聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

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第一部:第十三章 思惑

(四)会の終わり③

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「はい! くっついてると注目されるから、そろそろ止めようか」
 何となく集まる視線を感じて、淑女らしくない姿を晒すのは止めておこうという自制心が働いた。
 二人は渋々ラーソルバールから離れると、目を合わせて笑った。

「ああ、そうだ。イリアナ様にご挨拶してないや」
 ラーソルバールは思い出したように言うと、エラゼルの顔を見た。
「ああ、姉上の事だから、きっとルベーゼ姉様にかこつけて、一緒に別室で休んでいると思うぞ」
 ああ、確かにイリアナ様ならやりそうな気がする。
 ラーソルバールは思わず笑ってしまった。
 城の部屋割りなど全く知らないラーソルバールは、別室と言われても良く分からない。エラゼルは何度も来た事が有るようなので、案内を頼んだが、さすがと言うべきか大広間を出ても迷うことなく歩いていく。ラーソルバールは、ただそれについていくだけだった。
 途中、巡回警備の兵とすれ違う。
 二人は軽く頭を下げて歩を緩めなかったが、兵は足を止めて二度見していた。
「私たち怪しい?」
「いや、あれはそうでは無いだろう」
 エラゼルは笑った。

 大広間から奥に行った所に、いくつか休憩用の別室が用意されていた。
「姉上が居るのは……」
 立ち止まって、エラゼルは周囲を見渡す。
「此処か」
 迷わずにそのうちのひとつのドアをノック無しで開ける。
「あら、エラゼル。どうしたの?」
 部屋の中からイリアナの声が聞こえた。
「ああ、ラーソルバールが姉上に挨拶がしたいというので連れて来た。……どうした、ラーソルバール? 入らんのか?」
「あ、入る……けど、何で一発で分かったのかと……」
「ああ、家族にしか分からないサインがあるのだ。気にするな」
 不思議そうに眺めていたラーソルバールだったが、エラゼルに手を引かれて室内に入った。
「お久しぶりです、イリアナ様。……初めましてルベーゼ様」
 イリアナの横に初対面のルベーゼが居たので、ラーソルバールは緊張しつつ頭を下げた。
「お久しぶり、ラーソルバールさん。貴女のおかげでこうしていられる事に感謝しているわ。だから緊張しないで、頭を上げてくださいな。ね、ルベーゼ」
「そうね、構わないわ。初めまして、ラーソルバールさん。姉と妹が色々と迷惑をかけたそうで…」
 イリアナの健康的な姿とは対照的に、ルベーゼは具合が悪そうに弱々しく微笑んだ。
「いえいえ、迷惑だなんてそんな……」
「うむ、姉上はともかく、私は……」
「何か…?」
 言いかけたエラゼルを、イリアナの言葉が遮った。
「……いえ」
 エラゼルは顔を赤らめて横を向いた。
「エラゼルもイリアナ様には弱いんだね」
「そ、そんな事はないぞ」
 ラーソルバールにからかわれて、必死に否定するエラゼル。それを見ていたルベーゼも楽しそうに笑った。
(こんな風に二人が一緒に笑うなんて、珍しい……)
 イリアナはその様子を見て、嬉しそうに微笑んだ。

「少しいい? ラーソルバールさん」
 イリアナの表情から笑顔が消えた。
「貴女のお知り合いで、今日欠席された家あるかしら?」
「欠席ですが?会えていない人達は居ますが、欠席かどうかは……。それが何か」
 イリアナの表情を見る限り、良い知らせとは思えない。
「欠席でも病などの事情もあったりするから一概には言えないんだけど、聞こえてきた話によると、今回の大臣の人事に不満を持つ幾つかの家が、この会を連帯して欠席したという事らしいのよ」
「……良い話ではないですね」
「ええ、本当にね。この話は噂程度だと思って聞き流して頂戴。私達に何ができる訳でも無いのだし」
「はい、分かりました」
 会の終わりまでもうすぐという時間だったので、イリアナ達を残し、ラーソルバールはエラゼルと二人で急いで会場に戻る。しかし、もやもやした物を引きずったままで、会の終わりを告げる国王の挨拶も耳に入らなかった。
 友たちと別れて家路についても、その気持ちは晴れない。
 ラーソルバールはひとつ、大きくため息をついた。

 この迎えたばかりの新しい年、ラーソルバールは良い年になるよう願っていた。
 だが、それは思いもよらぬ形で裏切られる事になる。
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