【完結】“便利な女”と嘲笑われていた平凡令嬢、婚約解消したら幸せになりました ~後悔? しても遅いです~

Rohdea

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第13話 自分を売り込む王子様

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(……まさかとは思うけれど、本物の第一王子が出迎えたりなんかしないわよね?)

 それはさすがに困るわ……と考えた時だった。
 背後から声をかけられる。

「───マーギュリー候爵令嬢!」
「!」

(───この声は、声だわ!  つまり、エミール殿下の声!)

 そう思って私は振り向いた。 
 だって、私はまだ本物のジュラール殿下の声を知らない。

(良かった!  お迎えは本物じゃなかった!)

 偽者が現れてホッとするのもおかしな話だけれど、ドキドキしながら王宮に到着した私を出迎えてくれたのは、私のこの目と耳では絶対に間違えようもない“エミール殿下”だった。

(……あ!  でも上着、この間の色だわ)

 だけど、当然と言えば当然なのだけど、現れた彼は今日も第一王子ジュラール殿下の振りをしていた───……




「今日は突然、呼び出して申し訳なかった」
「い、いえ……」  
「来てくれてありがとう」

 私の向かい側に腰を下ろし、優雅にお茶を飲みながら“殿下”はそう言った。

「結局、あれから君はどうしているのだろうか、それが気になってしまって」 
「え?」
「君はあの時、笑顔を見せてはいたけれど、やっぱり後々から辛くなったりして、その泣いたり……することもあったのではないか、と思ったんだ」
「殿下……」
「……泣いたりしていない、か?」

(……)

 ……私が泣く?  いいえ、むしろ家族会議でどうやって、これからダーヴィット様をボコボコにするかを話し合っていました!
 結論は、物理的にも精神的にもボッコボコにして差し上げます、となりました!
 ついでに公爵家も潰すつもりです!

(なーーんて、こんなにも心配してくれている表情の殿下には、口が裂けても言えない……)

「な、泣いていませんわ」
「……それなら良かった」

 殿下は安心したように微笑んだ。

「そういうわけでさ、そんなことばかり考えてこの数日、頭を悩ませていたら……」
「いたら?」
「───そんなに気になるなら、マーギュリー侯爵令嬢を呼び出して顔を見せてもらえばいいだろう?  と、エ……エミールに言われて君を呼び出すことにしてしまった……すまない、驚いただろう?」
「……い、いえ……」

 まさか私が泣いていないか、元気にしているかを確かめたくて呼び出しただなんて!
 なんて律儀なの……真面目……真面目すぎるわ。
 そして最も気になるのは───これはジュラール殿下としての心配?  それともエミール殿下としての心配?  
 ……どっちなの!?

「今日はせっかくなのでも同席させたかったんだけど……気付いたらさ、姿が見えなくなっていたんだ」

 目の前の殿下が肩を落として明らかにがっかりしながらそう言った。
 あいつはフラフラどこに行ったんだよ、と呟いている。

「……え!  エミール殿下、を……同席、ですか?」
「ああ。ほ、ほら、言っただろう?  エミールのことも頼ってくれて構わない、きっと君の力になるから、と!  だから……」
「──っ!」

 危うく、私はお茶を吹き出しそうになった。

(───ちょっ……エミール殿下、またしても自分を売り込んでいるわ!)
  
 私は動揺した。
 こ、これは、何?  エミール殿下は、私を試そうとでもしているの?
 今、本物のジュラール殿下がこの場に現れて「どうも!  僕がエミールです」などと言って同席なんてされたら、さすがに私の頭も大混乱を起こしてしまうわよ?  

 私はまだ見ぬジュラール殿下がフラフラしてくれていて良かった──そう思いながら一旦心を落ち着けようと思い、もう一度お茶を飲む。
 そんな私を見ながら殿下は話を続ける。

「──実はさ、エミール……あ、あいつも君を心配していた……んだ」
「え?  ……そ、そうでしたか。それはありがとうございます……」

(知っています、とは言えない)

「そうなんだよ。そ、そもそも!  パーティーで令嬢たちに絡まれている君を最初に見つけたのも、ぼ、僕……ではなくエ、エミールなんだ!」
「え……!」

 私は目の前の殿下の顔をじっと見る。
 ───だから、あの時、“エミール殿下あなた”が来てくれた……ということ?

(でも、それなら何故、わざわざジュラール殿下の振りをして現れたの……?)

 そこはやっぱりよく分からない。

「だ、だからさ!  ……ちょ、ちょっと変な噂はあるけど、エミール……あいつは決して──」
「ふふ、殿下、そんなに必死にならなくても大丈夫ですわ」
「……え?」

 私の言葉に、それまで必死に自分のアピールをしていた殿下の動きがピタリと止まる。

「私は自分の目で見たものしか信じませんから」
「……マーギュリー侯爵令嬢?」

 だって、私の目、よく見えるもの! 

「……私は、まだエミール殿下とは、お、お話をしたことがありませんから。えっと、噂はもちろん聞いていますけど、実は……もしかしたら全然違う性格の方かもしれませんし……」

(少なくとも、目の前のあなたを見ているとそうとしか思えません)

 何か、理由があってジュラール殿下の振りをしているにせよ、あなたのどこに奔放要素が?  と、聞きたいくらい。

「……」
「……殿下?」

 なぜか殿下が目を大きく見開いたまま固まってしまった。

「……」
「あの……?」
「あ!」

 ハッとした殿下は少し寂しそうな顔をする。
 そして俯くと小声で呟いた。

「そ、そっかぁ………………ははは、エミール……のことをそんな風に言ってくれた人は初めてだ……」
「え?  なんて?」 

 あまりにも声が小さすぎてなんて言ったのか全く聞こえなかった。
 殿下は顔を上げると慌てて言った。

「あ!  いや、なんでもない。そ、それより、マーギュリー侯爵令嬢。君はあれから、ダーヴィットとは……」
「……」

 その言葉で、私の頭の中に最高に気持ち悪い男の顔が浮かぶ。
 それがそのまま表情に出てしまったようで……

「えっと……す、すごい顔してるよ、マーギュリー侯爵令嬢」
「……どんな顔です?」
「え?  そ、そうだな……甘味と苦味を一度に口に入れてしまった後……みたいな?」
「!」

 あまりの的確な答えに私は大きく頷いた。

 “フィオナ”と呼ばせたのがいけなかったのか。
 ダーヴィット様は、相変わらず薄ら寒い愛の言葉を吐きながら“俺の女”と言わんばかりに触れてこようとするようになった。

「ダーヴィット様は、あれから私の元を訪ねて来ると、甘い囁きと手をよく握ろうとしてくるのです、が……」
「手を?  そういえば握らせてくれないというような話をあの時、口にしていたな」
「はい。それが、もうとにかく……」

 気持ち悪くて……と、私は口にしかけたのだけど、殿下がひょいっと「こんな風に?」と言いながら私の手を取った。
 その瞬間───……

 ───ピリッ

「きゃっ!」
「っ!?」

 私たちの間にまたしてもピリッとした電流が走った。
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