【完結】“便利な女”と嘲笑われていた平凡令嬢、婚約解消したら幸せになりました ~後悔? しても遅いです~

Rohdea

文字の大きさ
2 / 53

第2話 公爵令息との縁談

しおりを挟む


 私は、フィオナ・マーギュリー。
 マーギュリー侯爵家の長女。
 下には跡継ぎの弟もいる。

 優しい家族や使用人に囲まれのびのび育った私は身分こそ侯爵令嬢という高位の部類二入るのだけれど、その身分以外は至って平凡な令嬢。
 見た目も普通。特別美しくて華やかさがある……そんなことない。
 家庭教師に言わせれば、学業もマナーもダンスの腕も普通。特別秀でていることはない。私は何をしても平均的な成果にしかならないらしい。
 そんな毒にも薬にもならない、どこにでもいそうな平凡な令嬢……
 それが私、フィオナだった。




「──お父様、お話とはなんですの?」
「あぁ、フィオナ。待っていたよ」

 その日、お父様に呼ばれて執務室に入ると、お父様とお母様が中で私を待っていた。

「あら?  お母様もご一緒でしたのね」
「当然だ」

 お母様に声をかけたはずなのに、なぜかお父様が得意そうな顔で頷いて答えた。
 まぁ、これはいつものことなのですっかり慣れたものだけど。
 私がお母様の顔をチラッと見ると苦笑していた。

(相変わらずの二人ね)

 お母様のことが大好きすぎるお父様。 
 そんなお父様にうっかりお母様の話を振ると話が惚気に発展し、全く進まなくなるので、私はさっさと今日呼び出された理由を訊ねることにした。

「……コホン、それで?  改まっての呼び出しとは一体どうしたのですか?」
「……」

 すると、二人がどこか困った様子で顔を見合わせる。

「?」
「……実はフィオナに縁談の話が来ているんだが」 
「え、私に縁談!?」

 お父様が苦そうな顔でそう口にした。

「ほ、本当に?」
「ああ……」

 フィオナにもいつか素敵な人と恋をして欲しい───
 昔から私にそう言ってくれているお父様とお母様は、これまで私の縁談について無理強いをしたことはなかった。
 政略結婚させる気もない───そう言ってくれていたのに。
 なのに、今回だけはなぜこんなにも改まって話を持ちかけてくるの?

 そう疑問に思いながらハッと気付く。

「えっと、もしかしてこちらからは断れない相手なのですか?」
「……」

 侯爵家の我が家より上となると王家と公爵家しかいない……
 つまり、今回はそのどちらかからのお話に違いない。

(まさか、そんな所からこんな平凡な私に話が来るなんて……)

 チラッとお父様の机の上を見ると、アディオレ公爵家の封蝋の付いた封筒が見えた。

「───アディオレ公爵家からのお話ですか?」
「え?  なんで分かったんだ?  って……ああ、そうか。そこの机の上の手紙が見えたのか……」
「はい」

 お父様は一瞬、まだ何も言っていないのに?  と驚いていたけれど、机の上に置いていた手紙の存在を思い出したのかすぐに納得して頷く。
 そして、一旦立ち上がって机に向かい、その手紙を手に取った。

「フィオナの言う通り、アディオレ公爵家の嫡男であるダーヴィット殿との縁談の話なんだ」
「ダーヴィット様……?」

 公爵家の……しかも嫡男との話だったことに驚く。

 私は顔をしかめた。
 アディオレ公爵令息様……どこかでお会いしたことはあったような気がするけれど、どんな顔だったかしら?  
 思い出そうとするも頭の中でぼんやりしてしまってはっきり思い出せない。
 つまり、それほど深く私と関わったことのある相手ではないということ。
  
(───なぜ、私に?)  

