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第一部:第九章 エラゼルとラーソルバール(前編)
(二)エラゼルの姉①
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(二)
誕生会もしばらくすると、会場が酒の臭いが漂うようになってきた。まだ飲酒をする年齢に達していないラーソルバールにとっては少々辛いもの。
気分が悪くなる前にと、伯爵に伝えてからバルコニーへと逃げる事にした。
外に出ると夜風が心地良く、気分転換には最適だった。少し暗いが人気も無いようで、空気も澄んでいる。
「んーっ!」
解放されたとばかりに、ラーソルバールは体を伸ばして大きく息を吸う。
「ふふふっ……」
笑い声が聞こえたので驚いて振り向くと、少し離れた所に先客が居たようだった。
「可愛いお客様ね。エラゼルのお友達?」
ゆらりと動いた人影は、室内の明かりに照らされ輪郭を現した。そのままゆっくりと歩み寄ってきたのは、どこかエラゼルに似た風貌を持つ若い女性。
「……ええ、そのようなものです」
「あら、微妙な言い回し。まあエラゼルの事だからしょうがないわね」
女性は口元を扇子で隠すようにして笑う。
正直に言ったのはまずかっただろうかと思ったが、口から出た言葉は戻せない。
「申し遅れました。私はラーソルバール・ミルエルシという者です」
礼を失することの無いよう、丁寧に優雅にと心掛けてお辞儀をする。
「ああ、あなたがラーソルバールさんなのね。私はイリアナ。エラゼルの上の姉よ」
自分の名を知っている事におどろきはしたものの、その後は彼女の姿から想像できる範囲の答えだった。
「私の事をご存知なのですか?」
「お名前だけね。エラゼルの口から何度も出てきた事があるから。確かに『お友達』という雰囲気ではなかったようだけど……。あの子が他の子の話をするなんて珍しいから」
イリアナは愉快そうに笑った。
エラゼルが何を話していたのか、ラーソルバールとしては気になるが、怖くてとても聞けるものではない。
「じゃあ、今日はお父様が気を回してご招待したのかしら。それともエラゼル本人かしら?」
「どちらなんでしょう?」
予想結果を何となく聞けそうなので、期待せずに聞いてみる。
「さあ、私は何も聞いてないから」
肩透かしを食らって、あからさまにがっかりするラーソルバールをイリアナは楽しそうに見ている。
からかわれているのだろうか。そう思うと恥ずかしさにやや赤面するのを覚えた。
「あなたは面白いわね。そうそう、面白いと言えば……、一番面白かったのはね、エラゼルの事なんだけど……。聞いてくれる?」
「は……い……」
お淑やかな女性に、圧倒されるというのは初めての経験だった。
物腰の穏やかな柔らかい雰囲気の女性だが、案外押しが強いのかもしれない。エラゼルの姉というが、妹とは全然違うように感じる。
「あのね。あの子、騎士学校に推薦で合格したんだけど、本人は興味が無かったみたいで、入学式も行かなかったのよ。でも、入学試験がどうとかで、貴女が居るらしいと聞いた途端に、やっぱり行くって言い出して荷造り始めて……終いには『宿敵め、待っていなさい!』とか呟いていたの。あれにはお父様も苦笑いしてたわ」
「私って彼女の宿敵なんですか?」
「そうみたいよ」
笑いながらけろっとして言う、イリアナの底抜けな天真さに何も返す言葉がなかった。
「まあ、貴女は妹にとっての活力源みたいなものなのかしら」
「あまりいい方向性じゃないですよね?」
「そうかしら?」
飾らずに話すイリアナに、どこか乗せられるように普段と変わらぬ話し方をしてしまっている事に、ラーソルバールは気付いた。
「あ……、色々と無礼な発言をお許しください」
「いいのいいの。会場の中が面倒で出てきちゃったんだけど、退屈していたところだったから、もう少し付き合って頂戴」
断りにくい笑顔を向けられ、引くに引けなくなってしまった。
誕生会もしばらくすると、会場が酒の臭いが漂うようになってきた。まだ飲酒をする年齢に達していないラーソルバールにとっては少々辛いもの。
気分が悪くなる前にと、伯爵に伝えてからバルコニーへと逃げる事にした。
外に出ると夜風が心地良く、気分転換には最適だった。少し暗いが人気も無いようで、空気も澄んでいる。
「んーっ!」
解放されたとばかりに、ラーソルバールは体を伸ばして大きく息を吸う。
「ふふふっ……」
笑い声が聞こえたので驚いて振り向くと、少し離れた所に先客が居たようだった。
「可愛いお客様ね。エラゼルのお友達?」
ゆらりと動いた人影は、室内の明かりに照らされ輪郭を現した。そのままゆっくりと歩み寄ってきたのは、どこかエラゼルに似た風貌を持つ若い女性。
「……ええ、そのようなものです」
「あら、微妙な言い回し。まあエラゼルの事だからしょうがないわね」
女性は口元を扇子で隠すようにして笑う。
正直に言ったのはまずかっただろうかと思ったが、口から出た言葉は戻せない。
「申し遅れました。私はラーソルバール・ミルエルシという者です」
礼を失することの無いよう、丁寧に優雅にと心掛けてお辞儀をする。
「ああ、あなたがラーソルバールさんなのね。私はイリアナ。エラゼルの上の姉よ」
自分の名を知っている事におどろきはしたものの、その後は彼女の姿から想像できる範囲の答えだった。
「私の事をご存知なのですか?」
「お名前だけね。エラゼルの口から何度も出てきた事があるから。確かに『お友達』という雰囲気ではなかったようだけど……。あの子が他の子の話をするなんて珍しいから」
イリアナは愉快そうに笑った。
エラゼルが何を話していたのか、ラーソルバールとしては気になるが、怖くてとても聞けるものではない。
「じゃあ、今日はお父様が気を回してご招待したのかしら。それともエラゼル本人かしら?」
「どちらなんでしょう?」
予想結果を何となく聞けそうなので、期待せずに聞いてみる。
「さあ、私は何も聞いてないから」
肩透かしを食らって、あからさまにがっかりするラーソルバールをイリアナは楽しそうに見ている。
からかわれているのだろうか。そう思うと恥ずかしさにやや赤面するのを覚えた。
「あなたは面白いわね。そうそう、面白いと言えば……、一番面白かったのはね、エラゼルの事なんだけど……。聞いてくれる?」
「は……い……」
お淑やかな女性に、圧倒されるというのは初めての経験だった。
物腰の穏やかな柔らかい雰囲気の女性だが、案外押しが強いのかもしれない。エラゼルの姉というが、妹とは全然違うように感じる。
「あのね。あの子、騎士学校に推薦で合格したんだけど、本人は興味が無かったみたいで、入学式も行かなかったのよ。でも、入学試験がどうとかで、貴女が居るらしいと聞いた途端に、やっぱり行くって言い出して荷造り始めて……終いには『宿敵め、待っていなさい!』とか呟いていたの。あれにはお父様も苦笑いしてたわ」
「私って彼女の宿敵なんですか?」
「そうみたいよ」
笑いながらけろっとして言う、イリアナの底抜けな天真さに何も返す言葉がなかった。
「まあ、貴女は妹にとっての活力源みたいなものなのかしら」
「あまりいい方向性じゃないですよね?」
「そうかしら?」
飾らずに話すイリアナに、どこか乗せられるように普段と変わらぬ話し方をしてしまっている事に、ラーソルバールは気付いた。
「あ……、色々と無礼な発言をお許しください」
「いいのいいの。会場の中が面倒で出てきちゃったんだけど、退屈していたところだったから、もう少し付き合って頂戴」
断りにくい笑顔を向けられ、引くに引けなくなってしまった。
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