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『あっヒロインのサポートキャラなんて絶対無理』
唐突に思い出した前世と思しき記憶に暫くフリーズしていたけど、周囲は誰も気付く事なく粛々と入学式が続いている。
そっとため息を突いて、気持ちを切り替える。
この入学式の後すぐに自分の学園生活を大きく左右するヒロインとの出会いがある事が分かっているからだ。
急がなければ!
前世で数多の異世界転生モノを読み漁っていたおかげで、実際、今自分が異世界転生を果たしていた事についてはあまり戸惑いはない。
ただ、恐らくこの世界のモデルだろう乙女ゲームの開始日である今日、それも入学式の最中に前世を思い出すというタイミングの悪さに舌打ちしたくなる。これが、乳幼児期に思い出していればゆっくり対策を練る事が出来たのに。と密かに唇を噛む。
いや、まだ間に合う、まだ知り合う前だから。
自分を鼓舞しながら、すぐに現実把握と今後の対策を考え始めた。
私はロゼニア•ルーブル。ルーブル伯爵家の次女だ。この王立パリス魔法学園を舞台にした乙女ゲーム『月と花と秘めた恋』、通称『つきひめ(月秘め)』のヒロインのサポートキャラ。栗色の髪に翠の瞳でキャラの中では地味な見た目。それはそうだ。サポートキャラだから。
そして、ヒロインはアリス•パーカー。パーカー男爵家の長女。ピンクの髪にピンクの瞳。他人の事をとやかく言ってはいけないが、乙女ゲームヒロインとしてはありがちな、ほぼ平民育ちの天真爛漫系男爵令嬢だ。もう一つ付け加えるなら、チートだ。魔力量が非常に多く、本来は下位貴族は入れない上位貴族のみが振り分けられる、S.Aどちらかのクラスに特待生枠の1人として入る。
また、学力でもなんでも本人がちょっと頑張れば、必ず結果が出る仕様になっている。
ちなみにどのクラスになるかはゲーム開始時に選択した幼い頃に出会う攻略対象により変わるのだが、これは入学式後のクラス分けを見てみないと分からない。
ここで、早速私の学園生活を決める最大のターニングポイントを迎える。
私はヒロインがどちらのクラスになろうとも同じクラスになる。
そして教室の席が前後となり、私からヒロインに声を掛けるのだ。
これがサポートキャラとしての始まりとなる。
同じ下位貴族のクラスメイトがいないヒロインは声を掛けてくれたロゼニアと仲良くなる。
そしてロゼニアはヒロインから攻略対象者達について相談をされるとアドバイスし、攻略対象者達に会うため授業を欠席する時や、寮の門限を超える時には上手くいい訳をして丸く収め、攻略対象者達とデートに行くと言えば課題を代わりにやったりする。
やがてヒロインが攻略対象者達と仲良くなると周囲から妬みによる虐めが始まる。
ヒロインは都度、攻略対象者達に助けられるが、その影でロゼニアはヒロイン程悪質ではないが、ヒロインの友達だからという理由で同様に虐めを受けるのだ。そしてそれは随分後、エンディング少し前に発覚し、それをヒロインが詳らかにして、自分ではなく、あくまで友達のロゼニアが虐めを受けていた事を引き合いに出し攻略対象者達とクラスメイトを断罪するのだ。
正直、地獄だ。
聞きたくもない人の恋愛事情を常に聞かされ、恋愛にうつつを抜かしている他人のフォローをし、頑張れば結果が出ると確約されているチートな人間の課題やら何やらを代わりにやり、挙げ句の果てにフォローし続けた友達の恋愛事情を発端に虐めを受ける。
そんな学園生活耐えられるか!
どんだけいい人だよ!?
というかお人好しが過ぎてもはや馬鹿じゃないか!
私には無理!絶対無理!
