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第二部:第二十九章 歩みは止めず
(四)アシェルタートの思い③
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身支度を整えた三人は、部屋の前に集まった。
「じゃあ、グラデアとディモンド、か弱い女性の護衛をよろしくね!」
「へいへい」
先程まで不満そうだったガイザも、護衛という言葉に反応し、表情を変えた。修学院からの帰宅時に襲われ、重傷を負ったという話を思い出したからだ。
当時、ガイザはその場には居なかったが、事件を伝えにやってきたシェラやフォルテシアの動揺した姿を見て、事態の深刻さを知ると体が震え出し、抑えることができなかった。再びそんな状況になるなど、決して有ってはならない。
ガイザは静かに拳を握り締めた。
街に出ると、ラーソルバールは周囲の様子を見つつも、それと気取られぬように注意して歩く。やはり前日感じたように、男性が少ないと感じる。
道すがらガイザに事情を話した後、下手に聞いて回るよりはと、少し明るい雰囲気の飲食店を選び足を踏み入れた。
店員の指示に従い、席に腰掛けると、品書きを横目で見る。
「お茶とお菓子をお勧めで三つ、お願いします」
「はいよ」
店員が注文を受け、品が運ばれて来るまでラーソルバールは外を眺めていた。
男二人はなにやら楽しそうに会話をしていたが、何の話題だかさっぱり理解できなかったからだ。
「はい、お待たせ」
目の前に置かれていく茶と焼き菓子を見て笑顔を浮かべると、予定していた質問をぶつけることにした。
「街に男性が少ないような気がしたんですが、何かあったんですか? 私達は旅の者で、何も事情を知らなくて」
「ああ、常備兵と予備役兵のそれぞれ何割だかが西方戦線に向かったからだよ。近所の何件かの店も、男手が足らなくなるって嘆いてたよ。向こうじゃ正規兵がかなりやられたらしいから、みんな無事に帰ってくるいいんだけどね……」
そう言うと、店員は大きくため息をついた後、何かを言いかけたが、他の客に呼ばれて離れて行った。
「話の通りだな」
小声でガイザが話しかける。
「知ったところで、私たちに何が出来るというわけでも無いけどね。話の通りだと、帝国自体も今回勝っても影響は大きそうだね」
余力が無ければ、新たな戦争に踏み切るような真似はしないだろうが……。言い知れぬ不安を抱えたまま、ラーソルバールは目の前に置かれた焼き菓子をひとつ頬張ると、ゆっくりと茶を口に運んだ。
その後、三人は街で着替えと、滞在の礼に伯爵家へ送る品を購入し、昼前には邸宅に戻ってきた。
午後になり、公務から解放されたアシェルタートが姿を現すと、共に庭園での遊びに興じ、陽が沈むまで賑やかな時間を過ごす事になった。
夕食を終え、ようやく二人の時間が訪れる。
暑さを紛らわせるため、ラーソルバールはアシェルタートの案内で庭園内を流れる小さな川の前までやってきていた。
「今日は街へ出たそうだが、聡い君のことだ。気付いたのだろう?」
「何のことでしょう?」
アシェルタートの問いに、素知らぬふりをしてみせる。
「あまり隠そうともしない笑顔だな。まあいいか……先日、我が領から一千の兵を西方戦線に送った。国の正規軍にもかなり損害は出ているので、我が領だけでなく他の領地からもそれなりの数が出ている。これで戦争が終わったとしても、しばらくは戦後収集にかかりきりになりそうだ」
アシェルタートは、ラーソルバールが知りたかったことを惜しげもなく語った。
「そうですか……戦地に行った皆さんが無事に帰ってくるといいですね」
「ああ、早く戦争など終わらせて、また平穏に暮らせるようになれば良いのだが……」
ランタンを持ってきているが、今は覆いを被せて光を絞っている。虫除けの効果が有る素材を使用しているのか、その僅かに漏れる光に虫が集う事はない。
二人の間に置かれた灯は、月光と併さり互いの存在をぼんやりと闇に映し出し、静かに幻想的な時間を作り出す。
「戦争が終わっても、しばらくの間、アシェルには会う余裕はなさそうですね」
心のままに隠すことなく、寂しそうな表情を浮かべる。
「そうかもしれない。だから、これをルシェに渡そうと思って居たんだ」
懐から小さな箱を取り出し、蓋を開けてラーソルバールに見せる。箱の中には指輪が入っており、月の光を反射して小さく輝きを放った。
「これで君を繋ぎとめておけるなんて思っていない。けれど、いつか必ず……」
決意したようなアシェルタートの顔を見て、ラーソルバールは思わず涙した。涙の理由が自分でも分からないまま、震える手でそっと愛しい人の頬に触れる。
