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第44話 二人の時間
しおりを挟む「おい! エミール! このカオス化した会場を僕にどうしろと言うんだよーーーー……」
そんなジュラール殿下の悲痛な叫び声を背に颯爽と駆け出したエミール様は、会場から離れて文句の声が聞こえなくなると走るのはやめて歩き出した。
ここまで来ても私を降ろす気はないらしい。
私は落ちないようにとギュッとエミール様の首に腕を回しながら訊ねた。
「……い、いつから、ですか?」
「うん? いつ?」
「エミール様はい、いつからジュラール殿下があそこにいると気付いていたのですか?」
「え? ジュラールが? ああ──……」
実は、私はジュラール殿下が来ていることに全く気付いていなかった。
パーティー会場は人が多くて、色々な人の声をずっと拾っていたから仕方がないのかもしれないけれど……
なぜ、エミール様は気付けたのかしら?
「ジュラールが扉の前に着いた時から気付いていたよ」
「え!」
(いったい殿下はいつからいたのかしら……?)
エミール様はそんな私の疑問を拾って説明してくれた。
「結構早くからいたよ。ただ、すごくタイミングが悪くてね……会場内がとんでもない状態にどんどん向かっていっている時だったからかな、すごく躊躇っていた」
「そ、そうでしたか……」
「それに……多分だけど、今更、どんな顔して入ったらいいのかも分からなかったんじゃないかな?」
「どんな顔? あ……!」
本日の二人が入れ替わっていたことは皆にもう知られてしまったから……
ずっと扉の影で話を聞いていたなら、今日の自分は“エミール殿下”で登場するつもりだったけど、どうすれば? と悩みたくなるのは当然だ。
「私は全く分かりませんでした」
「そうなんだ? そこは……うーん、やっぱり僕らは双子だからかもしれないね」
「……」
「きっと、僕らの間にだけ通じるものがあるんだよ」
そう口にするエミール様の顔はどこか嬉しそうだった。
「……」
(前々から思っていたけれど、二人は本当に仲の良い兄弟なんだわ)
双子でしかも王子などという立場だと、お互いに王位を巡ってギスギスした関係になってもおかしくないのに。
これまでエミール様の口からジュラール殿下の悪口を聞いたことは一度もない。
そんな二人の仲の良さにほっこりしながら私は思った。
(私、エミール様のこういう所も……好きだわ)
私は自分の家族のことが大好きだから。
家族を大切にする人が好き。
(そうよ……ダーヴィット様みたいにあんな風に父と子で醜く罵り合うのはちょっと……)
「フィオナ? どうかした? 可愛いフィオナの顔の眉間に皺が寄ってしまっているよ?」
「……!!」
(か、か、可愛いとか…………また、そういうことを!)
改めて意識すると何だかとても恥ずかしい。
「い、いいえ。な、何でもないです……そ、そそそそれよりも、エミール様は今、どこに向かっているんですか?」
エミール様は二人っきりになれる所と言ったけれど、いったい……?
私は王宮に詳しくないのでさっぱりだ。
「──うん、僕の部屋」
「ああ、なるほど僕の部屋ですか。僕の…………のおぉぉお?」
あまりの衝撃に令嬢らしからぬ声が出てしまった。
(僕の……僕のって僕……僕……エミール様のお部屋!? え? そんないきなり!?)
私たちはまだ、お互いの気持ちを確認しあったばかりなのに……と、あまりの展開の早さに動揺してしまう。
「あははは! フィオナって面白い声も出せるんだね?」
「……えっ! あ、えっと……」
そんな私の気持ちを知ってか知らずかエミール様は楽しそうに笑いだした。
「可愛くて強くて面白くて……フィオナといると僕は楽しい」
「そ、そうですか?」
「うん。だからこれからも、そのままのフィオナでいて欲しい」
その言葉に胸がキュンとした。
(あぁ、頬が熱い……)
絶対に今の私の顔は赤いと思う。
「───さて、着いたよ」
「……っっ」
なんだかんだと色々と話しているうちに、いつの間にやらエミールさまの部屋へと到着していた。
────
部屋に入ったエミール様は、そっと私をソファに降ろした。
(あ……そういえば)
「う、腕……大丈夫でしたか?」
「腕?」
「会場からここまで、わ、私を抱えて……その、重かった……です、よね?」
「……」
私がそう訊ねると、エミール様はにこっと笑って静かに私の隣に腰を下ろした。
そして、手を伸ばすとギュッと私の手を握る。
「大丈夫。フィオナのおじいさん……伯爵に比べたら僕はまだまだペラッペラの非力な男だけど、これでも、鍛えてきたんだよ? フィオナの一人や二人なら全然運べるよ!」
「エミール様……」
「それに、これくらいは出来ないと、伯爵に“貴様は漢じゃない”なんて言われそうだよ」
「そんなことは──」
いくらお祖父様でも、さすがにないと思うけれど……
「フィオナ……」
「……んっ」
繋いでいた手が離されたと思ったら今度はそっと私の頬に触れた。
(今、ピリッとした……)
「……ずっとずっと君にこれくらい近付ける日を夢見ていた」
「あ……」
「だから今が本当に夢……みたいだ。幸せだよ」
「……っ!」
(あぁ、もう! そんな蕩けそうな顔でなんてことを言うの!)
エミール様の言葉の一つ一つが私の胸をキュンキュンさせる。
大好きって気持ちが言葉だけでなくもっと伝わったらいいのに。
そして、エミール様にも、私といてもっとたくさんドキドキして欲しい!
───そうだ!
そして、私は思いついた。
エミール様に私のこの溢れんばかりの気持ちが伝わって、かつ、ドキドキさせる行動!
これしかないわ。
(やるわよーーーー!)
私はグッと気合いを入れる。
初めてだから上手く出来るか心配だけど……
「エ、エミール様!」
「うん?」
エミール様がどうかしたの? そんな目で私を見てきたその瞬間、
私はえいっ! とエミール様に自分の顔を近付けた。そして──……
────チュッ
私の唇がエミール様の頬にそっと触れる。
「……」
(こ、これ……お、思ったよりも恥ずかしい……かも)
「……」
「エ、エミールさま?」
「……」
何故か、エミール様が無反応。
ピクリともしない。
さすがに、私からこういうことをするのは、はしたなかった? 呆れちゃった?
そんな心配が私の胸をかすったその時だった。
ボンッという音がしそうなくらいにエミール様の顔が真っ赤になっていった。
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