ワンライまとめ

雫川サラ

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セフレ(ルカ×海里)

本気になったら終わる恋?

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 カラン、と軽い音を立てて転がった缶を見つめながら、海里はぼんやりとスマホを見つめていた。
 ‪—‬—いつもこういう時って、何してたっけ……ああ、誰かしら呼び出してヤってるか……。
 世間一般的には海里のような生活は「爛れている」というのだろうが、海里自身は全く気にしていない。いや、して「いなかった」。
 ‪—‬—それがこのザマだって知られたら、切った連中、どんな顔すんだろ。
 手が無意識にたばこを探して動きそうになって、我にかえる。
 また一つ、ため息が漏れた。
 ‪—‬—連絡、しちゃだめかな。重たいって思われるかな。
 今日何度目かの問いを胸の中でつつき回す。画面に十回は表示させては消している「ルカ」の名前から、海里はそっと目を逸らした。
 互いに、ゲイ界隈の中でも後腐れない関係を探している者が集まるイベントで出会った以上、複数の相手がいることは承知の上だった。
 ‪—‬—親指に指輪してたし、そもそも「ルカ」、なんて絶対源氏名だしな……。
 海里の出入りしている店には暗黙ルールがいくつかあって、「親指に指輪」は、「特定の相手を作りませんよ」という意思表示だった。ルカは他にもアクセサリーをたくさんつけていたが、親指にも指輪をしていたのはそういうことだと受け取るべきなのだろう。
 かくいう海里も、アクセサリー類が苦手で指輪まではしていないが、身バレ対策以上に本名を知られることがなんとなく嫌で、一文字とって「海」と名乗っているのだからおあいこではある。それが、自分たちの間には何一つ本当のことが存在しないような気になって、ひどく虚しかった。本来の目的である「後腐れのない関係」なら、それでいいし、そうあるべきなんだ、と分かっているのだけど。
「シャレになんねえ、よなあ……」
 バーで飲み慣れていると缶チューハイの薄いアルコールではハイになりきれない。ほろ酔いといえば聞こえがいいが、中途半端に意識が緩んで、考えないようにしていたことまで浮かんできてしまう。
 人肌が恋しい。海里は自慢ではないが界隈ではそこそこモテる方のネコだ。二十そこそこという若さ、細すぎずマッチョすぎない体つき、あからさますぎず自分を安売りしない駆け引きにも自信がある。暇だな、と思った時に誰かしら捕まえるのに困らない程度には、いつもいい感じの男たちをキープしてきた。
 それを、全部綺麗に精算したのが先月のことだ。修羅場になるような下手な関係の作り方はしてこなかったから、多少食い下がられたりもしたけれど概ね綺麗に別れられた。
 人肌が恋しい。でも、今抱かれたいのは、一人しかいない。けれどそうと知られたら、きっとフラれる。
「今頃、何してんのかな……」
 恋人ではないから、お互いの都合の良い時に会ってヤるだけ。今まで海里も他の男たちとそうしてきた。だから、口が裂けても、普段何してるの、とか、次はいつ会えるの、なんて、言えるわけがない。言われてどんな気持ちになるかなんて、海里自身が一番よく知っている。そういうことを言い出したら切る、それが後腐れない関係を維持するための鉄則。それが、こんなに辛いことだと、海里は初めて知った。
 好きになってしまったんだ、と気づいた時、地獄に落ちたと思った。今まで自分がしてきたことのしっぺ返しを食らっていると、そう思った。
 もっと違う出会い方をしていたら、とか、考えても仕方のない「たられば」ばかり頭に浮かぶ。
 買い込んできた缶チューハイももう残りあと数本しかないが、新しい缶に手を伸ばした。
「わ……!?」
 冷蔵庫から出した缶を開けようとしたのを狙ったように、スマホから通知音が鳴って海里は危うく手元を狂わせそうになる。
「え、うそ」
 スマホの画面に表示されたメッセージアプリの通知にある「ルカ」の文字に、心臓が口から出そうになって固まった。
「今から行っていい? って、いいに決まってる、決まってるけど、これなんて返事するのが正解のやつ!?」
 本音はもちろん両手をあげて喜んで歓迎、なのだが、「モテモテでセフレには困っていない海くん」ならばどう返事をするのだろうか。
「う、こういう時断った方が気を引けたりするのかな……」
 こんなことで悩んだことなんかないから、全く勝手がわからない。恋愛初心者のような疑問ばかり浮かぶ自分に苦笑いする。
 何度も返信を考えに考え、悩んだ末、海里は「部屋で飲んでる。それでもよければ」とそっけない文面を送り、送信ボタンを押したあと取り消したい衝動を床を転げ回って耐えた。
「うう……飲んでるけどよければって意味不明だよな……これで『じゃあやっぱいいや』って言われたら俺死ねる……」
 開けかけだった缶を手元に引き寄せて口をつけようとした時、玄関チャイムが鳴って、海里は今度は吹き出しそうになって咽せた。
「え!? もう? ってことはさすがにないか。なんかネットで買ったっけ……」
 面倒だな、と思いながらドアを開けた海里はそのまま固まった。
「ルカ……」
「え、来たらまずかった?」
「いや、全然。一人で飲んでただけだし」
 ルカの様子が何かいつもと違う気がして、そわそわしながら、家に招き入れる。
「俺も貰っていい?」
 家で二人で酒を飲んだことなんかない。いつも、バーで落ち合って、いい感じに飲んで、どちらかの部屋でヤって、シャワーを浴びて帰る。それ以外の付き合いなんてしたことない。
 どぎまぎするのを隠すように、ピッチを早めた。脳みそがいい感じに解けてくるのはいつもなら楽しいのに、今は緊張する。だから、ポロリと口が勝手にしゃべった時、海里は焦った。
「なんか、こういうの、いいよな」
「え?」
 ‪—‬—ぎゃ、口に出てた!!!
「セフレ」なら絶対に言ってはいけないセリフ。相手ともっと過ごしたいと匂わせる言葉は全て嫌われる。
「い、いや、今のはほら、ええと、ちょっとした冗談冗談! あはあ、今日ほら、俺、寝不足でさ」
「ふーん、朝までお盛んだったとか?」
 冗談で誤魔化そうとしたのに、なぜかルカが機嫌を損ねているように見えて、不機嫌ポイントがその前のセリフじゃないのが妙な気もして、海里はますます焦る。
「あ、いや、ええと」
 視線を泳がせる海里の目が、缶を掴むルカの手に吸い寄せられた。
 ‪—‬—え、指輪、してない……?
 親指だけでなく、ルカはアクセサリーを全然つけていなかった。こんなことは、いままでなかった。
「……そっか。なんかいい感じかなって思ってたのは、俺だけか」
 ぽつりと言われた言葉に、海里はすぐには反応できなかった。
「え、それ、は、どういう……」
「こういうのいいなって、それ、本当に冗談なの」
 真剣な目つきに、海里は、ごくりと唾を飲んだ。

   ーーー

第80回 お題「ほろ酔い」「戯言」
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