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第二部:第二十八章 行いと見返り
(一)囁く声①
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(一)
剣術訓練の授業以後、同じクラスに割り振られた修学院の男子生徒達は「美しいもうひとりの公爵令嬢」と「剣の姫君」の二人の話題でもちきりになっていた。
その噂を聞いた隣のクラスの生徒が二人を見ようと、休憩時間に覗きに来るようになった。
こうなると面白くないのは女子生徒である。
見たこともない二人に振り回される男子生徒の姿を見るにつけ、有る事無い事言い始めたのである。
さすがに公爵令嬢本人に難癖をつけて、公にでもなれば、どのような目に逢うか分からない。自然と、取り巻きと見なされたラーソルバールやシェラ、フォルテシア、エミーナといった辺りが標的となった。
ファルデリアナにしてみても、他のクラスの生徒がどう言おうと干渉するつもりは無い。むしろ勝負に敗北して自らが何も出来ぬ分、誰かが代わりにやってくれるというなら止める理由は何処にも無い。
朝、教室にやってきて机の引き出しを開けると、山のような手紙が入っている。廊下を歩けば、呼び止められて交際を申し込まれる。騎士学校では有り得ない事態に、ラーソルバールは困り果てていた。
最初のうちは手紙を開封してみていたものの、さすがに度が過ぎた状態に開封すらせず、困り果てて寮に持ち帰って焼却するか、教師に預けるかと悩むようになった。
さすがに公爵令嬢には遠慮があるのか、エラゼルは同様の事態には至っていないが、それが全く無いというわけでもない。自分の事は何とかなるが、とラーソルバールの様子を見ながら、苦笑しつつも手をこまねいていた。
その頃、裏では女子生徒達が『公爵令嬢の取り巻き』を貶めようと虎視眈々と狙っていた。
だが、力で挑んだところで勝てる要素が無い。酷い事をされた、言われたと言い張ろうにも、始終騎士学校の生徒や、修学院の男子生徒が近くに居るので、嘘だとすぐに露見しかねない。残る手段は、口撃。噂によって陥れるしかないと踏んだ。
だが、その噂も慎重に選ばなければならない。
あくまでも、騎士学校の中心的人物であり、目下の敵ラーソルバール個人に対する攻撃でなくてはならない。「公爵令嬢との関係」を持ち出してしまえば、公爵家を敵に回す事になりかねない。ましてや、清廉な性格として知られるデラネトゥス公爵家。こと問題になれば、どちらが非難されるかは火を見るよりも明らかだ。
最終的には「汚い手を使って勝った、卑怯な下級貴族の娘」というところに落ち着いた。
次第に噂は広がり、ラーソルバールがエラゼルと離れている際には、聞こえるように言ってくる者も出始めた。
そして、交流期間十五日目にしてついに。
「貴女ですか、卑怯な手を使って勝負を誤魔化した、という男爵家の娘というのは」
エヴァンデル伯爵家の令嬢を名乗る他クラスの娘に、廊下で突然詰め寄られる事態となった。
エラゼルが教員に呼ばれ、先に校庭に移動していたので教室の片付けを終え、シェラとともに二人で後から追いかけるところだった。
今まで何を言われても聞かぬ振りをしていたラーソルバールだったが、さすがに我慢の限界にきていた。
「それはどなたが仰ったのですか? ファルデリアナ様ですか?」
「ファルデリアナ様が卑怯者如き、相手にされるはずがありません! 見ていた者がいたという事です!」
隣で「抑えろ」と言うように、シェラが腕を掴んだが、止められるものではなかった。
「私は騎士を目指す以上、卑怯な事など致しません。そもそも貴女は今、ファルデリアナ様に無礼を働いている、という認識がお有りですか?」
「……は? 私が何故?」
ラーソルバールが言っている意味が分からず、怒りを露にするように眉間にしわを寄せる。
「ファルデリアナ様は、しっかりと勝負を見届けられ、負けたと仰った。そして勝負の際にエラゼル嬢とされた約束も守っておられる。貴女はそのファルデリアナ様に対して目が節穴で卑怯な手も見抜けなかったと仰っているんですよ?」
「なっ……!」
ラーソルバールの言葉に言い返す事もできず、相手は沈黙する。唇を噛み締め、恥をかかされたとばかりに睨みつけると、踵を返して去っていった。
ふう、と一息つくと、疲れたというように、シェラに寄りかかる。
