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~ダーヴィット・アディオレ~
しおりを挟む「───ダーヴィット様の頬、とっても痛そう。大丈夫ですか?」
「あぁ、なんとかな」
くるくるした髪の(名前は忘れた)伯爵令嬢は、ベッドの上で俺の頬に触れるか触れないかの距離まで手を伸ばしながらそう言った。
「噂でしか知らないですけど、エミール様も酷いことするんですねぇー……」
「本当に噂通りのとんでもない王子だよ」
俺は気持ちよく喋っていただけなのに、突然この俺を殴りやがった! 俺がいったい何をしたっていうんだ!?
出来損ないの王子のくせに! 思い出すだけで腹が立ってくる!
「エミール様って、この間の誕生日パーティーには参加していましたけど、普段は社交界にも滅多に顔を出しませんから、謎なんですよね~」
「はんっ、あんなのただの阿呆で使えない野蛮な王子さ。双子なのにあんなにも違うなんて気の毒だとは思うけどな!」
俺はエミール殿下を小馬鹿にし、笑った。
この女も「そんな言い方は不敬ですよ~?」と言っているが、顔が笑っている。どの口が言ってやがるんだか。
「だが、やはり貴族令嬢としては、あんな阿呆でも殿下の婚約者になりたいと思うものなんじゃないのか?」
「んー……お父様は、私をどうにかしてどちらかの王子様の婚約者候補にねじ込みたいそうなんですけど~」
そう言って俺に抱きついてくる。
お馴染みの香水がフワッと香る。俺が贈った香水だ。
この女を王子の婚約者候補にねじ込む? 俺とすでに何度も関係を持っているくせに笑わせてくれるな。
「……」
(目がくりっとしていて顔も可愛いし……何より身体の相性がいいからなぁ……)
名前を覚える気にはならないが、この女はフィオナと結婚した後もキープしておきたい令嬢の一人だ。
(お堅くて平凡でつまらない地味なフィオナとは、どうせ夜の情事は楽しめないだろうからな)
そのためにも、定期的に夜の相手をしてくれる令嬢は絶対に残しておきたいところだ。
フィオナには、とにかくさっさと跡継ぎを産ませておけばいいだろう。
そうすれば、俺の両親も満足。フィオナも公爵家の嫁としての責務を果たしたと満足!
その後は放置でもいいだろう。
(公爵夫人の地位になれるんだ。それも本望だろうよ)
「──本気で殿下たちの婚約者候補に?」
「お父様が言っているだけですよ……でも、ダーヴィット様がこのまま、あの婚約者のフィオナ様と結婚しちゃうなら王子様に乗り換えるのもいいかもー……」
俺は、ははは、と笑う。
「純潔ではない令嬢はさすがに王子の婚約者としてはダメだろう?」
「でも、王にはならないエミール様の方なら、そこまで気にしないと思うんですよー。どうせ本人も散々遊んでいるはずだし、おあいこだと思いません?」
「……」
(チッ、まずいな……)
このままでは、お気に入りのこの女をエミールの奴に取られてしまう……
それは許せ……
……いや、待てよ? 俺が散々楽しんだ後の女をエミールの野郎にくれてやるのも有りか?
自分が初めての相手ではないと知った時の奴の顔が見てみたい気も──……
(だが、もう少し楽しんでおきたいからな)
「ははは、そんな悲しいこと言わないでくれよ」
俺はそっと、彼女を抱き寄せてキスをする。
すると、すぐに俺にうっとりした顔になる。チョロいな!
「だってぇ、私がダーヴィット様の婚約者になりたかったのにぃ……! どうして? どうしてあんな大して可愛くもなくて取り柄もなさそうで、冴えないフィオナ様なんかを選んだんですか? やっぱり身分ですか!?」
自分の方が爵位は下のくせによく言えるな。
まぁ、フィオナに対して思うことは同意しかないが。
そして、俺がフィオナ選んだ理由?
(そんなの───俺にとって便利な侯爵令嬢だったからさ)
フィオナ以上に理想の女はいないと思う。
だが、そうとは口に出さずに俺は曖昧に微笑む。
「……ダーヴィット様は、もうフィオナ様とはしたんですか?」
「さあ?」
「もう! ひどいです。あ、でも、こうして私の所に来てくれるということは、フィオナ様じゃ満足出来なかったということですよね~? ふふ、悪い人……」
「俺が悪いなら、君も共犯だぞ?」
「もう……」
(ははは、やっぱり女なんてチョロいな!)
「───じゃあ、今日も俺を満足させてくれ」
「ふふ、喜んで」
俺は、妖艶に微笑む彼女の来ていたドレスを脱がそうと手をかけた。
────
「……確かに香水の匂いが移っている……か?」
俺は自分の身体から香ってくる匂いを嗅ぎながら思った。
「フィオナは、すぐヤキモチを妬くからな……」
くるくる髪の伯爵令嬢を思う存分に味わった俺は公爵家には帰らずにフィオナの元に向かう。
もちろん、ついでに薔薇を買っておくのも忘れない。
マメに顔を出してはせっせと愛の花を贈る婚約者……
フィオナもこんな俺が婚約者でさぞ嬉しいことだろう。
───ダーヴィット様は、もうフィオナ様とはしたんですか?
さっき言われた言葉を思い出す。
フィオナとは、ガードが固すぎてキスすら出来ていない。
俺のことを好きなはずなのに、何故かそういう触れ合いは拒んでくるフィオナ。
おそらく、あのお堅くてつまらない思考で婚姻前の男女が触れ合うのは良くないとでも思っているのだろう。
そのせいで、まだ何も出来ていない……が。
「そろそろ少しくらいなら、味見しても許されるだろう…………だって、俺は婚約者だしな!」
(今日はフィオナを少し味見してみるとするか────……)
そう決めて俺は慣れた道を通って婚約者の元に向かった。
◇◇◇
「……シャーーー!」
「え? にゃんこさん?」
「ニャーーー!!!!」
ここ数日間、エミール殿下とは毎日のように手紙のやり取りが続いていた。
そのせいで、困ったことに私は毎日毎日、エミール殿下のことばっかり考えてしまっていた。
そうしていると、何だかどんどん頬が熱くなって来てしまったので、少し熱を冷まそうと思い、お庭でにゃんこさんJrと戯れることにした。
(癒し……にゃんこさんJrは私の癒しだわ! そして、ようやく気持ちも落ち着いてきたーーー)
そう思った矢先、突然にゃんこさんJrが荒ぶり始めた。
「ど、どうしたの? にゃんこさん?」
「シャーー!!」
「え? どうしたのですか?」
「ボブさん!」
私はボブさんに助けを求める目を向けたけれど、ボブさんも理由が分からず困惑していた。
「ボブさん、にゃんこさんはどうしたのかしら?」
「キョロキョロしているので(悪い)何かを察知したのかもしれません」
「何かを……?」
この荒ぶり方は尋常じゃないわよ?
よほど危険な何かを察知したということ?
私が不思議に思って首を傾げていると……
(!)
「─────はっ! 来る」
「ニャァァァーーーー!」
(……まだ、少し遠いけれど)
我が家の方向に向かってくるアディオレ公爵家の馬車の音を私の耳が拾った。
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