10 / 28
10.
しおりを挟む「どうして王女殿下が私に……?」
「分からない。でも、ハワード公爵家の事だから王家としても放っては置けないんだろうとは思う」
(あ、そうよね。ハワード公爵家は筆頭公爵家だった)
そんな公爵家の次期当主の(一応)嫁になったのだからお呼ばれするのも仕方ない事ではあるのだと納得はした。
でも……
「どうしましょう。粗相してしまう未来しか見えないわ」
「……」
何故かジョシュアが黙り込む。
「ねぇ、ジョシュア。そこは“そんな事は無い。ユイフェなら大丈夫”とか言ってくれる所では無いの?」
「……」
それでもジョシュアは無言だった。否定も肯定もしない。
変な所では甘い言葉を吐きまくるのに、こういう所は甘くないなんて酷すぎる!
(ジョシュアのバカ!)
心の中だけで睨んでおいた。
(それにしても……王女殿下とは、前回の人生を通しても全然面識無いのよね)
王族なんて平凡伯爵令嬢がおいそれとお会い出来る方では無い。
王女殿下の誕生日パーティーの時もさっさと帰ってしまったので、申し訳ない事にまともに顔すらも見ていない。
「はっ! まさかジョシュアがさっさと誕生日パーティーからいなくなった事を怒って私を呼び出し……」
「待って、ユイフェ。すごい飛躍したけど、それは無いよ。僕の方から謝罪はしてある」
「そ、そう……」
ではやっぱり分からない。何故、私を?
本当にただ、次期ハワード公爵夫人を見たかっただけ? それとも別の思惑が……?
(私は公爵夫人にはならないのに……)
そんな気持ちを抱えながら首を傾げつつ招待を受ける事になった。
*****
そして、あっという間にお茶会の日。
「ジョシュア、行ってきます」
「うん、気をつけて」
ジョシュアが仕事を中断してわざわざ見送りに出て来てくれた。
そんな彼はちょっと心配そうな様子で私を見つめる。
「殿下も徹底している。手紙にわざわざ“女性同士で語らえるのを楽しみにしています”って書くなんてさ。つまり男の僕には絶対に来るなって事だろう?」
「そうね……」
(私としてはそのフレーズが怖くて仕方ないのだけど)
つまり、本日集まるのは令嬢のみ!
これは、アレかしら?
お茶会に行ったらジョシュアを狙っていた令嬢達がわんさかいて、私、袋叩きにされるのでは……? なんて密かに思っていたりする。
「ユイフェ」
「?」
フニッ!
「な、なにふうほ?」
「我が家はちょっとやそっとの事でやられる程、弱い家では無いからね」
「ひょ、ひょひゅあ?」
フニフニ……
「だから無理して次期公爵夫人らしく振舞おうとしなくても大丈夫」
「……」
(つまり、背伸びなんかせずに私らしくでいい……そう言ってくれている?)
「ユイフェが可愛い失敗をやらかしても大丈夫という事だ」
(何かやらかす事を前提に話をされているのも気になる所だけど……でも心強い……かな)
「……分かったわ、ありがとう。行ってきます!」
「あぁ、ユイフェ、忘れ物だよ」
「?」
ジョシュアはそう言ってグイッと私の腰を抱き寄せるとそのまま私の額に、
チュッ!
と、口付けを落とした。
「~~!! ジョシュア!! あなたって人は、もう!!」
「ははは。行ってらっしゃい、ユイフェ」
(本当に、油断も隙もない!)
そんなドタバタ状態の中、私はジョシュアに見守られながら王宮に出発した。
王宮で、何が待っているのか。
そして、私を見送っているジョシュアが、意味深な表情をしていた事に気付かないまま。
────
「ライラック王女殿下、初めまして。ユイフェ・ハワードと申します」
「初めまして、次期ハワード公爵夫人。会えて嬉しいわ」
王女殿下は私より三つ下だと聞いている。
眩いくらいの輝く金髪と王家特有の空色の瞳。醸し出す雰囲気や風格といい年下には全く思えない。
「突然の呼び出しで驚いたでしょう?」
「いえ。殿下のお茶会に呼ばれる事は大変光栄な事ですから」
「まぁ、ふふ、お上手ね。さぁ、どうぞ座って」
そう言われて私は席へと案内される。
席に着いてから私は内心であれ……? と思った。
(他の令嬢がいないわ)
まだ来ていない?
まさか、王女殿下と二人きりのお茶会なの? それはそれで緊張する。
とりあえず、袋叩き……はさすがに考えすぎだったかしら?
なんて思った時、
「遅くなってすみませんですわ」
ノックと共にそんな声をあげながら令嬢が部屋に入って来た。
(……っ! この声……!)
私は扉の入口に背を向けていたからその人の顔は見えない。
でも、この現れた人が誰なのかはすぐに分かった。
(だって、私がこの声を聞き間違えるはずがない)
───ユイフェ? ふふ、見つけたわ。貴女が“ユイフェ”なのね?
───私ね、ずっとずっとずーっと“ユイフェ”が目障りだったの。だからー……
彼女は、かつての……前の人生の私にそう言って微笑みながら近づいて来て───
「ローゼ、遅いわよ? あなたが今日のこの場を私にお願いしたのよ?」
「えぇ、そうね。ごめんなさい、ライラ。ようやくユイフェ様に会えると思ったら、つい……ふふふ」
(────え?)
今、なんて言った?
王女殿下にお願いした……そう言った?
今、この場に現れたのは、ジョシュアの従妹、ローゼ・マインダル侯爵令嬢。
私が最も会いたくないと思っている人で、先月、私宛てに嫌味たっぷりの手紙を送って来た令嬢。
(出来れば、顔も合わせたくないし話もしたくないのだけど)
だからと言ってこのまま無視するわけにはいかない。
私は椅子から立ち上がるとローゼ様に向き合い挨拶をする。
「初めまして。ユイフェ・ハワードです」
「……ふふ、初めまして~、ユイフェ様。会えて光栄ですわ。私は──」
「存じておりますわ。ローゼ・マインダル侯爵令嬢」
「あぁ、まぁ、ふふふ。私の事を知ってくれていたんですね? ふふ、嬉しいです!」
「……」
私の返事に笑顔を見せるローゼ様。
「あ、お手紙読んでくれましたか? 私、あれから何度も何度も貴女に会いにハワード公爵家を訪ねたのです」
「え?」
それは初めて聞いた。
「何故か毎回、ジョシュアお従兄様も、妻であるユイフェ様も今は不在だからと追い払われてしまったんですけどね~ふふ」
「!」
「だから私、すごくすご~く貴女に会いたかったんですよ、ユイフェ様」
「……」
ローゼ様はにっこり笑ってそう言ったけれど、その目の奥は全く笑っていなかった。
118
あなたにおすすめの小説
妹の方が好きらしい旦那様の前からは、家出してあげることにしました
睡蓮
恋愛
クレアとの婚約関係を結んでいたリビドー男爵は、あるきっかけからクレアの妹であるレイアの方に気持ちを切り替えてしまう。その過程で、男爵は「クレアがいなくなってくれればいいのに」とつぶやいてしまう。その言葉はクレア本人の耳に入っており、彼女はその言葉のままに家出をしてしまう。これで自分の思い通りになると喜んでいた男爵だったのだが…。
【完結】傲慢にも程がある~淑女は愛と誇りを賭けて勘違い夫に復讐する~
Ao
恋愛
由緒ある伯爵家の令嬢エレノアは、愛する夫アルベールと結婚して三年。幸せな日々を送る彼女だったが、ある日、夫に長年の愛人セシルがいることを知ってしまう。
さらに、アルベールは自身が伯爵位を継いだことで傲慢になり、愛人を邸宅に迎え入れ、エレノアの部屋を与える暴挙に出る。
挙句の果てに、エレノアには「お飾り」として伯爵家の実務をこなさせ、愛人のセシルを実質の伯爵夫人として扱おうとする始末。
深い悲しみと激しい屈辱に震えるエレノアだが、淑女としての誇りが彼女を立ち上がらせる。
彼女は社交界での人脈と、持ち前の知略を駆使し、アルベールとセシルを追い詰める貴族らしい復讐を誓うのであった。
【完結】六歳下の幼馴染に溺れた夫。白い結婚を理由に離縁を申し立てたら、義弟(溺愛)に全力で求婚されました
恋せよ恋
恋愛
夫が愛でるのは、守ってあげたくなるような「可憐な少女」。
夫が疎むのは、正論で自分を追い詰める「完璧な妻」。
「シンシア、君はしっかりしているから、大丈夫だろう?」
六歳年下の幼馴染ジェニファー子爵令嬢を気遣う貴方。
私たちは、新婚初夜さえ済ませていないのよ?
