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19. 対決①
どうしてここに?
そう思ったけれど、ミリアンヌさんは王宮で事情聴取を受けている身。
王宮にいる事はおかしい事では無い。
(だからと言ってこんな所で会いたくはなかったし、ならば何故一人でウロウロしているの?)
「リーツェ様はご存知かもしれませんが、私、今なぜか色々と事情を聴かれているんです」
そう言ってミリアンヌさんは一段一段階段を登りながらゆっくりとこちらに近付いてくる。
あの嫌な香りを纏いながら。
「しかもスチュアート様を誑かした女だと言われているみたいなんですよ。どうしてでしょうか」
ミリアンヌさんは、不思議そうな顔をしてそんな事を言う。
これは本気で分かっていないのか、それとも演技なのか……この表情からだと何も掴めない。
「連日、そんな話ばっかりで疲れてしまって。今はー……き、休憩を貰って気分転換している所だったんですけど、まさかリーツェ様とお会いするとは思いませんでした」
「……休憩?」
ミリアンヌさんはスチュアート様との関係について事情を聴かれている。
犯罪者として拘束されているわけでは無いから、多少の自由はあってもおかしくは無いけれど……休憩?
私は辺りを見回すも人の気配はしない。
(それに誰も傍についていないのはおかしい)
何となく嫌な感じがした。
「と、とにかくそんな様子で皆、酷い事ばかり言うのです。スチュアート様が私を好きになるのは当然の事なのに」
「ミリアンヌさん、あなたって人は……」
「ですけど!」
本当に反省が無いー……そう言おうとした私の言葉を遮るようにしてミリアンヌさんは叫ぶ。
「私、スチュアート様ではなくてフォレックス様と結ばれたいのです!」
「え?」
一瞬、何を言われたのか理解出来なかった。
「なのに、どうしてですか? フォレックス様の周りにはいつもリーツェ様がいる。この間もそう。せっかく私が話があると言って距離を縮めようとしているのにフォレックス様はリーツェ様を優先させた」
「……」
「本当にリーツェ様ってすごいですね。どのルートでも悪役令嬢」
「……?」
“悪役令嬢”
あの日言われたその言葉が私の頭の中で甦り嫌な気持ちになる。
(そうだ……私が死ぬ寸前のミリアンヌさんは嬉しそうに私の事を悪役令嬢と呼んでいた)
私の顔色が変わったのが分かったのか、ミリアンヌさんはどこか嬉しそうな笑みを浮かべて言った。
「私が幸せになる為の引き立て役をご苦労様……そう言いたいけれど、出しゃばりすぎるのは良くないです」
「……ミリアンヌさん。あなた、何を言っているの?」
駄目だ。本当に意味が分からない。
「それにリーツェ様とスチュアート様の婚約が破棄になったとさっき聞きました。なんで今? 早すぎます!」
「早すぎる?」
「物語を変えすぎなんですよ! フォレックス様も、スチュアート様のように私の事を好きになるって決まっているのにこのままでは益々おかしくなる。だから、リーツェ様にはこれ以上邪魔をしないで下さい。あなたのせいで全然進まない!」
「物語? 進まない?」
ミリアンヌさんの言っている事が分からな過ぎて、私はさっきからまともな言葉が返せていない。
そこまで言いながら階段を登って来たミリアンヌさんは私の横に並ぶとにっこり笑った。
隣に並ばれたせいであの嫌な香りが強くなる。
(……やっぱりこの香りは気持ち悪い)
「リーツェ様、知ってます? 階段から人を突き落としたという罪……それも実行犯でなくても殺人未遂で人を死刑に出来るんですよ」
「え?」
ドクリと心臓が嫌な音を立てた。
「ちょっと痛い思いをするのを我慢するだけで邪魔な人を消せるんですよ。本当に面白かったわ、ふふふ」
「……」
頭がクラクラした。
ミリアンヌさんは何を言って……って違う。
どう聞いてもこれは前の人生の話だ。
あの時はミリアンヌさんは階段から落ちて怪我をして、その黒幕が私だと言われた。
(まさか、ミリアンヌさんも前回の人生の記憶がある?)
「今回も、と考えたのですけどー……私……痛い思いするのはやっばり嫌だし、何より時間がかかって面倒で……だから思ったのです」
「……?」
「もう、さっさと自分の手で邪魔者を消してしまってもいいんじゃないかしらって」
ようやく気付く。今、ここは階段だ。
前回の人生の時のミリアンヌさんは学校の階段で被害にあったと言っていた。
場所の違いはあれど階段は階段。
そして、邪魔者を消す。この言葉の意味は……
「……消す?」
「そうですよ! 今ここで私がリーツェ様に突き落とされて被害者になってもいいんですけど、上手くいかない気がするんですよね。それに階段落下はスチュアート様ルートの話。私はフォレックス様狙いなので私が落ちる必要ないんです」
そうだ、さっきも聞いた。
ミリアンヌさんはフォレックス様と結ばれたいと。
しかも、フォレックス様が自分の事を好きになる、とまで言っていた!
その為に邪魔な私を消すと言うの?
さすがにもう黙ってはいられなかった。
「人を消すとか、あなたは何を考えているの!」
「そのまんまの意味ですよ。あ、安心して下さい! 私はリーツェ様に突き落とされそうになった所をうまくかわして助かった設定にしますから!」
「は?」
何を言い出したの? そういう事では無いでしょう?
「それで、代わりに突き落とそうとしたリーツェ様が落下……と。自業自得ですね! これなら誰も私を疑わないです!」
「馬鹿な事を言わないで!」
本当にそんな無茶な言い分が通ると思っているの!? 滅茶苦茶すぎる!
「フォレックス様もリーツェ様に幻滅して私に同情してくれますよね。そこから愛を育……」
「勝手な事を言わないで! フォレックス様はあなたになんて渡さない!」
「えぇ! 何でそこで憤ってしまうんですか?? 意味不明です」
「さっきから意味不明なのはあなたよ、 ミリアンヌさん! フォレックス様は決してあなたを選ばない!」
その言葉にムッとしたのかミリアンヌさんが叫ぶ。
「どうせ死ぬ女は黙ってて!」
「誰が死ぬもんですか! 私は生きて今度こそ好きな人と……フォレックス様と生きて幸せになるんだから!」
私も私で思わずそう口にして叫んでいた。
「はぁ? 好きな人?」
「そうよ! 私はフォレックス様の事が好きなの! だからあなたなんかに負けない!」
スチュアート様との婚約破棄は成立した。だからもう誰にも咎められることは無い!
けれど、ちゃんと告白をしていないから、まだ“私のフォレックス様”とは言えない。
言えないけど、ミリアンヌさんにだけは取られたくない。
人の気持ちをまるで考えないこの人にだけは!
もしも本当に前回の人生の記憶を今のミリアンヌさんも持っていると言うのなら……
私はますます彼女が許せない。
前回の人生のスチュアート様の気持ちは今も分からない。
もしかしたら、あの時の彼はミリアンヌさんのこの香りでおかしくなっていたのかもしれない。
でも、ミリアンヌさんは違う!
この人は死んでいく私を嬉しそうに笑って見ていた最低な人だ!!
(ミリアンヌさんは狂ってる!)
「あぁぁ、もう! 本当にこれ以上余計な事ばっかりしないでよ! 消えて! さようなら!」
そう言ってミリアンヌさんは階段から私を突き落とそうと手を伸ばし、私の肩を押した。
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