【完結】素直になれない意地っ張り令嬢、ツンデレ極めたら愛され令嬢になりまして。

Rohdea

文字の大きさ
3 / 27

3. 運命の出会い

しおりを挟む


(え?  なにしてるの、あの子……)

 そのパーティーで見かけた令嬢はテーブルの上の料理を見ながら目をキラキラ輝かせていた。

(えっと、あれは確か……) 

 今日、社交界デビューを迎えたシャンボン伯爵家の令嬢のフルール様……だったかしら?
 わたしが名前を必死に思い出している間も、彼女はキラキラした目で料理を物色している。

(阿呆なの?  今日のパーティーは珍しく高位貴族の独身男性がたくさん参加しているのよ?)

 確か彼女は兄をパートナーにしていた。
 だから、見た目は結構可愛いけれどおそらく婚約者はいないはずと睨んでいる。

(婚約者がいないなら、なおのこと今日のパーティーは狙い目でしょう!?)

 この令嬢は絶対、見るべきところを間違えていると思った。
 パーティーは最高の男性を捕まえるための場所。
 料理なんておまけにすぎないのに。

「うーん、どれも美味しそうで迷ってしまいますわね……」

(あ、声……可愛い)

 顔も可愛いけりゃ声まで可愛いときた。 
 何だか面白くなくてムッとした気持ちになる。

(いるのよね~、たまにそうやって何もかもが恵まれているような人!)

 わたしは、ついつい後ろから彼女のことを睨みつけてしまう。
 だけど、彼女はわたしのそんな視線には気付かずに、ただひたすら料理に夢中になっている。 

(変な子……)

 あのギラギラした肉食系令嬢たちの様子とかパーティーの雰囲気とか目に入っていないわけ?
 みんな食事なんてそっちのけで誰をゲットするか計算中なのよ?
 なんなら、お互いバッチバチに牽制しあっていて大変よ?

「──ふふふ、やっぱり!  とっても美味しいですわ~!  幸せ~」

 ついに料理を口にしたらしい彼女の可愛らしい声がわたしの耳に聞こえて来る。

(美味しいですわ、じゃないのよーー!)

 しかも、幸せですって?  随分とお手軽な幸せだこと。
 わたしは内心で思いっきり悪態をついてやった。

 しかし、それからも彼女は可愛い顔を綻ばせながら、とにかくどんどん料理を頬張っていく。

「……!?」

 わたしは自分の目を疑う。
 いや、待ってよ。
 それはさすがに詰め込みすぎでしょ。

「ん?  あっちの料理も美味しそうですわね?  …………えい!」

(は?)

 今度は隣のテーブルの料理に目をつけたらしく、キョロキョロと左右を見渡した後、腕を伸ばして料理を皿に乗せる。
 そして、これまた幸せそうな顔でそれらをたっぷり頬張る。

「ん~、やっぱり美味しい!  あら……あれは何かしら。んん、待って。あちらも捨て難いですわね……」

 今度はさらに別のテーブルの料理にも目を付けたらしい。

(は?  待ってよ、どれだけ食べるつもりなのよーーーー!)

 すでにかなりの量を平らげているように見えるのに。
 明らかに異色の存在とも言えるその令嬢、フルール様からわたしはしばらく目が離せなかった。


────


(う、嘘でしょう!?)

 異色の令嬢、フルール様を観察していたわたしは、またまた自分の目を疑った。
 コシコシ……
 何度、目を擦っても見るだけで胸焼けしそうな目の前の光景は変わらない。

(え……お皿……お皿、いったい何枚積み上げられているわけ?)

 フルール様は目ぼしい料理を見つけると、「美味しいですわ~!」と嬉しそうに、次から次へとテーブルを移動し平然とお腹の中へと収めていく。

(た、食べ過ぎじゃない?)

 フルール様の横には空っぽになった料理のお皿がどんどん積まれている。
 支給係もまさかこんな会場の片隅で料理が制覇されていっているとは思いもしないようで、片付けにやって来る気配すらない。

「んーそろそろ、甘い物も欲しくなりますわね……デザート……ないのかしら?」

(デデデデザートですって!?)

 わたしは目を剥いた。
 積み上げたお皿がグッラグラに傾くほど、料理を空っぽにしておいてさらにデザートを所望!
 この令嬢、どれだけお腹に入れれば満足するの?
 いいえ、それよりもコロコロ……このままでは間違いなくコロコロになるわよ!?

