145 / 207
第5章 宿敵討伐編
5-11 アンスリウム山の内部ダンジョン〜分岐点〜
しおりを挟む「二股にわかれてるね……」
地下3階のフロアボス――ヒナタと一緒に地下4階まで降りてきたミミリたち。おそらく、フロアボスがいなくなったことで3階には再び新たなモンスターハウスが産まれていることだろう。
でもそれは、また後で考えるとして。
地下へと続く階段を降りてすぐ、目の前に分岐点が待ち構えていた。右から左か。手分けするか全員で行くか。慎重に決めなければならないが、マールにもしものことがありでもしたら手遅れになってしまう。
「右か、左、ね……」
うさみは瞳を閉じて、探索魔法に専念した。
すると――
「――嘘でしょ」
うさみがよろめいたところを、ミミリはサッと抱き上げる。
「どうしたの? うさみ」
「……………………」
ミミリに問いかけられても、うさみの返事はなかなか返ってこない。その代わりに、まるで「審判の関所」でミミリとゼラに見せたように、ガタガタと震えが止まらないでいる。――あの、ピロンを見た時の反応と同じだ。いや、それ以上に……。
「大丈夫? うさみ……」
「……ええ、ごめんなさい。落ち着いて聞いてね。おそらく、蛇頭のメデューサは右奥にいるわ。危険度はレッド。モンスターの希少種級だわ」
「「――――!」」
ゼラとバルディは、思わず短剣と弓を触る。
親の仇が、弟妹の宿敵が、すぐそこにいるのだろうと思うと……緊張と高揚感でカタカタと手足が震えてしまう。
「ゼラくん、バルディさん、大丈夫ですか」
「「……武者震いだ」」
とはいうものの、ゼラにとっては幼き頃のトラウマもあるゆえに、本領を発揮するのは容易ではないはずだ。バルディも同じで、訓練を積んできたというものの、実践経験もスキルも明らかに劣っている。
男子2人の胸中が騒めく中、更に追い討ちをかけたのは、うさみの発言だった。
「左の通路に……たくさんいるのよ。イエローや、グリーンの幼そうな生体反応が」
「まさか……!」
「ええ、そうよミミリ。おそらく、攫われてきたのはマール意外にもいるわ。そしてそこに、危険度パープルの何かがいる。おそらく、檻の中に閉じ込めておくための番人ってやつかしら」
ミミリたちは解せなかった。
うさみの推理が正しいとするならば、なぜマールを含めて他の子らも攫うのか。バルディの弟妹だってそうだ。デュランとトレニアだって、まだ3歳の頃に攫われている。同じ歳の頃に両親を失ったゼラはたまたま、難を逃れただけだったのだ。
うさみは、腕組みをしながら言う。
「選択肢は3つよ。
①左奥に行って子どもたちを助けてから右奥へ行く。……ただし、その間に蛇頭のメデューサに逃げられる可能性があるわ。
②右奥に行って蛇足のメデューサを倒す。……ただし、その間のマールたち人質の生命の保証はないわ。目的がわからない以上はね。
③二手に分かれる、よ。
さぁ、どうする?」
みんなが悩む中、口を開いたのはゼラはだった。
「俺は③がいい。もう二度とデュランやトレニアのような目に遭わせたくないんだ。ただ……このチャンスを逃すと蛇頭のメデューサへの仇を二度と討てないかもしれない。……だから……」
全員は、ゼラの意見にコクリと頷いた。
「では、二手に分かれましょう。その上で確認だけど、ヒナタ、貴方一本道なら迷うことないわよね?」
「んま~! うさみちゃん意外と言うわねぇ。迷わないわ。絶対。それに私も……デュランとトレニアを探すために放浪していたから……これ以上、被害者を出したくないの。パープル1体ならなんとかなるわ」
「それが例えば……敵が人でもですか?」
神妙な面持ちで、ゼラはヒナタへ問うた。
「蛇頭のメデューサに操られただけの、顔見知りでもですか? 闘えますか? マールが行方不明になった件から考察するに、アザレア市民が操られている可能性が高いです」
「……えっ……それは、想定していなかったわ」
元々アザレア市民であるヒナタとバルディにはキツイ選択となるだろう。ただ操られているだけの善良な市民を、果たして倒すことができるだろうか。
ただ、人選としてはヒナタ1人がいくのが好ましいとしか思えない。
蛇頭メデューサとの戦闘には、連携プレイが必要となることから、ミミうさ探検隊+バルディが適任だと思われるからだ。
それに反して、ヒナタの戦闘方法は単独プレイすぎる。
「それじゃあ、これを使ってください!」
ミミリは【マジックバッグ】の中から、ビニール袋に入ったあるモノ――【メリーさんの枕】を取り出し、ヒナタへ渡した。
【メリーさんの枕 睡眠(小)】
「アザレア市民でない悪い泥棒みたいな人だったら闘ってもらって、アザレア市民からこれを袋から出して眠らせてください。」
「ミミリちゃん……」
「効果は(小)ですけれど、眠っている間に峰打ちとかできそうですよね! ヒナタさんなら」
ヒナタは【メリーさんの枕】を受け取り、満面の笑みで微笑んだ。
「やってみせるわ」
「ありがとうございます!」
ミミリの笑顔は、パァッと華やいだ。その後ろで……うさみは腕組みしながら、今回の作戦をまとめ上げる。
「では、ヒナタは『救護班』。全員を助けて上の階へ先に戻って。なぜだか今回はフロアボスであろう蛇頭メデューサを倒してなくても上――地下3階への道は閉ざされていないから」
「わかったわ」
「またモンスターハウスになってるかもしれないから、そこだけは注意ね。守る者が多いと闘い辛いでしょうけれど」
ヒナタはニコリとウインクする。
「大丈夫よ、今はミミリちゃんのおかげでハングリーでもアングリーでもないわ。あれくらいのモンスターハウス、余裕だわ」
「さすがですね……」
バルディは驚きを隠せない。
自分だったら絶対即座にやられているはずだ。これがD級とC級冒険者の歴然とした差であるのだ。
続けて、バルディは言う。
「もしかして、新たな捜索専念班も到着しているかもしれませんね。ヒナタさんが来たら大いなる助けになるでしょう」
「私も嬉しいわ。久しぶりに迷わずアザレアに帰れそうだもの」
「決まりね!」
「じゃあうさみ、私たちは蛇頭のメデューサだね。ゼラくんとバルディさんは、【七色メガネ】を掛けてください。操られないように」
「「わかった」」
「じゃあ、二手に別れましょう」
それぞれの決意を胸に、左右に分かれて目的を果たす。もちろんマールたち攫われた子のこともあるが……。
ミミリとうさみは、ゼラの助けになるため。
ヒナタは二度とデュランとトレニアのような悲劇を生まないため。
バルディは可愛い弟妹を攫った憎き仇に復讐するため。
そして、ゼラは……。
両親の、仇を討つため。
「じゃあ、行きましょう! 解散!」
ゼラはブルッと武者震いをする。
悲願の成就へ向けて、足を進める。
――宿敵蛇頭メデューサとの闘いが、すぐそこまで迫っていた。
でも臆することはない。
今のゼラはあの頃のように幼くない。
それに隣にはミミリやうさみ、バルディがいる。
いざ、――出陣の時――!
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
42
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる