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3. 運命の出会い
しおりを挟む(え? なにしてるの、あの子……)
そのパーティーで見かけた令嬢はテーブルの上の料理を見ながら目をキラキラ輝かせていた。
(えっと、あれは確か……)
今日、社交界デビューを迎えたシャンボン伯爵家の令嬢のフルール様……だったかしら?
わたしが名前を必死に思い出している間も、彼女はキラキラした目で料理を物色している。
(阿呆なの? 今日のパーティーは珍しく高位貴族の独身男性がたくさん参加しているのよ?)
確か彼女は兄をパートナーにしていた。
だから、見た目は結構可愛いけれどおそらく婚約者はいないはずと睨んでいる。
(婚約者がいないなら、なおのこと今日のパーティーは狙い目でしょう!?)
この令嬢は絶対、見るべきところを間違えていると思った。
パーティーは最高の男性を捕まえるための場所。
料理なんておまけにすぎないのに。
「うーん、どれも美味しそうで迷ってしまいますわね……」
(あ、声……可愛い)
顔も可愛いけりゃ声まで可愛いときた。
何だか面白くなくてムッとした気持ちになる。
(いるのよね~、たまにそうやって何もかもが恵まれているような人!)
わたしは、ついつい後ろから彼女のことを睨みつけてしまう。
だけど、彼女はわたしのそんな視線には気付かずに、ただひたすら料理に夢中になっている。
(変な子……)
あのギラギラした肉食系令嬢たちの様子とかパーティーの雰囲気とか目に入っていないわけ?
みんな食事なんてそっちのけで誰をゲットするか計算中なのよ?
なんなら、お互いバッチバチに牽制しあっていて大変よ?
「──ふふふ、やっぱり! とっても美味しいですわ~! 幸せ~」
ついに料理を口にしたらしい彼女の可愛らしい声がわたしの耳に聞こえて来る。
(美味しいですわ、じゃないのよーー!)
しかも、幸せですって? 随分とお手軽な幸せだこと。
わたしは内心で思いっきり悪態をついてやった。
しかし、それからも彼女は可愛い顔を綻ばせながら、とにかくどんどん料理を頬張っていく。
「……!?」
わたしは自分の目を疑う。
いや、待ってよ。
それはさすがに詰め込みすぎでしょ。
「ん? あっちの料理も美味しそうですわね? …………えい!」
(は?)
今度は隣のテーブルの料理に目をつけたらしく、キョロキョロと左右を見渡した後、腕を伸ばして料理を皿に乗せる。
そして、これまた幸せそうな顔でそれらをたっぷり頬張る。
「ん~、やっぱり美味しい! あら……あれは何かしら。んん、待って。あちらも捨て難いですわね……」
今度はさらに別のテーブルの料理にも目を付けたらしい。
(は? 待ってよ、どれだけ食べるつもりなのよーーーー!)
すでにかなりの量を平らげているように見えるのに。
明らかに異色の存在とも言えるその令嬢、フルール様からわたしはしばらく目が離せなかった。
────
(う、嘘でしょう!?)
異色の令嬢、フルール様を観察していたわたしは、またまた自分の目を疑った。
コシコシ……
何度、目を擦っても見るだけで胸焼けしそうな目の前の光景は変わらない。
(え……お皿……お皿、いったい何枚積み上げられているわけ?)
フルール様は目ぼしい料理を見つけると、「美味しいですわ~!」と嬉しそうに、次から次へとテーブルを移動し平然とお腹の中へと収めていく。
(た、食べ過ぎじゃない?)
フルール様の横には空っぽになった料理のお皿がどんどん積まれている。
支給係もまさかこんな会場の片隅で料理が制覇されていっているとは思いもしないようで、片付けにやって来る気配すらない。
「んーそろそろ、甘い物も欲しくなりますわね……デザート……ないのかしら?」
(デデデデザートですって!?)
わたしは目を剥いた。
積み上げたお皿がグッラグラに傾くほど、料理を空っぽにしておいてさらにデザートを所望!
この令嬢、どれだけお腹に入れれば満足するの?
いいえ、それよりもコロコロ……このままでは間違いなくコロコロになるわよ!?
だから、わたしは言ってやった。
なぜか分からないけどここは言ってやらないと気がすまなかった。
「───ちょっと!」
「……?」
とうとうわたしは後ろから彼女に声をかけた。
ビクッと、肩を跳ねさせたフルール様がそろっと振り返る。
すでに手にはゲットしていたと思われる焼き菓子が二つ握られていて、まさに口に入れるところだった。
ちょっとタイミングを間違えた気がしたけれど、わたしも簡単には止まれない。
「このような場でそんなにガツガツとはしたない! ……あなたはコロコロになりたいんですか?」
「え? コロコロ?」
フルール様はきょとんとした顔をわたしに向ける。
そもそも誰? って顔をしている。
そして真正面から彼女の顔をまじまじと見ると、やっぱり憎いくらいの美少女だと感じる。
ずるい……
(これくらいの可愛さがあれば、わたしだってあんなに振られないで済んだかも……)
そうじゃなくて!
今は……
わたしは深呼吸してから口を開く。
「わたしは、パンスロン伯爵家のアニエスと申します!」
「パンスロン伯爵家の……?」
「あなた! シャンボン伯爵家のご令嬢、フルール様とお見受けします! 先程から様子を見させてもらっておりましたが、あなた一体なんなんです?」
「え、えっと?」
フルール様は面識のなかったわたしに突然、話しかけられて明らかに困っている。
それでもわたしは止まらなかった。
「そのお皿の山! どれだけ食べれば気が済むのですか? このままではコロコロですわよ、コロコロ! あなたはそれでいいんですか?」
「コロコロ……私がコロコロ? コロー……」
「ええ。そうね。このままですと、そのドレスは二度と着られなくなるのではないかしら?」
「ドレスが!?」
フルール様が過剰に反応する。
(おや? どうやら、それは嫌みたいね)
それならばとわたしは、その後もネチネチとフルール様を咎めていく。
(あ、これがわたしが嫌味っぽいと言われる理由かも)
途中でそう思った。
けれど、なぜか肝心のフルール様は、どこか心ここに在らずでぼんやりしている様に見える。
(は? なにその顔……もしかしてわたしの話、全然聞いていないんじゃない!?)
「……っ!」
そう思ったら、ますますわたしは止まらなくなってしまい、そこからまた延々とお説教を繰り返した。
「───聞いてますか!?」
「え、あ、はい……聞いていますわ!」
なぜか満面の笑みが返って来た。
なんで!?
その後もぽやんとした緊張感のない顔でわたしを見つめている。
(……くっ! なに、この話しても話してもあんまり響かない感じ……)
それに、
このフルール様のポヤポヤした顔を見ていると……
────ナタナエルを思い出す。
「……!」
この時、わたしが彼女に対してついムキになったのは、ナタナエルを思い出したからだと気付かされた。
フルール様とわたしは同い年なので社交界デビューの年が一緒だった。
先にデビューしたのはわたし。
続けて彼女もデビューしたあの日から、彼女をパーティーで見かけることが増えた。
可愛らしい顔立ちのフルール様はパーティーに参加すれば目立っていた。
いつも優しそうな兄(悔しいけど、ちょっとかっこいい)をパートナーにしてニコニコニコニコ楽しそうに笑ってばかり。
ダンスとも呼べない下手くそなダンスを踊っていても楽しそう。
料理とデザートに目をつけては相変わらず人間離れした大食いを発揮する。
でもなぜか一向にコロコロになる様子はない。
「……っ」
あれだけ可愛くて素直そうで普段からニコニコしていれば、わたしみたいによく分からない理由で振られることなんてない。
嫌味令嬢なんて呼ばれることもない。
そう思うたびにわたしの心の中には歪んだ気持ちが芽生えた。
(いつも呑気で幸せそうな顔を歪ませてみたい)
それはいつ見かけても幸せそうな様子の彼女に対する嫉妬だったのかもしれない。
(それに……)
とにかく、あの緊張感のない顔がわたしにナタナエルのことを思い出させる───……
だから、わたしはその後もムキになって必要以上に彼女に構うようになった。
…………だけど後々、そんな彼女……フルール様ががきっかけでわたしはナタナエルと再会することになるなんてこの時は思ってもいなかった。
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