完璧な家政、完璧な社交。私が支えてきたこの家から、
ニコラス、貴方って私がいなくなったらどうなるか……。
考えたこともないのかしら?
義弟シモンは、学生時代の先輩でもあるシンシアを慕い
兄ニコラスの態度と、幼馴染ジェニファーを嫌悪する。
泣いて縋るあざとい少女と、救世主気取りの愚かな夫。
そして、義姉であるシンシアを慕うシモン。
これは、誇り高き伯爵夫人、シンシアの物語である。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
【本編完結】笑顔で離縁してください 〜貴方に恋をしてました〜
桜夜
恋愛
「旦那様、私と離縁してください!」
私は今までに見せたことがないような笑顔で旦那様に離縁を申し出た……。
私はアルメニア王国の第三王女でした。私には二人のお姉様がいます。一番目のエリーお姉様は頭脳明晰でお優しく、何をするにも完璧なお姉様でした。二番目のウルルお姉様はとても美しく皆の憧れの的で、ご結婚をされた今では社交界の女性達をまとめております。では三番目の私は……。
王族では国が豊かになると噂される瞳の色を持った平凡な女でした…
そんな私の旦那様は騎士団長をしており女性からも人気のある公爵家の三男の方でした……。
平凡な私が彼の方の隣にいてもいいのでしょうか?
なので離縁させていただけませんか?
旦那様も離縁した方が嬉しいですよね?だって……。
*小説家になろう、カクヨムにも投稿しています
婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです
鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。
理由は――
「王太子妃には華が必要だから」。
新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。
誰もが思った。
傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。
けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。
「戻りません」
彼女は怒らない。
争わない。
復讐もしない。
ただ――王家を支えるのをやめただけ。
流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。
さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。
強いざまあとは、叫ぶことではない。
自らの選択で、自らの立場を削らせること。
そして彼女は最後まで戻らない。
支えない。
奪わない。
――選ばれなかったのではない。
彼女が、選ばなかったのだ。
これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。
今さら遅いと言われる側になったのは、あなたです
有賀冬馬
恋愛
夜会で婚約破棄された私は、すべてを失った――はずだった。
けれど、人生は思いもよらない方向へ転がる。
助けた騎士は、王の右腕。
見下されてきた私の中にある価値を、彼だけが見抜いた。
王城で評価され、居場所を得ていく私。
その頃、私を捨てた元婚約者は、転落の一途をたどる。
「間違いだった」と言われても、もう心は揺れない。
選ばれるのを待つ時代は、終わった。
愛人の生活費も、お願いします 〜ATM様、本日もよろしくてよ〜【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
政略結婚で結ばれた王子ザコットと、氷のように美しい公爵令嬢ビアンカ。だが、ザコットにはすでに愛する男爵令嬢エイミーがいた。
結婚初夜、彼はビアンカに冷酷な宣言を突きつける。
「お前を愛することはない。俺には愛する人がいる。このエイミーだ」
だが、ビアンカは静かに微笑み、こう返す。
「では、私の愛人の生活費も、お願いします」
──始まったのは、王子と王子妃の熾烈な政略バトル。
愛人を連れて食卓に現れるビアンカ。次々と辞表を出す重臣たち、そしてエイミーの暴走と破滅……。
果たして、王子ザコットの運命やいかに!?
氷の王子妃と炎の愛人が織りなす、痛快逆転宮廷劇!
⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。 コメディーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる