7 / 66
7. 裏切りを知った夜
────私はこの先、どうなるのかしら?
急遽、セッティングされたサヴァナの為のパーティー会場の隅で壁にもたれながら、私はそんなことを考えていた。
ズキンズキンズキン……
まだ、頭だって痛い。本当はパーティーになんて参加したくなかったのに。
なのに、サヴァナは私の腕を掴んで離さなかった。
『あのね? お姉様にもパーティー参加して欲しいの』
『え……でも、さすがにそれはちょっと……私も疲れた、し』
『そんなぁ! 絶対にダメよ、お姉様~』
サヴァナは目をうるうるさせて首を横に振った。
そんな顔をされても嫌なものは嫌だった。
『でも、私がいない方が皆も……楽しめる……でしょ? その、気を遣わせたくないもの』
理由なんてなんでもいい。とにかく一人になって休みたかった。
『サヴァナ。それに私、今ちょっと頭が痛……』
『大丈夫よ~誰もお姉様に気なんて遣わないわよ! ね? だから、安心して!』
『……』
サヴァナは全く私の話を聞こうとしない。
そんなサヴァナは目を潤ませたまま言った。
『それに~、ここで不参加だと、お姉様もっと周りに色々言われちゃうかも』
『え……?』
そう言われてから周りを見ると、皆の視線が私たちに集中していた。
これはどちらを選んでも地獄のようにしか思えなかった。
パーティーが始まっても、誰も私に声をかける人はいなかった。
遠巻きにチラチラされるばかり。
だからこそ、ひとりぼっちの私は余計なことばかり考えてしまう。
十八歳の誕生日にローウェル伯爵家の特別な力を授かって、クリフォード様と正式な婚約をして皆の幸せのために生きていく───
そのための努力もしてきたつもりだった。
どんな“力”を授かるのかは分からないのだから、私自身が将来の王妃として相応しい人間にならなくちゃって。
(クリフォード様に言わせれば、もともと私にはそんな資格なかったようだけど)
だけど、その可能性の全てが消えた今……私って無力で“空っぽ”だわ。
何も無い。
そう思った時、はっと気付いた。
“守護の力”を手に入れたサヴァナがクリフォード様の婚約者となってこの国の王妃になることは、既にもう決まったも同然。
そうなると、ローウェル伯爵家は?
サヴァナが婿をとって継ぐはずだったローウェル伯爵家はどうなるの?
(長子が力を受け継ぐ……は変わってしまっていたとしても、伯爵家の血を継いでいくことは必要よね?)
つまり、私が婿を取ってローウェル伯爵家を継ぐことになる?
「……そうなったら、お父様とお母様も……少しは私に笑ってくれるかしら?」
国と王家のためにと生きるつもりだった道が、今度は家のためにと変わるだけ。
クリフォード様のことはまだ少し胸が痛むけれど……
それでも、新たな居場所があると思えるだけで少し元気が出た。
(んー……少し、風に当たりたい……)
そう思った私はそっと会場から庭園に繋がる道を通って外に出た。
「……うーん、こっちの庭園は暗くて花がよく見えないのが残念だわ。でも、風が気持ちいい」
パーティーの会場となっている部屋からしか抜けられない場所にあるこちらの庭園は、あまり知られておらず人気がない。
「この場所は、クリフォード様が教えてくれた……のよね」
人の目を気にせず二人きりになれるから、と。
だから、よくここに来ては二人で過ごした。
「……振られてしまったのにここに来るのは何だか虚しいものがあるけれど」
でも、そんなことよりも今は風に当たって一人になりたかったので、この場所はとても心地よかった。
それに、外に出て気分がよくなったせいか頭痛もようやく治まってきた。
私は大きく息を吸って吐く。そして思いっきり自分に喝を入れた。
「───よし! しっかりしなさい、マルヴィナ!」
身に覚えがないから、クリフォード様の言っていたような理由でなかったのだとしても、私が特別な力を授からなかったことは事実。それはもう受け入れるしかない。
「……それでも、私はこれでも他の人より魔力量は多いし、ローウェル伯爵家の為に生きることは出来るはず! 気持ちを切り替えて頑張るわよ──……」
そんな気合いを入れた時だった。
「あ、待ってください~、クリフォード殿下」
「はは、こっちはあまり人の来ない穴場なんだ」
ビクッ
その声に私の身体が震えた。
(サヴァナとクリフォード様……? まさかこっちに来る?)
