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第2話 公爵令息との縁談
しおりを挟む私は、フィオナ・マーギュリー。
マーギュリー侯爵家の長女。
下には跡継ぎの弟もいる。
優しい家族や使用人に囲まれのびのび育った私は身分こそ侯爵令嬢という高位の部類二入るのだけれど、その身分以外は至って平凡な令嬢。
見た目も普通。特別美しくて華やかさがある……そんなことない。
家庭教師に言わせれば、学業もマナーもダンスの腕も普通。特別秀でていることはない。私は何をしても平均的な成果にしかならないらしい。
そんな毒にも薬にもならない、どこにでもいそうな平凡な令嬢……
それが私、フィオナだった。
「──お父様、お話とはなんですの?」
「あぁ、フィオナ。待っていたよ」
その日、お父様に呼ばれて執務室に入ると、お父様とお母様が中で私を待っていた。
「あら? お母様もご一緒でしたのね」
「当然だ」
お母様に声をかけたはずなのに、なぜかお父様が得意そうな顔で頷いて答えた。
まぁ、これはいつものことなのですっかり慣れたものだけど。
私がお母様の顔をチラッと見ると苦笑していた。
(相変わらずの二人ね)
お母様のことが大好きすぎるお父様。
そんなお父様にうっかりお母様の話を振ると話が惚気に発展し、全く進まなくなるので、私はさっさと今日呼び出された理由を訊ねることにした。
「……コホン、それで? 改まっての呼び出しとは一体どうしたのですか?」
「……」
すると、二人がどこか困った様子で顔を見合わせる。
「?」
「……実はフィオナに縁談の話が来ているんだが」
「え、私に縁談!?」
お父様が苦そうな顔でそう口にした。
「ほ、本当に?」
「ああ……」
フィオナにもいつか素敵な人と恋をして欲しい───
昔から私にそう言ってくれているお父様とお母様は、これまで私の縁談について無理強いをしたことはなかった。
政略結婚させる気もない───そう言ってくれていたのに。
なのに、今回だけはなぜこんなにも改まって話を持ちかけてくるの?
そう疑問に思いながらハッと気付く。
「えっと、もしかしてこちらからは断れない相手なのですか?」
「……」
侯爵家の我が家より上となると王家と公爵家しかいない……
つまり、今回はそのどちらかからのお話に違いない。
(まさか、そんな所からこんな平凡な私に話が来るなんて……)
チラッとお父様の机の上を見ると、アディオレ公爵家の封蝋の付いた封筒が見えた。
「───アディオレ公爵家からのお話ですか?」
「え? なんで分かったんだ? って……ああ、そうか。そこの机の上の手紙が見えたのか……」
「はい」
お父様は一瞬、まだ何も言っていないのに? と驚いていたけれど、机の上に置いていた手紙の存在を思い出したのかすぐに納得して頷く。
そして、一旦立ち上がって机に向かい、その手紙を手に取った。
「フィオナの言う通り、アディオレ公爵家の嫡男であるダーヴィット殿との縁談の話なんだ」
「ダーヴィット様……?」
公爵家の……しかも嫡男との話だったことに驚く。
私は顔をしかめた。
アディオレ公爵令息様……どこかでお会いしたことはあったような気がするけれど、どんな顔だったかしら?
思い出そうとするも頭の中でぼんやりしてしまってはっきり思い出せない。
つまり、それほど深く私と関わったことのある相手ではないということ。
(───なぜ、私に?)
やっぱり、身分で選ばれた?
でも、適齢期の侯爵家の令嬢は私以外にもいるわけで……
私はうーんと考え込んだ。
するとお父様は、深いため息を吐きながら言った。
それだけでも、あまりお父様がこの話に乗り気ではないことが窺える。
「なんでも、この間のパーティーでフィオナに一目惚れしたと手紙には書いてあるんだ」
「わ、私に一目惚れ!?」
この自他ともに認める平凡令嬢の私に?
