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第2話 前世を思い出す
しおりを挟む───その日はいつもの一日だった。
大学生だった“私”は、最近ハマってる乙女ゲームを徹夜でプレイしたせいで少し寝不足ではあったけれど。
ようやくメインヒーロールートのエンディングまでたどり着き、悪役王女もざまぁされた。これで、全ルートクリア!
(あとは、ずっと楽しみにしていたアレを───)
しかし、徹夜明けにこの光は眩しいわね、授業は爆睡してしまいそう……そんな事を考えながら道を歩いていた時だった。
突然「危ない!」「キャー!!」という悲鳴が聞こえた。
そして、気付くと自分の目の前にはトラックが迫っていて───……
「…………はっ!?」
パチッと私は目を覚ました。
(……目を、覚ました?)
おかしいな、と思う。私は確かにトラックに轢かれそうになって……でも、身体はどこも痛くない。
でも、トラックはあんな間近に迫って来ていた。回避出来たとはとても思えない。
「どういう事……?」
そうして、起き上がると今度はこの場所が見慣れない部屋だという事に驚く。
(な、何この部屋!? 私の部屋じゃないわ!!)
とても薄汚い部屋だった。どうして自分がこんな所にいるのかさっぱり分からない。
しかも、何で格子があるの?
まるで、牢屋のような……
(そう言えば着ている物も何か変……)
それにまるで、自分の身体では無いような───……
そう思った時だった。格子の向こうに男が立っていた。
「……目を覚ましたようですね、フェリシティ王女」
「え?」
「判決のショックで倒れるとは……悪徳王女も一応ただの王女だったようですね」
フェリシティ王女? 悪徳王女?
誰の事を呼んでるのかと首を傾げたくなった。だけど、そう呼んだ男は格子の向こうから真っ直ぐ私を見ている。
(それに、その名前、どこかで聞いたような……)
記憶の糸を探ろうとした時、私は男の次の発言に驚き固まった。
「フェリシティ王女、あなたの処刑は5日後に決定しました」
「……え?」
「くれぐれも変な事は考えないように、とのアーロン王太子殿下からの伝言です。では、私は他所の見回りがあるのでこれで失礼致します」
その男はそれだけ言うと奥へと行ってしまった。
(今の人は何を言っていたの? しょけい……処刑!?)
え? 私、死ぬの? いや、それ以前の問題としてトラックに轢かれて死んだのではなかったの??
──フェリシティ王女、アーロン王太子殿下からの伝言……
「って、アーロン王太子殿下!?」
私は思わず叫んでいた。
その名前は私があの日、クリアしたばかりの乙女ゲームに出ていた攻略対象者──……
「え!? フェリシティ!?」
その名前はまさか、まさかの……
「───悪役王女!!」
誰もいなくなった部屋で私はそう叫ぶ。
そして、叫んだと同時に頭の中に大量の記憶が流れ込んで来た。
「な、何?」
ぶわぁぁぁ、と映像のように流れ込んで来る。
(こ、これはフェリシティの記憶?)
それは善良な一国民として生きて来た私には到底理解出来ない世界と価値観。
膨大な記憶に卒倒しそうになるもどうにか耐えた。
そして、ようやくこの状態を色々理解した。
「ふ、ふふ、つまり、これは異世界転生ってやつなのね……」
乙女ゲーム好きのインドア派だったかつての私は小説も漫画も大好きだった。
だから、この事態は理解出来る。
そしてなんの偶然か。この世界は前世で死ぬ前にプレイしていた乙女ゲームの世界。
思い入れの深いゲームの世界に転生。まぁ、これもあるある。
そして、転生先が悪役令嬢というのもあるある。
(このゲームの場合は、令嬢ではなく悪役王女だけど)
でも!!
「これはダメでしょう……?」
悪役王女フェリシティ。
彼女は全てのルートにおいて、ヒロインの恋路を邪魔する悪役だ。
特に、兄である王太子アーロンと婚約者である公爵令息ネイサンルートに於いてはフェリシティの起こす行動は残虐行為が多い。
よって、この二人のルートの場合、悪役王女はざまぁされて最期は処刑エンド。
「……処刑……エンド」
流れて来る記憶。私は間違いなくあの日に断罪された。
ヒロイン、ペトラが兄と婚約者のどちらのルートを突き進んだのかはちょっと分からないけれど、とにかく処刑エンドなのは間違いない。
「今!? なんで今!? これ、もう詰んでる!」
異世界転生と言ったら、ヒロイン転生であろうと悪役令嬢転生だろうとモブ転生であろうとストーリーの開始前、もしくは最中に転生するものじゃないの!?
特に悪役に転生する場合は、そこでストーリーに逆らって断罪回避するのでは無いの??
「何で私、処刑寸前なのよー……」
さっきの男……おそらく、看守と思われる男は5日後が処刑だと言っていた。
「……え、私の命ってあと5日?」
転生したのに? 記憶を取り戻したのにあとたった5日の命??
私、そんなに悪い事しましたかね?
(いや、フェリシティはしたけれど……)
「もう少し……もう少し早く思い出していたのなら!」
ざまぁされずに済んだかもしれなかったのに!!
本当にこのフェリシティという王女は、ストーリー通りに我儘で傲慢、癇癪持ちで敵しかいないような王女っぷりを発揮していた。
「典型的な甘やかされた末っ子王女……何やってるのよーー」
周りもしっかり教育しなさいよ!! と、文句を言いたいけれどそれは今更だ。
それに“悪役”という運命を背負ってしまっているのだからこうなるのも仕方が無いのかもしれない。
──では。このまま大人しく処刑される?
「……いいえ」
確かに悪役王女フェリシティは色んな罪を犯した。
でも、更生の余地はないなんて、決めつけるのは酷い!
前世の私と悪役王女フェリシティの記憶が混ざった“新生フェリシティ”は少なくとも、更生の余地はある……はず!
何よりこんなに早く再び死にたくなんてない!
悪役王女フェリシティの犯した罪は確かに償う必要はあるけれど、死んで償うのはゴメンだ。
「何としても処刑は回避しなくちゃ……」
“新生フェリシティ”として生まれ変わった私はとにかくそう決意した。
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