聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

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第三部:第三十四章 背負う責任

(一)初出仕③

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 ラーソルバールの配属先は第二騎士団。それを理由にジャハネートが激しく落胆していた事を、ラーソルバールは知る由もない。

 受付担当者はラーソルバールの顔を見て、不思議そうに首を傾げた。
「あー、ラーソルバール・ミルエルシ……ね」
 周囲がざわめいている事と、受付担当者の反応は無関係ではないだろう。ラーソルバールは、自分は何か変な事をしただろうかと不安になった。
 ふと冷静になって考えれば、ラーソルバールにも思い当たる節が無い事もない。
 なぜ自分は「二星官」なのか、と。確かに受領した辞令書にはそう記載が有るのだが、通常であれば騎士学校卒業者は、主席卒業だろうが爵位が高かろうが、一律に「一星官」のはずなのだ。
 過去に同様の事例があるかどうかは分からないが、間違いならここで正されるだろう、と一瞬考えた。……いや、そういえば。ラーソルバールは思い出したように、自らが着用している制服に目をやる。
(あー……。間違いなく、星がふたつあるわ……)
 胸の階級章を見て、心の中で苦笑いする。制服を手にした事に舞い上がっていて、今まで全く疑問にも思わなかった事実に、いま気付いたのである。
「ああ、確認した。ミルエルシ二星官、この書類を持って通路奥の右の部屋に入って時間まで待機するように」
 名簿書類にチェックをすると、受付担当者は無造作に書類を手渡す。
「あれが……」
「ああ、なるほど……」
 背後から噂をする声がする。居心地の悪さに、ラーソルバールは逃げるように指定された部屋へと急ぐ。

 室内には、既に同期たちが数名着座して、書類を眺めていた。
 ラーソルバールはそこにシェラの姿を見つけ、気付かれぬように静かに歩み寄る。
「お嬢さん、お隣の席に座ってもよろしいですか?」
 声色を変えて、背後から話しかける。
「あ、はいどうぞ……」
 振り返る事無く返事が返ってきた。悪戯のつもりだったが、気付かれていないだろうか。書類を読む邪魔をしないように、静かに腰掛ける。
 先日会った際に、同じ団に配属された事を喜び合ったものだが、こうして実際にそこに居ると安心する。
 ラーソルバールもシェラに倣うように、渡された書類に目を通す。
 騎士団の規約や、騎士としての模範的生活などが書かれていたが、その辺は騎士学校で一通り聞いてきているので、差異が無いか確認する程度で済む。あとは、正式な騎士としての雇用に関する書類だが、その辺はこれから説明があるのだろう。
「うわっ!」
 隣に居たシェラが驚いたような声を上げる。
「どうしたの?」
「……やられた」
 今までラーソルバールだと気付いていなかった、という事だろう。額に手をあてて、苦笑いをした。
「ごめんね、少し悪戯してみたかったの……」
「貴女の悪戯には、時々驚かされるわ」
 お互いに緊張がほぐれたというように、顔を向け合って笑う。
「ねぇ、シェラ……話が変わるんだけどさ……。私、さっきまで気付かなかったというか、全く疑問にも思ってなかったんだけど……これ見て」
 制服の襟と胸についた階級章をシェラに見えるよう、身体を向けてそれぞれ指差す。
「……え? どういうこと?」
「それが私にもさっぱり……どうやら間違いじゃないらしいんだけどね」
 そのまま辞令と、受付での事を話して聞かせた。
「貴女は学生時代に色々やってるし、主席卒業だし、何だか軍務省の思惑が絡んでいそうな気がするね」
「そうだよねぇ……」
 ラーソルバールの騎士としての生活は、意外にも憂鬱な出来事から始まったのだった。

 ちなみに領主としての仕事は既に動き出している。イスマイア地区には三月中に足を運び、村長との面談も済ませた。
 村には領政用の館を設置し、デラネトゥス公爵家から紹介されたトゥーグルス、ワリマールという二人を、執政官として交代で駐在させる事を取り決めている。
 執政官は村長と村の役員と協力して運営するという取り決めをし、領主として文書に署名した。ちなみにこの文書は、執政官二人とエレノールに協力して貰い、ラーソルバールが作成したものである。
 運営に関する取り決めもに関しても特に問題も発生せず、領民達にも新領主として好意的に受け入れられたようなので、ひとまずは落ち着いたと言って良い。また、国からの引継ぎも無事に終わっており、課題があれば今後挙がってくる事だろう。
 ラーソルバール自身、最初から上手くいくとは思ってはいない、何が有っても良いように構えておくしかないと、腹をくくっている。

 いずれにしろ、この日から騎士となり、領主にもなった訳だが、本人には未だに明るい未来は描けていなかった。
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