 やっぱり、身分で選ばれた?
 でも、適齢期の侯爵家の令嬢は私以外にもいるわけで……
 私はうーんと考え込んだ。

 するとお父様は、深いため息を吐きながら言った。
 それだけでも、あまりお父様がこの話に乗り気ではないことが窺える。

「なんでも、この間のパーティーでフィオナに一目惚れしたと手紙には書いてあるんだ」
「わ、私に一目惚れ!?」

 この自他ともに認める平凡令嬢の私に?
 正直、信じられない。

「うーん、アディオレ公爵令息……ダーヴィット様は一度、眼のお医者様にかかかられた方が良さそうですね。おそらく、視力は壊滅的かと思われます」
「フィオナ……」

 私が大真面目にそう口にするとお父様が怒ったような口調で言う。

「何を言っているんだ!  フィオナはリーファに似てこんなにも可愛いのだから、一目惚れくらいされるのは当然だ!」
「カイン様……」
「そうだろう?  リーファ」

 お母様が嬉しそうな声を上げたと思ったら、お父様と微笑み合う。

(二人の世界に入ってしまったわ……)

 二人の熱々ぶりは重々承知だけど、何も今、娘の目の前でやらなくてもいいと思う。

(でも、羨ましい)

 こうもお互いのことを信じて信頼し合っていて、結婚してから何年経ってもお互いのことを大好きだと言い合える二人の姿には本当に憧れる。

(いつか私もそんな相手と将来を共に出来たなら……)

「……一目惚れって話は本当なのかしら?」

 自分には一目惚れされるほどの要素はないと分かっているので、この話はどこか胡散臭くもあったけれど、その響きにだけはついときめきを覚えてしまった。

「どうする?  フィオナ。先方はとりあえず会って話がしたいと言っている」
「……」

 お父様は、それでも絶対に会え!  と、強制するつもりは無いらしい。
 私がここで会うことすら嫌だと即答したら、色々面倒なことは増えるけれどそれでも構わない。
 そう言ってくれていることが分かる。

「分かりました。とりあえず、会うだけ会ってみます」

 私がそう答えるとお父様は分かったと頷いた。

「先方にはそのように返事をしておく」
「お願いします」

 ────こうして、私はダーヴィット様とお会いすることになった。


 ◆◇◆


「マーギュリー侯爵令嬢!  ───今日は俺のために時間を作ってくれてありがとう」
「!」

 そして迎えた顔合わせの日。
 アディオレ公爵家のダーヴィット様は、爽やかな笑顔と共に私に花束を差し出した。

(ひ、評判通りの方だわ……)

 相手のことを何も知らないままお会いするのは気が引けたので、私は今日までの間にダーヴィット様について少し調べておいた。
 すると、聞こえてきたのは、
 “爽やかな好青年”“誰にでも優しい”“甘いマスクが女性に人気”“友情に厚いので同性からも慕われている”などなど、どれを取っても高評価。

「こちらこそ、お会いできて光栄ですわ、アディオレ公爵令息様」
「そんな畏まった呼び方は止めて、どうぞ俺のことはダーヴィットと。俺もあなたをフィオナ嬢とお呼びしても?」
「は、はい……」

 最初の印象は、噂通りの爽やかな好青年なのに、グイグイ来るわね、だった。


 その後、始まった二人でのお茶の時間では、ダーヴィット様が殆ど喋り続けていた。

「俺の趣味は───」
「最近は俺の友人が───」

 色々、話をしてくれるのは嬉しかったし有り難かったけれど、私としてはなぜ、自分を?
 そんな疑問が拭えない。
 なので、私は思い切って訊ねてみることにした。

「あの!  どうして私なのですか?」
「フィオナ嬢は先日のパーティーで俺を助けてくれたことを覚えていませんか?」
「助けた……?」

 さっぱり記憶になかったので私は首を傾げる。
 ダーヴィット様は、苦笑しながら話してくれた。

「先日のパーティー、あなたは具合を悪くしていた俺にいち早く気付いてくれて──」
「あ!」 

 そう言われてようやく思い出す。
 で、不自然にフラフラしている人がいると思って声をかけた。

「あんな遠くから俺の具合を察知して助けてくれた……そんなあなたの優しさに俺は惹かれたんです」
「……!」

 彼は爽やかな笑顔でそう言った。


 ────その時のパーティーで、私が彼に声をかけたのは本当の話。
 けれど、この席での彼の発言が真っ赤な嘘だったと知るのは、愚かにも私が彼との婚約を受け入れた後のことだった。
しおりを挟む
感想 231

