聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

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第一部:第六章 後始末と始まり

(三)騒乱の臭い②

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 イスマイアの暴動は他の地域に波及すること無く、翌日には鎮静化した。
 騎士団の早期対応のおかげでもある。
 暴動の報があった日の夜には、騎士団は現地に到着し、混乱の中で迅速に対応にあたった。素早い対応だったとは言え、暴動による住民の死者も少なからず出してしまい、家屋も放火などによる火災や、破壊行為で多くが損壊した。
 逮捕者も多く出し、暴動はこの地域に大きな傷を残すことになった。
 住民達が唯一喜んだのは、ジャスカールの爵位剥奪と、罪人として収監されたという報せである。
 報を聞くや、暴動参加者は即座に手を止めた。それだけ、ジャスカールに対する不満や恨みは深かったと言える。
 今回の事で事態が表面化しただけであって、遅かれ早かれ同様の騒動にはなっていただろう、というのが、混乱の収拾にあたった騎士達の感想である。
 溜まりに溜まっていた鬱積が、ほんの少し背中を押された事で噴出したに過ぎない。
 この事が、貴族任せの地方自治の危うさを、国王に強く印象付ける事となった。

「それにしても…」
 暴動終息の報告を受けても、国王は怒りが収まらなかった。
 ジャスカールに対しては当然だが、対処しきれなかった自らの対応のまずさに関しても、怒りが向けられていた。
 事前に手を打っておけば、未然に防げたはずの事態である。
 指示を出して片付いた気になっていた。早期に報告と対策を明確にしてくれた、フェスバルハに対して、申し訳ないとさえ思う。
 今回は王都を目標にした策動だったようだが、背後にいるのが国内の反乱分子か、隣国なのか掴みきれていない。
 いずれにせよ、これで終わるとは思えず、次の一手が有ると用心しておいた方が良い。その為には、貴族達の意識改革と、来年の宰相交代に伴う人事が重要になってくる。
 国王としては頭の痛い問題だ。
 まずは、今回の騒動を最小限に抑えることができたのは、フェスバルハの進言があってこそだ。それに報いなくてなならない。
 さて、何を与えようか。そこまで考えて、国王はニヤリと笑った。

 暴動の話は、一般には公表されていない。
 王都では対応にあたった第一騎士団は、演習に出た事になっている。
 だが、騎士団は暴動鎮静化の為に派遣されたという事を、騎士学校内では知らぬ者は居ない。
 騎士学校の食堂では、その事を誰彼と無く噂をしている。
 侵略者や、怪物相手の華々しい英雄譚ではない。ともすれば、自国民を殺める事にもなりかねない出来事だっただけに、生徒たちも心中穏やかではないのだろう。
 ラーソルバールも例外ではない。事の発端を知っているだけに、未然に防げなかった事は、後悔が残る結果となった。
 噂によると、領主が王命に従わずに放置していた事が、暴動に繋がったということらしい。
 さすがに王命に従わない領主が居るのは、想定外だった。
 王家の権力基盤が弱いのであれば、貴族達に軽んじられる事は有るだろう。しかし、この国の王家はそれほど脆弱ではない。
 対策費用をケチる為、王命をも無視する愚か者が居るなど、想像もしなかった。
「そこまで考えて手を打たないと駄目かぁ」
 ラーソルバールは思わずため息をついた。
 どうするべきだったかを悩むのではなく、今後どうしたらいいか、どう活かせるかを考えよ。とは先日、戦術論の授業で聞いた言葉だ。
 悩まず、今後に生かそう。気持ちを切り替えるしかない。
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