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第51話 幸せな時間
しおりを挟むまさか、私の知らないところでダーヴィット様が灰のように崩れ落ちて砂になっているなんて、知らなかった私はエミール様と目一杯のイチャイチャライフを満喫していた。
「エミール様、こんにちは」
今日も私は、王宮のエミール様の執務室にお邪魔する。
そろそろ、休憩時間のはずだ。
「───フィオナ!」
エミール様が嬉しそうな顔で出迎えてくれたので、私も思わずはにかむ。
「王宮に来ていたんだね」
「お邪魔ではありませんか? 忙しいなら出直しますけれど……」
「まさか! これから休憩するところだったんだ」
そう言ってエミール様は私を部屋の中に招き入れた。
「殿下、我々は休憩がてらコーヒーを飲んできます」
「うん……?」
「どうぞ、フィオナ様と思う存分仲良くお過ごしください」
エミール様の側近たちはそう言って部屋を出て行く。
私たちは顔を見合せた。
「皆さん、いつも気を使わせてしまって申し訳ないです」
「イチャイチャ作戦のことは話してあるからかな。なるべく二人きりにしてくれようとするんだよね」
「でも、おかげで効果も出て来ましたし……」
イチャイチャ作戦が功を奏したのか、新たに私からエミール様を奪おうなどという阿呆な連絡をしてくる家や令嬢たちは居なくなったという。
最初にエミール様に愛妾話を持ちかけて来た家も、慌てて取り下げたり、中には泣きながら我が家に謝罪に来た家もあった。
(頼むから家は潰さないでくれ……って)
アディオレ公爵家をボコボコにした件のせいなのかもしれないけれど、皆、私をなんだと思っているのかしら?
(───私は至って平凡な令嬢のままなのに!)
人を潰し屋みたいに言わないで欲しいわ!
「そ、それで? フィオナ……今日はどうしたの?」
「は、はい……その……」
「その?」
「す、少しでもこれからのエミール様のお力になりたくて! これを持ってきました」
私は手に持っていた本をエミール様に手渡す。
「これは?」
「お祖父様からお預かりした本です。エミール様にピッタリだろう、から渡してくれと頼まれました」
「伯爵……おじいさんから? 僕にピッタリな本?」
エミール様は不思議そうに本を受け取りチェックをしていく。そして、一冊、また一冊とタイトルを見て、どんどん目の色が変わっていった。
「こ、これは……“筋肉の仕組み”“ムキムキになる方法”“筋肉がつく食事方法”“ヒョロヒョロ男がムキムキになるまで”どれも、もう既に絶版になってしまった本じゃないか!」
「お祖父様がお祖母様の為にムキムキになる決意をした時に買い揃えた本なのだそうです」
「ああ、なるほど……!」
(お祖父様は絶対に喜ぶはずだ! と胸を張っていたけれど本当に喜んでいるわ)
「特にこの、ヒョロヒョロ男がムキムキになるまで、という本は興味深くて一度は読んでみたかったんだ!」
「お祖父様も大変、参考になったと言っていました」
「だろうなぁ……」
そんな嬉しそうに笑うエミール様を見て自然と私の顔が綻ぶ。
お父様やお母様は、そこまでムキムキに拘りがない。昔、二人は少し試したけどムキムキにはなれなかったそうだし。
留学中の弟も身体を鍛えるよりは、勉強の方が好きなので筋肉には見向きもしない。
なので、ここまで興味を持ってくれるエミール様のことをお祖父様は大変気に入ったそうだ。
(エミール様は見た目は全然変わらないけれど、かなり力はついたと思うのよねぇ)
「……フィオナ」
「は…………い?」
言っているそばから、エミール様はひょいっと私を抱き上げて横抱きにする。
そして、部屋の休憩スペースにあるソファまで私を運んだ。
「ど、どうして、この距離でわざわざ抱っこするんです?」
「……」
そこですぐには答えず、ポッと頬を染めるエミール様。
つられて私も赤くなる。
(あぁ、胸がキュンキュンするわ……!)
「……フィオナ」
「あ……」
目が合ったエミール様の優しい手がそっと私の頬に触れる。
「……」
「……」
最近、気付いた。これはエミール様からの“キスがしたい”の合図───……
だから、私がそっと瞳を閉じるとそのまま優しいキスが降ってきた。
───チュッ
エミール様はキスがお好きなのか、一度火がつくとなかなか止まらない。
可愛いと思うことも多いエミール様だけど、こういう時の彼はとにかくかっこいい。
「……フィオナ」
「は……い…………んっ」
「フィオナ、愛し───」
エミール様が私の背中に回した腕にギュッと力を込めたその時。
「──おーい、エミール。間違ってエミールの仕事の資料がこっちに紛れ────……」
ガチャッと扉が開いて人が入って来る。
もちろん、こんな風に堂々とやって来れるのは一人だけ。
「……あ!」
「……」
「……」
ソファの上でイチャイチャする私たちを見たジュラール殿下の手元からバサッと資料が落下した。
「お、お、お前たち! 何で、そ、そんな所で……イチャ……」
「休憩時間だから」
間髪入れずにそう答えるエミール様にジュラール殿下は真っ赤な顔で頭を抱えた。
「くっ! 失敗した……休憩時間だったのか! なら、こういう時は鍵をかけろ!」
「え? ダメだよ。鍵なんてかけたら、僕の理性さんが行方知らずになっちゃうから」
「───知るか! 全力で捜索してしっかり繋ぎ止めろ!」
ジュラール殿下が全力で突っ込みを入れながらそう叫んだ。
「───頼むからもう、さっさと結婚しちゃってくれよ!」
「うーん、僕もそうしたいんだけど、王族は色々と手続が面倒だよねー……」
「こっちは未だに独り身だというのに……王宮内に甘い空気ばかり振り撒いて……くっ! この溺愛王子め!」
「ジュラール? なにそれ?」
ジュラール殿下が言うには、今、エミール殿下はかつて噂されていた阿呆王子ではなく、溺愛王子として噂になっているという。
「はぁ……───エミールがムキムキになるならない以前に、もう僕たちの違いは誰の目から見ても明らかなんだそうだ」
「え? どうして?」
エミール様が不思議そうに首を傾げた。
「お前がいつでもどこでも恋するおと……この顔をしているからだ!」
「恋する……? いつでもどこでもフィオナを愛しているんだから当然だろう?」
「それが、ダダ漏れているんだよーーーー!」
「ダダ漏れ……?」
そんな会話をしている二人を見ながら、今日も仲良し兄弟だわ、と私も嬉しくなる。
「……ふふ、私もレインに会いたくなってきました」
「!」
私が久しく会っていない弟を思い出しながらそう口にすると、エミール様がガバッと勢いよく振り返った。
(ん?)
どうしたのかしら?
エミール様ったら、何とも形容し難い表情をして私を見ているのだけど。
その表情の意味が分からず、私は首を傾げた。
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