 だから、わたしは言ってやった。
 なぜか分からないけどここは言ってやらないと気がすまなかった。

「───ちょっと!」
「……?」

 とうとうわたしは後ろから彼女に声をかけた。
 ビクッと、肩を跳ねさせたフルール様がそろっと振り返る。
 すでに手にはゲットしていたと思われる焼き菓子が二つ握られていて、まさに口に入れるところだった。
 ちょっとタイミングを間違えた気がしたけれど、わたしも簡単には止まれない。

「このような場でそんなにガツガツとはしたない!  ……あなたはコロコロになりたいんですか?」
「え?  コロコロ?」

 フルール様はきょとんとした顔をわたしに向ける。
 そもそも誰?  って顔をしている。

 そして真正面から彼女の顔をまじまじと見ると、やっぱり憎いくらいの美少女だと感じる。
 ずるい……

(これくらいの可愛さがあれば、わたしだってあんなに振られないで済んだかも……)

 そうじゃなくて!
 今は……
 わたしは深呼吸してから口を開く。

「わたしは、パンスロン伯爵家のアニエスと申します!」
「パンスロン伯爵家の……?」
「あなた!  シャンボン伯爵家のご令嬢、フルール様とお見受けします!  先程から様子を見させてもらっておりましたが、あなた一体なんなんです?」
「え、えっと?」

 フルール様は面識のなかったわたしに突然、話しかけられて明らかに困っている。
 それでもわたしは止まらなかった。

「そのお皿の山!  どれだけ食べれば気が済むのですか?  このままではコロコロですわよ、コロコロ!  あなたはそれでいいんですか?」
「コロコロ……私がコロコロ?  コロー……」
「ええ。そうね。このままですと、そのドレスは二度と着られなくなるのではないかしら?」
「ドレスが!?」

 フルール様が過剰に反応する。

(おや?  どうやら、それは嫌みたいね)

 それならばとわたしは、その後もネチネチとフルール様を咎めていく。

(あ、これがわたしが嫌味っぽいと言われる理由かも)

 途中でそう思った。
 けれど、なぜか肝心のフルール様は、どこか心ここに在らずでぼんやりしている様に見える。

(は?  なにその顔……もしかしてわたしの話、全然聞いていないんじゃない!?)

「……っ!」

 そう思ったら、ますますわたしは止まらなくなってしまい、そこからまた延々とお説教を繰り返した。

「───聞いてますか!?」
「え、あ、はい……聞いていますわ!」

 なぜか満面の笑みが返って来た。
 なんで!?
 その後もぽやんとした緊張感のない顔でわたしを見つめている。

(……くっ!  なに、この話しても話してもあんまり響かない感じ……)

 それに、
 このフルール様のポヤポヤした顔を見ていると……
 ────ナタナエルを思い出す。

「……!」

 この時、わたしが彼女に対してついムキになったのは、ナタナエルを思い出したからだと気付かされた。



 フルール様とわたしは同い年なので社交界デビューの年が一緒だった。
 先にデビューしたのはわたし。
 続けて彼女もデビューしたあの日から、彼女をパーティーで見かけることが増えた。

 可愛らしい顔立ちのフルール様はパーティーに参加すれば目立っていた。
 いつも優しそうな兄(悔しいけど、ちょっとかっこいい)をパートナーにしてニコニコニコニコ楽しそうに笑ってばかり。
 ダンスとも呼べない下手くそなダンスを踊っていても楽しそう。
 料理とデザートに目をつけては相変わらず人間離れした大食いを発揮する。
 でもなぜか一向にコロコロになる様子はない。

「……っ」

 あれだけ可愛くて素直そうで普段からニコニコしていれば、わたしみたいによく分からない理由で振られることなんてない。
 嫌味令嬢なんて呼ばれることもない。
 そう思うたびにわたしの心の中には歪んだ気持ちが芽生えた。

(いつも呑気で幸せそうな顔を歪ませてみたい)

 それはいつ見かけても幸せそうな様子の彼女に対する嫉妬だったのかもしれない。

(それに……)