「良い未来を信じています……」
アシェルタートの腕がラーソルバールを求め、光と影が交錯するように二人の影が重なった。
「じゃあ、グラデアとディモンド、か弱い女性の護衛をよろしくね!」
「へいへい」
先程まで不満そうだったガイザも、護衛という言葉に反応し、表情を変えた。修学院からの帰宅時に襲われ、重傷を負ったという話を思い出したからだ。
当時、ガイザはその場には居なかったが、事件を伝えにやってきたシェラやフォルテシアの動揺した姿を見て、事態の深刻さを知ると体が震え出し、抑えることができなかった。再びそんな状況になるなど、決して有ってはならない。
ガイザは静かに拳を握り締めた。
街に出ると、ラーソルバールは周囲の様子を見つつも、それと気取られぬように注意して歩く。やはり前日感じたように、男性が少ないと感じる。
道すがらガイザに事情を話した後、下手に聞いて回るよりはと、少し明るい雰囲気の飲食店を選び足を踏み入れた。
店員の指示に従い、席に腰掛けると、品書きを横目で見る。
「お茶とお菓子をお勧めで三つ、お願いします」
「はいよ」
店員が注文を受け、品が運ばれて来るまでラーソルバールは外を眺めていた。
男二人はなにやら楽しそうに会話をしていたが、何の話題だかさっぱり理解できなかったからだ。
「はい、お待たせ」
目の前に置かれていく茶と焼き菓子を見て笑顔を浮かべると、予定していた質問をぶつけることにした。
「街に男性が少ないような気がしたんですが、何かあったんですか? 私達は旅の者で、何も事情を知らなくて」
「ああ、常備兵と予備役兵のそれぞれ何割だかが西方戦線に向かったからだよ。近所の何件かの店も、男手が足らなくなるって嘆いてたよ。向こうじゃ正規兵がかなりやられたらしいから、みんな無事に帰ってくるいいんだけどね……」
そう言うと、店員は大きくため息をついた後、何かを言いかけたが、他の客に呼ばれて離れて行った。
「話の通りだな」
小声でガイザが話しかける。
「知ったところで、私たちに何が出来るというわけでも無いけどね。話の通りだと、帝国自体も今回勝っても影響は大きそうだね」
余力が無ければ、新たな戦争に踏み切るような真似はしないだろうが……。言い知れぬ不安を抱えたまま、ラーソルバールは目の前に置かれた焼き菓子をひとつ頬張ると、ゆっくりと茶を口に運んだ。
その後、三人は街で着替えと、滞在の礼に伯爵家へ送る品を購入し、昼前には邸宅に戻ってきた。
午後になり、公務から解放されたアシェルタートが姿を現すと、共に庭園での遊びに興じ、陽が沈むまで賑やかな時間を過ごす事になった。
夕食を終え、ようやく二人の時間が訪れる。
暑さを紛らわせるため、ラーソルバールはアシェルタートの案内で庭園内を流れる小さな川の前までやってきていた。
「今日は街へ出たそうだが、聡い君のことだ。気付いたのだろう?」
「何のことでしょう?」
アシェルタートの問いに、素知らぬふりをしてみせる。
「あまり隠そうともしない笑顔だな。まあいいか……先日、我が領から一千の兵を西方戦線に送った。国の正規軍にもかなり損害は出ているので、我が領だけでなく他の領地からもそれなりの数が出ている。これで戦争が終わったとしても、しばらくは戦後収集にかかりきりになりそうだ」
アシェルタートは、ラーソルバールが知りたかったことを惜しげもなく語った。
「そうですか……戦地に行った皆さんが無事に帰ってくるといいですね」
「ああ、早く戦争など終わらせて、また平穏に暮らせるようになれば良いのだが……」
ランタンを持ってきているが、今は覆いを被せて光を絞っている。虫除けの効果が有る素材を使用しているのか、その僅かに漏れる光に虫が集う事はない。
二人の間に置かれた灯は、月光と併さり互いの存在をぼんやりと闇に映し出し、静かに幻想的な時間を作り出す。
「戦争が終わっても、しばらくの間、アシェルには会う余裕はなさそうですね」
心のままに隠すことなく、寂しそうな表情を浮かべる。
「そうかもしれない。だから、これをルシェに渡そうと思って居たんだ」
懐から小さな箱を取り出し、蓋を開けてラーソルバールに見せる。箱の中には指輪が入っており、月の光を反射して小さく輝きを放った。
「これで君を繋ぎとめておけるなんて思っていない。けれど、いつか必ず……」
決意したようなアシェルタートの顔を見て、ラーソルバールは思わず涙した。涙の理由が自分でも分からないまま、震える手でそっと愛しい人の頬に触れる。
「良い未来を信じています……」
アシェルタートの腕がラーソルバールを求め、光と影が交錯するように二人の影が重なった。
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