だって、15歳から18歳っていう女性の1番綺麗な時期、それも令嬢にとって唯一親元を離れ自由で楽しい学生生活送れる貴重な4年間を他人に奉仕するなんてあり得ない。
確かにこれだけヒロインに尽くしたんだから、エンディング後誰かとくっついた彼女の伝手でどうにかとかあるかも知れないけど、それって一生頭上がらないやつだよね。
そんなの嫌!
ゲームと違ってエンディング後も生きて行かないといけない訳で、私はゲームの中でロゼニアを踏み台にしている事に気付きもせず平然としていたヒロインを友達だとはとても思えない。
確かに、まだ話した事もないヒロインだから、性格は違うかも知れないが、現状、関わらないに越した事はないだろう。
そう判断した私は、まずヒロインではない令嬢と友達にならねばと思い至った。
4年間ぼっちは辛いしヒロインは無理。とりあえず同じ伯爵令嬢を頭の中で検索する。
正直なところ、このゲーム、ヒロインと攻略対象者達以外で出てくる名前のあるキャラはとても少ない。彼ら以外は、サポートキャラである私と、虐めをする公爵令嬢と、取り巻き1と2。
そして••いた。
とあるイベントでどちらのクラスなってもクラスメイトとしてヒロインに手を貸す事になる令嬢。
その名もリーリナ•モリス。モリス伯爵家の三女である。
いける!
正直なところ、私は今飛び上がりたい程喜びを噛み締めている。
実はリーリナとは既に知り合いだ。お茶会で知り合い、季節の手紙のやりとりをしている仲だ。
ちょうど折りよく、理事長の話が終わり、クラス分けの説明に入る。
ここが勝負だ。このスタートダッシュで私の命運が決まる!
終了の声と共に、淑女教育の範囲内で急いで立ち上がり、リーリナを探す。
学園は身分関係なくを謳っているが、明確に家格による席順が決まっている。
同じ伯爵令嬢なので近くにいるはずだ。
ゆっくりした動作に合わせ目だけを最大限動かしてリーリナを探すと、いたっ!
右手7人ほど離れた横に座っていたようで立ち上がり、流れに沿って会場を出ようとしている。
私ははしたなくないギリギリのラインをキープしながら波を渡りリーリナに近づいた。
「ご機嫌よう、リーリナ様」
「まあ!ご機嫌よう、ロゼニア様」
「ご無沙汰しておりますわ。先日はお手紙をありがとうございました」
「こちらこそ、お誕生日にお花をいただきありがとうございました。とても珍しい青い薔薇を頂戴して、飾らせて頂いている間、お客様からもとても評判が良かったのですよ!」
「まあそれはとても良かったですわ」
歩きながら、お互いに礼を述べ合う。
初めての環境で知り合いと会えてホッとしているのはお互い様だ。
「クラス分け一緒に見に行きませんか?」
「もちろんです!」
誘うと嬉しそうに笑ってくれる。
友達になりたいのは本音だけど、利用しようとしている罪悪感がハンパない。
そして張り出されたクラス分け。
うん。Sクラス。はいきたー。
ゲームではSクラスはこのクラスになった時のみ注釈が入るようになっている。
それは、Sクラスは入学試験の上位成績者の中でも特に突出した何かを持っている者が選出されるというものだ。
その突出した何かとは、ヒロインはその莫大な魔力量だし、リーリナは語学が得意で5カ国語を話せる。ちなみに私は珍しいと言われている緑魔法が使えるというものだ。
この世界では全員が魔法を使える。一般的には生活魔法と言われる、掃除洗濯などに使うクリーンや着火させる程度の火を出したりと、生活に使用できる程度の火•水•風魔法は誰でも使えるのだ。
それを攻撃や防御にまで使える程の魔力量を持つものがそれぞれの属性持ちとされる。
ちなみに、属性は火•水•風•聖•闇がよくある属性だが、私の緑魔法のように存在数が少ない魔法使いも存在する。
緑魔法は何かというと、植物の成長促進や品種改良などに特化しており、戦争や飢饉などが起こった際には国より召集され食料対策に従事する事が決まっている。なので緑魔法保持者は10歳の魔力判定で判明すると国に自動的に登録されてしまうのだ。
ただ、全く攻撃にも防御にも使用出来ないとされ、属性扱いではない。まあこれまた非常に地味な魔法なのだ。
しかしこの世界、設定がゲーム通りイージーモードなのか、ここ数百年戦争や飢饉、大規模災害は起きていないし、ストーリー上起こることもない。
なので私の魔法は不要の長物なのである。
ちなみにリーリナ嬢に送った青い薔薇は趣味で私が品種改良したもので、最近街でも売り出し我が家の財政と私の懐を温めてくれている。
「そういえば、お姉様から聞いたのですが、クラスの席は自由に座れるそうですが、早く行かなくては日に焼ける窓辺の席になってしまいますわ」
クラス分けを見ていたリーリナが急にそんな事を言い出す。
そうだ。私はヒロインと前後の席になる訳にはいかない!
慌てて張り出してあるクラスメイトをざっと確認し、教室へ足を向ける。
「それは急ぎましょう!」
そう、今日座った席がこの4年間のホームルームでの固定の席になる事を私は知っているのだ。
それから2人で教室へ向かうと、まだ数人のクラスメイトが所在なさげに座ったり立ったりしている。
このクラスは席は縦4列横5列の20人で構成されている。
そのうち公爵家以上の高位貴族は3人、侯爵家は5人伯爵家は9人、そして特待生枠は3人だ。
ここでも家格による暗黙の席順が発生する。要は真ん中が高位貴族、その前が侯爵家、それより後ろが伯爵家及び特待生枠となる。
まあヒロインはそれが分からず第2王子が座る席に座って第一印象を悪くするんだけど。
それを踏まえ、恐らく1番前の席に座っているのは侯爵家令息、立っているのは伯爵家令息だろう。
私はリーリナと一緒に廊下側後ろの3列目と4列目の席に向かう。
「こちらではいかがです?」
「ええ。こちらで。リーリナ様は少し目がお悪いとおっしゃっていたでしょう?前にどうぞ」
「まあ!ありがとうございます」
ここは、いじめを行う公爵令嬢の取り巻き1と2に近い席だが、ヒロインが座る窓際1番後ろの席とは離れているしそもそも前にはリーリナが座っている。まずまずと言えるだろう。
席に座りながら話していると、続々とクラスメイト達が入ってきた。
ここで心配だったのはこの世界の強制力が働くかどうかだった。何かの強制力で結局ヒロインと席が前後になるようなら、今後手を打つのはかなり難しくなってくる。
少し不安を抱えながら入ってくるクラスメイト達をチラ見していると、1人の伯爵令息が近づいてきた。
「初めまして。ウィリアム・レニヨンです。ここいいかな?」
「初めまして。ロゼニア•ルーブルです。勿論です。どうぞ」
ウィリアムが隣に座り、ホッと胸を撫で下ろす。ひとまずヒロインとの最初の出会いは回避できそうだ。
そうこうしていると、ドタバタという足音が聞こえてきて、ヒロインが教室に飛び込んできた。
「ここであってるかな。もう何でこの学園こんなに広いの~」
盛大に独り言を漏らしながら教室を見渡すと中央の空いている席に座る。
ゲームの通りなんだ。
彼女の第一印象はそれだった。
彼女が座ったのは高位貴族以上が座る中央の席、それもこのクラスには攻略対象でもある第2王子がいる。
彼女は今、第2王子が座る席に座っているのだ。
シンと静まり返る教室に気付かないヒロイン。
いや、気付こう?周囲にもう少し気を配ろうよ。
誰もがヒロインに注目しているが、彼女は気に留めずキョロキョロしている。
「あっあの。そちらの席は王子殿下の席ですので、移動された方が」
教室内のプレッシャーに耐えきれなくなった1人の伯爵令嬢がヒロインに声を掛けた。
「えっ席が決まっているの?」
「えっと、あの、決まっているというか」
「どういう事?」
貴族では完全にアウトな話し方に伯爵令嬢は動揺を隠せない。
間もなく高位貴族達が入ってくる。空気を読んだ侯爵令息の1人が立ち上がった。
「君、特待生だね。この3席は既に座る方が決まっている。悪いが違う席に移ってくれるかな」
「そうなんですか?••分かりました」
納得いかない顔をしながらも空いている席をさがすヒロイン。
空いている窓側1番後ろの席に着いたのを見て、知らず力の入っていた身体から力を抜く。
回避••できた?
