魔獣の友

猫山知紀

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第73話 もてなし

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 キッチン側のダイニングテーブルに料理が次々と運ばれていく。運んでいるのはニケを含めた子供たちだ。

 秋の実りの木の実をふんだんに使った炒め物や、この辺りで獲ったであろう魔獣の肉、村の畑で穫れた根野菜のたっぷり入ったスープなど、クララはこれでもかと料理の腕をふるい、できたものが次々とテーブルに並んでいく。

「ほんとにごちそうだー!」

 大皿の料理を運ぶのを手伝いながら、レグリスは料理を見る目を輝かせる。

 料理が並ぶのを待っている間ラルゴはリディのコップに酒を注ぎ、二人で食前酒として酒を楽しんでいた。山を下って近くの町へ商いに行った時に買ったものだとラルゴは説明してくれた。

 鼻に抜ける芳醇な香りが心地よく、舌で酒を転がすとほのかに甘みを感じる。香りも味も上出来な酒だった。

 最後にニケが運んだ小皿がダイニングテーブルに並び、クララが作っていた料理が出揃った。クララとラルゴが隣同士に、その正面にシウスとミリアが座る。空いている横の席にレグリスが座るのがこの家の食事の時のいつもの光景だ。今日はその光景に客が追加され、レグリスの向かいにリディとニケが加わっている。

 全員での『いただきます!』の掛け声と共に、一斉に料理に手が伸びる。

 大皿から各自の皿へと料理を移し、各々好きに食べていくスタイルだ。ラルゴとレグリスは豪快に、シウス、ミリア、クララはおとなしく、リディとニケは一家の様子を窺いながら、取皿とりざらへと取る量を考える。

「気にしないであなた達も好きなだけ食べなさい。早く取らないとラルゴとレグリスに全部食べられてしまうわよ」

 リディ達の様子を見ていたクララにそう促され、リディとニケも積極的に料理を取っていく。とはいえ、二人とも健啖家けんたんかというわけでもない。クララに『もっと食べなさい』などと言われながら食事は進んでいった。

 ニケは子供たちから話を振られ、それに答える形で会話に加わり。リディはラルゴからの酌を受けながら一家団欒に溶け込んでいった。

「寝床の準備をしてくるよ」

 そう言ってクララは、食事の手を止めると椅子から立ち上がり、一室へと向かう。
 リディも手伝いを申し出たが、『客はおとなしく歓待を受けなさい』とクララに言われ、ラルゴにも押し止められ、酒の席に戻った。


 ほどよく酒がまわりリディはふわふわとした感覚になり、頭がぼーっとしてくる。目の前にいるラルゴはそんなリディを尻目に手酌で自身のコップに酒を注ぎ、水を飲むように酒を呷ってあおっている。

 ニケは子供たちと楽しそう……ではないが、ミリアが気を効かせて、和の中に入れてくれている。イダンセでアイシスと過ごした経験からか、少し人馴れしてきているようにも見えた。

「客間を整えたから、今日はあの部屋で寝てちょうだいね」

 部屋から戻ってきたクララが、まぶたの重くなってきたリディにそう伝える。

「あぁ、すまない」

 すでに全員食べ終わり、テーブルの上には空になった皿が並んでいる。クララが戻ってきたのをきっかけに食事の後片付けが始まった。
 一家の面々はいつもの通りといった感じで手慣れた様子で皿をまとめていく。ニケとリディはその様子を見つつ、クララに指示を仰ぎ、言われたとおりに片付けに参加した。

