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私にはずっとずっと後悔していた事がある。
あの時、もっと私に勇気があったなら。
意気地無しなんかじゃ無かったなら。
そうしたら、違う未来が待っていたかもって。
───だから、私は決めた。
未来を変えようって。あなたを……助けようって。
─────……
先日、社交界に大きな衝撃が起きた。
婚約者は疎か恋人もおらず、玉の輿を狙う独身令嬢達が我こそは! と虎視眈々と妻の座を狙っていたジョシュア・ハワード公爵令息が突然、結婚をした。
それを知った多くの令嬢が泣き崩れたという。
いったいどこのどんな完璧令嬢が彼の心を射止めたと言うのか? 周囲はその相手に興味津々だった。
そうしてお披露目されたそのお相手は、ユイフェ・カルロナ伯爵令嬢。
(え? 嘘でしょう!?)
身分も容姿も特に秀でた所の無い伯爵家の令嬢が何故?
と、多くの人々が疑問に思った。
──そうか! これは、典型的な政略結婚に違いない!
二人の結婚を認めたくなかった人々はそう考えた。
ジョシュア・ハワード公爵令息は妻の座を狙う令嬢達に追いかけられて“女性嫌い”なんて噂もある男。
それならば、この度、彼の妻となったユイフェ・カルロナ伯爵令嬢は、さぞかし冷遇されているに違いない、と。
そう結論づけた二人の結婚を大いに悔しがっていた令嬢達は「なーんだ」「そうよね~」「惨めね」とほくそ笑んでいた。
そして今日。王家主催のダンスパーティーに噂の二人が出席すると言う。
“どれだけ夫に冷遇されているのか見てやろう”
“わたくし達のジョシュア様を奪った女を嘲笑ってやりますわ!”
そんな底意地の悪い考えの人達がたくさん集まり、噂の二人の登場を今か今かと待ち構えていた。
しかし、会場に現れた二人の様子に人々は再び大きな衝撃を受ける事になった。
「ジョシュア様、まだ怒っていますの?」
「……」
何故か不機嫌な様子で会場に入ってくるジョシュア・ハワード公爵令息の様子に、会場中の誰もが「これは、やはり!」と色めき立つ。
やはり、この夫妻は無理やり結ばれた政略結婚で、不仲に違いな───
「だって、丁度良いのがこのドレスしか無かったんですもの」
「分かっている! 分かっているが……」
──んん? 何の話だろう? と二人の様子を窺っていた人達は思う。
「そのドレスでは君の魅力が台無しじゃないか! 僕の贈ったネックレスも合わせられなかったし! やっぱりユイフェには、もっとこう……」
そう怒鳴りながら、ユイフェにはこんな形のこんな色のドレスが良いのでは?
と饒舌に語り出した夫、ジョシュア。
そんな謎の力説を開始した夫に向かって妻のユイフェは朗らかに笑って言った。
「もう、ジョシュア様ったら。ずっとその話ばかり」
「本当の事さ。だが、仕方が無い。次は僕が君に似合う最高のドレスを贈ろう!」
「ふふ、ありがとうございます。楽しみにしていますね」
──あれ??
不機嫌だったのは妻のドレスが似合……あれれ?
愛されない妻を馬鹿にしてたくさん笑ってやろうとしていた人達は皆揃って首を傾げる。
この辺りから“あれ? おかしいぞ?”という空気になりつつはあった。
これはどういう事だろう? そう思ったジョシュアの友人達は彼を呼び出す事にした。
すると──……
「ユイフェ……すまない友人達がしつこくて煩いのでちょっと行ってくるよ。はぁ……本当はこんな所に君を一人にしておきたくは無いのだけど」
「ふふ、ジョシュア様。大丈夫です。行ってきてくださいませ。私はここでお待ちしていますから」
「あぁ、なるべく早く戻るよ、ユイフェ」
ジョシュアはそう言うなり、ユイフェを軽く抱き寄せると、
──チュッ!
と、ユイフェの額に口付けを落とした。
きゃぁぁぁという令嬢達の悲鳴があがる。
「──ジョシュア様!? こ、こんな所で!!」
「ははは、すまない。あまりにもユイフェが可愛くてね、つい。我慢出来なかった」
……ナデナデ
真っ赤になったユイフェをあやす様に頭を撫でるジョシュア。
この時点で一人、二人と令嬢達が今度は「いやぁぁぁぁ」「ナデナデなんてしないでぇぇ」と、悲鳴をあげて倒れ始める。
「ジョシュア様! み、皆様が見ています!」
「んー……そうだね。でも、僕としては可愛い可愛いユイフェに虫がつくと困るからなぁ。牽制は必要だと思うんだよ」
そう言ってジョシュアは鋭い目付きで会場内を見渡す。
その目は明らかに“妻に手を出すな”と言っていた。
「ですから! も、もう! 大袈裟ですよ」
「うーん、僕の可愛い妻は自分の事を分かっていないなぁ。これならそのドレスで良かったかもしれないな、うん」
「ジョシュア様……」
唖然とする周囲を気にする様子もなく、そんな会話を繰り広げる夫妻。
どこからどう見ても仲が良く、なんなら夫の方が妻を溺愛しているといっても良いその光景に多くの人々が衝撃を受けた。
……しかし、実は誰も知らない。
「信じられないわ……」「ジョシュア様が……!」と、多くの泣き崩れる令嬢達の中で、ジョシュアのこの様子に本当に驚きパニックを起こしていたのは……
他でもない、妻のユイフェ自身だった事を。
(───ちょっとジョシュア!? あなた、さっきから何を言い出しているの!?)
内心ダラダラした汗をかきながらユイフェは思う。
(そんな“妻を溺愛する演技”なんて求めた覚えも契約した覚えもないわよ!? あの口付けなんだったのーー!?)
……と。
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