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第19話 王子様からの連絡
◆◇◆
ちょうどエミール殿下が、まさかのムキムキを目指して、この国の騎士団長に弟子入り志願しているなんて夢にも思っていなかった私は、ダーヴィット様の言葉を聞いて固まっていた。
(ま、まさか……!)
ダーヴィット様の顔を殴ったのが、まさかのエミール殿下だったことに私は大きな衝撃を受けていた。
───子犬みたいだった殿下はどこに行ってしまったの? 実は子犬ではなかった? 本当は狂犬だったの?
私の頭の中に子犬のような殿下の姿が浮かぶ。
(それに……エミール殿下はただでさえ皆に悪く言われてしまっているのに……どうして?)
ダーヴィット様の子の様子から言って腫れた頬を浮気相手の令嬢たちに見せびらかしながら“エミール殿下にやられた”と絶対に言いふらす気がする。
(そんなの……嫌だ)
「───おい? フィオナ? どうした? 何を考えているんだ?」
「え? あ……」
私が犬……ではなく、エミール殿下のことばかり考えていたせいなのか、目の前にいるダーヴィット様が明らかに不機嫌になっていた。
だって、あんなにも心優しい人が殴るなんて……ダーヴィット様はいったい殿下に何をしたの?
(相当、酷いことをしたに違いないわ!)
だからこそ、私はどうしても聞かずにはいられなかった。
「あの……ダーヴィット様はなぜ、エミール殿下に殴られてしまったのですか?」
その質問はあまりされたくなかったのか、ダーヴィット様の眉がピクリと反応した。
そしてムッとした表情になる。
「なぜ、だと? ふんっ、俺は婚約の報告をしに行っただけだ! それで世間話をしていただけなのにあの王子に殴られたんだ!!」
「……」
(世間話ですって?)
私は呆れた。
要するにダーヴィット様は殴られてもおかしくないようなことを殿下に言った……ということ。
(……さっき、私とエミール殿下に面識があるかと聞かれたから、もしかして私の話もしたのかしら?)
そんなことを私が考えていたら、ダーヴィット様は子供のように怒りだす。
「本当になんなんだ! あの野蛮な王子は! 王子でなかったら訴えているぞ!」
「……」
「ったく、そんなだから、王位継承争いでは第一王子に圧倒的に差をつけられるんだ!」
(……ん? 王位継承争い?)
何の話かしら、と思って訊ねてみる。
「王位って、どういうことです?」
「どういう……? あぁ、ほら殿下たちは双子だろう? だから昔はどちらが将来の王になるのか、貴族はどちらにつくべきなのかと王宮が真っ二つになって揉めていたそうだ」
これはもう男兄弟……しかも双子の宿命のような気がする。
「……」
「まぁ、結局、第二王子のエミール殿下は性格も考え方も行動も難がありすぎて王の器じゃないってことで、今は第一王子一択となったらしいが!」
「今は第一王子一択……」
「当然だろう? あんな野蛮な王子に王など務まるものか!」
かつては周囲の意見が割れて揉めていたという二人の王位継承問題。
それが今は一択に絞られた……
(それって、まさかエミール殿下は─────)
「あの阿呆っぷりを利用して傀儡の王にしようと企む者もいたそうだが──」
「傀儡!?」
「第一王子が見事に尽く始末しているそうだ」
「……!」
「とにかく、だ。俺は絶対にあの王子を許さない!」
結局、ダーヴィット様は何がしたいのか分からないまま、「許さない」なんて言葉を残して、腫れた頬を披露するだけして帰って行った。
全くもって同情の気持ちの生まれない怪我人だった……
(──殿下、私はもっとあなたの作った傷よりもボコボコにして見せます────……)
そんな決意をしていたら……
「ん?」
(……ダーヴィット様が乗っている馬車の音の向かっている方向が公爵家の方じゃないわね)
おそらく、別の令嬢の元を訪ねてよしよしと慰めてもらうつもりに違いない。
ついでにエミール殿下にやられた、と被害者ぶるに違いない。
「……やっぱり彼女たちの前でダーヴィット様の本性を暴露させることも必要かしら……」
(女性はね、怒らせると怖いのよ? ダーヴィット様……)
そう呟きながら、私は着々と“その時”に向けて準備を進めることにした。
そしてその日の夜───
「え? エミール殿下が騎士団に混ざって訓練を始めた、ですか?」
その日、王宮に行っていたお父様がそんな驚きの話を持ち帰ってきた。
「本当なんだ。昔から鍛錬とかそういうことは苦手で稽古の時間になると逃げ回っているような王子だったから驚いたよ」
「……ど、どうしてしまったのでしょう……?」
私が訊ねるとお父様がうーんと考え込んだ。
「なんでも短期間でどうしても可能な限りで鍛えたい! そう言って頼み込んだらしい」
「ふふ、鍛えたいだなんて……お父様が聞いたら飛び跳ねて喜びそうな話ねぇ……」
お母様がクスクス笑いながらそう言った。
確かにお祖父様なら大喜びする気がする……
(エミール殿下……どうしてしまったの……?)
殴ったり、鍛えようとしたり……
「そんな第二王子から、フィオナ宛に手紙を預かったんだけど」
「……え!?」
お父様のその言葉に私の心臓がドクンッと大きく跳ねた。
「わ、わ、私、に?」
「ああ。ほら」
そう言ってお父様が預かっていたという手紙を懐から出すと私に渡してくれた。
(手、手が震える……)
どうにか手紙を手にした私にお父様は言った。
「ところで、フィオナは殿下たちに彼をボコボコにする為の協力を求めたのかい?」
「協力?」
「うん。実はその手紙を預かると共に、一緒に渡された物があってね」
「?」
そう言ってお父様が私に見せたのは……
「こ、これは公爵家の……機密情報!?」
「そう。ダーヴィット殿のやらかしを揉み消すのに加担した貴族のリストってところだね」
「なぜ……」
私が殿下に頼むとしたら、せいぜいあのパーティーで聞いた話を証言してもらう時くらいのつもりだったのに。
(どうして……?)
「……と、いうわけで僕はこのリストを元に下っ端を先に潰しておくことにする」
「お、お父様……」
お父様はとっても爽やかな笑顔なのにとっても物騒なことを口にした。
そして、私にそのリストを渡して来た。
「え? お父様持っていなくていいのですか? これから潰しにかかるのでしょう?」
「うん? あぁ、大丈夫だよ。リーファに見せておいたから」
そう言われてお母様の顔を見たら、ニコニコと微笑んでいた。
(あ! そうだったお母様は記憶力が……)
「ただ、下っ端を潰しておくのはいいけど、ちょっとあちこち地方を回らないといけないのがなぁ……」
「フィオナを一人にするのはちょっと心配なのよね……」
「“両親不在”って嫌な予感がするからね」
「ええ……」
(……なんでそんな深刻そうな顔を?)
お父様とお母様は顔を見合せながら、どこか心配そうにそんなことを口にしていた。
────……
「……エミール殿下から手紙だなんて……」
話を終え、部屋に戻った私の手にはお父様から渡された“エミール殿下”からだという手紙。
先程から開封しようとしているのに、手が震えてうまく開封出来ずにいる。
「し、しっかりしなくちゃ!」
私は何度も深呼吸を繰り返して、ようやくその手紙を開封した。
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