようやく父上の許可が降りたんだ。だから、今日を持って君と僕は────
「……うっ!」
……ズキンッ
そこまで考えたら私の頭が痛んだ。
それと同時に私の頭の中に何やら大量の記憶が流れ込んで来た。
(……!? な、何? 何なのこれは……!)
ライラック、フレデリック王子、ディアナ……そうよ、私、この人達知っているわ。
──ディアナ?
待って、ディアナって私の事よね?
ディアナ・クワドラント。クワドラント侯爵家の令嬢……この間10歳になったばかり。
そんな私はこの国の王子、フレデリック様の婚約者で……
(…………はっ!)
「どういう事よ! 私、悪役令嬢ディアナになってるじゃないのーー!」
「あくや……? お嬢様!? どうされました!?」
「~~~!」
ヒロイン、ライラック。
ヒーロー、フレデリック。
そして、悪役令嬢ディアナ……間違いない、あの夢の内容といい、これはあの小説だわ!
───どうやら、私は物語の世界の悪役令嬢として転生していたようだった。
59
あなたにおすすめの小説
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
公爵家の家政を10年回した私が出ていったら、3ヶ月で領地が破綻しました
歩人
ファンタジー
エレナは公爵家に嫁いで10年、夫は愛人に入れ込み、義母には「家政婦代わり」と
罵られた。だが領地の財務も、商会との交渉も、使用人の管理も、全部エレナが
やっていた。ある日、義母から「あなたの代わりなんていくらでもいる」と言われ、
エレナは静かに離縁届を出した。「では、代わりの方にお任せください」
辺境の町で小さな商会を開いたエレナ。10年間の実務経験は伊達ではなかった。
商会はたちまち繁盛する。一方、エレナがいなくなった公爵家は3ヶ月で経営破綻。
元夫が「戻ってこい」と泣きつくが——
「お断りです。あと、10年分の未払い給金を請求いたしますね」
記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
前世で私を捨てた皇太子が、今世ではなぜか執着してきます。でも私は静王妃なので『皇叔母様』と呼ばせます
由香
恋愛
沈薬は前世、皇太子の妃だった。
だが彼の寵愛は側室へ移り、沈薬は罪もなく冷宮へ送られ――孤独の中で死んだ。
そして目を覚ますと、賜婚宴の日に戻っていた。
二度目の人生。
沈薬は迷わず皇太子ではなく、皇帝の弟である静王を選ぶ。
ただしその夫は、戦で重傷を負い昏睡中だった。
「今世は静かに生きられればそれでいい」
そう思っていたのに――
奇跡的に目覚めた静王は、沈薬を誰よりも大切にしてくれた。
さらにある日。
皇太子が前世の記憶を思い出してしまう。
「沈薬は俺の妃だった」
だが沈薬は微笑んで言う。
「殿下、私は静王妃です」
今の関係は――
皇叔母様。
前世で捨てた女を取り戻そうとする皇太子。
それを静かに守る静王。
宮廷を揺るがす執着と溺愛の物語。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる