【完結】“便利な女”と嘲笑われていた平凡令嬢、婚約解消したら幸せになりました ~後悔? しても遅いです~

Rohdea

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第22話 撃退

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「フィオナお嬢様は、我らがマーギュリー侯爵家の大事な大事な宝でしてね?」
「うっ……ひっ!?」

 ボブさんは一歩一歩ゆっくりとダーヴィット様へと近づいて行く。

「そんなお嬢様になんたる暴言……それに(私の可愛い可愛い)にゃんこさんJrにまで暴言を……」
「ニャ?」
「ひっひっ……」
「それで?  あなた様はいったいどのような地獄を私に見せてくれるのでしょう?」
「ひぇ、俺、じご……うぅ……く、来るなっ!」

 ボブさんが近付くたびに、ダーヴィット様の顔色がどんどん悪くなっていく。
 あと、恐怖?  のせいか言っていることが支離滅裂。

「それに……我らがフィオナお嬢様は、この国の未来の──(王子妃となられるお方なのですよーーー!)」
「!?  う、うわぁあーーーーこ、ころっ……!」

 ダーヴィット様の顔が恐怖で歪む。

「フギャーーーーー!」
「にゃんこさんJr!  やっちゃってください!!」
「ニャーーー!」

 アイコンタクトを交わした一人と一匹が息の合った呼吸でダーヴィット様に向かう。

「や、やめ……ぐっぁぁぁぁあーー」

(すごいわー……ところでボブさん、今なんて言ったの?)

 ボブさんと、再度にゃんこさんJrから攻撃されたダーヴィット様の情けない悲鳴でかき消されてしまったこともあり、ボブさんの言っていた私がこの国の未来の……の続きはよく聞こえなかった。


────


「ニャー!」
「はい、やりましたね!  にゃんこさんJr」

 一人と一匹の攻撃を受けて腰を抜かしたダーヴィット様は、半泣きになりながらも、「もももももう、き、き、今日……は……かかかか帰る……!」とだけ言って必死に地面を這いつくばるようにして命からがら逃げ帰って行った。

「ふふ……にゃんこさん、ボブさん、ありがとう」
「ニャ!」
「いいえ、フィオナお嬢様の為ですから!」

 ボブさんがいつものニカッとしたいい笑顔を見せてくれる。

「だけど、私が侯爵家の宝だなんて恥ずかしいわ」
「何を仰いますか!  お嬢様たちはマーギュリー侯爵家の宝です!」
「ニャー!」

(お嬢様たち……ここにはいない弟のこともちゃんと大事に思ってくれているのね)

 マーギュリー侯爵家の跡継ぎでもある弟は、お父様のことがとにかく大好きで、かつてのお父様に倣うようにして現在留学中だ。

「それに、フィオナお嬢様は(王子殿下とはビビビッ……運命のお相手ですから!)何がなんでも守らないとなりません!」
「そんなに?  どうして?」

 私が聞き返すと、ボブさんは何でもありませんよ……とだけ言って首を横に振った。

「ああ、でもお嬢様、今日の出来事は殿下にも報告しておくべきです」
「殿下って……エミール殿下に?」
「はい。(だって、殿下はお嬢様のビビビッ相手ですから!)やはり、今日のことは殿下も知っておいた方がよろしいかと思います」
「そ、そう……よね」

 ──我が家の勇敢な猫さんナイトとかっこいい庭師に守ってもらいました。

 そんな私からの手紙を読んだらエミール殿下はどんな反応をするかしら?
 想像するだけでつい笑がこぼれた。

「それにしても、ダーヴィット様の顔がすごいことになっていたわ。さすがにゃんこさん!」
「ニャー!」

 あんなに荒ぶっていたはずのにゃんこさんJrは、もうすっかり落ち着いている。

「やっぱり、あの何とも言い難い気持ち悪さといい、今日のダーヴィット様はよからぬことを考えていたのかしら?」
「ニャーー!」
「だって、二人で過ごしたいだなんて……ダーヴィット様は今までそんな言い方したこと無かったもの……」

 だからこそ、今日の彼はとにかく気持ち悪い!  そう思った。

「とにかくこれで、あの人の自慢の顔は台無しね」

 殴られた頬はエミール殿下にやられたと被害者ぶっていたけれど、このにゃんこさんJrに引っ掻かれた傷はなんと説明するつもりなのかしら?

「ああいう男は自分の顔をカッコイイと思っていますからね、あの傷はショックでしょう」
「カッコイイ……」

 ボブさんのその言葉にふと思った。
  
 顔のかっこよさなら、断然、エミール殿下が一番だと思うわ────……
 それに、エミール殿下のかっこいい所は顔だけじゃないし。
 あと、双子だけどジュラール殿下よりもエミール殿下の方が断然カッコイ……

(……って!  私はいったい何を考えて……!?)

 私の頬が一気に熱を持つ。
 慌てて頬を押さえてみると、かなり熱くなっている。

(もう!  まただわ……エミール殿下のことを考えるだけですぐにこうなっちゃう!)

「ニャー?」
「な、なんでもないわ、にゃんこさん!」
「ニャー……」

 にゃんこさんJrの私を見る目が、なんだか生あたたかく感じた。

「───それにしても懐かしいですね。リーファ奥様の時も、私が小物男を撃退したことがあるのですが……」
「え?  ボブさんが撃退?」
「はい。勘違いの甚だしい、それはそれはとてもとても愚かな男でした……」

 ボブさんはそう言って過去を懐かしむような目をした。
 ボブさんは昔から庭師のはずなのにまさかの撃退要因だったの?  なぜ!

(それに言い方!  どれだけ愚かだったの……その人)

「リーファ奥様を酷く傷付けて棄てたくせに再度、自分のために利用しようと奥様を付け狙っていた小物男は、“ひ、ひぃぃぃーー!  ど、ど、どうか……す、すぐに帰りますから……い、命だけは勘弁をーーーー!”と命乞いをして泣き叫んでいましたよ。ちょっとあの男と似ていますね」
「棄てた…………その方ってもしかして、お祖父様が物理的にボコボコにしたという人……?」

 私が聞き返したら、ボブさんはニカッといつものいい笑顔で頷いた。



◆◆◆


「ジュラール!  ダーヴィットの奴が!」
「何だ?  今度は何をやらかしたんだ?」

 エミールはその日、マーギュリー侯爵令嬢から届いた手紙を読むなり慌ててジュラールの元に向かった。

「マーギュリー侯爵家の猫さんに引っ掻かかれたそうだ!」
「……は?  あいつはバカなのか?  しかも何でそんなことに?」

 エミールとジュラールは顔を見合せながら首を傾げた。

「手紙によると……マーギュリー侯爵令嬢はダーヴィットの訪問に嫌な予感がしたとかで、屋敷の中ではなく庭でダーヴィットを出迎えたらしいんだ。そこで現れたダーヴィットを見て猫さんが荒ぶったらしい……」
「……あー……彼女はあれか?  野生の勘でも働くのか!?」

 ジュラールのその言葉を聞いたエミールがポツリと言う。

「……僕もムキムキを目指すだけではなくて、野生の勘も鍛えないとダメなのかな……」
「エミール……」

 ──野生の勘は鍛えるものじゃないだろう!
 そんな突っ込みをジュラールは喉まで出かかっていたが飲み込んだ。

「結構、厳しく鍛えてもらっているはずなのに見てよ?  この細腕……」

 エミールはなかなか思い通りにムキムキにならない腕を見せる。そして頭を抱えた。

「それに、彼女の騎士ナイト役を猫に……猫さんに取られてしまった……もちろん、彼女を守ってくれた猫さんには感謝しかないけど!」
「そ、そうか……」
「せっかく、マーギュリー侯爵令嬢が、ドン引きせずに、“ムキムキした殿下とお会い出来る日を楽しみにしています”“ムキムキになられたら特に祖父母が喜びます”って返事をくれたんだよ?」
「祖父母?  よく分からないけど、すごい返事だな……」

 何故ここに祖父母が出てくる?
 エミールは普通に受け止めているようだが、マーギュリー侯爵令嬢の祖父母ってどこの家の者だったけ?  とジュラールは内心で思った。

「これでは、“第二王子って口も身体もペラペラな男だったのね”と、ガッカリさせてしまうよ……!  ただでさえ、僕は悪い印象しかないだろうに!  それは嫌だ!」
「エミール……」
「───早く“本当の僕”で彼女に会いに行きたいけど……まだ、会えそうにない」

(今の僕に出来ることは、ダーヴィットの素行調査の手伝いのみ───……)

 恋する乙女───エミールは苦悩していた。

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