聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

文字の大きさ
298 / 439
第二部:第二十五章 任務の終わりと成果

(三)フォルテシア奔る②

しおりを挟む
 一人残ったフォルテシアは父と剣の訓練を行っていた。
「強くなったな。もう立派に騎士が務まる程の腕になってきたようだ」
「まだまだ。あの二人には手も足も出ない」
 隙をついたつもりで剣を振り下ろすが、父に軽々と止められる。さすがに熟練した剣の腕を見せる父にまだ及ばない事を自覚する。であれんば、あの二人の強さはどれほどのものか。
「あのふたりとは?」
 娘の剣を弾き、間合いを取る。
「さっきの旅の仲間の二人で騎士学校の生徒。特に片方はどう足掻いても勝てる気がしない」
「ほう、それはジャハネート様がご執心だという娘さんかな?」
「多分そう」
 以前よりも多くを語るようになった娘の変化が、父親としては嬉しい。良い出会いがあり影響を受けたのだろうか、そうであれば騎士学校に推薦入学させた甲斐があるというものだ。
「好敵手か?」
「ううん、追いつきたいとは思うけど、背中は遠いから好敵手なんて言えない。尊敬する大好きな友」
「そうか、頑張って追いかけろ」
 そう語りながら優しい顔をするようになった娘に、父は笑顔で応えた。

 フォルテシアと別れたラーソルバール達がブルテイラの街に到着したのは、まだ陽が傾く少し前だった。雨雲はゆっくりと近づいているものの、降り出すまでにはもう少し時間がかかりそうで、濡れずに街に着けたのは幸運だと思えた。
「街に入るなら、身分証明の提示が必須だ」
 デンティーク子爵の私兵だろうか、街の門を守る兵に制止された。
 ヴァストールの身分証明はシルネラに預け、王都に戻っている。だが、帝国からの入国の際と同様にシルネラの身分証明書を使用すればヴァストール国内であっても、一切問題が無い。そのはずだった。
「シルネラの冒険者だと?」
 兵士は眉間にしわを寄せ、ラーソルバール達を睨みつける。そして、他の兵士に目で合図を送り頷く。
「この証明書は偽造品ではないか!」
「は? シルネラ国民であり、これは共和国で発行された本物です。出入国の際にも一切そんな嫌疑をかけられた事はありません!」
「嘘をつくな、では何の目的があってこの街にやってきた!」
 憤る兵士に今更発言を翻して、ヴァストールの国民ですと言ったところで信用されるはずもない。
「王都エイルディアに向かう途中です。宿泊場所を求めてこの街に立ち寄っただけです!」
「そのような話を信じられると思うか! 領内に不正に侵入して悪事を働くつもりであろうが、そうはさせん。この者達を捕縛せよ!」
 その声に反応するように、詰め所から兵士達が現れ、ラーソルバール達の周囲を取り囲む。実力で切り抜ける事はできるかもしれないが、国内で荒事を起こすわけにもいかない。仲間の顔を見回すが、誰もが首を横に振る。抵抗するよりも、真実が明らかになるのを待つべきだ、という無言の合図だった。
 誰も抵抗せず、大人しく拘束されると、武器を取り上げられる。
「これから取調べか?」
「そんなところだ」
「ならばその証明書が本物だと分かるだろう」
 エラゼルはそこまで言って、はっとする。自分が所持していた剣には、見えないところにデラネトゥスの家紋が刻まれている。シルネラの冒険者がそのような剣を何故持っているのか、という話になるとややこしい。気付かれない事を願うしかなかった。
「馬車に乗れ」
 命じられるままに乗り込むと女四人だけが乗ったところで、荷馬車は動き出し、男二人はその場に残された。
「どういう事だ、何故扱いを変える!」
 憤るエラゼルの問いに、御者を勤める兵士も、一緒に乗り込んだ兵士達も何も答えない。
「何かあるね、これ」
 エラゼルの耳元で、ラーソルバールはそっと囁く。
「うむ、何かの罠にかけられたようだな」
 幌の隙間から覗く街並みは、陽は雲に遮られたか暗さを帯び始めていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

いいえ、望んでいません

わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」 結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。 だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。 なぜなら彼女は―――

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

1000年ぶりに目覚めた「永久の魔女」が最強すぎるので、現代魔術じゃ話にもならない件について

水定ゆう
ファンタジー
【火曜、木曜、土曜、に投稿中!】 千年前に起こった大戦を鎮めたのは、最強と恐れられ畏怖された「魔女」を冠する魔法使いだった。 月日は流れ千年後。「永久の魔女」の二つ名を持つ最強の魔法使いトキワ・ルカはふとしたことで眠ってしまいようやく目が覚める。 気がつくとそこは魔力の濃度が下がり魔法がおとぎ話と呼ばれるまでに落ちた世界だった。 代わりに魔術が存在している中、ルカは魔術師になるためアルカード魔術学校に転入する。 けれど最強の魔女は、有り余る力を隠しながらも周囲に存在をアピールしてしまい…… 最強の魔法使い「魔女」の名を冠するトキワ・ルカは、現代の魔術師たちを軽く凌駕し、さまざまな問題に現代の魔術師たちと巻き込まれていくのだった。 ※こちらの作品は小説家になろうやカクヨムでも投稿しています。

悪役令嬢ではありません。肩書きはただの村人ですが、いつの日か名だたる冒険者になっていた。

小田
ファンタジー
  ポッチ村に住む少女ルリは特別な力があったのだが、六歳を迎えたとき母親が娘の力を封印する。村長はルリの母の遺言どおり、娘を大切に育てた。十四歳を迎えたルリはいつものように山に薬草を採りに行くと、倒れていた騎士を発見したので、家に運んで介抱すると。騎士ではなく実は三代公爵家の長男であった。そこから彼女の人生は大きく動き出す。  特別な力を持つ村人の少女ルリが学園に行ったり、冒険をして仲間と共に成長していく物語です。  なろう、エブリスタ、カクヨム掲載しています。

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。 敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。 この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。 「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」 無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。 正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。

処理中です...