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35. 地獄への招待状 (ハインリヒ視点)
───どうしてこんなことになったんだ!
悪夢のような事実を知らされたパーティー。
ショックを受けて気絶していた僕は目を覚ましたら更なる悪夢が待っていた。
苦しい我が家の内情が暴露されて、ナターリエへの結婚強要も金目当てだと世間にバレてしまった両親は荒れた。
さらに、殿下に内部情報を売ったと思われる祖父が領地にさっさと逃げていたことにも両親は激怒。
祖父を追いかけていきたくても、事情聴取が待っている両親は王都を離れられず追いかけられない。
悔しそうに地団駄を踏んでいた。
そんな両親の怒りの矛先は僕へと向けられる。
『──ハインリヒ! お前……なんてことをしたんだ! この大馬鹿者!』
『ぐあっ……』
まず、最初に父親に殴られた。
パーティーで殿下に殴られた傷も癒えていないのに……
『無事にナターリエさんと結婚したら、あの男爵令嬢を愛人としてそばに置くことには目を瞑ると確かに言ったけど……どうして先に婚前交渉なんてしてしまったの!』
母親にも泣きつかれた。
『ノイラート侯爵令嬢にばっちり証拠を揃えられていた……あれでは勘違いや誤解ではないのかと言い訳したくても出来ん』
『デートしていただけだったなら、そこまで騒ぐことではないじゃない? と突っぱねることも出来たのに!!』
特に責められたのが婚前交渉の件だった。
ヴァネッサと使っていた宿は偽名を用いていたが筆跡まで鑑定されていたらしい。
───畜生! 泣きたいのはこっちなんだ!
人違いの……顔だけ女を大好きな姫だと思って抱いていたんだぞ!?
こんなのただの間抜けじゃないか!
しかもそのことを暴露もされて……
(姫を……僕は愛しの姫をようやく手に入れたはずだったのに!)
姫はナターリエだった……
こんなに近くにいたのに。
どうして運命はまた、僕と姫を引き裂くんだ!!
心の中で嘆きながら僕は前世を思い出す───
──────
───……
隣国が領土拡大……いや乗っ取りを目指してパルフェット王国に侵攻したことで、姫とテオバルトの結婚は延期になった。
(ははは、テオバルト……ざまぁみろ!!!!)
結婚の延期が決まり落ち込む姫をいたわる様な目で見ながらも僕、アルミンは心の底で笑っていた。
そして思った。
これはまだ、僕にも姫と結婚するチャンスがあるのではないか、と。
そう……例えば、この戦争でテオバルトがいなくなれば────……
憎くて憎いあいつがいなくなれば、きっと姫の目も覚めるだろう。
姫のことを本当に愛しているのはテオバルトなんかじゃない、僕なのだと!
そして、身分的にも僕が次の伴侶に選ばれるはずだ!
そうは思ってもなかなかことは上手くはいかないものだ。
そもそも姫の護衛騎士は姫を守ることこそが仕事だから、戦争には駆り出されていない。
なので戦争のどさくさでテオバルトに消えてもらうことは難しかった。
しかし、戦局は悪化するばかり……
このままでは、姫の護衛にも出陣の命令が出される可能性が出て来た。
それは、テオバルトだけでなく自分にも言えることだった。
そんなある日───
(ん? あれはコルネリア?)