 とにかく、あの緊張感のない顔がわたしにナタナエルのことを思い出させる───……
 だから、わたしはその後もムキになって必要以上に彼女に構うようになった。



 …………だけど後々、そんな彼女……フルール様ががきっかけでわたしはナタナエルと再会することになるなんてこの時は思ってもいなかった。
しおりを挟む
感想 93

あなたにおすすめの小説

何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています

鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。 けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。 指示を出さない。 判断を奪わない。 必要以上に関わらない。 「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。 それなのに―― いつの間にか屋敷は落ち着き、 使用人たちは迷わなくなり、 人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。 誰かに依存しない。 誰かを支配しない。 それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。 必要とされなくてもいい。 役に立たなくてもいい。 それでも、ここにいていい。 これは、 「何もしない」ことで壊れなかった関係と、 「奪わない」ことで続いていった日常を描く、 静かでやさしい結婚生活の物語。

元婚約者からの嫌がらせでわたくしと結婚させられた彼が、ざまぁしたら優しくなりました。ですが新婚時代に受けた扱いを忘れてはおりませんよ?

3333(トリささみ)
恋愛
貴族令嬢だが自他ともに認める醜女のマルフィナは、あるとき王命により結婚することになった。 相手は王女エンジェに婚約破棄をされたことで有名な、若き公爵テオバルト。 あまりにも不釣り合いなその結婚は、エンジェによるテオバルトへの嫌がらせだった。 それを知ったマルフィナはテオバルトに同情し、少しでも彼が報われるよう努力する。 だがテオバルトはそんなマルフィナを、徹底的に冷たくあしらった。 その後あるキッカケで美しくなったマルフィナによりエンジェは自滅。 その日からテオバルトは手のひらを返したように優しくなる。 だがマルフィナが新婚時代に受けた仕打ちを、忘れることはなかった。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

十年越しの幼馴染は今や冷徹な国王でした

柴田はつみ
恋愛
侯爵令嬢エラナは、父親の命令で突然、10歳年上の国王アレンと結婚することに。 幼馴染みだったものの、年の差と疎遠だった期間のせいですっかり他人行儀な二人の新婚生活は、どこかギクシャクしていました。エラナは国王の冷たい態度に心を閉ざし、離婚を決意します。 そんなある日、国王と聖女マリアが親密に話している姿を頻繁に目撃したエラナは、二人の関係を不審に思い始めます。 護衛騎士レオナルドの協力を得て真相を突き止めることにしますが、逆に国王からはレオナルドとの仲を疑われてしまい、事態は思わぬ方向に進んでいきます。

8年ぶりに再会した男の子は、スパダリになっていました

柚木ゆず
恋愛
 美しく育てて金持ちに高く売る。ルファポール子爵家の三女ミーアは、両親達が幸せに暮らせるように『商品』として育てられてきました。  その結果19歳の夏に身体目当ての成金老人に買われてしまい、ミーアは地獄の日々を覚悟していたのですが―― 「予定より少々早い到着をお許しください。姫をお迎えにあがりました」  ミーアの前に現れたのは醜悪な老人ではなく、王子様のような青年だったのでした。 ※体調不良の影響で、現在一時的に感想欄を閉じさせていただいております。

口は禍の元・・・後悔する王様は王妃様を口説く

ひとみん
恋愛
王命で王太子アルヴィンとの結婚が決まってしまった美しいフィオナ。 逃走すら許さない周囲の鉄壁の護りに諦めた彼女は、偶然王太子の会話を聞いてしまう。 「跡継ぎができれば離縁してもかまわないだろう」「互いの不貞でも理由にすればいい」 誰がこんな奴とやってけるかっ!と怒り炸裂のフィオナ。子供が出来たら即離婚を胸に王太子に言い放った。 「必要最低限の夫婦生活で済ませたいと思います」 だが一目見てフィオナに惚れてしまったアルヴィン。 妻が初恋で絶対に別れたくない夫と、こんなクズ夫とすぐに別れたい妻とのすれ違いラブストーリー。 ご都合主義満載です!

《完結》金貨5000枚で売られた王太子妃

ぜらちん黒糖
恋愛
​「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」 ​甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。 旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。 「それは本当に私の子供なのか?」

新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました

ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」 政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。 妻カレンの反応は—— 「それ、契約不履行ですよね?」 「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」 泣き落としは通じない。 そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。 逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。 これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。

処理中です...