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第43話 プロポーズ
(あ、あれぇ……?)
「───いつか私のことを好きになってください!」
好きですという告白に続けてそう言った……はずだった。
なのに、何かがおかしかった。
───いつか僕のことを好きになってくれ!
(エミール様の口から、そう聞こえた気がする……)
エミール様もエミール様で「あれ?」という表情をしている。
私たちは完全に二人揃って困惑していた。
「……」
エミール様には助けてもらったあの日からたくさん優しくしてもらった。
それは、愛とか恋とかそういうことではなく、エミール様が優しい人だから私のことを放っておけなくて……
だから、これから私のことを好きになってもらいたい!
そのためにもエミール様好みのムッキムキの女になって……とか色々考えたけれど……
(もしかして、エミール様も私のことを“特別”に思ってくれている……? 私の気持ちと一緒?)
「え、えっと、フィオナ? 今、君は……」
「エ、エミール様こそ……」
「……」
「……」
互いに恥ずかしくなって照れてしまっているせいで、互いを見つめ合う私たちの顔は真っ赤だ。
私はギュッと自分の拳を握り込む。
(───こ、こんなの私らしくない!)
もう一度当たって砕けろ……じゃない、とにかくもう一度、私の気持ちを───
と、思った時だった。
私と同じように顔を赤くして照れくさそうにしていた(なんならその様子も可愛かった)エミール様が動いた? と思ったら突然、目の前で跪いた。
「エ、エミール、様? な、何を……?」
「……」
戸惑う私の声には答えずにエミール様はそのまま私の手を取るとじっと見つめて来た。
───ビリッ
(あ……!)
その刺激に驚いて一瞬手を離しそうになったけれど、エミール様は逃さないとばかりにギュッと強く私の手を握った。
「────僕は、フィオナのことが好きだ」
「エミッ……っ!」
それはエミール様からの真剣で偽りのない真っ直ぐな告白だった。
「ジュラールの振りをしていた僕と初めて会ったパーティー……君を助けようとしたあの日は偶然だった。僕は令嬢たちに絡まれた君を偶然見かけた」
「は、い……」
私が頷くとエミール様が少し寂しそうな表情で語る。
「あの日のパーティーでの僕らはもともと入れ替わってはいなかったけど、あんな風に誰かのため───人助けとかをするのはエミールではなく“ジュラール”の役目だったんだ」
ギュッ
さらに強く手が握られる。でも、少しだけその手は震えている気がした。
「そうして、フィオナ。君を助けた僕だけど…………どうしてか、僕はずっと君を忘れられなかった」
「え?」
「……」
私が聞き返すとエミール様はいつもの優しい……私の大好きな笑顔を見せてくれた。
(む、胸が……! キュンキュンする……!)
「泣き顔よりも笑ってくれたらいいなって思った」
「……」
「見せてくれた笑顔が可愛いかったなと思った」
「……」
「今、何しているかな? 泣いていないかなって、ずっと頭から離れず心配していた」
「……」
「そして───君の婚約者だった……ダーヴィットの存在そのものに腹が立って仕方がなかった」
エミール様は、チラリとダーヴィット様に視線を向ける。
ちょうどダーヴィット様は、弄んだ令嬢の一人に平手打ち喰らっていた。
(すでに頬が赤い……今のは何人目かしら?)