街を巡回していたら、姫の従姉妹の公爵令嬢でもある侍女のコルネリアが見知らぬ男と密会している場をたまたま見かけてしまう。
姫の侍女は数人いるが、コルネリアは僕によく話しかけてくるので接点は多い。
そんなコルネリアだが……
なんだか、コソコソしていて怪しい。恋人との密会にしては変だ。
直感でそう思った。
僕は隠れて様子を窺った。
『あ……言う通りにすれば…………本当にヘンリエッテ…………』
『……を…………だ……』
(? 今、姫の名が……)
コルネリアと見知らぬ男の会話から愛しい姫の名前が聞こえてきた。
そのことに気を取られてしまっていた僕は自分の足元が疎かになっており派手に物音を立ててしまう。
勢いよくこちらを振り返る謎の男とコルネリア。
僕の姿を認めたコルネリアの顔色が一瞬で悪くなった。
『え? なんで、アルミン様!? どうしてここに?』
『あ、うん。街の巡回でたまたま……それより君はいったいここで何を? こちらの人は?』
僕が何をしていたのか? と問うと、コルネリアはモジモジしながら言いにくそうにしている。
やはり怪しいな。
そう思ってさらに深く追求するとコルネリアはようやく答えてくれた。
『え、えっと、実はわたし───』
────
「───ハインリヒ!」
「うわっ!?」
突然、部屋の扉がバーンッと空いたのでびっくりした。
前世に思いを馳せていたら父上が勢いよく僕の部屋に乗り込んで来た。
手には何かを握っている。手紙、だろうか?
「いたか、ハインリヒ」
「父上……」
(顔を見るのは何日ぶりだろうか……? 殴られて以来、か?)
父親は連日、王宮で事情聴取を受け、ノイラート侯爵家に赴いては慰謝料請求に関する話し合いととにかく忙しそうだった。
もう、家族はまともに顔を合わせていない。
母親は部屋から出てこない。ずっとずっと引きこもって部屋で泣いている。
僕も僕ですることがなくなり、今は屋敷でぼんやりしながら過ごしている。
「……リヒャルト殿下から手紙だ」
「殿下から?」
(憎きテオバルトじゃないか!)
僕が眉をひそめると父上は持っていた手紙を僕に向かって放り投げた。
「ここにも書いてあるそうだが、殿下はお前とあの女……男爵令嬢と話がしたいそうだ」
「え?」
「絶対に来いとの仰せだ───それから、ノイラート侯爵令嬢も来るらしい」
「姫が?」
僕の口から“姫”という言葉が出た瞬間、父上が眉をしかめた気がしたがそんなの気にしない。
僕の頭の中は、姫……ナターリエに会えることでいっぱいだった。
「……いいか、ハインリヒ! これ以上ノイラート侯爵令嬢を怒らせるな!」
「……」
「絶対だからな! 我が家の破滅を防ぐためにもくれぐれも機嫌を損ねるなよ!?」
「……」
父親が何やら喚いているが全く耳に入ってこない。
僕の気持ちは姫に……会える? ということでいっぱいだったから。
「だが、誠心誠意謝って反省の意を見せればもしかしたら──おい、聞いているのか? ハインリヒ!」
「……」
僕は父上の話をそっちのけで、放り投げられた手紙を拾って開封する。
すると、そこには日時が記されており、その日、必ず王宮に来るようにと書かれていた。
(なぜ、ヴァネッサまで呼ぶ必要がある?)
あんな僕を騙した女と結婚なんて絶対にごめんだ。
責任? そんなの知るか。
あの女が正体はコルネリアだったくせに姫だと名乗ったことがそもそも悪いんだからな!
それよりも、だ。
(どうにかもう一度、ナターリエを僕の婚約者に出来ないだろうか……?)
リヒャルト殿下はおそらく姫の生まれ変わりのナターリエのことを今世も狙っているだろう。
だが、まだパーティーから数日しか経っていない。
しかも、婚約破棄経験のある令嬢を婚約者に望むなんてきっと周囲に反対されるに決まっている。
だから、ナターリエに求婚したくてもまだ出来ないでいるはずだ!
まだ間に合う!
だから、その隙にどうにかナターリエを……姫を今度こそ僕のものにするんだ!
───そう意気込んでいた僕は知らない。
パーティーの夜、殿下が愛の告白をしていてナターリエがそれを受け入れたことも。
反対など起きず、とっくに水面下で殿下とナターリエの婚約の話が進んでいることも。
そして、この呼び出しが僕にとっての地獄への招待状であることも────
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