私は慌てて茂みの影に身を隠す。
こんな所で二人との鉢合わせなんて本当に勘弁だ。
(失念していたわ……この場所を私に教えたのはクリフォード様だもの……)
だけど、パーティーの主役ともいえるサヴァナがこんな所に抜け出してきて大丈夫なのかしら?
ついついそんな心配までしてしまう。
(とりあえず、二人に見つからないようにここから離れて───)
「サヴァナ。先程、正式に父上から僕らの婚約の承認がおりた」
「本当ですか! 嬉しい~」
「このパーティーの最後に皆の前で発表する」
───サヴァナ……と、今、呼び捨てにした?
気のせいかしら? 随分と呼び慣れていたように感じたけれど。
(それより、婚約……決まったのね)
───正式な婚約前で良かったよ。こんな最低な女を妻に……この国の将来の王妃にするなんて絶対に御免だ。国が傾く。
クリフォード様に言われた言葉を思い出す。
守護の力を持ったサヴァナがいるんだもの。きっと国が傾くことはないのだと思う。
「ふふ、私、今日は本当に幸せです」
「サヴァナ……」
「これまで、ずっと辛いことばっかりでしたけど、努力して頑張っていれば、報われる時って来るんですね!」
(────なっ!)
サヴァナのその言葉に、その場から離れようとしていた私の足が止まる。
「……そうだな。しかし、驚いたよ。これまで一生懸命頑張ってくれていると思っていたマルヴィナが実は影で遊んでばかりだったなんてさ……」
「ごめんなさい、私、口止めされていたの。その、お姉様には……逆らえなくて……」
(……なんの話?)
「あぁ、だからサヴァナはいつも僕と二人きりで会う時はどこか脅えていたんだな」
「……お姉様に私たちの関係がバレてしまったら……と思うと怖くて……」
そう言ったサヴァナがクリフォード様に抱きついた。
クリフォード様もしっかりもサヴァナのことを抱きしめ返した。
「毎回、妹をダシにして僕に会いに来ていた子がよく言うよ」
「ふふ、だって………」
「───全く、しょうがない子だな。サヴァナ、君を愛しているよ」
「殿下、私もです……」
そう言って抱き合っている二人の顔が近付いて──……
(……どういうこと?)
覗きと立ち聞きをしてしまった私の身体は震えていた。
毎回、妹をダシにして会いに来ていた?
妹って王女殿下のこと、よね?
サヴァナは王女殿下と会うふりをして実際は……
(……私、ずっと騙されていた?)
二人の親密な関係はあの日の密会からなんかではなく、もっと前からで───……
力が抜けた私はヘナヘナとその場に座り込む。
ドレスが汚れてしまうとかそんなことはもう頭になかった。
(酷い……こんなの酷い)
それなら、あの交際の申し込みはなんだったの?
クリフォード様は私の気持ちを弄んでいたの?
二人して、ずっと私のことを間抜けな女だと笑っていた?
「……バカみたい……ずっと、私……」
そう口にして、今日一日ずっと耐えて来た涙が零れそうになったその時。
───ポツ
冷たいものが空から落ちて来た。
(……雨?)
顔を上げるとポツポツと雨が降り出していた。
「───え? きゃっ、雨?」
「サヴァナ! 濡れてしまう! 中に入ろう!」
「はい!」
熱いキスを交わしていた二人も突然の天候の変化に戸惑いながら慌てて会場へと戻って行く。
「……」
残された私はそっと空を見上げる。
これは間違いなく雨。
(今日は一日晴れと聞いていたのに……珍しいわ)
「……って、私も戻らないと! 泣いている場合ではないわ」
そう言って立ち上がり、涙を拭って私も会場へと戻ることにした。
会場に戻りながらもう一度、空を見上げて思った。
(────雨、まるで私の代わりに泣いてくれたみたい)
この悲しい気分を雨が全て流してくれたらいいのに……
あなたにおすすめの小説
虐げられてる私のざまあ記録、ご覧になりますか?
リオール
恋愛
両親に虐げられ
姉に虐げられ
妹に虐げられ
そして婚約者にも虐げられ
公爵家が次女、ミレナは何をされてもいつも微笑んでいた。
虐げられてるのに、ひたすら耐えて笑みを絶やさない。
それをいいことに、彼女に近しい者は彼女を虐げ続けていた。
けれど彼らは知らない、誰も知らない。
彼女の笑顔の裏に隠された、彼女が抱える闇を──
そして今日も、彼女はひっそりと。
ざまあするのです。
そんな彼女の虐げざまあ記録……お読みになりますか?
=====
シリアスダークかと思わせて、そうではありません。虐げシーンはダークですが、ざまあシーンは……まあハチャメチャです。軽いのから重いのまで、スッキリ(?)ざまあ。
細かいことはあまり気にせずお読み下さい。
多分ハッピーエンド。
多分主人公だけはハッピーエンド。
あとは……
妹は謝らない
青葉めいこ
恋愛
物心つく頃から、わたくし、ウィスタリア・アーテル公爵令嬢の物を奪ってきた双子の妹エレクトラは、当然のように、わたくしの婚約者である第二王子さえも奪い取った。
手に入れた途端、興味を失くして放り出すのはいつもの事だが、妹の態度に怒った第二王子は口論の末、妹の首を絞めた。
気絶し、目覚めた妹は、今までの妹とは真逆な人間になっていた。
「彼女」曰く、自分は妹の前世の人格だというのだ。
わたくしが恋する義兄シオンにも前世の記憶があり、「彼女」とシオンは前世で因縁があるようで――。
「彼女」と会った時、シオンは、どうなるのだろう?
小説家になろうにも投稿しています。
【完結】私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜
恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」
不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。
結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、
「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。
元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。
独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場!
無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。
記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける!
※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。
苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる
物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
両親から謝ることもできない娘と思われ、妹の邪魔する存在と決めつけられて養子となりましたが、必要のないもの全てを捨てて幸せになれました
珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたユルシュル・バシュラールは、妹の言うことばかりを信じる両親と妹のしていることで、最低最悪な婚約者と解消や破棄ができたと言われる日々を送っていた。
一見良いことのように思えることだが、実際は妹がしていることは褒められることではなかった。
更には自己中な幼なじみやその異母妹や王妃や側妃たちによって、ユルシュルは心労の尽きない日々を送っているというのにそれに気づいてくれる人は周りにいなかったことで、ユルシュルはいつ倒れてもおかしくない状態が続いていたのだが……。
病めるときも健やかなるときも、お前だけは絶対許さないからなマジで
あだち
恋愛
ペルラ伯爵家の跡取り娘・フェリータの婚約者が、王女様に横取りされた。どうやら、伯爵家の天敵たるカヴァリエリ家の当主にして王女の側近・ロレンツィオが、裏で糸を引いたという。
怒り狂うフェリータは、大事な婚約者を取り返したい一心で、祝祭の日に捨て身の行動に出た。
……それが結果的に、にっくきロレンツィオ本人と結婚することに結びつくとも知らず。
***
『……いやホントに許せん。今更言えるか、実は前から好きだったなんて』
【完結】新婚生活初日から、旦那の幼馴染も同居するってどういうことですか?
よどら文鳥
恋愛
デザイナーのシェリル=アルブライデと、婚約相手のガルカ=デーギスの結婚式が無事に終わった。
予め購入していた新居に向かうと、そこにはガルカの幼馴染レムが待っていた。
「シェリル、レムと仲良くしてやってくれ。今日からこの家に一緒に住むんだから」
「え!? どういうことです!? 使用人としてレムさんを雇うということですか?」
シェリルは何も事情を聞かされていなかった。
「いや、特にそう堅苦しく縛らなくても良いだろう。自主的な行動ができるし俺の幼馴染だし」
どちらにしても、新居に使用人を雇う予定でいた。シェリルは旦那の知り合いなら仕方ないかと諦めるしかなかった。
「……わかりました。よろしくお願いしますね、レムさん」
「はーい」
同居生活が始まって割とすぐに、ガルカとレムの関係はただの幼馴染というわけではないことに気がつく。
シェリルは離婚も視野に入れたいが、できない理由があった。
だが、周りの協力があって状況が大きく変わっていくのだった。
両親に溺愛されて育った妹の顛末
葉柚
恋愛
皇太子妃になるためにと厳しく育てられた私、エミリアとは違い、本来私に与えられるはずだった両親からの愛までも注ぎ込まれて溺愛され育てられた妹のオフィーリア。
オフィーリアは両親からの過剰な愛を受けて愛らしく育ったが、過剰な愛を受けて育ったために次第に世界は自分のためにあると勘違いするようになってしまい……。
「お姉さまはずるいわ。皇太子妃になっていずれはこの国の妃になるのでしょう?」
「私も、この国の頂点に立つ女性になりたいわ。」
「ねえ、お姉さま。私の方が皇太子妃に相応しいと思うの。代わってくださらない?」
妹の要求は徐々にエスカレートしていき、最後には……。
私の手からこぼれ落ちるもの
アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。
優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。
でもそれは偽りだった。
お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。
お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。
心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。
私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。
こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら…
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。
❈ ざまぁはありません。