「──フィオナ」
「は、はい……」
名前を呼ばれてエミール様に視線を戻す。
「こんな気持ちを抱いた時点で、もう僕はすっかり君に恋をしていたんだけど……」
「……」
「その後も見せてくれた可愛いところ、パワフルなところ……気付けば僕はすっかり君の虜になっていた」
「と、とりこ……」
そこまで私のことを想ってくれていたのだと知って、さらに胸がドキドキしてキュンッとする。
「僕はまだまだで……君よりも圧倒的に弱い軟弱な男だけど───それでも僕はいつだって君を守りたい。その可愛くて弾けそうな笑顔をずっとずっとずっと隣で見ていたい」
「ずっと、とな、りで?」
(それって……)
そう思った私が聞き返すと、エミール様は微笑みを消して真面目な顔つきになって言った。
「────フィオナ・マーギュリー侯爵令嬢。僕は貴女のことを愛しています」
「!」
「どうか……僕と婚約して────一緒にこれからの人生を歩んでくれませんか?」
「エ、エミール……さま」
まさかのプロポーズに驚いた私は目を大きく見開いて、目の前のエミール様をじっと見つめた。
「──っ! ぼ、僕と結婚すると……お、王子の妃なんていう、ちょっと面倒くさい地位が待っていることにはなるんだけど……えっと……でも、王太子の座はジュラールに押し付けることは変わらないし……だ、だから……」
私にじっと見つめられたエミール様は、先程までのビシッとしていた姿が嘘のように、いつものエミール様に戻ってしまった。
何だかそのギャップが可笑しくて笑いが込み上げて来てしまう。
(しかも、王子妃の地位を面倒くさいって……王太子の座は押し付けるって……)
エミール様は私がそういった権力の座に興味が無いことを分かってて言っている。
そう思ったらどんどん笑いが込み上げて来た。
「フィ、フィオナ?」
「ふふ、ふふふ……あはっ」
「え? え? な、なに?」
突然、笑いだした私にエミール様は吃驚してオロオロしている。
(本当に……かっこよくて可愛くて……大好きだわ)
「───エミール様!」
「!?」
私は自分もしゃがみ込んでエミール様をギュッと抱きしめる。
「私もあなたが好きです……大好きです!」
「フィ……」
「私も強くてかっこいい……でも、どこか可愛くて、そして優しいあなた……エミール様の隣にこの先もいたいです」
「……フィオナ!」
私の言葉にエミール様は嬉しそうな顔を見せる。
「───そしてこの先、あなたを傷つけようとする者は、私がこの手で必ずメッタメタにしてみせます!」
「メッ!?」
嬉しそうだったエミール様の声が困惑の声に変わってしまった。
なので、私は安心して欲しくてとびっきりの笑顔を見せる。
「ええ、メッタメタです。あ、ボコボコでもいいのですが、何でもかんでも殴って解決するわけにはいきませんので……」
「メッタメタ……」
第二王子は無能でも阿呆な王子でもなかった──
私がこの場で真実を明かしてしまったから……そのことで、きっとこれからエミール様を取り巻く環境は大きく変わるはずだ。
(だから、私があなたを守るの!)
「───ハハッ、アハハッ! もう、本当にフィオナらしいよ」
「エミール様?」
「プロポーズの返事にメッタメタとかボコボコとか……そんなことを口にするのは、フィオナだけだよ」
「そ、そうですか……?」
「でも、フィオナらしいよね」
エミール様は笑いが止まらないのかお腹を抱えて笑っている。
そんなにおかしかった? まぁ、確かに令嬢らしい発言ではないけれど……
「──今日、君の強さを間近で見て、更にその発言を聞いて、それでも僕に手出ししようとする者がいたら、それこそただの阿呆だろうね……ハハハ」
エミール様はひとしきり笑ったあと、そのまま立ち上がった。
手を貸してくれたので、その手を取って私も立ち上がる。
「フィオナ」
「は、はい! ──────え?」
名前を呼ばれた瞬間、エミール様はサッと私を横抱きにして抱えた。
それはまるで流れるかのようにとてもスムーズだった。
「───!?」
「これから、二人っきりなれる所に行こうか?」
「ふたっ!? え? でも! パーティー……」
私が戸惑いの声を上げると、エミール様はにこっと笑って言った。
「───大丈夫だよ。そこに本物の“ジュラール”がいるからね!」
「え?」
そこ……そう言ってエミール様は会場の扉の入口にチラリと視線を向けてそう言うと、扉の入口付近からは確かに聞き覚えのある声が聞こえた。
「……んえっ!?」
(あら? ほ、本当に……いた)
「そういうことだから───ジュラール、あとはよろしくね!」
「は? お、おい……待て! エミール!!!! こらっ!」
(えーーー!)
エミール様は私を抱えたまま、悪戯っぽい笑顔で駆け出した。
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