394 / 439
第二部:第三十三章 その手に掴むのは
(三)ひとつひとつ①
しおりを挟む
(三)
新年会を終え、王宮から疲れ切った様子で帰宅した父と娘を、エレノールが笑顔で迎えた。
ラーソルバールはふらふらになりながらも、ドレスのままリビングの椅子に腰掛け、大きく息を吐いた。
「お疲れ様でした。楽しかったですか?」
「そういう風に見えますか?」
「んー、半々ですか?」
曖昧な答えに、エレノールは苦笑した。
ラーソルバールとしてもエレノールの言うように、楽しんだといえば楽しんだのかもしれない。学校以外の場所で、多くの人との接点を持つという機会はなかなか有るものではない。
人脈を広げようなどという考えは持っていなかったが、結果的には先々に繋がる出会いが有った可能性もある。
「それから……」
薬草茶を淹れようとしたエレノールを呼び止めるように声をかけた。
「伯爵様に御挨拶をして、エレノールさんの件もちゃんとお話ししました」
伯爵と話したのはエラゼルの話を聞いた後だったので、赤くなった目を不審に思われただろうかと少々気になっている。
「ありがとうございます!」
「契約書に記載した通り、三月からでお願いします。最初のお仕事は引越しという事になりますね」
茶の入ったポットを手に、嬉しそうな表情を浮かべるエレノールを見て、ラーソルバールは苦笑いする。
「大臣でもある伯爵家を辞めて、準男爵の小娘のところに来るなんて、世の中の人が聞いたら何て言うか……」
「先見の明がありましたね、って言われると思いますよ!」
自信満々に言い放つエレノールに、父と娘はある種の頼もしさを感じた。
年末から年明けにかけて滞在していたエレノールも、ラーソルバールの休暇が終わると同時に、伯爵家へと戻って行った。
そして、ラーソルバールにとって残り少ない学校生活が始まる。
幼年学校時代とは異なり、騎士になるという明確な目標を持って学んできた分、ラーソルバールは多くの教科で好成績を残してきている。だが、相変わらず魔法は不得手なままで、全体平均よりやや下といった程度の実力しか身に付いていない。
魔法は一通り使えるようになったとはいえ、簡単な魔法であっても無詠唱で発現させることは未だに出来ていない。
「騎士には魔法も必要だぞ」
ラーソルバールが魔法を無詠唱で行使しようとして失敗したのを見て、隣で訓練をしていたエラゼルが笑った。
エラゼルの場合、騎士学校で習得した魔法は、ほぼ予備詠唱無しで使用できるようになっている。中程度の魔法であれば、無詠唱でも全く問題が無い。学年で一番という評価はもとより、ここ二十年で最高の実力だろうとも言われている。
「天才のくせに人一倍努力する、貴女のような人とは違うんです!」
「ほんとにねぇ、その美貌や才能を少し分けて欲しいなあ」
話を聞いていたシェラが愚痴る。彼女もいくつか無詠唱で魔法を使えるようになってはいるが、エラゼルとは大きな開きがあるのを自覚している。
「私語は良くない。教官に怒られる」
フォルテシアが小さな声で忠告した。
彼女も、休暇を終えて戻ってきた時にエラゼルの進路について聞かされている。
ラーソルバールに告げたことで気が軽くなっていたのか、フォルテシアには少しさばさばした様子で打ち明けていた。それに対してフォルテシアはやや動揺した様子を見せたが、僅かな時間の後に平静を取り戻すと「分かった。少し残念」とだけ答えた。
エラゼルを気遣って、彼女なりに精一杯努力した結果だということを、ラーソルバールやシェラには分かっている。もちろん、それはエラゼルも気付いているのだろう。
「すまぬな」
彼女を気遣うエラゼルの一言で、フォルテシアの瞳には涙が滲んだ。平民出身の自分に対して、親しくそして礼をもって接してくれる公爵家の娘。フォルテシアにとって、どれだけ大きな存在だったろうか。
「謝る必要ない……」
必死に捻り出した言葉は、震えていた。ラーソルバールに対して抱く感情とは、似て非なる思いを抱えていたに違いない。
四人は今までと変わらぬ様子で授業をこなしながらも、一日一日と迫る卒業へ寂寥感を覚えずにはいられなかった。
新年会を終え、王宮から疲れ切った様子で帰宅した父と娘を、エレノールが笑顔で迎えた。
ラーソルバールはふらふらになりながらも、ドレスのままリビングの椅子に腰掛け、大きく息を吐いた。
「お疲れ様でした。楽しかったですか?」
「そういう風に見えますか?」
「んー、半々ですか?」
曖昧な答えに、エレノールは苦笑した。
ラーソルバールとしてもエレノールの言うように、楽しんだといえば楽しんだのかもしれない。学校以外の場所で、多くの人との接点を持つという機会はなかなか有るものではない。
人脈を広げようなどという考えは持っていなかったが、結果的には先々に繋がる出会いが有った可能性もある。
「それから……」
薬草茶を淹れようとしたエレノールを呼び止めるように声をかけた。
「伯爵様に御挨拶をして、エレノールさんの件もちゃんとお話ししました」
伯爵と話したのはエラゼルの話を聞いた後だったので、赤くなった目を不審に思われただろうかと少々気になっている。
「ありがとうございます!」
「契約書に記載した通り、三月からでお願いします。最初のお仕事は引越しという事になりますね」
茶の入ったポットを手に、嬉しそうな表情を浮かべるエレノールを見て、ラーソルバールは苦笑いする。
「大臣でもある伯爵家を辞めて、準男爵の小娘のところに来るなんて、世の中の人が聞いたら何て言うか……」
「先見の明がありましたね、って言われると思いますよ!」
自信満々に言い放つエレノールに、父と娘はある種の頼もしさを感じた。
年末から年明けにかけて滞在していたエレノールも、ラーソルバールの休暇が終わると同時に、伯爵家へと戻って行った。
そして、ラーソルバールにとって残り少ない学校生活が始まる。
幼年学校時代とは異なり、騎士になるという明確な目標を持って学んできた分、ラーソルバールは多くの教科で好成績を残してきている。だが、相変わらず魔法は不得手なままで、全体平均よりやや下といった程度の実力しか身に付いていない。
魔法は一通り使えるようになったとはいえ、簡単な魔法であっても無詠唱で発現させることは未だに出来ていない。
