【完結】ついでに婚約破棄される事がお役目のモブ令嬢に転生したはずでしたのに ~あなたなんて要りません!~

Rohdea

文字の大きさ
15 / 43

第14話 メインヒーローとヒロイン

しおりを挟む

  
  グレイソン殿下は、私を外に連れ出す口実にセグラー公爵家の使用人のフリをしてくれているので、だいぶ印象が違うはず。

  (それなのにまさか、こんなにもあっさりと……!)

  ヒロインと攻略対象者は特別な絆でもあるのかしら。
  ……特にルートに乗っていた(と思われる)殿下とはより深い絆が……

  (嫌だわ……)

  またしても黒くてモヤモヤした気持ちが私の中で湧き上がってくる。
  ……ジョバンニ様はよく私に言っていた。
  彼の軽はずみな行動に対して、私が苦言を呈する度に素直になれない照れ隠しの“ヤキモチ”だなと。

  (違う!  あんなのヤキモチとは違うわ)
 
  本当のヤキモチというのは───きっと今のこういう気持ちだ。

「ふふ、私の目を誤魔化せるとでも思ったんですか~?」

  クスクス笑いながら、ヒロインが一歩、一歩と殿下に近づいて行く。
  そんなヒロインに対して殿下は言葉を返すこともなく、ただじっと見ている。
  そこにどんな感情があるのかは……よく分からない。

「殿下ったら酷いです~、あれから全く連絡くれないですし……それに、パーティーの時だってぇ私があんな目に……」
「───アビゲイルや私達にはもう関わらない。そう誓ったのを忘れたのか?」
「……え?」
「修道院に行きたくないと、君が我々の前で泣いて懇願したから、そう誓わせてしばらくの間は様子を見る事になったはずだが?」
「っっ!」

  殿下の冷たい声にヒロインの肩が揺れた。
  そして俯くと、か弱そうな声を出しながら言った。
  
「そんな言い方……冷たいです……」
「……」
「パーティーの前はいつだってあんなにも優しく話を聞いてくれたじゃないですか……」

  ヒロインはそこまで言うと再び、目をうるうるさせてグレイソン殿下をそっと見上げた。

  (───すごい……)

  顔を上げるタイミング、目の潤ませ方、見上げる角度、仕草……どれをとっても完璧。
  庇護欲がそそられ守ってあげたい女の子ヒロイン……のお手本のようだわ!
  超絶可愛い子にこんな顔をされたらコロッといかない男性なんていな───……

「当然だろう?  私は君たちの企みを知りたかっただけなのだから話くらいは聞く。むしろ話してもらわなくてはならなかった」
「…………は?」
「だが、優しくしたつもりはなかったが?」
「……え?」

  (───ん?)

  殿下が冷たい声のトーンのまま、表情も変えずに返したその言葉にヒロインの作ったうるうる目の可愛い顔が大きく歪んだ。
  でも、さすがヒロイン。すぐに持ち直してきゃはっ☆とした笑顔を見せる。

「…………コホッ……やだぁ、もう殿下ったら。私、耳がおかしくなってしまったかも~」 
「……?  どうもこうも……今、言った通りなのだが」 
「ぐっ!」

  ヒロインは頑張って笑顔を取り戻したけれど、すげなく返されてまた撃沈していた。

「殿下は……私がアビゲイル様に虐められているんです、って言ったらいつでも話を聞くよって」
「それは聞くのが当たり前だろう?  自分の婚約者についての話なのだから」

  (まぁ、それは……そう、ね)

「それは私の事を心配して……」
「……何故だ?  私が君の心配をする必要がどこにある?  そもそも君はアビゲイルが~と、私の元へと報告に来る時、いつも笑顔で元気いっぱいだったじゃないか」
「え……」
「昨日、アビゲイル様に〇〇されたんですぅ~と報告されても、怪我もないし今日も笑顔で元気だなという感想しかなかったが?」
「は……?」

  ヒロインの笑顔がピシッと凍りつく。

  (ヒロイン……それって殿下に好かれようと笑顔振り撒きすぎて失敗したのでは……?)

