聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

文字の大きさ
414 / 439
第三部:第三十五章 出陣

(一)出征①

しおりを挟む
(一)

 シェラは小隊こそ違うものの、ラーソルバールと同じ第五中隊に配属されている。おかげで二人は時折、廊下や訓練場で顔を合わせる。今回の軍事行動に関する説明がヴェイス一月官からあった際にも、すぐ近くで話を聞いていた。
 居てくれるだけで精神的に落ち着くのでラーソルバールにとっては非常に有り難い存在だ。
 さて、シェラを除く友人達は、どうなったかといえば。
 フォルテシアは父親と同じ第八騎士団、ミリエルは第六騎士団で、ラーソルバールらと同じくこれが初陣となる。更に言えば、一年先輩のリックスも第八騎士団に配属されたと聞いていたので、戦場で顔を合わせる事があるかもしれない。
 対照的に、第一騎士団のエミーナ、第七騎士団のガイザは今回の出兵の対象外となった。
 新卒の所属は公示されるわけではないので、当人から連絡を貰った場合と、同じ第二騎士団に所属する者を除けば、その他の同期が何処に配属されたのかは、ラーソルバールの知るところではない。

 覚悟はしていたが、戦争となれば皆が無事に帰る保障などは何処にも無い。
 五日間は準備で大忙しになるだろうが、今回の出兵に関してエラゼルを交えて友人達と一度顔を合わせようと考えた。
(帰りにシェラと相談するか……)
 ヴェイス一月官の説明が終わって部屋を出る際、シェラに「またあとで」と短く声をかける。分かったというように小さくうなずき、シェラは手を振った。彼女にはそれで通じているだろう。

 十七小隊の執務室に戻ると、小隊員の顔を見ながらギリューネクは顔をしかめた。
「ああ……。何というか、こんな事態になるとは想定していなかった。とりあえず、まあ無理せず生きて帰ろうや……」
 こんな時でさえも、ギリューネクはラーソルバールと視線を合わせようとはしない。それに対してラーソルバールは怒りを覚える事も無い。既に諦めていると言っても良いだろう。
 相容れない人物との歩み寄りは、元々人付き合いが得意ではないラーソルバールにとって、かなりの難題と言っていい。しかも、相手側が階級的にも上であり、歩み寄る余地が全く無い拒絶された状態とあっては、改善などは望むべくも無い。
 どうしたものかと考えていると、隣に立っていたドゥーが不意に、何かを決したように顔を上げた。
「隊長は、小隊内に不和を持ったまま、戦場に赴かれるおつもりですか?」
 彼は苦々しい表情で、上司に尋ねる。
「あん?」
 ギリューネクは反発する部下を睨み付けた。
「この隊に……俺の隊に何か問題があるって言うのか?」
「無いと……仰るのですか?」
 今度はビスカーラが震えるような声で、言葉を発した。
「きっと……ミルエルシ二星官は、こうなると予見していたからこそ、私達の技量を上げたいと考えて、無理を承知で隊長にお願いされたのだと、今になって分かりました」
「はぁ? こんな新人を買いかぶるんじゃねぇよ! こいつに何が分かるって言うんだ!」
 ギリューネクは感情のままに、ビスカーラを怒鳴りつけた。言葉とは裏腹に、酒の席で聞いた言葉が頭をよぎる。だが、それを肯定するつもりは無い。
 ビスカーラは一瞬怯んだが、萎縮した様子は無い。その目はしっかりとギリューネクを見据えている。
 ギリューネクはやり場の無い怒りに拳を握り、机を激しく叩き付け、室内に大きな音が響かせた。
「どうせ自分で考えた事じゃあ無いんだろう? 貴族様には優秀な従者が居るんだろうからな……」
 ラーソルバールを指差し、仇敵でも見るかの如く睨み付けた。
「それでは……」
 ラーソルバールは気付かれないように、小さく吐息すると、意見してくれた二人に心で感謝しつつ、口を開いた。
「それでは隊長は、何故あの時、安定した状況で戦争など起こりえないというように仰ったのですか? 昨年にはカレルロッサの動乱がありましたし、現在は我が国と帝国との関係も悪化する一方です。レンドバールに到っては、昨年の震災の影響から抜け出せず、国民の不満の矛先を逸らすため軍事行動を起こす可能性があると、なぜお考えにならなかったのですか?」
 自分が黙っていてはいけない。二人の厚意に報いる為にも、言うべき事は今言わねばならない。このままでは自分達ばかりか、隊の全員が戦場で危険に晒される可能性も有るのだから。
 言い終わると、ラーソルバールは唇を噛んだ。
「口だけは良く回るな。誰かに入れ知恵されただけのくせに偉そう言うんじゃねえ」
 ああ、やはり無駄なのだ。ラーソルバールは悟った。
 だが、それでも……。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

いいえ、望んでいません

わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」 結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。 だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。 なぜなら彼女は―――

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

1000年ぶりに目覚めた「永久の魔女」が最強すぎるので、現代魔術じゃ話にもならない件について

水定ゆう
ファンタジー
【火曜、木曜、土曜、に投稿中!】 千年前に起こった大戦を鎮めたのは、最強と恐れられ畏怖された「魔女」を冠する魔法使いだった。 月日は流れ千年後。「永久の魔女」の二つ名を持つ最強の魔法使いトキワ・ルカはふとしたことで眠ってしまいようやく目が覚める。 気がつくとそこは魔力の濃度が下がり魔法がおとぎ話と呼ばれるまでに落ちた世界だった。 代わりに魔術が存在している中、ルカは魔術師になるためアルカード魔術学校に転入する。 けれど最強の魔女は、有り余る力を隠しながらも周囲に存在をアピールしてしまい…… 最強の魔法使い「魔女」の名を冠するトキワ・ルカは、現代の魔術師たちを軽く凌駕し、さまざまな問題に現代の魔術師たちと巻き込まれていくのだった。 ※こちらの作品は小説家になろうやカクヨムでも投稿しています。

悪役令嬢ではありません。肩書きはただの村人ですが、いつの日か名だたる冒険者になっていた。

小田
ファンタジー
  ポッチ村に住む少女ルリは特別な力があったのだが、六歳を迎えたとき母親が娘の力を封印する。村長はルリの母の遺言どおり、娘を大切に育てた。十四歳を迎えたルリはいつものように山に薬草を採りに行くと、倒れていた騎士を発見したので、家に運んで介抱すると。騎士ではなく実は三代公爵家の長男であった。そこから彼女の人生は大きく動き出す。  特別な力を持つ村人の少女ルリが学園に行ったり、冒険をして仲間と共に成長していく物語です。  なろう、エブリスタ、カクヨム掲載しています。

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。 敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。 この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。 「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」 無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。 正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。

処理中です...