【完結】可愛い妹に全てを奪われましたので ~あなた達への未練は捨てたのでお構いなく~

Rohdea

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13. “特別”なのは



❋❋❋


 ───ズキッ

「……くっ!  いったいこの頭痛は何なんだ」

 僕、クリフォードは頭を押さえてそのままベッドに倒れ込んだ。
 一週間くらい前から続くこの頭痛。治るどころか頻度が増えている気がする。
 医師を呼んで診てもらっても結果は“異常なし”
 薬を飲んでも痛みが引くことはない。自然に治まるのを待つしかない。

「…………この長雨のせいなのだろうか」

 窓の外をチラッと見ると、今日も雨。
 僕のこの原因不明の頭痛が始まった時期とは合うが、いったいなぜ?
 我が国の気候はわりと安定していたはずなのに。
 そろそろ、どこかで被害が出始めてもおかしくない……が、サヴァナが持つ“守護の力”があるから、大きな被害にはならないだろうとは思っているが。

 ───ズキッ

「……くっ」

 また、痛みが襲ってきたその時、部屋の扉がノックされた。

「クリフォード殿下、お邪魔しま~す」
「……サヴァナ?」

 部屋に入って来たのは僕の愛しい婚約者のサヴァナだった。
 健気で明るく素直で可愛い僕の婚約者。
 この国を守ってくれる最強の女性。

「部屋から出て来ないと聞いて心配で~……来ちゃいました!」
「ああ、すまない」

 えへっと笑うサヴァナはとても可愛いかった。
 この純粋で可愛い笑顔がずっとあのマルヴィナによって曇らされていたと思うだけで、腸が煮えくり返るような気持ちにさせられる。

(本当に騙された……)

 てっきりしっかり勉強してこの国や僕のために尽くしてくれる人だとばかり思っていたのに。
 蓋を開けてみれば、ローウェル伯爵家の力を継ぐにも、この国の未来の王妃にも相応しくない性格の女だった……

『……実は私、お姉様に辛く当たられているのです』

 サヴァナが目に涙をためながら、マルヴィナにやられたという傷を見せてくれた。

『これは……酷い』
『それに、この間は私が殿下をお慕いしていることを知って、嫉妬したのか無理やり男の人に私を襲わせようと画策までして……』
『……え?』
『……あ!  や、やだ、私……』

 僕をお慕いしている?
 今、そう言ったか?
 サヴァナは顔を真っ赤にして照れている。その姿はとても可愛くて可愛くて。

『お、お姉様の婚約者になる方なのだから、と何度も諦めようと思ったのですけど……』
『サヴァナ嬢……』
『私、殿下をお慕いしております……』
『……』

 健気な様子と潤んだその大きな瞳に僕は吸い寄せられた。
 ────この時、思った。
 マルヴィナなんかではなく、サヴァナがローウェル家の力を引き継ぐべきだ、と。
 マルヴィナが長子のくせに力を授からなかったのは、きっとこの性悪な性格のせいに違いない。
 あんな自分を騙すような最低な女が権力を手にしたら国が滅んでしまう。



「毎日、毎日、雨ばかりでさすがに、気も落ちてしまいますよね」
「ああ……」

 サヴァナがそっと僕の隣に腰を下ろして身を寄せてくる。
 さすがに今は抱く気になれないな……
 そう思って少し距離を取ろうとしたら、サヴァナは、どこかはしゃいだ様子で教えてくれた。

「そうだ殿下、聞いてください!  私、次女なので、期待されていなかったからこれまできちんと自分の魔力量って確認したことがなかったんですよ」
「魔力量?」

 確か、ローウェル伯爵家の血筋の者は皆、豊富だと聞くが……
 ちなみに魔力量も特殊能力を手にするからか長子が一番多いとされている。確か、マルヴィナはよく測定を受けていた。

「はい!  それでこれを機に測定してもらったらくらいの魔力量があったと分かったんです!」
「へえ、それは凄いね。さすがサヴァナだ」

 僕が頭を撫でるとサヴァナも嬉しそうに微笑んだ。

「魔術師が言うには、長子以外でこんなにも魔力量を持っている人は珍しいそうですよ~!」

 ───だから、やっぱり私は“特別”なんですね~!
 と、可愛く笑うサヴァナを見て愛しさを覚える。
 そして自分の頭痛は気になるが……彼女がいればこの国は大丈夫だという確信が持てた。



❋❋❋



 トラヴィス様のその言葉の意味が、すぐには理解出来ず私はしばらく固まった。

「……え?  封じ……?」
「俺がマルヴィナさんから感じる魔力の強さと、今、君の持っている魔力量が全然、釣り合っていないんだよ」
「釣り合って……いない」

 どういうこと?  と私は不思議に思う。
 十八歳になって特別な力を授かるための儀式の前に、何度も魔力の測定は受けて来た。
 特別な力を授かっても、それに見合うだけの魔力量が無ければ意味がないから。
 測定結果は“歴代のローウェル伯爵家の長子が持つのと同じ、充分な魔力量だ”と言われていたのに。

(それが、半分だなんて誰も教えてくれなかった……わ)

「うーん……その顔、自覚がないって顔だ」
「はい……特に困ることもありませんでしたし……」

 私がそう答えるとトラヴィス様は苦笑した。

「半分でも確かにそれくらいあれば困ることは無いだろうね」
「……」
「測定は受けていた?」
「はい」
「意図的に隠したのか、それとも分からなかったのか……」

 おそらく、意図的ではないと思う。
 測定していた頃は、私がローウェル伯爵家の特別な力を授かると思われていた頃だから。
 だとすると分からなかった、ということになる。

(……私のことを無能と言った人たちの方こそ、無能だった……?)

「あの……」
「うん?」
「その、魔力が封じられている原因とか、封印?  を解く方法はあるのでしょうか?」

 不便ではなくても、そういう状態だと知ってしまうと気持ちが悪い。

「それはもう少し詳しく調べてみないと何とも言えないかな、ごめん」
「あ、そうです……よね」  

(つい、気になって色々聞いてしまったわ)

 目を伏せた私にトラヴィス様がどこか躊躇いがちに言った。

「あの、さ───マルヴィナさんは突然、こんなことを言い出した俺を怪しいとは思わないの?」
「え?」

 私は顔を上げる。
 目の奥まではよく見えないけれどトラヴィス様はじっと私を見ていた。

(怪しい?  トラヴィス様を?)

 そう言われて全く疑うことも怪しむこともしていなかった自分に気付いた。

「そういえば、全く思わなかったです……」

 私がそう口にすると、トラヴィス様の手が伸びてそっと私の頭を撫でた。
 思いがけないその行動にドキッとする。

「あ、あの……?」
「マルヴィナさん……何だか放っておけない人だと思って」
「……トラヴィス、様とはまだ知り合ったばかり……ですけれど……う、上手く言えませんが、し、信用できる方だと思っています……!」

 そう感じる気持ちは理屈では説明出来なくて、もう本能が!  としか言えないけれど。

「…………あ、ありがとう」
「……」

 トラヴィス様のその声は少し照れを含んでいて、せっかくの表情が見えないことを少しだけ残念に感じた。

(それにしても……魔力が半分封じられているだなんて……)

 いったい何時から───そして誰が?
 そして、私は特別な力を授かれなかった無能で出来損ないではなかったの?
 なんのためにそんなに魔力が……?
 疑問は尽きない。





「…………呪い」

 そして、そのことをぐるぐると考えてばかりいた私は、目の前に座っているトラヴィス様が私を見ながら小さく呟いたそんな言葉すらも聞こえていなかった。

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