ゲームではこの席移動で後ろの席になったヒロインにロゼニアが慰めの言葉をかけるのだ。
勿論私は声など掛けない。
正直なところ、改めて考えると学園入学までに身につけておくべき礼儀や礼節、淑女としての立ち振る舞いを身につけてこなかったヒロインに同情の余地はない。
それも彼女は平民から男爵令嬢になった訳ではなく、産まれた時から男爵令嬢だ。
幼い頃から勉強をほっぽり出して平民と毎日遊び暮らし、それを『うちの娘はお転婆で』とため息を吐くだけでちゃんと教育をしなかった男爵家にも問題はある。
ただ、何度もいうが彼女はちょっと頑張れば結果が出るチート仕様。
入学試験前1週間程、本気出して勉強しただけで成績上位者になれるのだ。
なら淑女教育などすぐに覚えられるはず。
それを『ほぼ平民』状態に疑問ももたず貴族としての責務を考えもせず現状を良しとしているのはただの惰性である。
何だか腹が立ってきた。
本当に何故私はこんなヒロインに尽くしていたのか。サポートキャラだからと言われたらそれまでだが、彼女は本来サポートキャラなど必要ないスペックなのに、と思うと悔しくて涙が浮かぶ。
絶対に幸せになってやる!
ふつふつと怒りが込み上げ、私は拳を握りしめた。
こうして私が私の為に生きる学園生活がスタートした。
唐突に思い出した前世と思しき記憶に暫くフリーズしていたけど、周囲は誰も気付く事なく粛々と入学式が続いている。
そっとため息を突いて、気持ちを切り替える。
この入学式の後すぐに自分の学園生活を大きく左右するヒロインとの出会いがある事が分かっているからだ。
急がなければ!
前世で数多の異世界転生モノを読み漁っていたおかげで、実際、今自分が異世界転生を果たしていた事についてはあまり戸惑いはない。
ただ、恐らくこの世界のモデルだろう乙女ゲームの開始日である今日、それも入学式の最中に前世を思い出すというタイミングの悪さに舌打ちしたくなる。これが、乳幼児期に思い出していればゆっくり対策を練る事が出来たのに。と密かに唇を噛む。
いや、まだ間に合う、まだ知り合う前だから。
自分を鼓舞しながら、すぐに現実把握と今後の対策を考え始めた。
私はロゼニア•ルーブル。ルーブル伯爵家の次女だ。この王立パリス魔法学園を舞台にした乙女ゲーム『月と花と秘めた恋』、通称『つきひめ(月秘め)』のヒロインのサポートキャラ。栗色の髪に翠の瞳でキャラの中では地味な見た目。それはそうだ。サポートキャラだから。
そして、ヒロインはアリス•パーカー。パーカー男爵家の長女。ピンクの髪にピンクの瞳。他人の事をとやかく言ってはいけないが、乙女ゲームヒロインとしてはありがちな、ほぼ平民育ちの天真爛漫系男爵令嬢だ。もう一つ付け加えるなら、チートだ。魔力量が非常に多く、本来は下位貴族は入れない上位貴族のみが振り分けられる、S.Aどちらかのクラスに特待生枠の1人として入る。
また、学力でもなんでも本人がちょっと頑張れば、必ず結果が出る仕様になっている。
ちなみにどのクラスになるかはゲーム開始時に選択した幼い頃に出会う攻略対象により変わるのだが、これは入学式後のクラス分けを見てみないと分からない。
ここで、早速私の学園生活を決める最大のターニングポイントを迎える。
私はヒロインがどちらのクラスになろうとも同じクラスになる。
そして教室の席が前後となり、私からヒロインに声を掛けるのだ。
これがサポートキャラとしての始まりとなる。
同じ下位貴族のクラスメイトがいないヒロインは声を掛けてくれたロゼニアと仲良くなる。
そしてロゼニアはヒロインから攻略対象者達について相談をされるとアドバイスし、攻略対象者達に会うため授業を欠席する時や、寮の門限を超える時には上手くいい訳をして丸く収め、攻略対象者達とデートに行くと言えば課題を代わりにやったりする。
やがてヒロインが攻略対象者達と仲良くなると周囲から妬みによる虐めが始まる。
ヒロインは都度、攻略対象者達に助けられるが、その影でロゼニアはヒロイン程悪質ではないが、ヒロインの友達だからという理由で同様に虐めを受けるのだ。そしてそれは随分後、エンディング少し前に発覚し、それをヒロインが詳らかにして、自分ではなく、あくまで友達のロゼニアが虐めを受けていた事を引き合いに出し攻略対象者達とクラスメイトを断罪するのだ。
正直、地獄だ。
聞きたくもない人の恋愛事情を常に聞かされ、恋愛にうつつを抜かしている他人のフォローをし、頑張れば結果が出ると確約されているチートな人間の課題やら何やらを代わりにやり、挙げ句の果てにフォローし続けた友達の恋愛事情を発端に虐めを受ける。
そんな学園生活耐えられるか!
どんだけいい人だよ!?
というかお人好しが過ぎてもはや馬鹿じゃないか!
私には無理!絶対無理!
だって、15歳から18歳っていう女性の1番綺麗な時期、それも令嬢にとって唯一親元を離れ自由で楽しい学生生活送れる貴重な4年間を他人に奉仕するなんてあり得ない。
確かにこれだけヒロインに尽くしたんだから、エンディング後誰かとくっついた彼女の伝手でどうにかとかあるかも知れないけど、それって一生頭上がらないやつだよね。
そんなの嫌!
ゲームと違ってエンディング後も生きて行かないといけない訳で、私はゲームの中でロゼニアを踏み台にしている事に気付きもせず平然としていたヒロインを友達だとはとても思えない。
確かに、まだ話した事もないヒロインだから、性格は違うかも知れないが、現状、関わらないに越した事はないだろう。
そう判断した私は、まずヒロインではない令嬢と友達にならねばと思い至った。
4年間ぼっちは辛いしヒロインは無理。とりあえず同じ伯爵令嬢を頭の中で検索する。
正直なところ、このゲーム、ヒロインと攻略対象者達以外で出てくる名前のあるキャラはとても少ない。彼ら以外は、サポートキャラである私と、虐めをする公爵令嬢と、取り巻き1と2。
そして••いた。
とあるイベントでどちらのクラスなってもクラスメイトとしてヒロインに手を貸す事になる令嬢。
その名もリーリナ•モリス。モリス伯爵家の三女である。
いける!
正直なところ、私は今飛び上がりたい程喜びを噛み締めている。
実はリーリナとは既に知り合いだ。お茶会で知り合い、季節の手紙のやりとりをしている仲だ。
ちょうど折りよく、理事長の話が終わり、クラス分けの説明に入る。
ここが勝負だ。このスタートダッシュで私の命運が決まる!
終了の声と共に、淑女教育の範囲内で急いで立ち上がり、リーリナを探す。
学園は身分関係なくを謳っているが、明確に家格による席順が決まっている。
同じ伯爵令嬢なので近くにいるはずだ。
ゆっくりした動作に合わせ目だけを最大限動かしてリーリナを探すと、いたっ!
右手7人ほど離れた横に座っていたようで立ち上がり、流れに沿って会場を出ようとしている。
私ははしたなくないギリギリのラインをキープしながら波を渡りリーリナに近づいた。
「ご機嫌よう、リーリナ様」
「まあ!ご機嫌よう、ロゼニア様」
「ご無沙汰しておりますわ。先日はお手紙をありがとうございました」
「こちらこそ、お誕生日にお花をいただきありがとうございました。とても珍しい青い薔薇を頂戴して、飾らせて頂いている間、お客様からもとても評判が良かったのですよ!」
「まあそれはとても良かったですわ」
歩きながら、お互いに礼を述べ合う。
初めての環境で知り合いと会えてホッとしているのはお互い様だ。
「クラス分け一緒に見に行きませんか?」
「もちろんです!」
誘うと嬉しそうに笑ってくれる。
友達になりたいのは本音だけど、利用しようとしている罪悪感がハンパない。
そして張り出されたクラス分け。
うん。Sクラス。はいきたー。
ゲームではSクラスはこのクラスになった時のみ注釈が入るようになっている。
それは、Sクラスは入学試験の上位成績者の中でも特に突出した何かを持っている者が選出されるというものだ。
その突出した何かとは、ヒロインはその莫大な魔力量だし、リーリナは語学が得意で5カ国語を話せる。ちなみに私は珍しいと言われている緑魔法が使えるというものだ。
この世界では全員が魔法を使える。一般的には生活魔法と言われる、掃除洗濯などに使うクリーンや着火させる程度の火を出したりと、生活に使用できる程度の火•水•風魔法は誰でも使えるのだ。
それを攻撃や防御にまで使える程の魔力量を持つものがそれぞれの属性持ちとされる。
ちなみに、属性は火•水•風•聖•闇がよくある属性だが、私の緑魔法のように存在数が少ない魔法使いも存在する。
緑魔法は何かというと、植物の成長促進や品種改良などに特化しており、戦争や飢饉などが起こった際には国より召集され食料対策に従事する事が決まっている。なので緑魔法保持者は10歳の魔力判定で判明すると国に自動的に登録されてしまうのだ。
ただ、全く攻撃にも防御にも使用出来ないとされ、属性扱いではない。まあこれまた非常に地味な魔法なのだ。
しかしこの世界、設定がゲーム通りイージーモードなのか、ここ数百年戦争や飢饉、大規模災害は起きていないし、ストーリー上起こることもない。
なので私の魔法は不要の長物なのである。
ちなみにリーリナ嬢に送った青い薔薇は趣味で私が品種改良したもので、最近街でも売り出し我が家の財政と私の懐を温めてくれている。
「そういえば、お姉様から聞いたのですが、クラスの席は自由に座れるそうですが、早く行かなくては日に焼ける窓辺の席になってしまいますわ」
クラス分けを見ていたリーリナが急にそんな事を言い出す。
そうだ。私はヒロインと前後の席になる訳にはいかない!
慌てて張り出してあるクラスメイトをざっと確認し、教室へ足を向ける。
「それは急ぎましょう!」
そう、今日座った席がこの4年間のホームルームでの固定の席になる事を私は知っているのだ。
それから2人で教室へ向かうと、まだ数人のクラスメイトが所在なさげに座ったり立ったりしている。
このクラスは席は縦4列横5列の20人で構成されている。
そのうち公爵家以上の高位貴族は3人、侯爵家は5人伯爵家は9人、そして特待生枠は3人だ。
ここでも家格による暗黙の席順が発生する。要は真ん中が高位貴族、その前が侯爵家、それより後ろが伯爵家及び特待生枠となる。
まあヒロインはそれが分からず第2王子が座る席に座って第一印象を悪くするんだけど。
それを踏まえ、恐らく1番前の席に座っているのは侯爵家令息、立っているのは伯爵家令息だろう。
私はリーリナと一緒に廊下側後ろの3列目と4列目の席に向かう。
「こちらではいかがです?」
「ええ。こちらで。リーリナ様は少し目がお悪いとおっしゃっていたでしょう?前にどうぞ」
「まあ!ありがとうございます」
ここは、いじめを行う公爵令嬢の取り巻き1と2に近い席だが、ヒロインが座る窓際1番後ろの席とは離れているしそもそも前にはリーリナが座っている。まずまずと言えるだろう。
席に座りながら話していると、続々とクラスメイト達が入ってきた。
ここで心配だったのはこの世界の強制力が働くかどうかだった。何かの強制力で結局ヒロインと席が前後になるようなら、今後手を打つのはかなり難しくなってくる。
少し不安を抱えながら入ってくるクラスメイト達をチラ見していると、1人の伯爵令息が近づいてきた。
「初めまして。ウィリアム・レニヨンです。ここいいかな?」
「初めまして。ロゼニア•ルーブルです。勿論です。どうぞ」
ウィリアムが隣に座り、ホッと胸を撫で下ろす。ひとまずヒロインとの最初の出会いは回避できそうだ。
そうこうしていると、ドタバタという足音が聞こえてきて、ヒロインが教室に飛び込んできた。
「ここであってるかな。もう何でこの学園こんなに広いの~」
盛大に独り言を漏らしながら教室を見渡すと中央の空いている席に座る。
ゲームの通りなんだ。
彼女の第一印象はそれだった。
彼女が座ったのは高位貴族以上が座る中央の席、それもこのクラスには攻略対象でもある第2王子がいる。
彼女は今、第2王子が座る席に座っているのだ。
シンと静まり返る教室に気付かないヒロイン。
いや、気付こう?周囲にもう少し気を配ろうよ。
誰もがヒロインに注目しているが、彼女は気に留めずキョロキョロしている。
「あっあの。そちらの席は王子殿下の席ですので、移動された方が」
教室内のプレッシャーに耐えきれなくなった1人の伯爵令嬢がヒロインに声を掛けた。
「えっ席が決まっているの?」
「えっと、あの、決まっているというか」
「どういう事?」
貴族では完全にアウトな話し方に伯爵令嬢は動揺を隠せない。
間もなく高位貴族達が入ってくる。空気を読んだ侯爵令息の1人が立ち上がった。
「君、特待生だね。この3席は既に座る方が決まっている。悪いが違う席に移ってくれるかな」
「そうなんですか?••分かりました」
納得いかない顔をしながらも空いている席をさがすヒロイン。
空いている窓側1番後ろの席に着いたのを見て、知らず力の入っていた身体から力を抜く。
回避••できた?
ゲームではこの席移動で後ろの席になったヒロインにロゼニアが慰めの言葉をかけるのだ。
勿論私は声など掛けない。
正直なところ、改めて考えると学園入学までに身につけておくべき礼儀や礼節、淑女としての立ち振る舞いを身につけてこなかったヒロインに同情の余地はない。
それも彼女は平民から男爵令嬢になった訳ではなく、産まれた時から男爵令嬢だ。
幼い頃から勉強をほっぽり出して平民と毎日遊び暮らし、それを『うちの娘はお転婆で』とため息を吐くだけでちゃんと教育をしなかった男爵家にも問題はある。
ただ、何度もいうが彼女はちょっと頑張れば結果が出るチート仕様。
入学試験前1週間程、本気出して勉強しただけで成績上位者になれるのだ。
なら淑女教育などすぐに覚えられるはず。
それを『ほぼ平民』状態に疑問ももたず貴族としての責務を考えもせず現状を良しとしているのはただの惰性である。
何だか腹が立ってきた。
本当に何故私はこんなヒロインに尽くしていたのか。サポートキャラだからと言われたらそれまでだが、彼女は本来サポートキャラなど必要ないスペックなのに、と思うと悔しくて涙が浮かぶ。
絶対に幸せになってやる!
ふつふつと怒りが込み上げ、私は拳を握りしめた。
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