これが良い方向に転じる機会になるのか、この時はまだ分からなかった。
剣術訓練の授業以後、同じクラスに割り振られた修学院の男子生徒達は「美しいもうひとりの公爵令嬢」と「剣の姫君」の二人の話題でもちきりになっていた。
その噂を聞いた隣のクラスの生徒が二人を見ようと、休憩時間に覗きに来るようになった。
こうなると面白くないのは女子生徒である。
見たこともない二人に振り回される男子生徒の姿を見るにつけ、有る事無い事言い始めたのである。
さすがに公爵令嬢本人に難癖をつけて、公にでもなれば、どのような目に逢うか分からない。自然と、取り巻きと見なされたラーソルバールやシェラ、フォルテシア、エミーナといった辺りが標的となった。
ファルデリアナにしてみても、他のクラスの生徒がどう言おうと干渉するつもりは無い。むしろ勝負に敗北して自らが何も出来ぬ分、誰かが代わりにやってくれるというなら止める理由は何処にも無い。
朝、教室にやってきて机の引き出しを開けると、山のような手紙が入っている。廊下を歩けば、呼び止められて交際を申し込まれる。騎士学校では有り得ない事態に、ラーソルバールは困り果てていた。
最初のうちは手紙を開封してみていたものの、さすがに度が過ぎた状態に開封すらせず、困り果てて寮に持ち帰って焼却するか、教師に預けるかと悩むようになった。
さすがに公爵令嬢には遠慮があるのか、エラゼルは同様の事態には至っていないが、それが全く無いというわけでもない。自分の事は何とかなるが、とラーソルバールの様子を見ながら、苦笑しつつも手をこまねいていた。
その頃、裏では女子生徒達が『公爵令嬢の取り巻き』を貶めようと虎視眈々と狙っていた。
だが、力で挑んだところで勝てる要素が無い。酷い事をされた、言われたと言い張ろうにも、始終騎士学校の生徒や、修学院の男子生徒が近くに居るので、嘘だとすぐに露見しかねない。残る手段は、口撃。噂によって陥れるしかないと踏んだ。
だが、その噂も慎重に選ばなければならない。
あくまでも、騎士学校の中心的人物であり、目下の敵ラーソルバール個人に対する攻撃でなくてはならない。「公爵令嬢との関係」を持ち出してしまえば、公爵家を敵に回す事になりかねない。ましてや、清廉な性格として知られるデラネトゥス公爵家。こと問題になれば、どちらが非難されるかは火を見るよりも明らかだ。
最終的には「汚い手を使って勝った、卑怯な下級貴族の娘」というところに落ち着いた。
次第に噂は広がり、ラーソルバールがエラゼルと離れている際には、聞こえるように言ってくる者も出始めた。
そして、交流期間十五日目にしてついに。
「貴女ですか、卑怯な手を使って勝負を誤魔化した、という男爵家の娘というのは」
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エラゼルが教員に呼ばれ、先に校庭に移動していたので教室の片付けを終え、シェラとともに二人で後から追いかけるところだった。
今まで何を言われても聞かぬ振りをしていたラーソルバールだったが、さすがに我慢の限界にきていた。
「それはどなたが仰ったのですか? ファルデリアナ様ですか?」
「ファルデリアナ様が卑怯者如き、相手にされるはずがありません! 見ていた者がいたという事です!」
隣で「抑えろ」と言うように、シェラが腕を掴んだが、止められるものではなかった。
「私は騎士を目指す以上、卑怯な事など致しません。そもそも貴女は今、ファルデリアナ様に無礼を働いている、という認識がお有りですか?」
「……は? 私が何故?」
ラーソルバールが言っている意味が分からず、怒りを露にするように眉間にしわを寄せる。
「ファルデリアナ様は、しっかりと勝負を見届けられ、負けたと仰った。そして勝負の際にエラゼル嬢とされた約束も守っておられる。貴女はそのファルデリアナ様に対して目が節穴で卑怯な手も見抜けなかったと仰っているんですよ?」
「なっ……!」
ラーソルバールの言葉に言い返す事もできず、相手は沈黙する。唇を噛み締め、恥をかかされたとばかりに睨みつけると、踵を返して去っていった。
ふう、と一息つくと、疲れたというように、シェラに寄りかかる。
これが良い方向に転じる機会になるのか、この時はまだ分からなかった。
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