249 / 439
第二部:第二十一章 帝国を歩く
(三)亡国の姫①
しおりを挟む
廃墟となったカラリアは、街道からは外れた場所に存在している。
以前は主要街道が集まる場所であったのだが、戦で廃墟となった後、帝国によって街道が整備し直された為である。
ラーソルバール達は、現在の街道を外れ、旧街道を通ってカラリアを目指していた。
「存在ごと消す、ということか。街が有った事も、国が有った事も……」
憤るようにエラゼルが呟いた。原因は「道」である。
旧街道は放置され補修されることなく荒れ放題となっており、今はそこが「道であった」という事を辛うじて知ることが出来る程度でしかない。侵略し街を破壊し尽くした歴史を無かった事にしたいという、帝国の意思が働いている事は言うまでも無い。
荒れた道を走ること一刻ほど、ようやくカラリアの跡地が見えてきた。
「ああ、結構大きな街だったんだね」
街を取り囲む城壁は、その大きさを示していた。「この全てが廃墟なのか」という言葉をラーソルバールは飲み込んだ。
馬車を降りると、門へと歩を進める。焼け落ちた城門の残骸が、戦争の証人でもある。
「約束の花を埋める前に、街を見ていってもいいかな?」
ラーソルバールの意外な言葉に、誰も異論を挟むことはなかった。戦火に消えた街がどのような物なのか、その目で見なくてはならない。そんな気持ちが皆を突き動かした。
「見たら後悔するかもしれぬぞ」
エラゼルはそう言ったが、歩を止める事は無くむしろ先導するかのように進む。その手には大事そうに箱を抱えたままで。
門をくぐると、街の姿というよりは街だった物の姿が目に入ってきた。炭のように黒く焦げたものが随所に転がっており、住居だったと思われる瓦礫の山が一面に広がっているだけだった。
時の流れにより崩壊した所もあるのだろうが、それを考慮しても凄惨すぎる様に言葉を失う。この廃墟と化した街を歩けば、きっと遺体があちこちに放置され、白骨が散らばっているに違いない。そう思うと、足を前へと動かせない。
「亡霊?」
不意に発せられたシェラの一言に、誰もが背筋を寒くする。
「……何言ってるの、気のせいでしょ?」
「ううん、あっちの方で動く人影を見たの」
そう語るシェラの顔色が心なしか青白い。
「こんな昼間から亡霊なんて……って!」
ディナレスの顔が一瞬でひきつる。ゆっくりと指差す方角に確かに人の姿が有った。
「救護院は教会の息もかかってるんだから、霊とかそういうのは専門分野だろう?」
ガイザの言葉にも、ディナレスは固まったまま答えない。
仕方ないという様子で、ガイザは人影のあった方角に走り出す。一瞬遅れてラーソルバールが後を追う。
エラゼルも走って追いたいところだったのだろうが、箱の中の銀細工が気になって走ることができなかった。
「居た!」
人影を見つけると、ガイザが駆け寄る。
足音に気付いたようで、人影は驚いたように振り向いた。
「あなた方は?」
「あなたは?」
ほぼ同時に声が発せられる。
「すみません、私達はシルネラから来た冒険者です。ちょっとした依頼でここに立ち寄っただけです」
「……そうですか。ここで人に会ったのは初めてなものですから……」
そこに居たのは若い女性だった。
「亡霊、ではないですよね?」
「……ふふ、生きていますよ。驚かせてすみません、私はオリアネータ。かつてここの住人だった者の末裔です」
「そう……ですか……。何と申し上げて良いやら……」
ラーソルバールは言葉に窮した。生きている人間だった場合、その可能性が高い事を考慮していたが、凄惨な街の姿を見た後では、この女性に何を言えば良いのか思いつかなかった。
以前は主要街道が集まる場所であったのだが、戦で廃墟となった後、帝国によって街道が整備し直された為である。
ラーソルバール達は、現在の街道を外れ、旧街道を通ってカラリアを目指していた。
「存在ごと消す、ということか。街が有った事も、国が有った事も……」
憤るようにエラゼルが呟いた。原因は「道」である。
旧街道は放置され補修されることなく荒れ放題となっており、今はそこが「道であった」という事を辛うじて知ることが出来る程度でしかない。侵略し街を破壊し尽くした歴史を無かった事にしたいという、帝国の意思が働いている事は言うまでも無い。
荒れた道を走ること一刻ほど、ようやくカラリアの跡地が見えてきた。
「ああ、結構大きな街だったんだね」
街を取り囲む城壁は、その大きさを示していた。「この全てが廃墟なのか」という言葉をラーソルバールは飲み込んだ。
馬車を降りると、門へと歩を進める。焼け落ちた城門の残骸が、戦争の証人でもある。
「約束の花を埋める前に、街を見ていってもいいかな?」
ラーソルバールの意外な言葉に、誰も異論を挟むことはなかった。戦火に消えた街がどのような物なのか、その目で見なくてはならない。そんな気持ちが皆を突き動かした。
「見たら後悔するかもしれぬぞ」
エラゼルはそう言ったが、歩を止める事は無くむしろ先導するかのように進む。その手には大事そうに箱を抱えたままで。
門をくぐると、街の姿というよりは街だった物の姿が目に入ってきた。炭のように黒く焦げたものが随所に転がっており、住居だったと思われる瓦礫の山が一面に広がっているだけだった。
時の流れにより崩壊した所もあるのだろうが、それを考慮しても凄惨すぎる様に言葉を失う。この廃墟と化した街を歩けば、きっと遺体があちこちに放置され、白骨が散らばっているに違いない。そう思うと、足を前へと動かせない。
「亡霊?」
不意に発せられたシェラの一言に、誰もが背筋を寒くする。
「……何言ってるの、気のせいでしょ?」
「ううん、あっちの方で動く人影を見たの」
そう語るシェラの顔色が心なしか青白い。
「こんな昼間から亡霊なんて……って!」
ディナレスの顔が一瞬でひきつる。ゆっくりと指差す方角に確かに人の姿が有った。
