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第1話 ざまぁされた悪役王女

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  ──その日、とあるパーティーでこの国の王女が断罪されていた。

「フェリシティ!  今までは妹だからと目を瞑って来たがもう、これ以上は我慢ならない!」
「お、お兄様……?」

   この国の王女フェリシティは突然の事態について行けず、オロオロするばかり。 
   そんな王女に向かってさらなる口撃が飛び出した。

「殿下、私とあなたの婚約も今、この場を持って破棄とさせて頂く!」
「ネイサン!?  あなた、私に向かって何を言っているの?  そんな事が許される立場だと思って?  この身の程知らず!」
  
  フェリシティは兄の時とは違って婚約者であるネイサン・ヘッドリス公爵令息に対しては強気な発言をする。
  しかし……

「殿下。残念ながらこの話は王太子殿下は勿論、陛下にもすでに了承済みの話です」
「何ですって!?」

  驚きの声を上げるフェリシティにネイサンは冷たい目を向けたままそう告げる。

「君は本当に我儘で、傲慢で自分勝手で……私はもう限界だった」
「ネイサン……?」
「それに比べてペトラの愛らしいこと!  少しは見習って欲しいとずっと思っていた」
「!」

   “ペトラ”
  その名前に、フェリシティの眉はピクリと反応する。
  なぜなら、その名前はフェリシティが最も耳にしたくない名前だったから。

「薄汚い女の名前など口に出さないで頂戴!」

  (あの女……男爵令嬢という身分のくせに……本当に生意気)

  私の婚約者……ネイサンだけでなく、お兄様にもいい顔をして、常に誰かとベタベタしていたあの女……

「殿下、ペトラは薄汚くなんかありません!」
「そうだぞ!  それを言うならお前の方が薄汚い!」
「ネイサン……お兄様まで……!」

  何故、私が責められなければならないの?
  フェリシティがそう思った時だった。

「……もうやめてください!」
「!」

  憎たらしくなるくらいの甘く可愛らしい声。
  フェリシティはその声を聞くだけでも腸が煮えくり返りそうになる。

「ネイサン様も王太子殿下もやめてください……フェリシティ殿下が可哀想です」
「ペトラ……」
   
  件の“ペトラ”の登場に会場内も大きくざわついた。
  これは、ますます面白い事になる────と。

  一方、フェリシティはペトラの姿を見て怒りの気持ちを更に募らせていた。

  (何というタイミングでこの場に現れるの)

  しかも、憎きその女はフェリシティを可哀想呼ばわりしている。王女であるこの私を!!
  目に涙を訴えてそう話すこの女がやはりとてもとても憎い、そう思っていた。
  
  (どうせ、“心優しい女”を演じようとしているのでしょう?)

「ネイサン、お兄様!  騙されないでくだ……」
「フェリシティ殿下は、た、確かに私に対して厳しい発言をされる事もありました。でもそれは、私が身分の低い男爵令嬢で物を知らなかったからで……」
   
  ペトラはフェリシティの発言を遮ると目に涙を浮かべながら必死に訴えを始めた。
  しかし、それは故意なのか偶然なのかフェリシティを庇っているようで逆に追い詰めていくような話ばかりだった。
  
「教科書も破られましたし、制服もズタズタにされました。階段からも突き落とされましたし、噴水にも突き飛ばされました。何度死ぬかと……でもそれは、全部私が悪くて……」
「~~!!」

  ペトラによるフェリシティが起こした数々の悪事の暴露が続いていく。
  プルプル震えながら、当時の事を思い出し懸命に話すその姿に会場中の人間達がペトラに胸を打たれる。
  ネイサンと王太子だけでは無い。もはや、会場中からの冷たい視線がフェリシティへと注がれていた。

「フェリシティ……これはどういう事なんだい?」
「殿下、あなたはそんな事まで彼女にしていたのか!」
「あ……だって、そ、それは……」

  (ネイサンもお兄様も他の人達も皆、その女に夢中になって……悔しくて)

「……フェリシティ。これが本当なら君のした事は犯罪だ」
「は、んざい?」

  兄である王太子がフェリシティに鋭い目を向けながら言う。
  もはや、そこに兄妹の情は……無い。

「ネイサンも言っていたが、ただでさえ君は我儘で傲慢で城内だけでなく、国民からも“物語の悪役のような悪徳王女”と呼ばれているのに……」
「な、何ですって!?」
「ははは……知らなかったなんて、なんて幸せなんだろうね、君は。我が妹ながら驚きだ。どうりでこれまで反省の一つもしないわけだ」
「お兄様……」

  フェリシティはその言葉に酷いショックを受ける。

「フェリシティ、知ってるかい?  君がいつも気まぐれで首にした城の使用人達。彼らからも君を訴える声が多く挙がっている」
「!!」
「これは生半可な処分ではすまないよ、フェリシティ」
「い、や……嘘、嘘でしょう!?」

  フェリシティがキョロキョロと会場内を見渡すも、冷たい視線ばかりで助けてくれる様子を見せる人なんて一人もいない。
  いつも王女である自分の事を持ち上げては慕ってくれていたと思っていた取り巻き令嬢達も、一人、また一人と目線を逸らしていく。

「そ、そんな……」

  フェリシティはガクッと膝を着く。
  そんなフェリシティの惨めな姿を嘲笑う声だけが会場内に響いていた───




牢屋ここで陛下からの沙汰を待つんだな!」
「きゃっ」

  フェリシティはそう言って乱暴に牢屋へと押し込まれた。
  牢屋の中を見て愕然とした。
  これまで過ごして来た、キレイな花が飾られた豪華な広い部屋、ふかふかのベッド、温かいお茶、美味しいお菓子などどこにも無い。見た事も過ごした事も無い部屋。

「こ、こんな部屋でこの私が過ごせると思って!?」
「王女様、そう言われてもここはまだマシな方ですよ。王族という身分に感謝するといい」
「なっ……」

  フェリシティは牢屋の事なんてもちろん知らない。
  自分には関係の無い世界だと思っていたから。

「何をそんなに驚いているんですか、王女様。我々使用人をたくさんあなたは気まぐれにいつも牢屋ここに送って来たではありませんか。まさか、知らなかったとでも?」
「!!」

  力の抜けたフェリシティはヘナヘナとその場にへたり込んだ。



◇◇◇◇



  牢屋に入れられて数日。
  フェリシティの元に兄である王太子がやって来た。

「フェリシティ、君の処分が正式に決定したよ」
「お、お兄様……」

  自分はどうなるの?
  もう、王女としては暮らせない?  修道院かしら?  それとも平民として……?  え、この私が?  そんなの無理だわ。
  そんな不安に苛まれる中、兄である王太子はフェリシティに非情な目を向けて言った。

「フェリシティ、君の処分は───処刑だ」
「……!?」
「君は王族としても人としても最悪だ。今更更生の余地はない。そう判断された」

  (処刑……わ、私が?)

  その後もツラツラと処刑処分となった理由を話されたけれど、フェリシティの耳には全く入って来なかった。

  (私は……死ぬ……?  嘘……でしょう!?)

「フェリシティ?」

  フェリシティはその決定事項に耐えられず、気が遠くなりフラフラと倒れると、その場で意識を手放した。
  
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