「さーて、それじゃ俺はぼちぼち帰るかな」

 片付けが終わったタイミングで、レグリスがそう切り出した。

「ん? 今日はお客さんもいるし、もう少しいてもいいぞ」
「いや、ちょっと帰って勉強したいし。それに、準備もしないといけないんだろ」

 レグリスはそう言って、ちらりとリディとニケをに視線を向けながら振り返り、家の玄関の方へと向かう。

「まぁ、そうか。送っていこうか」
「いらねーよ。すぐそこなんだから」

 ラルゴの申し出を断り、レグリスは手をひらひらとさせながらラルゴの家を後にした。

「シウ兄は大丈夫?」

 ミリアが横にいるシウスの様子を見てそう声をかけた。シウスは食事を食べた後だからか、少し舟を漕ぎ始めている。

「また変な夢でも見て寝不足なの?」
「いや、大丈夫だけど……ちょっと眠い」
「じゃあ、もう寝ちゃおう?」
「うん」

 そう言ってシウスはミリアに連れられて、リディ達へ会釈をしながら自室へと戻っていった。シウスが兄と言っていたが、世話焼きなミリアがお姉さんに見えなくもない。

 兄妹が部屋へ戻ったことをきっかけにして、リディたちもそろそろ休むことをクララに告げる。
 客間に案内されたリディとニケは荷物を部屋の隅において、寝る準備をする。部屋にはベッドが2つあり、普段宿泊する宿とあまり変わらない感じだ。
 部屋の四隅にはロウソクの代わりに鉱魔石が設置してあり、クララが部屋を準備する際に魔力を込めたのかぼんやりと部屋を照らしていた。

 リディは軽鎧けいがいを外して服を緩め、荷物から取り出した寝間着に着替える。そして、部屋に案内される時に渡された濡れ布巾ふきんで顔を拭いぬぐい、それから体の汗を落としていった。

「ここまでもてなされると、疑いたくなくなってくるな」

 体を拭くのを適当に済ませ、さっさとベッドに入ろうとしているニケを捕まえながらリディは村のことについて考える。
 この村がなぜここにあるのかはまだわかっていない、そのため村人たちはリディが警戒すべき相手なのだが、子供たちの様子や、ラルゴたちを観察していて、彼らが悪人だと思えないのも事実だった。

 彼らは何らかの事情があって、この場所にやってきて村を新しく作ったのだと考えられるが、明け透けに聞いて良いものかと、リディは考える。敵対すれば村人全員が敵となり、その中で立ち回るのはなかなか難しそうだ。

 「みんな、悪い感じはしなかったよ」
 「それは私もわかっている。しかし、無防備を晒すというのも危険な気もする……」

 ニケの体をしっかりと拭いてやった後でリディはニケを解放する。

 戦っているところは見ていないが、門番のバモン、そしてラルゴもクララも、おそらく彼らは強い。観察している限りでは隙きが全く無く、リディが実力を推し量っていたことにもおそらく気づいていただろう。

 今日の昼間にレグリスとリディは勝負をして、リディはそれに勝つことができた。しかし、レグリスに勝てる兵士は王都の兵士でもあまり多くはないだろう。下級の兵士であれば、まず勝つことはできない。それだけの実力をレグリスは持っていた。しかしそのレグリスが自分の剣は大人には通用しないと言っていた。それが本当のことならば、この村の大人たちは全員がかなりの実力者ということになってしまう。

 ベッドに横になり、そんなことを考えていると眠気が波となってやってくる。ふと横をみれば、ニケもベッドに横になり、すでに寝息を立て始めている。普段ならまだ起きている時間だが、ヘニーノからこの村へ来るのにも数日掛けて山を上ってきたのだ、旅の疲れが出たのかも知れない。

 リディも床につき、まぶたを閉じようとしたときだった。ふいに、『リーン』という甲高い鈴の音のような音が頭に響いた。

(――まずい!)

 そう思った瞬間リディは魔力を全身から放出し、体に膜を張るように魔力を全身に纏う。しかし頭に響く鈴の音は小さくなってはくれない。部屋の四隅にあった鉱魔石が青白く輝き、鈴の音に呼応するように光が脈打つ。

(これも仕込みか……)

 すでにリディの手足は動かない。鉱魔石の一つを睨みつけながら、魔力を出しつ続けて抵抗を続ける。しかし、リディの意識は徐々に徐々に闇の底に沈んでいく。

 暗く深い穴にゆっくりと落ちていくように、静かに、深く、意識が暗闇に引き込まれる。

 リディにできる抵抗は魔力を出し続けることだけだった。しかし、それも時間と共に限界が近づいてくる。

 暗闇に全身が覆われていくように、リディの意識が黒く染まっていく。

(もう、だ、め……)

 横で眠っているニケの姿を見たのを最後に、リディは意識を手放した――。
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