「救護院は教会の息もかかってるんだから、霊とかそういうのは専門分野だろう?」
ガイザの言葉にも、ディナレスは固まったまま答えない。
仕方ないという様子で、ガイザは人影のあった方角に走り出す。一瞬遅れてラーソルバールが後を追う。
エラゼルも走って追いたいところだったのだろうが、箱の中の銀細工が気になって走ることができなかった。
「居た!」
人影を見つけると、ガイザが駆け寄る。
足音に気付いたようで、人影は驚いたように振り向いた。
「あなた方は?」
「あなたは?」
ほぼ同時に声が発せられる。
「すみません、私達はシルネラから来た冒険者です。ちょっとした依頼でここに立ち寄っただけです」
「……そうですか。ここで人に会ったのは初めてなものですから……」
そこに居たのは若い女性だった。
「亡霊、ではないですよね?」
「……ふふ、生きていますよ。驚かせてすみません、私はオリアネータ。かつてここの住人だった者の末裔です」
「そう……ですか……。何と申し上げて良いやら……」
ラーソルバールは言葉に窮した。生きている人間だった場合、その可能性が高い事を考慮していたが、凄惨な街の姿を見た後では、この女性に何を言えば良いのか思いつかなかった。
0
あなたにおすすめの小説
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ゆう
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
【完結】カワイイ子猫のつくり方
龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。
無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
お気に入り・感想、宜しくお願いします。
死に戻りぽっちゃり双子、悪役お姉様を味方につける。
清澄 セイ
ファンタジー
エトワナ公爵家に生を受けたぽっちゃり双子のケイティベルとルシフォードは、八つ歳の離れた姉・リリアンナのことが大嫌い、というよりも怖くて仕方がなかった。悪役令嬢と言われ、両親からも周囲からも愛情をもらえず、彼女は常にひとりぼっち。溢れんばかりの愛情に包まれて育った双子とは、天と地の差があった。
たった十歳でその生を終えることとなった二人は、死の直前リリアンナが自分達を助けようと命を投げ出した瞬間を目にする。
神の気まぐれにより時を逆行した二人は、今度は姉を好きになり協力して三人で生き残ろうと決意する。
悪役令嬢で嫌われ者のリリアンナを人気者にすべく、愛らしいぽっちゃりボディを武器に、二人で力を合わせて暗躍するのだった。
竜皇女と呼ばれた娘
Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた
ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる
その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ
国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
婚約破棄された没落寸前の公爵令嬢ですが、なぜか隣国の最強皇帝陛下に溺愛されて、辺境領地で幸せなスローライフを始めることになりました
六角
恋愛
公爵令嬢アリアンナは、王立アカデミーの卒業パーティーで、長年の婚約者であった王太子から突然の婚約破棄を突きつけられる。
「アリアンナ! 貴様との婚約は、今この時をもって破棄させてもらう!」
彼の腕には、可憐な男爵令嬢が寄り添っていた。
アリアンナにありもしない罪を着せ、嘲笑う元婚約者と取り巻きたち。
時を同じくして、実家の公爵家にも謀反の嫌疑がかけられ、栄華を誇った家は没落寸前の危機に陥ってしまう。
すべてを失い、絶望の淵に立たされたアリアンナ。
そんな彼女の前に、一人の男が静かに歩み寄る。
その人物は、戦場では『鬼神』、政務では『氷帝』と国内外に恐れられる、隣国の若き最強皇帝――ゼオンハルト・フォン・アドラーだった。
誰もがアリアンナの終わりを確信し、固唾をのんで見守る中、絶対君主であるはずの皇帝が、おもむろに彼女の前に跪いた。
「――ようやくお会いできました、私の愛しい人。どうか、この私と結婚していただけませんか?」
「…………え?」
予想外すぎる言葉に、アリアンナは思考が停止する。
なぜ、落ちぶれた私を?
そもそも、お会いしたこともないはずでは……?
戸惑うアリアンナを意にも介さず、皇帝陛下の猛烈な求愛が始まる。
冷酷非情な仮面の下に隠された素顔は、アリアンナにだけは蜂蜜のように甘く、とろけるような眼差しを向けてくる独占欲の塊だった。
彼から与えられたのは、豊かな自然に囲まれた美しい辺境の領地。
美味しいものを食べ、可愛いもふもふに癒やされ、温かい領民たちと心を通わせる――。
そんな穏やかな日々の中で、アリアンナは凍てついていた心を少しずつ溶かしていく。
しかし、彼がひた隠す〝重大な秘密〟と、時折見せる切なげな表情の理由とは……?
これは、どん底から這い上がる令嬢が、最強皇帝の重すぎるほどの愛に包まれながら、自分だけの居場所を見つけ、幸せなスローライフを築き上げていく、逆転シンデレラストーリー。
才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!
にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。
そう、ノエールは転生者だったのだ。
そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる