魔獣の友

猫山知紀

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第21話 対峙

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 リディは巨大ヒジカと正面から向き合っていた。
 剣を向けられているためか、ヒジカもケルベたちには目を向けず、リディの方を見ている。

「ニケ、聞こえているか」
「なにー」

 こんな中なのに気の抜けた返事が返ってくる。ニケは北部の村出身で村は強大な魔獣を退治することを生業にしていたと言っていた。
 この程度の状況には慣れているのかも知れない。

「私が危なくなったら助けてくれ、それまでは手を出すな」
「危なくなったらでいいの?」
「あぁ、それで頼む」

 リディは巨大ヒジカと一対一で戦うことにした。
 ケルベたちの本当の実力は知らないが、ケルベロスを始め、グリフォンもバジリスクも魔獣の中では強大すぎる存在だ。おそらく誰か一頭だけでも本気になればこの巨大ヒジカを狩ることができる実力を持っている。

 だからこそちょうどいい、その存在はリディの命を繋ぐ命綱のようなものだ。訓練では味わえない実戦の感覚をこの巨大ヒジカで養っておきたかった。

「旅に出てから血の湧くような実戦はなかったからな、相手になってもらうぞ」

 ケルベに斬りかかって返り討ちにあったことは忘れた。


 夜とはいえ今は夏だ。生ぬるい夜風が頬を撫でる。
 虫も動物もこの巨大ヒジカの存在を恐れているのか、鳴き声もなく。風のすぎる音だけが聞こえていた。

 リディは右手で剣を持ち、前に構える。そして、左手には魔力を集中させる。
 魔法と剣の併用、それがリディの戦い方だ。

(でかくはあれどあれもヒジカだ。これで終わっては訓練にもならんが、狙うだけ狙ってみるか)

 リディはこの三日間行ってきたヒジカを狩るための戦法を試してみることにした。すなわち魔法で水球を作り、それを巨大ヒジカの角にぶつけようというのだ。

 この距離なら水球は巨大ヒジカの上部に作ることができ、その存在を隠せる。
 リディは巨大ヒジカをにらみながら時間を稼ぎ、急ぎながら魔力を集中させた。

(今の私に作れる限界のサイズだが果たして……)

 水球のサイズは直径が人の体の半分ほどの大きさだ、今までのヒジカ狩りに使用していたサイズよりも二回りほど大きい。

 魔力が満ちたことを確認すると、リディは剣を引き魔力を込めた左手を大きく上げ一気に振り下ろした。

「くらえっ!!」

 『じゅうううう』という水が蒸発する音が辺りに響く。
 白い湯気が立ち上り、その後には巨大ヒジカの角の炎だけが残った。

(火を消すどころか、角に当たる前に蒸発させられるとは……)

 この巨大ヒジカの炎の勢いが伺える。
 そして巨大ヒジカの目がさらに鋭くなった気がした。

(まぁ、想定内だがあの炎の勢いはかなり注意が必要だな)

 リディの作れる水球で巨大ヒジカの炎を消すことはできないことがわかったので、リディは戦い方を変えることにした。
 しかし、自分ひとりで戦う状況でとれる戦術は多くはない。

(こんな巨大な敵と戦う想定はしていなかったし準備もない。純粋な実力勝負だな)

 だからこそ、やりがいがあるというものだ。
 リディは自覚なく口元をニヤリと歪めた。

 水球に怒ったのか巨大ヒジカが大地に響くような咆哮を上げる。
 巨大ヒジカとリディは改めて対峙し、巨大ヒジカは先程よりも低く頭を下げて再び突進の構えだ。リディもまた右手の剣を前に半身に構える。

 お互いの構えが整ったところで、巨大ヒジカが再び突進を開始した。
 リディはすぐには動かず、今度は巨大ヒジカの動きをギリギリまで見極める。角の幅、首の動く幅、リディの動きに対する反応。それを推測し、攻撃が当たらないギリギリの距離で回避し、そして同時に巨大ヒジカの体に斬りつける。

 斬りつけたヒジカの体にはあっさりと傷がつき、一筋の血が流れた。

(ケルベと違ってちゃんと傷はつくな、これなら……)

 巨大ヒジカの角とリディの距離はごく僅かだった。焼け付くような炎の熱さをリディは肌で感じた。あの質量の燃えたぎる角をまともに喰らえば火傷だけでは済まない。
 リディは更に集中力を高める。

 リディの横を駆け抜けた巨大ヒジカは今度はすぐさま反転し、自身の角をリディに当てるように首を振りながら向かってくる。

 リディはまたすぐには動かない。
 巨大ヒジカの首振りを見極めて角が上がった瞬間を狙い、地面と角の間を駆け抜けると同時に今度は首を斬りつける。

 巨大ヒジカの動きを見て、ギリギリで躱して斬りつける。
 リディはそれを繰り返した。
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