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第一部:第十五章 その流れる先は

(四)勲章と褒賞③

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 道草もせず、真っ直ぐ寮に戻ると、急いで食堂へ。
 軍務省から戻った人達との食事する予定ということもあるが、エラゼルと二人、朝から何も食べていないのでお腹が減っていたのだ。
 実は式典後に軍務省の食堂で食べていけと言われていたのだが、全員が拒否した。そんな堅苦しいところで食べていられるか、と帰り道で誰となく笑って言っていた。
 途中で食事をしてくるという手も有ったのだが、そこはやはり寮の「無料」には敵わない。褒賞金を辞退したこともあり、皆が出費を嫌ったのかもしれない。
 軍務省の食堂も「無料」であることには違いないのだが、それでも軍務省の中で食事をするなど、皆が嫌だったという事になる。

 食堂に着くなり、お腹を空かせ過ぎた私とエラゼルは、お茶と小さなパンをひとつ注文して先に食べ始めた。
 半分ほどかじったところで、ようやく他の人達がやって来て、私達を取り囲むように座る。
 迷惑がかからないよう、私達が端の方に座っていたため、そのままの場所で食事会は始まる事になってしまった。
 改めて食事を注文し、席に座る。
 夜は暗がりで顔も良く見えなかったが、軍務省で顔を合わせ、帰り道でも他愛のない話をした。
 しかし、皆でしっかりと顔を見合わせ名乗るのは、これが初めてになる。
 私達を含め女四名、男九名という構成だったが、協力し合って街を守った仲間という連帯感だろうか、何の気兼ねも無く話し合うことができた。
 そんな中、珍しくエラゼルが会話に参加したので、私は少々驚いた。
 オークが出てきたときは…、とリックスさんが話し始めると、エラゼルは身を乗り出して聞いていた。
 逆に、エラゼルがオーガとの戦闘の話をすると、皆が食いついた。
 大怪我をしたはずの私が全快しているのを見て、皆が笑った。
 酒も無いのに宴会のように盛り上がり、楽しい時間を過ごす事ができた。食堂の人に迷惑そうな顔をされたのは、内緒にしておく。
 私は、みんなの顔を見ながら、この時の事をずっと忘れないでいようと心に決めた。

 楽しい時間はあっという間。
 食堂の閉鎖時間となり、追い出されるように会は終了した。
 また会って話に花を咲かせようと約束して、各人の名前と顔をしっかりと覚え、解散となった。
 手を振って別れ、部屋に戻ると物音に気付いたシェラが自室から顔を出す。
 何やら怒っているご様子。
「遅いよ!」
「ああ、ごめんね、色々あってね」
「色々って何よ。心配してたんだから! 全然分からないからちゃんと話して!」
 私の部屋まで付いて来たエラゼルだったが、シェラの様子を見て、私に気付かれぬよう静かに逃げようとした。
「うぁ」
 すかさず、服の裾を掴んで阻止すると、エラゼルが変な声を出す。
 逃がすものか。今まで散々一緒に居たくせに、この期に及んで逃げようとは。
「ラーソル、聞いてる?」
「聞いてます、聞いてます」
 シェラの怒気に煽られ、慌てて返事をする。
 これからシェラの事情聴取とお説教が長くなりそうだ、と苦笑いするしかなかった。
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