「騎士には魔法も必要だぞ」
ラーソルバールが魔法を無詠唱で行使しようとして失敗したのを見て、隣で訓練をしていたエラゼルが笑った。
エラゼルの場合、騎士学校で習得した魔法は、ほぼ予備詠唱無しで使用できるようになっている。中程度の魔法であれば、無詠唱でも全く問題が無い。学年で一番という評価はもとより、ここ二十年で最高の実力だろうとも言われている。
「天才のくせに人一倍努力する、貴女のような人とは違うんです!」
「ほんとにねぇ、その美貌や才能を少し分けて欲しいなあ」
話を聞いていたシェラが愚痴る。彼女もいくつか無詠唱で魔法を使えるようになってはいるが、エラゼルとは大きな開きがあるのを自覚している。
「私語は良くない。教官に怒られる」
フォルテシアが小さな声で忠告した。
彼女も、休暇を終えて戻ってきた時にエラゼルの進路について聞かされている。
ラーソルバールに告げたことで気が軽くなっていたのか、フォルテシアには少しさばさばした様子で打ち明けていた。それに対してフォルテシアはやや動揺した様子を見せたが、僅かな時間の後に平静を取り戻すと「分かった。少し残念」とだけ答えた。
エラゼルを気遣って、彼女なりに精一杯努力した結果だということを、ラーソルバールやシェラには分かっている。もちろん、それはエラゼルも気付いているのだろう。
「すまぬな」
彼女を気遣うエラゼルの一言で、フォルテシアの瞳には涙が滲んだ。平民出身の自分に対して、親しくそして礼をもって接してくれる公爵家の娘。フォルテシアにとって、どれだけ大きな存在だったろうか。
「謝る必要ない……」
必死に捻り出した言葉は、震えていた。ラーソルバールに対して抱く感情とは、似て非なる思いを抱えていたに違いない。
四人は今までと変わらぬ様子で授業をこなしながらも、一日一日と迫る卒業へ寂寥感を覚えずにはいられなかった。
0
あなたにおすすめの小説
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
いいえ、望んでいません
わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」
結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。
だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。
なぜなら彼女は―――
【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜
るあか
ファンタジー
僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。
でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。
どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。
そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。
家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。
1000年ぶりに目覚めた「永久の魔女」が最強すぎるので、現代魔術じゃ話にもならない件について
水定ゆう
ファンタジー
【火曜、木曜、土曜、に投稿中!】
千年前に起こった大戦を鎮めたのは、最強と恐れられ畏怖された「魔女」を冠する魔法使いだった。
月日は流れ千年後。「永久の魔女」の二つ名を持つ最強の魔法使いトキワ・ルカはふとしたことで眠ってしまいようやく目が覚める。
気がつくとそこは魔力の濃度が下がり魔法がおとぎ話と呼ばれるまでに落ちた世界だった。
代わりに魔術が存在している中、ルカは魔術師になるためアルカード魔術学校に転入する。
けれど最強の魔女は、有り余る力を隠しながらも周囲に存在をアピールしてしまい……
最強の魔法使い「魔女」の名を冠するトキワ・ルカは、現代の魔術師たちを軽く凌駕し、さまざまな問題に現代の魔術師たちと巻き込まれていくのだった。
※こちらの作品は小説家になろうやカクヨムでも投稿しています。
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~
ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。
彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。
敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。
この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。
「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」
無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。
正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。
悪役令嬢ではありません。肩書きはただの村人ですが、いつの日か名だたる冒険者になっていた。
小田
ファンタジー
ポッチ村に住む少女ルリは特別な力があったのだが、六歳を迎えたとき母親が娘の力を封印する。村長はルリの母の遺言どおり、娘を大切に育てた。十四歳を迎えたルリはいつものように山に薬草を採りに行くと、倒れていた騎士を発見したので、家に運んで介抱すると。騎士ではなく実は三代公爵家の長男であった。そこから彼女の人生は大きく動き出す。
特別な力を持つ村人の少女ルリが学園に行ったり、冒険をして仲間と共に成長していく物語です。
なろう、エブリスタ、カクヨム掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる