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最終話 指輪を拾った花嫁の幸せ
しおりを挟む「……ヴィンセント、様」
「うん?」
「な、長いです……」
どんどん気持ちが盛り上がってしまったらしいヴィンセント様により、優しく触れて始まっていたはずのキスは、何故か段々激しいものに……
「この間、パトリシアに邪魔された分もある……」
「え? あ……んっ!」
ヴィンセント様からのキス攻撃は、街に着いて馬車が止まるまで終わらなかった。
「アイリーンの顔が赤いね?」
「だ、誰のせいだと思っているのですかっ!!」
「僕?」
ヴィンセント様が笑いながら答える。
本当にこの人は!!
「だって、本当に嬉しいんだ」
「ヴィンセント様……」
そう言いながらヴィンセント様が私の手を取り握る。
そのまま手を繋いで私達は歩き出す。
「ダニエルにも言ったけど、あの日アイリーンと婚約破棄してくれて……良かった。アイリーンにとっては辛い日だったと思うけど」
「……でも、ヴィンセント様と出会えましたし、婚約破棄されたから花嫁に選ばれる事も出来ました」
「うん……」
ヴィンセント様が握る手に力が入ったのが分かる。
……指輪の不思議の一つとして、選ばれる花嫁の絶対条件として“婚約者がいない”と言うのは大前提らしい。
(人様の幸せを壊して選ばれても幸せにはなれないものね)
「ヴィンセント様……もしかしてなんですけど」
「どうかした?」
「ダニエル様と婚約破棄した後、私、びっくりするくらい縁談の話が流れていったのですが……」
まとも求婚者はいなかった。
こちらから、打診しても逃げられた。
全部、婚約破棄騒動の余波だと思っていたけれど──……
「指輪が何かしていたり…………しませんよね?」
「…………」
ヴィンセント様はそのまま黙り込んでしまった。
否定出来ない何かを感じ取っているのかもしれない。
「……もし、その頃からアイリーンが指輪に選ばれていたとしたら……有り得るのかも……しれない」
「……」
「ごめん……」
──やっぱり、恐ろしい指輪だわ!
「あぁ、それからダニエルだけど」
「は、はい。処分は決まったのですか?」
そう言えばパトリシア様はわざわざ、自分で処分の結果を伝えに来たけれどダニエル様の事はまだ聞いていなかった。
「うん……まぁ、アイリーンも想像していると思うけど、ダニエルはもちろん廃嫡」
「ですよね……」
私との婚約破棄騒動の後だって謹慎とは言え、カーミューン侯爵は処分を与えていた。
謹慎明けてすぐのこの騒動。
軽い処分で済むはずが無いと思っていた。
「そのまま平民だってさ。嫌だな……街に来た時に会いたくないんだけど」
「……私も嫌です」
まぁ、その前に平民としてちゃんと生きていけるのかは知らないけれど。
だけど一切同情はしない。
「後はあの女の処分が決まれば、この騒動も終わり、かな」
「そうですね」
「……さぁ! 湿っぽい話はここまでにして、この後は楽しもう! どこのお店に行く? 先に食事にしようか?」
ヴィンセント様が気持ちを切り替えるように明るい声を出したので、私も微笑んで答えた。
「私、甘いスイーツが食べたいです!」
「よし、行こう!」
二人で手を繋いだまま、二度目のデートを堪能した。
ちなみに、雑貨屋でまたしても私の好みピッタリの物を見繕ってくれたので「どうして分かるのですか?」と聞いたら……
真っ赤な顔をして「少しでもアイリーンの事を知りたくて調べた……」という言葉が返って来た。
──真っ赤になってそう口にするヴィンセント様は可愛かったけれど、それって、前世風に言えばストー……
それ以上、考えるのはやめた。
私の未来の旦那様はいつだって愛情に溢れている。
そして、その後ステラの処分も正式に決まった。
やはり彼女は平民という立場ながら貴族相手に行った無礼な振る舞いが目に余ったという事で、犯罪者として現代で言う所の刑務所へ。
無期懲役では無いそうなので、出れるかどうかは今後の反省しだいだそう……
*****
そして。
あのバタバタの騒動の日から時が経ち……
ヴィンセント様の花嫁となる日がやって来た。
「アイリーン」
「お、お父様!?」
結婚式はこれからだと言うのにお父様が既に大泣きしている!
「アイリーンが、とうとう嫁に……アディルティス侯爵家の嫁に……」
「お、お父様……」
「ヴィンセント殿はこっちが引くくらいお前を愛してくれているのは分かっているが……うぅ……」
えっと? 引くくらいってどういう事かしら?
