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第二部:第二十八章 行いと見返り
(二)悔恨①
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(二)
事件の現場は駆け付けた警備兵や、魔法院の人々で一時騒然となった。
ラーソルバールは修学院に担ぎ込まれて応急処置を受けた後、馬車を待って救護院へと運びこまれた。
責任を感じ、意識の戻らないラーソルバールの傍に居ようと、エラゼルは無理を言って付き添ってやってきた。だが、色々な考えが頭を巡り、事態が悪い方へと向かったらどうしようかと、心落ち着く事はなかった。
あの後、事件を起こした女子学生がどうなったのかは知らない。命に別状は無いだろうが、暫く起き上がることは出来ないはず。殴り倒した事を多少後悔しているが、彼女を許そうという気は無い。
ラーソルバールにもしもの事があったら、彼女を自分の手で、とも考える。
不安を抱え、虚ろな表情のエラゼルの眼前で治癒室の扉が開くと、そこで待っていたのは見知った顔だった。
「何もこんな短期間で、またここに来ることないじゃないの」
メサイナが苦笑いを浮かべつつ出迎える。エラゼルは深々と頭を下げ、うめくように「よろしくお願いします」と短く告げた。
気を失ったままのラーソルバールが寝台に乗せられると、メサイアはすぐに手をあて、怪我の具合を確認し始めた。
その表情は暗くない。
「助かるわよ。大丈夫」
メサイナが発した言葉を聞いて、エラゼルは床にへたり込んだ。
馬車の中でも泣きながら手を握り、必死に呼び掛け続けていただけに、ほっとして気が抜けたように動けなくなった。
他の三人は事情説明のため、修学院に残っている。シェラも同行すると言って聞かなかったが、エラゼルが無理やり説得して置いてきたのだった。
「全身、火傷と裂傷だらけね。……ちょっと服を脱がすのを手伝ってくれる?」
床に座っているエラゼルをちらりと見やると、苦笑いをしながら治癒に取りかかる。
「何があるとこんなに酷い怪我をするの?」
ラーソルバールの傷をひとつひとつ確認しながら、メサイナは尋ねる。落ち着いた声だが、その目は真剣そのものでエラゼルには向けられない。
「光……雷でしょうか……魔法がほぼ直撃して……」
エラゼルは事件の直後を思い出し、震える声で言葉を紡ぎだした。
事件直後、防御に使ったラーソルバールの鞄はぼろぼろになって原型をとどめておらず、中に入っていたものは周囲に散乱していた。
女子生徒を殴り、慌ててラーソルバールのもとに戻ったが、ぐったりとして動かなくなったその姿を見て膝が震えた。全身から血の気が引くのを感じ、震えは体中に広がり、そして声が出なくなった。
必死に呼び掛けるシェラとは対照的に、自分は何も出来なかった。情けないと思いつつも、宿敵、そして友と呼んできた相手が、いかに自分にとって重要であったのかを思い知らされた。
だからこそ、触れたら失くしてしまうかもしれないという恐怖で、動けなかったのだと今なら分かる。ここに来るまで、どれだけ恐ろしかった事か。
「あとは任せて。大丈夫だから、隣室で休んでいていいわよ」
気遣ってくれたのだろうが、傍を離れるほうが不安でたまらない。
「そう、言われましても……」
「あとからきっとお客さんが来るでしょうから、応対をお願いしますね」
居させてくれ、と言おうとしたところを先んじられ、断る術がなかった。だが、確かに治癒中に誰かに入ってこられて、メサイナの邪魔をされても困る。
「ラーソルバールを……私の友をよろしくお願いします」
エラゼルは深々と頭を下げて退出した。
部屋を出ると、彼女に気付いた職員が駆け寄ってきて、関係者用の控え室へと案内する。案内し終えると、職員はさっさと引き上げていってしまい、エラゼルは一人部屋に残されてしまった。
鬱々としそうになる気持ちと戦いながら、エラゼルは時間と格闘を続ける。そしてどれくらい待った頃だろうか、部屋の扉を叩く音に気付き、顔を上げた。
「失礼します。関係者の方がおひとりいらっしゃいましたので、ご案内いたしました」
「どうぞ。入って頂いて問題ありません」
誰だろうか、シェラ達か。そう思いつつ扉を見やると、入ってきたのは意外な人物だった。
事件の現場は駆け付けた警備兵や、魔法院の人々で一時騒然となった。
ラーソルバールは修学院に担ぎ込まれて応急処置を受けた後、馬車を待って救護院へと運びこまれた。
責任を感じ、意識の戻らないラーソルバールの傍に居ようと、エラゼルは無理を言って付き添ってやってきた。だが、色々な考えが頭を巡り、事態が悪い方へと向かったらどうしようかと、心落ち着く事はなかった。
あの後、事件を起こした女子学生がどうなったのかは知らない。命に別状は無いだろうが、暫く起き上がることは出来ないはず。殴り倒した事を多少後悔しているが、彼女を許そうという気は無い。
ラーソルバールにもしもの事があったら、彼女を自分の手で、とも考える。
不安を抱え、虚ろな表情のエラゼルの眼前で治癒室の扉が開くと、そこで待っていたのは見知った顔だった。
「何もこんな短期間で、またここに来ることないじゃないの」
メサイナが苦笑いを浮かべつつ出迎える。エラゼルは深々と頭を下げ、うめくように「よろしくお願いします」と短く告げた。
気を失ったままのラーソルバールが寝台に乗せられると、メサイアはすぐに手をあて、怪我の具合を確認し始めた。
その表情は暗くない。
「助かるわよ。大丈夫」
メサイナが発した言葉を聞いて、エラゼルは床にへたり込んだ。
馬車の中でも泣きながら手を握り、必死に呼び掛け続けていただけに、ほっとして気が抜けたように動けなくなった。
他の三人は事情説明のため、修学院に残っている。シェラも同行すると言って聞かなかったが、エラゼルが無理やり説得して置いてきたのだった。
「全身、火傷と裂傷だらけね。……ちょっと服を脱がすのを手伝ってくれる?」
床に座っているエラゼルをちらりと見やると、苦笑いをしながら治癒に取りかかる。
「何があるとこんなに酷い怪我をするの?」
ラーソルバールの傷をひとつひとつ確認しながら、メサイナは尋ねる。落ち着いた声だが、その目は真剣そのものでエラゼルには向けられない。
「光……雷でしょうか……魔法がほぼ直撃して……」
エラゼルは事件の直後を思い出し、震える声で言葉を紡ぎだした。
事件直後、防御に使ったラーソルバールの鞄はぼろぼろになって原型をとどめておらず、中に入っていたものは周囲に散乱していた。
女子生徒を殴り、慌ててラーソルバールのもとに戻ったが、ぐったりとして動かなくなったその姿を見て膝が震えた。全身から血の気が引くのを感じ、震えは体中に広がり、そして声が出なくなった。
必死に呼び掛けるシェラとは対照的に、自分は何も出来なかった。情けないと思いつつも、宿敵、そして友と呼んできた相手が、いかに自分にとって重要であったのかを思い知らされた。
だからこそ、触れたら失くしてしまうかもしれないという恐怖で、動けなかったのだと今なら分かる。ここに来るまで、どれだけ恐ろしかった事か。
「あとは任せて。大丈夫だから、隣室で休んでいていいわよ」
気遣ってくれたのだろうが、傍を離れるほうが不安でたまらない。
「そう、言われましても……」
「あとからきっとお客さんが来るでしょうから、応対をお願いしますね」
居させてくれ、と言おうとしたところを先んじられ、断る術がなかった。だが、確かに治癒中に誰かに入ってこられて、メサイナの邪魔をされても困る。
「ラーソルバールを……私の友をよろしくお願いします」
エラゼルは深々と頭を下げて退出した。
部屋を出ると、彼女に気付いた職員が駆け寄ってきて、関係者用の控え室へと案内する。案内し終えると、職員はさっさと引き上げていってしまい、エラゼルは一人部屋に残されてしまった。
鬱々としそうになる気持ちと戦いながら、エラゼルは時間と格闘を続ける。そしてどれくらい待った頃だろうか、部屋の扉を叩く音に気付き、顔を上げた。
「失礼します。関係者の方がおひとりいらっしゃいましたので、ご案内いたしました」
「どうぞ。入って頂いて問題ありません」
誰だろうか、シェラ達か。そう思いつつ扉を見やると、入ってきたのは意外な人物だった。
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