聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

文字の大きさ
358 / 439
第二部:第三十章 運命と時は流れるままに

(三)城からの使い①

しおりを挟む
(三)

「はあぁぁぁっ? どういう事っ!」
 旅を終え帰宅した直後。父から告げられた言葉に、ラーソルバールは思わず絶叫していた。
「いや、そう言われてもな……」
 そういう父クレストの表情も明らかに困惑しているのが分かる。平静を取り繕いつつ、机の上にあった手紙をラーソルバールに差し出した。
 ラーソルバールは震える手でそれを受け取ると、便箋を開いて目を通す。

 遡る事、二刻前。まだラーソルバールが王都の門をくぐる前の出来事。
 休日でもあり、クレストは買って来たばかりの書物を読みながら、茶を飲んでいた時のことだった。
 遠くから響いてきていた石畳を叩く馬蹄音が、家の前でぴたりと止んだ。
 続いて玄関の扉を叩く音がして、本から視線を外し立ち上がるとゆっくりと歩き、来訪者を迎え入れた。
「ミルエルシ男爵であられますか」
「ええ、私ですが……」
「小官は宰相閣下の命により参りました。こちらの宰相閣下よりの書簡を、謹んでお受け取りになられますよう」
 城からの使者は、一通の手紙をクレストに渡すと、恭しく一礼をし、すぐに去っていった。
 クレストは使者を見送ると、椅子に戻って腰掛け、封を開けて中から便箋を取り出す。
 何の書状だろうかと首を傾げる。書状を受け取るような覚えもなければ、何かをした記憶もない。ただ、王太子に剣を教える傍ら耳にした噂がある。だが、自分の娘に限って有りえる話ではない。
 折り畳まれた便箋を開き目を通すと、手が震えた。
「まさか……」
 驚きの内容にクレストはそう呟くと、絶句した。

「おかしいでしょ? 貧乏男爵家の娘の私が?」
 書かれた内容を読み終わるなり、ラーソルバールはもう一度父に食ってかかった。
「貧乏は余計だ……」
 大きくため息をつきながら、娘と向き合う。
「私がエラゼルやファルデリアナ様と並んで、王太子殿下のだとか、どう考えても変でしょ!」
「あくまでも候補だろう。それにあまり大きな声を出すな。これは一部の人々にしか知らされていない機密事項と書いてあるだろうが」
「だって……父上も殿下の近くに居るのに、今まで知らなかったなんて……」
 諭されて、声を荒げる事を止め、観念したように椅子に腰掛ける。
「いや、それらしい話は聞いていたんだが、まさかお前が十人のうちの一人に入るなんて思いもしなかったからなぁ……。」
「光栄な事ではあるけど、二人の公爵令嬢の他、侯爵家や伯爵家の人ばかりの所になんで私が……」
 便箋を手にしたままテーブルに突っ伏して愚痴をこぼす。そして、ふと思い出した。
「ああ、エラゼルが言ってた不確定情報ってこれかぁ」
 顔だけ上げて顎を乗せ、父の顔を見る。行儀が悪いという父の無言で送られる視線も、気にする精神的余裕が無い。
「で、お前はどうしたい?」
「いや、だから光栄な事だけど……」
「けど?」
「嫌だ」
 はっきりと言う娘にクレストは思わず笑い出した。
「いや、恐れ多い話だけど、殿下が好きと嫌いとかじゃなくて……。順調に行けば将来は王妃様でしょ?」
 一瞬、アシェルタートの顔が脳裏をよぎった。もしも正式に選ばれてしまえば、もう戻ることはできない。
「まあ、そうなるな。周囲の思惑はともかく、ウォルスター殿下も王になる気は無い、と公言されているしな」
「私が王妃とかそんな器じゃないし、有り得ないでしょ。……でも、それこそ誰が王妃になるかで、国内の力関係も色々問題が出てくるんじゃない?」
「ああ、そういう意味では、さすが宰相メッサーハイト公爵と言える上手い人選をしているよ。国内の要職にある家は外している。だからと言って男爵家はないよな……」
 ラーソルバールは最早動く気も失せたのか、微動だにせず「うんうん」と声だけで同意する。まさか暗殺阻止が加点対象となった、などと冗談のような事はないだろうと思う。
「ミルエルシ家としても辞退したいところなんだがな……。断ったら不敬にあたるし。まあ、正式決定は来年らしいから、それまで振る舞いやらを事細かに調べられるようだが、何とかしのいでくれ」
「何と投げやりな……。それは父としてどうなのよ」
 抗えない力が働いている、それは理解している。感情論でどうにかなるものでは無いし、男爵家ごときが決定事項に異を唱える訳にもいかない。不正でも働いていれば、そこから抹消されるのだろうが……。我が父が不正を働くはずも無い。
「どうせならエラゼルに決まってくれないかな……。品格も容姿も才能も、この国を想う気持ちも、彼女に勝てる人なんて居ないんだから。……ああ、でも会えなくなるのは嫌だな」
 ぶつぶつとひとり言のように呟くと、手紙を丁寧に折り畳んだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

処理中です...