「侯爵家に通っている間も話は聞いていたぞ! 隙あらばイチャイチャしていたと!」
「え!」
あれはいつも、二人っきりになるとヴィンセント様がなかなか離してくれなくて……
……イチャイチャ。そうね、イチャイチャになるのかも……
「今夜のお前が心配だ……」
「お父様? 何か言いました?」
「……何でもない」
お父様とそんな話をしていたら、扉のノックと共にヴィンセント様が部屋にやって来た。
「……アイリーン! 僕の花嫁!」
興奮したヴィンセント様がいつものように抱き締めて来ようとするけれど、私は慌てて止める。
「ヴィンセント様ーー! 落ち着いて下さい!! ドレスが、お化粧が!」
「あ……」
抱き締める寸前で思いとどまってくれた。良かったわ……
「アイリーン」
「ヴィンセント様?」
優しく私の名前を呼んだヴィンセント様の目が潤んでいる。
「ありがとう……そして、これからもよろしく」
「ふふ、こちらこそ……あなたの花嫁になれる私はとても幸せです」
何だか指輪が疼いている気がする。
「たまたま、指輪を拾っただけなのに」
「……それが運命だったんだよ? アイリーン」
「そうですね」
私達はそう言いながら笑い合った。
「行こう、僕の花嫁」
「えぇ、旦那様」
ヴィンセント様の差し出した手に自分の手を重ね、式場へと向かう。
「そう言えば、役目を終えた指輪はどうなるのですか?」
何をしても外れなかった指輪は正式な婚姻を持って私の手から離れるらしい。
寂しくなる、と言った私の為にヴィンセント様は新たな指輪を用意してくれた。
(不思議な力の無いただの指輪……)
私のワガママでそれをペアリングにしてもらい、この後の結婚式で交換する事になっている。
──そう。現代の結婚式のように。
この世界にそんな習慣は無かったようなので驚かれたけれどヴィンセント様は快く受け入れてくれた。
「また、次代の花嫁……花婿の場合もあるのかな? を選ぶ時までは大事に仕舞われる」
「次代……」
なるほどなぁ、と感心していたらヴィンセント様が耳元でそっと囁く。
「……次代。僕らの子供だよ? アイリーン」
「!!」
その言葉に私が赤くなるとヴィンセント様が可笑しそうに笑った。
「可愛いな、アイリーン」
「~~っ」
「今夜は眠れなくても許してね?」
「ヴィンセント様!!」
「ははは」
私が真っ赤な声で叫ぶと、ヴィンセント様が軽くチュッと唇にキスをした。
「愛してるよ、アイリーン」
「ち、誓いの言葉とキスは、こ、この後ですよ!」
「どこでだって何度だって誓うよ、君に。僕の最愛の人──」
後ろを着いてきていたお父様が、お砂糖を吐きそうな顔をしてこちらを見ている事にも気付かず、式の前からイチャイチャしていた私達は、開始時刻に遅れるという失態をおかしながらも無事に結婚式は執り行われた───
「アイリーン? 新しい指輪はそんなに気に入った?」
結婚式の日の夜、新たな指輪がはまった左手をずーと眺めていたら、ヴィンセント様がちょっと不貞腐れた声を出した。
「はい! 何よりヴィンセント様とお揃いと言うのが嬉しいのです!」
「アイリーン……」
ヴィンセント様がそっと私の肩を抱いて引き寄せる。
「ペアで指輪かぁ……何か流行りそうだね」
「え!」
「アディルティス侯爵家の花嫁は注目度が高いからね。アイリーンの真似をしたがる人も出てくるのでは?」
まさか、自分がブームの最先端になる時がやって来るとは……
「まぁ、今は指輪より何より……僕を見て?」
「へ?」
と、驚いている暇もないまま、ベッドに押し倒された。
「ちょっ……ヴィンセント様!?」
ヴィンセント様の顔が笑いながら近付いてくる。
「愛してるよ、アイリーン」
「……もう!」
そうして優しいキスが降ってくる。
あの日、たまたま拾った指輪は私の運命をひっくり返してしまうような指輪だった。
不思議な指輪に導かれてヒロインを押しのけて花嫁に選ばれた私のこれからの未来は、絶対に幸せが待っている。
だって、アディルティス侯爵家の指輪に導かれた花嫁は決して不幸にはならないのだから───
~完~
✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼
ここまで、お読み下さりありがとうございました!
これで完結です。
今回は今までと違って1日2話で更新をしてみましたが……あれですね。
ストック全く無いのにやるもんじゃないですね。大変でした。
何であれ、最後まで更新する事が出来てホッとしています。
いつもの事ですが、
たくさんのお気に入り登録と感想と……本当にありがとうございました。
感想は本当に更新を続ける中での励みとなりました。ありがとうございます。
とにかく、最後のこのページまでお付き合いいただけた方に心よりの感謝を申し上げます。
アイリーンとヴィンセントを最後まで応援いただき本当にありがとうございました。
いつものように、新作も始めております。
『そんなに嫌いなら婚約破棄して下さい! と口にした後、婚約者が記憶喪失になりまして』
予め断っておきますが、婚約者にざまぁする話ではありません。
それでも良ければですが、またお付き合いいただけると嬉しいです。
気付けば投稿開始してからもうすぐ1年になり、そしてどうやら新しい話が20作目になるようです。早いですね。
どの話も思っていた以上に多くの方に読んでもらえた事が嬉しくて、ここまで続けて来れました。
本当にありがとうございます。(⋆ᵕᴗᵕ⋆).+
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あまりお待たせせずにすんで良かったです(*ˊᵕˋ*)
楽しんで貰えたなら良かったです!
引き続きこれからも楽しんで貰えるお話をお届け出来るよう頑張ります!
最後までお読み下さりありがとうございました~(*・ω・)*_ _)ペコリ