「え?  でも、私、泣きながら殿下に報告した事もあったはずです……」
「……涙?  あぁ、確かにあったな。あれには感心した」
「かっ!  感心……です、か?  心配ではなく!?」

  思っていたのと違う返答にギョッと驚いて聞き返すヒロインに、殿下はその時の事を思い出したのかうんうんと頷く。

「私は立場上、これまで数々の“嘘泣き”に出会って来たが……悲しくも何ともないのに、あそこまで涙だけを綺麗に流せるものなのか……と驚いたものだ」
「……!?」
「あまりにも演技の技術が凄くて思わず凝視してしまった」
「そ、それって…………泣いている私の事を温かく見守っていてくれていた……のでは……?」
「見守る……?  何の話だ?」
   
  えーー、グレイソン殿下、真面目に首を傾げているわ。
  ヒロインも焦りだした。

「で、では、私の心配をしてくださった事は……?」
「だから、一度も無いが?  私は、君の心配を一度だってした覚えは無い」
「いちっどもっ!?」

  ───一度だって心配した覚えは無い。

  その言葉はヒロインにとって大きなショックだったらしい。
  変な声を上げたと思ったら、あんなに可愛かった顔がどんどん崩れていく。

「では、わ、私があんなに大勢の前で恥をかかされたのは……」
「……良からぬ事を企んだのだから、自業自得だろう?」
「じ……!」
「当然の報いだ」

  (何これ……)

  私は呆然としながら二人の会話を聞いていた。
  グレイソン殿下とヒロインの間から乙女ゲームの甘さを全く感じないんだけど!?
  これは……

「それよりも、どうして君が図書館こんなところにいる?」
「……ど、どういう意味ですか?  わ、私がどこに居たとしてもそれは私の勝手で……」

  殿下の冷ややかな視線と言葉に、ヒロインはもうたじたじの様子。

「そういうことでは無い。君はいつだったか言っていた」
「え……?」
「眠くなってしまうから、本を読むのって苦手なんです……だから、勉強を教えて下さい……と」
「あっ……」
「忙しかったので断らせてもらったが」
「っっ!」

  ヒロインはそう言われて、そこでようやくかつての自分の発言に気付いたのかハッとした顔をする。
  そして、断られた時の悔しさも思い出したのかギリギリと唇を噛む。
  
  (あら?  それってグレイソン殿下ルートのイベントの一つで、確か貴族事情に疎いヒロインの為に二人で勉強しようってなるはずの……?)

  殿下は断った……?
  つまり、イベントは起きていない?

「に、苦手なものを克服しようとしただけです!」
「……」  
「そ、そんなにも責められることですか?」
「……」
「むしろ、いい事のはず──って……そもそも、殿下だってここで何をしているんですかーって……」

  と、ヒロインはそこまで口にしてからガバッと勢いよく私の事を見る。

「そう言えば!  ……さっき、クロエ嬢って呼んでいた?  ……どういうこと!?」

  ようやく?  というのも変だけれど、ヒロインはここまで来て私と殿下が一緒にいることに不審を抱いたようだった。

「ふ、二人こそ何をしているのよ!  そもそも何でクロエ様が……殿下と一緒に……!」

  ヒロインは、私が最初に抱いた印象の可愛らしさは何処へやら……
  今にも射殺してきそうな目で私を睨んだ。
しおりを挟む
感想 223

あなたにおすすめの小説

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

白い結婚に、猶予を。――冷徹公爵と選び続ける夫婦の話

鷹 綾
恋愛
婚約者である王子から「有能すぎる」と切り捨てられた令嬢エテルナ。 彼女が選んだ新たな居場所は、冷徹と噂される公爵セーブルとの白い結婚だった。 干渉しない。触れない。期待しない。 それは、互いを守るための合理的な選択だったはずなのに―― 静かな日常の中で、二人は少しずつ「選び続けている関係」へと変わっていく。 越えない一線に名前を付け、それを“猶予”と呼ぶ二人。 壊すより、急ぐより、今日も隣にいることを選ぶ。 これは、激情ではなく、 確かな意思で育つ夫婦の物語。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

処理中です...