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第一部:第五章 ラーソルバールの休暇(後編)
(四)魔力循環②
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予定通り、休み時間に治療室にやって来た。
初日に有った校内一周案内のおかげで、治療室の場所はちゃんと覚えている。とは言っても、必要そうだと目星をつけた施設以外は、ほとんど覚えていない。
ノックをしてから扉を開ける。
「ハイハイ」
奥から初老の男性が出てきた。
「どうした、病気では無さそうだが、怪我でもしたかね?」
少々怖い顔をしているが、口調は優しい。
見た目で損をしそうな人だな。そう思ったが、ラーソルバールは口には出さなかった。
「少々無理をして体を痛めてしまい、訓練に支障が出そうなので、診ていただこうかと思いまして」
「ああ、分かった」
男性はそう言うと、奥へと引っ込んでいき、代わりに若い女性が現れた。少々肉付きは良いが、外見は人並み。かなり穏和そうな雰囲気がある。
「ハイハイ、女の子は私が診ますよ」
ラーソルバールは挨拶した後、指示に従って椅子に座る。
エナタルトと名乗った女性治療師の問診に、ラーソルバールは正直に答えた。
「じゃあ、そこの診察用のベッドに、うつ伏せに寝て頂戴」
「あ、はい」
言われるがままに、ベッドに転がると、シェラの興味津々という顔が見えた。
「付き添いさん、楽しそうね」
エナタルトも、その様子に気付いたようで、ラーソルバールの腰を軽く押しながら、クスクスと笑った。
少し気恥ずかしそうにしながらも、シェラの視線は動かない。
「痛っ!」
「はい、腰はこのあたりだね。まずはここから始めるよ」
エナタルトの表情から笑みは消え、真剣なものに変わる。魔法を使用するために集中しているのが分かる。
腰に当てた手がほのかに光ると、その光が揺らめいた。
「ん? 貴女魔法苦手でしょ。……と言うか、幼少期に練習さぼってたでしょ」
ラーソルバールは、魔法の事を気付かれた事に驚いた。
「何で分かるんですか?」
「治癒魔法を使ってもね、力の通りが悪くてやりにくいのよ」
苦笑いしながら「めっ!」と言って、ラーソルバールの尻を叩いた。
「キャァ!」
馬車に揺られ、馬に乗って擦れた一番痛い所だったので、思わず悲鳴を上げてしまった。
治療術師として、痛い所は分かっているはずで、わざとそこを狙ったのだろう。
見ていたシェラは面白かったのか、声を出して笑っている。
「たまに居るのよ、こういう人」
同じ場所を更に二度、ペシペシと叩く。お仕置のようなものだろうか。
「ふぇぇぇ、すみませーん……」
ラーソルバールは情けない声を上げて、許しを請うた。
「怒ってる訳じゃ無いのよ。やりにくいのは確かだけど……。でも、体内にしっかりとした魔力を感じるから、循環を良くすれば改善するわよ」
「循環を良くするって、本人に練習させるって事ですか?」
傍らに居たシェラが、気になったように問いかける。
「本人にやってもらうのが一番だけど、それだと今治療できないでしょ?」
「そうですよね……」
何かを調べるように、体の各所に手を当てては離すという動作を繰り返す。診察のようなものだろうか。
「この子みたいな人もいるし、病気や怪我で循環が悪くなっちゃう人も居る。その改善も私達の仕事なのよ」
「え!」
意外な言葉に二人は驚いた。思わず発した声が重なる。
初日に有った校内一周案内のおかげで、治療室の場所はちゃんと覚えている。とは言っても、必要そうだと目星をつけた施設以外は、ほとんど覚えていない。
ノックをしてから扉を開ける。
「ハイハイ」
奥から初老の男性が出てきた。
「どうした、病気では無さそうだが、怪我でもしたかね?」
少々怖い顔をしているが、口調は優しい。
見た目で損をしそうな人だな。そう思ったが、ラーソルバールは口には出さなかった。
「少々無理をして体を痛めてしまい、訓練に支障が出そうなので、診ていただこうかと思いまして」
「ああ、分かった」
男性はそう言うと、奥へと引っ込んでいき、代わりに若い女性が現れた。少々肉付きは良いが、外見は人並み。かなり穏和そうな雰囲気がある。
「ハイハイ、女の子は私が診ますよ」
ラーソルバールは挨拶した後、指示に従って椅子に座る。
エナタルトと名乗った女性治療師の問診に、ラーソルバールは正直に答えた。
「じゃあ、そこの診察用のベッドに、うつ伏せに寝て頂戴」
「あ、はい」
言われるがままに、ベッドに転がると、シェラの興味津々という顔が見えた。
「付き添いさん、楽しそうね」
エナタルトも、その様子に気付いたようで、ラーソルバールの腰を軽く押しながら、クスクスと笑った。
少し気恥ずかしそうにしながらも、シェラの視線は動かない。
「痛っ!」
「はい、腰はこのあたりだね。まずはここから始めるよ」
エナタルトの表情から笑みは消え、真剣なものに変わる。魔法を使用するために集中しているのが分かる。
腰に当てた手がほのかに光ると、その光が揺らめいた。
「ん? 貴女魔法苦手でしょ。……と言うか、幼少期に練習さぼってたでしょ」
ラーソルバールは、魔法の事を気付かれた事に驚いた。
「何で分かるんですか?」
「治癒魔法を使ってもね、力の通りが悪くてやりにくいのよ」
苦笑いしながら「めっ!」と言って、ラーソルバールの尻を叩いた。
「キャァ!」
馬車に揺られ、馬に乗って擦れた一番痛い所だったので、思わず悲鳴を上げてしまった。
治療術師として、痛い所は分かっているはずで、わざとそこを狙ったのだろう。
見ていたシェラは面白かったのか、声を出して笑っている。
「たまに居るのよ、こういう人」
同じ場所を更に二度、ペシペシと叩く。お仕置のようなものだろうか。
「ふぇぇぇ、すみませーん……」
ラーソルバールは情けない声を上げて、許しを請うた。
「怒ってる訳じゃ無いのよ。やりにくいのは確かだけど……。でも、体内にしっかりとした魔力を感じるから、循環を良くすれば改善するわよ」
「循環を良くするって、本人に練習させるって事ですか?」
傍らに居たシェラが、気になったように問いかける。
「本人にやってもらうのが一番だけど、それだと今治療できないでしょ?」
「そうですよね……」
何かを調べるように、体の各所に手を当てては離すという動作を繰り返す。診察のようなものだろうか。
「この子みたいな人もいるし、病気や怪我で循環が悪くなっちゃう人も居る。その改善も私達の仕事なのよ」
「え!」
意外な言葉に二人は驚いた。思わず発した声が重なる。
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