正直、信じられない。
「うーん、アディオレ公爵令息……ダーヴィット様は一度、眼のお医者様にかかかられた方が良さそうですね。おそらく、視力は壊滅的かと思われます」
「フィオナ……」
私が大真面目にそう口にするとお父様が怒ったような口調で言う。
「何を言っているんだ! フィオナはリーファに似てこんなにも可愛いのだから、一目惚れくらいされるのは当然だ!」
「カイン様……」
「そうだろう? リーファ」
お母様が嬉しそうな声を上げたと思ったら、お父様と微笑み合う。
(二人の世界に入ってしまったわ……)
二人の熱々ぶりは重々承知だけど、何も今、娘の目の前でやらなくてもいいと思う。
(でも、羨ましい)
こうもお互いのことを信じて信頼し合っていて、結婚してから何年経ってもお互いのことを大好きだと言い合える二人の姿には本当に憧れる。
(いつか私もそんな相手と将来を共に出来たなら……)
「……一目惚れって話は本当なのかしら?」
自分には一目惚れされるほどの要素はないと分かっているので、この話はどこか胡散臭くもあったけれど、その響きにだけはついときめきを覚えてしまった。
「どうする? フィオナ。先方はとりあえず会って話がしたいと言っている」
「……」
お父様は、それでも絶対に会え! と、強制するつもりは無いらしい。
私がここで会うことすら嫌だと即答したら、色々面倒なことは増えるけれどそれでも構わない。
そう言ってくれていることが分かる。
「分かりました。とりあえず、会うだけ会ってみます」
私がそう答えるとお父様は分かったと頷いた。
「先方にはそのように返事をしておく」
「お願いします」
────こうして、私はダーヴィット様とお会いすることになった。
◆◇◆
「マーギュリー侯爵令嬢! ───今日は俺のために時間を作ってくれてありがとう」
「!」
そして迎えた顔合わせの日。
アディオレ公爵家のダーヴィット様は、爽やかな笑顔と共に私に花束を差し出した。
(ひ、評判通りの方だわ……)
相手のことを何も知らないままお会いするのは気が引けたので、私は今日までの間にダーヴィット様について少し調べておいた。
すると、聞こえてきたのは、
“爽やかな好青年”“誰にでも優しい”“甘いマスクが女性に人気”“友情に厚いので同性からも慕われている”などなど、どれを取っても高評価。
「こちらこそ、お会いできて光栄ですわ、アディオレ公爵令息様」
「そんな畏まった呼び方は止めて、どうぞ俺のことはダーヴィットと。俺もあなたをフィオナ嬢とお呼びしても?」
「は、はい……」
最初の印象は、噂通りの爽やかな好青年なのに、グイグイ来るわね、だった。
その後、始まった二人でのお茶の時間では、ダーヴィット様が殆ど喋り続けていた。
「俺の趣味は───」
「最近は俺の友人が───」
色々、話をしてくれるのは嬉しかったし有り難かったけれど、私としてはなぜ、自分を?
そんな疑問が拭えない。
なので、私は思い切って訊ねてみることにした。
「あの! どうして私なのですか?」
「フィオナ嬢は先日のパーティーで俺を助けてくれたことを覚えていませんか?」
「助けた……?」
さっぱり記憶になかったので私は首を傾げる。
ダーヴィット様は、苦笑しながら話してくれた。
「先日のパーティー、あなたは具合を悪くしていた俺にいち早く気付いてくれて──」
「あ!」
そう言われてようやく思い出す。
人混みの中で、不自然にフラフラしている人がいると思って声をかけた。
「あんな遠くから俺の具合を察知して助けてくれた……そんなあなたの優しさに俺は惹かれたんです」
「……!」
彼は爽やかな笑顔でそう言った。
────その時のパーティーで、私が彼に声をかけたのは本当の話。
けれど、この席での彼の発言が真っ赤な嘘だったと知るのは、愚かにも私が彼との婚約を受け入れた後のことだった。
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