あなたにおすすめの小説

継子いじめで糾弾されたけれど、義娘本人は離婚したら私についてくると言っています〜出戻り夫人の商売繁盛記〜

野生のイエネコ
恋愛
後妻として男爵家に嫁いだヴィオラは、継子いじめで糾弾され離婚を申し立てられた。 しかし当の義娘であるシャーロットは、親としてどうしようもない父よりも必要な教育を与えたヴィオラの味方。 義娘を連れて実家の商会に出戻ったヴィオラは、貴族での生活を通じて身につけた知恵で新しい服の開発をし、美形の義娘と息子は服飾モデルとして王都に流行の大旋風を引き起こす。 度々襲来してくる元夫の、借金の申込みやヨリを戻そうなどの言葉を躱しながら、事業に成功していくヴィオラ。 そんな中、伯爵家嫡男が、継子いじめの疑惑でヴィオラに近づいてきて? ※小説家になろうで「離婚したので幸せになります!〜出戻り夫人の商売繁盛記〜」として掲載しています。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

お妃候補を辞退したら、初恋の相手に溺愛されました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のフランソアは、王太子殿下でもあるジェーンの為、お妃候補に名乗りを上げ、5年もの間、親元を離れ王宮で生活してきた。同じくお妃候補の令嬢からは嫌味を言われ、厳しい王妃教育にも耐えてきた。他のお妃候補と楽しく過ごすジェーンを見て、胸を痛める事も日常茶飯事だ。 それでもフランソアは “僕が愛しているのはフランソアただ1人だ。だからどうか今は耐えてくれ” というジェーンの言葉を糧に、必死に日々を過ごしていた。婚約者が正式に決まれば、ジェーン様は私だけを愛してくれる!そう信じて。 そんな中、急遽一夫多妻制にするとの発表があったのだ。 聞けばジェーンの強い希望で実現されたらしい。自分だけを愛してくれていると信じていたフランソアは、その言葉に絶望し、お妃候補を辞退する事を決意。 父親に連れられ、5年ぶりに戻った懐かしい我が家。そこで待っていたのは、初恋の相手でもある侯爵令息のデイズだった。 聞けば1年ほど前に、フランソアの家の養子になったとの事。戸惑うフランソアに対し、デイズは…

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧井 汐桜香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

【完結】嫌われ公女が継母になった結果

三矢さくら
恋愛
王国で権勢を誇る大公家の次女アデールは、母である女大公から嫌われて育った。いつか温かい家族を持つことを夢見るアデールに母が命じたのは、悪名高い辺地の子爵家への政略結婚。 わずかな希望を胸に、華やかな王都を後に北の辺境へと向かうアデールを待っていたのは、戦乱と過去の愛憎に囚われ、すれ違いを重ねる冷徹な夫と心を閉ざした継子だった。

初恋の兄嫁を優先する私の旦那様へ。惨めな思いをあとどのくらい我慢したらいいですか。

梅雨の人
恋愛
ハーゲンシュタイン公爵の娘ローズは王命で第二王子サミュエルの婚約者となった。 王命でなければ誰もサミュエルの婚約者になろうとする高位貴族の令嬢が現れなかったからだ。 第一王子ウィリアムの婚約者となったブリアナに一目ぼれしてしまったサミュエルは、駄目だと分かっていても次第に互いの距離を近くしていったためだった。 常識のある周囲の冷ややかな視線にも気が付かない愚鈍なサミュエルと義姉ブリアナ。 ローズへの必要最低限の役目はかろうじて行っていたサミュエルだったが、常にその視線の先にはブリアナがいた。 みじめな婚約者時代を経てサミュエルと結婚し、さらに思いがけず王妃になってしまったローズはただひたすらその不遇の境遇を耐えた。 そんな中でもサミュエルが時折見せる優しさに、ローズは胸を高鳴らせてしまうのだった。 しかし、サミュエルとブリアナの愚かな言動がローズを深く傷つけ続け、遂にサミュエルは己の行動を深く後悔することになる―――。

厄介払いされてしまいました

たくわん
恋愛
侯爵家の次女エリアーナは、美人の姉ロザリンドと比べられ続け、十八年間冷遇されてきた。 十八歳の誕生日、父から告げられたのは「辺境の老伯爵に嫁げ」という厄介払いの命令。 しかし、絶望しながらも辺境へ向かったエリアーナを待っていたのは――。

処理中です...